Twitterの件、JASRACがそんなに筋違いのことを言ってるとは思わないけど

ニワンゴ取締役の木野瀬さん(@kinoppix)の

Twitterで歌詞をつぶやいたら、JASRACの利用料が発生する by JASRAC菅原常務理事

Twitter / Tomohito Kinose

という発言から、ちょっとした騒動になっている。JASRACの野郎、Twitterを監視してユーザから搾り取るつもりか、みたいな。

でも、Fumiさん(@Fumi)のエントリにもあるように、この発言だけでは文脈がすっぽり抜け落ちている。前後のTweetを加味すると、

木野瀬さんの本意としては下記らしい。
1)TwitterユーザがTwitterでつぶやいたら、JASRACTwitterに請求しにいく(つもりらしい)。
2)Twitterでつぶやいても、つぶやいた個人に料金徴収が行くことはない。
3)JASRACTwitter社から徴収したお金は手数料を除いてアーチストに行く。よって、アーチスト的には徴収しないよりは儲かる。だからアーチストにとってはいい話なんじゃない?

Fumi's Travelblog - "Twitterで歌詞をつぶやいたら、JASRACの利用料が発生する"の話

となる。さらに言えば、木野瀬さんのTweet自体も、当日に行なわれていたニコ生の「「二次創作オンラインワークショップ 著作権講座」 〜JASRAC 菅原常務理事がニコニコユーザーの質問に答えます!」での発言を受けたもの。

Tweetだけから考えるよりも、実際に見た方が早いと思い視聴してみると*1、もう少し違ったニュアンスが見えてくる。

冒頭の発言のきっかけは、Twitterで歌詞をつぶやくのはいいのか?たかだた140文字だがJASRACの許諾は必要なのか?というユーザからの質問だった。JASRAC菅原常務理事は、許諾は必要だと明確に答えている。

正直なところ、この質問に対してはそう答える以外にはないだろう。歌詞を使うのであればお金を支払ってもらうのが筋、というのは著作権を信託されているJASRACであれば当然のスタンス。曖昧なところをはっきりさせたいのであれば、Twitterで歌詞の批評などを行なう場合、140文字制限のために複数のTweetに分割されてしまう、その中の1Tweetだけを見れば歌詞の割合が多くなる、または歌詞のみということもあるだろうが、前後のTweetの文脈を加味して批評などを目的とした引用とみなせるか、みたいな質問だったらおもしろかったんじゃないかと思うんだが。あとはフェアユースとかね。

閑話休題。菅原さんのTwitterでも許諾は必要だという発言に対し、ひろゆきが、尾崎豊の『I Love You』って曲があるが「I Love You〜♪」だけでもダメなのか?と聞く。菅原さんは、そういうのは該当しないと答える。あくまでも明確に歌詞とわかるもの、たとえばこれはなんちゃらの歌詞ですよという自白がある場合、と。

実際、どの程度の塊から表現としての独自性が認められるのかというのは結局はケースバイケースなので、一般論ではこうというのも難しいだろう。尾崎豊の『I Love You』で「Love」という言葉が使われている、他の表現で使うことは許されない、というのは馬鹿らしいと誰だって思うし、そこにも著作権が及ぶなどと考える人は権利者の中にもいないだろう。「I Love You」でも同様。でも、「I Love You 今だけは悲しい歌 聞きたくないよ」なら、尾崎豊の『I Love You』の表現だ、ということがわかる。こういうのだけを書き連ねるのはダメだよ、という一般的な話だと思う。

一般的な話に終始するのも、質問が結構ぼんやりしたものだったというのもあるし、Twitterが一般的なウェブサイトやブログと変らない、という認識があるためでもあるだろう。

支払ってもらうならTwitter社:JASRACの焦点

JASRACニコニコ動画YouTube包括契約を交わしている。そのおかげで、それぞれのプラットフォームでJASRACの管理曲を演奏しても、歌詞を書いても全く問題はない。このニコ生著作権講座でも、プラットフォームとの包括契約が何度も強調されていた。ひとえに、ユーザ個人個人との契約よりもプラットフォームごとに契約していった方がスマートだということなんだろう*2SNSCGMのような場所が、著作物の利用の1つのコアとなっているという状況を踏まえて考えると納得はできる。

実際、それはWin-Winの関係を作り出している。

JASRAC管理曲を演奏し公開したい作り手は、これまでJASRACと直接契約し*3、自前で公開しなければならなかったものが、YouTubeニコニコ動画などのプラットフォームにアップロードすれば、面倒な手続きも、金銭的な負担もなく公開できるようになった。

YouTubeニコニコ動画などのプラットフォームは、管理曲を自由に利用でき、それがユーザに対するウリになる。作り手が魅力的だと思えるプラットフォームにすることで、よりたくさんの作品を投稿してもらえるし、たくさんの作品があるプラットフォームは作り手ではないユーザからも魅力的である。

作詞作曲家は、手続きコスト、金銭的コスト問題から今までは勝手に使われるか使用されないことが多く、ほとんど支払いも受けられなかったが、プラットフォームとの包括契約により、使用が促進され、支払いも受けられるようになり、状況は格段に改善したといえる。

JASRACも同様に、きちんと支払いを得ることができ、さらに監視コストや手続きコストも軽減することができる。

作り手ではないユーザは、より活性化した創作を享受することができるし、またそれを紹介するにしても、ニコ動やYouTubeの場合、埋め込みプレイヤーでの使用も含めた契約になっているので、JASRACと直接契約する必要なく、自分のサイトなりブログで楽曲を紹介することができるようになる*4

JASRACとしてはユーザ個人との契約を迫る、または契約しない個人のコンテンツを削除させ続けるよりも、プラットフォーム単位で包括契約し、利用を自由にした方がスマートだと考えているのだと思う。現に、JASRACとニコ動、YouTubeとの契約以前には、権利者削除を要請したことはあっても、ユーザを特定して契約を迫ったことはないよね。Twitterに対してもそういう一般的なスタンスを示した上で、使用料を徴収するのだとしたら、プラットフォームに対して請求したい、という旨の発言したのだろう。

ただ、それが現実的にソーシャルサービス全般に適用できるかどうかというのは、別の問題だとも思う。ニコ動やYouTubeのような比較的管理曲使用の盛んなサイトならいざ知らず、歌詞のTweetがその他のTweetに比べて多いかというとそんなことはまずないだろう*5。別にこれは目新しい話でもなく、Twitterに限らず多くのソーシャルサービスでユーザが勝手に歌詞ポストすることが可能だし、実際にそれが行なわれているが、ほとんどの場合、権利者側が個別にノーティスを出して、それに対応するという状況。包括契約を迫ったところで、問題があるなら個別にノーティス出して、と言うことだってできるわけでさ。

Twitter社と協議するにしても、包括契約の意志は確認するだろうけど、結局はノーティスの出し方とその後の処理について話し合うという感じになるんじゃないのかな。JASRACが本気で包括契約を結ぶことを考えているのなら、そうした取り決めをした上で、処理コストがそれなりになるくらいにノーティスを出しまくるくらいのことをする*6だろうけど、実際そうなるのかどうかは正直疑問。Twitter以外のサービスでも同様の問題を抱えているが、基本的には看過できない著作権侵害があった場合に、ノーティスを出すという対処で済んでいると思うし、今のところはその範囲で収まるだろうとも思う。

むしろ懸念されるのはそれよりももっと大枠の話で、オンラインサービス提供者の責任を拡大する動きの方だと思うよ。サービス提供者がサービス内における著作権侵害への対処により積極的な役割を担うべきだ、なんて主張もあって、場合によっては著作権フィルタのようなものの義務づけだってあり得る。将来的には、ソーシャルサービスでの無断使用を見越して、提供者にコンテンツ税的な支払いが義務づけられることだって考えられる*7

今回の騒動

今回の件は、元々の文脈から離れて議論や反発が一人歩きしているように思えた。菅原さんとしては、Twitterに限らずいかなるプラットフォームであれ、著作物を使用するのであれば許諾を得て、使用料を支払うことが筋であり、JASRACの現在の方針ではそういう利用はプラットフォームに支払ってもらうことで解決しようとしている、という一般論として話をしたのだと思っている。

もちろん、Twitterにおいても正当な引用は認められるのかどうか、JASRACが認める引用の要件とはどういったものか、とか、フェアユースの議論において小室みつ子さんが言うような「文化が人々の間で親しまれる中自分の気持ちを代弁する時など歌詞の引用」が認められるべきかどうか、という話でそれらが完全に否定されたのであれば、多くの議論を呼んでもおかしくはないと思う。ただ、今回の件はそこまででもないんじゃないだろうか。

Twitter規制だ、Twitterから金をむしり取るつもりだというくらいに批判的に見ている人もいるだろうけど、私には直接繋がる話だとは思えない。反発している人は、歌詞がどういう文脈でTweetに含まれるのかという自分なりの前提や感覚があって、その前提、感覚からずれた主張として批判しているのだろうけど、JASRACとしてはあり得る全てのTweet全般を考えての発言だと思うよ。

過去に引用を巡ってJASRACと揉めた方もいたことは知っているし、JASRACが現在のフェアユース議論にネガティブな考えを持ってもいるだろう。ただ、引用に関しては昔のようにとにかく認めないというスタンスをとり続けているとも思えないし、JASRACの中でも徐々に変化しているんじゃないかなと思うところもある。あくまでも、ウェブの利用が促進される中、そうした紛争を聞かなくなったとか、JASRACのオンラインサービスに対する考え方、方針がデジタルな時代に即してきていると考えられるから、そう思うのだろうけど。

もちろん、著作権監視事業者としてのJASRACは功罪ある組織だと思っていて、独占事業じゃなくなった今も独占的な体制を敷いていること、いろんな意味で演歌体質、著作権の信託に際してもっと柔軟性が必要であること、天下りや古賀財団との関係、包括契約における分配の問題*8、ネット上での利用における使用許諾の不備*9、店舗への取り立ての問題など、ネガティブな面も多い。

それでも、JASRACはプロシュマーとしてのユーザに著作物が使用されやすく、かつ使用料を徴収するにはどうすればよいのか、という解に、プラットフォームから使用料を徴収することがスマートだと考える、というのは私にはすごく理解できるし、少なくとも1つの解を持っていることは評価できる。ただ、それを過度に拡大しようとするであろうロビイストとしてのJASARCに対しては、極めて批判的に見ているけどね。

*1:プレミアム会員なので、タイムシフト機能を利用して視聴してみました。プレミアム会員の方はまだ見れます。非常におもしろいプログラムなので、ご試聴をお勧めします。

*2:もちろん、個人でライセンスを得られないわけではない。

*3:手続きにかかる作業も、支払う金額もコスト

*4:これについては、「魚陰陽座」さんが書かれた【JASRAC】音楽著作権について考えてみる【まとめ編】というエントリにJASRACとのやりとりを掲載した上でまとめられている。良エントリーなので是非。

*5:この感覚は個々人のTLによっても異なるだろうが。ただ、大規模なものとしてはテレビなどの同時視聴コンテンツに合わせて、合唱と称して歌詞をTweetすることはあるだろう。

*6:処理コストが契約コストを上回ったら契約するよね。

*7:もちろん、それによってユーザの責任が免責されることはなく、あくまでもサービス提供者と権利者とのバッファという位置づけになるだろう。

*8:全曲報告とそれに基づく分配など

*9:MIDIのころやそれ以前の混乱など