音楽産業とレコード産業:2008年も続くCDセールスの減少とデジタルセールスの増加

やはり、というとアレだけれど、米国でのCDセールスは着実に減少を続けている模様。Nielsen Soundscanによれば、昨年2008年のCDアルバムセールスは、前年比14%減の4億2,830万枚で、ピーク時の2000年と比べると実に45%減となった。

昨年、200万枚超のアルバムヒットを記録したアーティストは、Lil Wayne、Coldplay、Taylor Swift、Kid Rockの4組に留まり、セールス第1位となったLil Wayneですら、Neilsenが調査を開始して以降、初の300万枚を切る第1位であった(287万枚)。

一方で、オンラインでのアルバム購入はますます増加を続けており、前年比32%増の6580万枚を記録した。また、デジタルセールス全体では、前年比27%増で10億曲を突破した。

しかし、デジタルセールスは好調であるものの、フィジカル(CD)セールスの低迷を補う程ではなく、レコード産業はその失った利益をどこかから生み出さねばならない。

調査会社GartnerのアナリストMichael McGuireは、New York Timesに対し、

デジタル方面の成長につれて、更なる収益ストリームを伴う新たなビジネスモデルが生まれてきています。とはいえ、レーベルがここ4,5年のうちに失った収益を完全に取り戻すことはできるのでしょうか?答えはNOです。

と述べている。

レコード産業と音楽産業

一方、Universal Music Groupデジタル部門eLab代表のRio Caraeffは、オンラインストリーミングビデオからの収入のような新たなストリームがますます重要になりつつあるという。

もはや我々は、トータルアルバムセールスやある特定の製品の売上を収益や成功の規準とは見ていません。
それぞれのアーティストやプロジェクトのデジタルセールス、フィジカルセールス、モバイルセールス、ライセンス収入など多岐にわたる収益ラインを合わせた総合的な収益をこそ見ています。

こうした動きの表れこそが、現在Warnerが押し進めているとされる360契約だろう。レコードレーベルにとっては、レコード(録音物)セールスの減少がもはや回避できないものであるという現実を前に、アーティストと共に生き残る戦略を模索しなければならない。アーティスト側としても「レーベルが販売促進と宣伝の面で十分な利益を与えることを約束できれば」メリットは十分にある。もちろん、レーベルが欲をかけばアーティストたちは十分な名声を手にレーベルを去ることになるのだろうが。

そうした強気の選択を可能にしているのが、現在のコンサートビジネスの好調だろう。コンサート産業業界紙Pollstarによれば、北米での2008年のチケットセールスは前年比7%増、42億ドルであったという。レコード産業としては、自らのプロモーション能力を手に、これらコンサートからの収益をシェアして欲しいというところなのだろう。

音楽CDのこれから

デジタルセールスが好調な一方で、CDセールスが落ち込んでいるとはいえ、依然としてレコードレーベルを支えているのがCDセールスであることには違いはない。

出典:2007 U.S. Manufacturers' Unit Shipments and Value Chart - RIAA

しかし、このCDセールスに大きく貢献しているWal-MartやBest Buyといった大手ボックスストアが、音楽に割り当てる売り場面積を急激にへらしつつあるという。Pali ResearchのメディアアナリストRichard Greenfieldは、「もはやCDは平日に人々を動かすものではないということです。」と述べている。

人々がCDを買わなくなってきている、ということは、単に人々が音楽に興味を示さなくなったというだけではなく、そもそもCDが手の届くところに存在していない、というところもあるのかもしれない。

もちろん、Amazonに行けばいつだって音楽CDは手に入る。しかし、適切なタイミングでそれが提示されなければ、購入しようという決断には至ることはないだろうのない層も存在するだろう。適切なタイミングで手の届くところに存在する、それが重要であると思う。

ますます追い詰められつつあるレコードレーベルであるが、この状況は少なくともレコードレーベルが不要であるというサインではないだろう。レーベルの存在を必要とするアーティストは少なからずいるし、我々が様々な音楽と(コストをかけずに)出会えるのもレーベルが存在するおかげでもある。ただ、現在の状況は、音楽産業の主役がレコードレーベルではない、ということを示しているのだと感じる。

参考記事

See also