自民党内にて違法ダウンロードへの罰則導入の動き、ただし慎重意見もあり

違法ダウンロードに罰則をつけようという話が持ち上がっているようだ。この議論自体は、以前から権利者側からあがっていたのだが、これを議員立法というかたちで一気に押し切ろうとしている模様。

複数方面から聞こえてくるようになった話でもう明らかにしても問題ないと思うのでこのタイミングで書いておくと、昨年1月に施行された「ダウンロード違法化」に刑事罰を付けようという動きが今国会であるそうです。文化庁の審議会通さず、業界のロビーにより議員立法で一気にやろうとしてるみたい。Wed Aug 03 01:34:41 via web

これまで著作権関係の法案は、大抵が内閣立法によるもので、審議会にて利害関係者、識者を交えて議論を尽くし、パブリックコメントを募集し(もはや形骸化してる部分もあるが)、少なくとも体裁としては各方面からの意見を集め、賛否を加味した法案が作られ、国会に提出される。

一方、議員立法は、国会議員が自らの問題意識、ないし陳情やロビイングを受けて起草される。プロセスとしては、議連を結成し、党内での審議(部会、政調、総務会)を経て、法案を国会に提出する。法案の起草にあたっては、議院法制局*1の補佐を受ける。

前者に比べて、後者の方が進捗は早いのだが、時間をかけて十分な議論を尽くすとまではいかない。そこをついて、業界のロビーが性急にことを進めようと働きかけている、というところだろうか。

我々が選んだ国会議員による議員立法なのだから民主主義に則っているだろう、といっても、私には間接民主制の穴を付いているようにしか見えない。著作権問題は国民にとって投票を左右するものではなく、また候補者も積極的に争点にしたり、態度を明確にはしていない、しかし、パーソナルコンピュータ、インターネットの普及に伴い、ほぼ国民すべてが関わりうる問題ともなっている。業界の要請と国民の利益とのバランスを取るためには、時間をかけて十分に議論すべきだろう。

間接民主制の弊害を逆手にとって、消費者への説明も消費者からの意見も不要だ、と暗に示しているようなやり口はどうなんだろうね*2

違法ダウンロードへの罰則導入の動き

現在、自民党内にて「音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律」として議論が進められており、参議院から自民党議員立法として提出を目指している模様。「音楽などの」なんだね。

8月11日付の馳浩議員の日記によれば、自民党文科・総務・法務合同部会会議にて、この法案についての議論が行われた模様。

内容は、

  1. 私的違法ダウンロードを処罰する規定を整備
  2. 私的違法ダウンロードした有償著作物の公衆への提供防止措置の努力義務規定

2年前の著作権法改正では、「私的利用に供するダウンロードまでいきなり罰則付与は、行き過ぎではないか?」と、いう声で、罰則は付与しなかった。
しかし、そういう悠長なことを言える段階ではなくなった。あまりにも有償音楽等の著作物の私的違法ダウンロードが増えた。正規ダウンロードに比べて、違法ダウンロードは10倍に増えた。それも、違法ダウンロードを行うのは、未成年者を含む青少年が多い。赤信号みんなで渡れば怖くない、だ。これはいかん。
これからは、違法なインターネット配信からの私的録音も録画も100万円以下の罰則付与となる。違法であると知っていながらダウンロードすれば、それは盗品となる。
そういう社会にしなければ。今国会中に処理できるかな?

衆議院議員 馳浩のはせ日記:平成23年8月11日(木曜日)

また8月23日の部会会議では

8月23日、自民党「政調」は、下村「文科」部会長と、河村・元「文科」大臣に取り扱いを一任した「音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律案(議員立法)の変更点を課題に、文科、総務、法務の三部会合同会議を開催し、出席要請を受けた保岡興治法務大臣が、「私的違法のダウンロード行為に係わる法定刑として、5年以下の懲役を設ける考え方」を説明した。

自民「政調」文科・総務・法務合同会議を開催 いつまでも元気なTUNEO/ウェブリブログ

とあり、違法ダウンロードへの罰則導入にあたり、「100万円以下の罰金」「5年以下の懲役」などの懲罰を設ける方針のようだ。後で引用するが、「500万円以下の罰金を」という意見もあるとのこと。「5年以下の懲役、500万円以下の罰金」というと2007年の著作権法改正で罰則が強化される以前の著作権侵害の罰則と同じなのだが。

ちなみに、馳議員の言う「正規ダウンロードに比べて、違法ダウンロードは10倍に増えた」というのは、おそらくレコード協会の「違法配信に関する利用実態調査」の結果。

違法ダウンロード罰則導入への慎重意見

自民党内でこのような動きがあると言っても、違法ダウンロードへの罰則導入にあたっては慎重意見も寄せられているようだ。

8月26日付、参院自民党政策審議会長 山本一太議員のTweetを以下に。

平場の議論を2回(?)やっただけで自民党の関係部会を通過した「音楽の私的違法ダウンロードの防止に関する法案」には、部会の上の政策会議でブレーキがかかった。自分を含め、出席者から慎重意見が相次いだため。違法ダウンロード対策の必要性は分かるが、もっと時間をかけて議論すべき問題だ。Fri Aug 26 11:19:06 via web

「音楽等の私的違法ダウンロードの防止に関する法案」は参議院から自民党議員立法として出したいとのこと。もう一度、政策会議にかける(?)前に、参院政審で審議することに。ここでも慎重論が多かった。来週初めに2度目の議論をやるが、了承は難しいだろう。今国会中の提出は無理だと思う。Fri Aug 26 11:23:59 via web

「音楽等の私的違法ダウンロードの防止に関する法案」については、公明党も「時間をかけて議論したい」という意向。民主党政権が「閣法」として出す気配もない。今国会での審議は、時間的に不可能。自民党だけが突出して、この法案を(十分な議論もせずに)国会に提出するような拙速は避けるべきだ。Fri Aug 26 11:29:41 via web

違法ダウンロードがコンテンツ産業に与えている損害は多大。何らかの対策が必要という認識は一致。が、レコード業界ばかりでなく、もっと幅広い人々の意見を聴いて結論を出すべき。いきなり法律で刑事罰(5年以下の懲役若しくは5百万円以下の罰金)は乱暴だ。そもそも合法か違法の区別がつきにくい。Fri Aug 26 11:34:44 via web

山本議員のTweetを読む限りでは、どうもレコード業界が猛烈なロビイングを仕掛けているようだが、仰る通り、幅広い人々の意見を聴いて結論を出すべきだろう。もちろん、レコード業界はそれが嫌で議員立法をお願いしているのだろうが。

また、山本議員は世耕弘成議員にもこの件について意見を求めていたが、世耕議員も慎重な検討が必要だと答えている。

世耕さん、「音楽等の私的違法ダウンロード防止法案」は、来週月曜日にもう一度、参院政策審議会にかけます!昨日も異論が噴出。もうちょっと丁寧な議論が必要でしょう。この内容のまま、自民党単独で法案を出すなんて私は反対です。どう思いますか?@SekoHiroshigeFri Aug 26 15:11:26 via web

違法DLは良くないですが、違法合法の区別が付きにくい等の問題もあり、慎重な検討が必要です。日本の音楽価格が高いことも根底にあることも忘れてはなりません RT @ichita_y 音楽等の私的違法ダウンロード防止法案は(中略)このまま、自民単独で出すなんて私は反対。どう思います?Fri Aug 26 16:03:49 via TwitBird iPad

また、「ヒゲの隊長」こと佐藤正久議員もこの法案には慎重とのこと。

昨日、佐藤正久参院議員と電話で話した。政審副会長の1人である「ヒゲの隊長」も、「音楽等の私的ダウンロード防止法案」には慎重だった。そりゃあ、当然だ。佐藤正久氏は、世の中の流れをキャッチする感性の持ち主だもの。 

最悪のシナリオは止められるか?!:山本一太の「気分はいつも直滑降」:So-netブログ

このような慎重意見を受けて、今国会中の法案提出は見送られたものの、部会レベルでは次期臨時国会での早期成立を図ることになったようだ。(以下引用文の強調は筆者heatwave_p2pによる)

31日午前、自民党「政審」(文科&総務&法務&経産)の合同部会を開催した。【結論】法案※の早期成立を求める決議を採択。

※「音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律案。

○参加部会(部長)
文科:下村 博文
総務:岩城 光英
法務:平澤 勝栄
経産:西村 康稔

●出席省庁等
文科省(大臣官房)文化庁(長官官房審議官、総務課長、著作権課長等)
総務省(総合通信基盤局)
法務省(刑事局)
経産省(商務情報政策局)内閣官房(「知的財産」推進事務局)
参議院法制局

公明党自民党と共同提案の方向。

自民党本部の合同会議が開かれた いつまでも元気なTUNEO/ウェブリブログ

8月31日付、山本一太議員のTweetより。

「音楽などの私的ダウンロード防止に関する法案」は、2度、参院政審の正副会長会議(+幹事長室+国対)で議論した。が、慎重意見が多かったので、了承を見合わせた。自民党が今国会に慌てて単独で出すという事態は避けられた。参院からの議員立法ということであれば、参院政審の了解が必要だ。Wed Aug 31 00:37:15 via web

今日、行われた自民党の文教、総務、法務、経済産業合同部会で、「音楽等私的違法ダウンロードの防止に関する法案の次期臨時国会での早期成立を図る」という決議がなされたと聞いた。これは、そんなに簡単な法案ではない。幅広く意見を聴き、慎重に進めるべきだと思う。なぜ、そんなに急ぐのだろう?!Wed Aug 31 00:43:15 via web

本当に、なぜそんなに急ぐのだろう。ダウンロード違法化を含む改正著作権法が施行されてから、まだ2年もたってはいない。ダウンロード違法化がもたらした影響やそのための教育、啓蒙についての評価、検証が十分に行われているとは言いがたい。また、違法ダウンロードに対する訴訟提起が行われたという話も聞かない。また、違法ダウンロードへの罰則導入にどのような効果が期待できるのか、実際のどのように運用されるのか(少なくとも、要望する側の展望等)、副作用も含めた影響などについて、十分な分析とその説明が必要だ。

それでも部会レベルでは早期成立を目指すということになっている。

今のネット社会の健全性を今のうちに築いておくことが重要だと考えます。
著作権侵害及びそれらを取り巻く産業などに甚大かつ深刻な被害を及ぼす極めて違法性の強い行為なのです。
違法ダウンロードに対する抑止力を強化することも重要です。
先進国のネット社会における著作権を保護する強い姿勢で、知的財産立国において先頭に立とうとしている我が国も民事上の責任だけではなく刑事上の責任も明確にする必要があると私は考えます!
この法律の早期成立を願い、取り組んでまいります!!

音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律案|三原じゅん子オフィシャルブログ「夢前案内人」

三原議員、上記の馳議員ともに早期成立を目指すとのことだが、エンターテイメントに関わりのある議員だけに、強い危機感、問題意識があるのかもしれない。が、目的への賛同から早期成立を叫んでいるようにも思える。目的は結構だと思うが、その手段として罰則の導入が適切かどうかが問題なのだ。それについて十分な議論があったとは思いがたい。

余談

違法ダウンロードへの罰則導入に反対する理由については、また日を改めて書くことにするが、レコード業界がなぜ違法ダウンロードへの罰則導入を急いでいるのかについて、ここで少し考えてみたい。

違法ダウンロードへの罰則導入による抑止効果を期待しているのは、間違いないとは思う。ただ、それだけではなく、別の狙いもあるんじゃないかな。

端的に書くと、レコ協も罰則導入で違法ダウンロードが完全になくなるとは期待していなくて、次のステップのための口実として早く話を進めたい、というところではないかと。違法ダウンロードは刑事罰もある犯罪なのだから、強い対処が必要だ、というような。具体的には、スリーストライク・スキーム*3の導入、ISP/ウェブサービスプロバイダに対する違法アップロード・違法ダウンロード防止措置の義務化(ブロッキング/フィルタリング等)、動画サイトからのダウンロードを可能にするサービス/プログラムの規制*4などなど。

少なくとも、違法ダウンロードへの罰則導入で、ハイおしまい、なんてことはなくて、さあさ次の規制を!となるのは間違いない。

*1:リンクは参議院法制局

*2:議員立法自体を否定するつもりはないよ。議員本人の問題意識に基づいて、関係省庁が乗り気ではない問題について、議員の側から立法を提案するという制度は必要不可欠であるとは思う。理想通りの状況ではないにしてもね。

*3:数回の著作権侵害警告を受けたユーザのネット切断

*4:既にTubeFireが訴えられているけれども。

P2Pファイル共有における児童ポルノ問題:日本ユニセフらのシンポジウムでひとり歩きする数字と誤解

先日、熊本で行われたシンポジウム「子どもの命と権利を守るシンポジウム 〜児童ポルノを根絶するために〜」の基調講演にて、P2Pファイル共有と児童ポルノの関連について言及があったようだ。講演者は日本ユニセフ協会代表理事 副会長の東郷 良尚さん。

P2Pファイル共有ネットワーク上で児童ポルノの共有が行われているのは間違いなく、言及があること自体は当然といえば当然なのだが、そこで持ち出された数字が不正確であったり、注意を必要とするものであったり、いささか恣意的な使われ方をしている。また、P2Pファイル共有の特性としてあげられた問題点が、的を外しているところもある。

  • 摘発された児童ポルノの検挙は氷山の一角。ファイル共有ソフトSHAREでは、利用者10万人中、2万人が児童ポルノの交換に利用している。利用者が50万人に達するwinnyで、児童ポルノの交換に利用している率が同じだとすると、非常に大きな値になる。交換するために「オリジナル画像」を作る必要があり、犯罪を促進している。子供を装ってアプローチし、脅迫するなどして、入手している。
  • ファイル交換ソフトトロイの木馬などによって、自分の意志にかかわらず児童ポルノを流通させてしまう可能性がある。だからこそ、単純所持を規制する以外ない。
シンポジウム「子どもの命と権利を守るシンポジウム:児童ポルノを根絶するために」 - taronの日記

正直、えー!?と思った。既に、Togetterでもこの部分の不正確な点についての指摘がまとめられているが(「日本ユニセフによる児童ポルノ問題シンポジウムin熊本 基調講演 〜 補足: ファイル交換ソフトについて」)、P2Pファイル共有問題を追いかけている者として、私も指摘しておきたい。以下の小見出しについては、Togetterの小見出しを参考にさせてもらった。また基調講演中の東郷さんの発言については、その内容をTwitterにてまとめてくださった@tak_pppさんのTweetを引用させてもらった。

Share利用者の2割、2万人が児童ポルノを交換している?

最近ネットニュースになりました。shareというもの。ファイル共有ソフト。どのくらいのパソコンで使われているかという調査結果がでた。それによると、10万人。Wed Aug 10 06:00:40 via web

そのうち2割がパソコンで児童ポルノの交換ないし販売をしているということが明らかになっている。(cf:http://t.co/SvT6GXs)Wed Aug 10 06:00:47 via web

この調査は、ネットエージェントが行ったもので児童ポルノに関連しているであろうクラスタワードを登録しているユーザを児童ポルノコレクターとして算出している。

この調査について、以前のエントリにて、クラスタワードの設定如何によっては、実際には児童ポルノを収集していないユーザまで児童ポルノコレクターとして抽出されてしまう可能性があること、抽出のために使用したクラスタワードを公開していないことから、この数字の扱いについて注意が必要である、と書いた。

一人歩きする数字:ネットエージェントの調査は非実在青少年まで児童ポルノ扱いしてはいないか? - P2Pとかその辺のお話@はてな

私はこの調査を未だに信用してはいない。信用出来ない第一の理由は、児童ポルノ収集者を抽出するために使用されたクラスタワードが未だに明らかになっていないためだ。

このクラスタワードについて、天使行路のてんたまさん(@tentama_go)が問い合わせをしたようだが、回答は断られてしまったようだ。

警察庁の委託業務のようで、用語についてはそれなりの団体でないと教えられないと以前お断りされました RT @biac_ac: 「2割」の出所はコレか? http://tinyurl.com/3co7n53 ファイル取得キーワードに「児童ポルノ関連の用語を設定している利用者」であってWed Aug 10 06:04:01 via Tween

クラスタワード以外の点でも、他のP2Pファイル共有調査との整合性に疑問がある。

今年2月にCODAが公表した2011年度ファイル共有ソフトの利用に関する調査によれば、P2Pファイル共有ユーザ全体での「アダルト」コンテンツダウンロード経験率は、26.3%であった。

利用ソフト別のダウンロード経験率を見ると、Shareは比較的アダルトの割合が高い。が、児童ポルノもアダルトとして回答されたであろうことを考えると*1、ネットエージェントの調査が正しいと仮定すれば、アダルトのダウンロード経験者31.9%の大半*2児童ポルノを収集していたということになる。さすがにそれはおかしいんじゃないのかな。

他に児童ポルノを含みうるジャンルとして、写真・画像があり、足せばもっと増えるじゃないかとも考えられる。しかし、この項目は複数回答可で、児童ポルノ画像は収集するが動画は収集しないという層はそれほど多くはないと思われる。個人的な印象としては、児童ポルノ動画収集者⊃児童ポルノ画像収集者ではないかと。

P2Pファイル共有ソフトを用い、エロを渇望するユーザの大半が、児童ポルノ収集者である、というのはにわかには信じがたい。なお、BitTorrentも同様にアダルトの割合が高いが、こちらは大半がアダルトビデオメーカーが製作したものがほとんどだ。BitTorrentの場合、個人が作成したトレントが広く出まわることはあまりなく、中華系の割れチームがリリースしているものが多い。

もう1点、児童ポルノ収集者について触れておくと、ネットエージェント、ACCSの調査以降、2度にわたってP2Pファイル共有ソフトを使用した児童ポルノ事件の全国一斉摘発が行われているし、それ以外にも月に数人程度の逮捕者が出ている。こうした取り組みが進んだことは、P2Pファイル共有ソフトを使用した児童ポルノ共有を抑制する方向に影響をもたらしていることも考えられる。

P2Pの推定利用者数 - Winnyがいまだに50万人!?

shareはまだマイナーなソフトウェアで、ウィニーというのが聞いたことおありだとおもいます。これは非常に大きなシステムで利用者50万人。50万人の2割が児童ポルノの交換等に使われているという推量ができる。たいへん大きな流通量になるということが言える。Wed Aug 10 06:01:03 via web

「Shareが10万人」というのは、ネットエージェントによる児童ポルノコレクター調査時(2010年9-10月)の全ノード数から来ているのだろうが、「Winnyが50万人」はWinnyの最盛期である2005年から2006年頃の数字である。

Winnyノード数の推移分析 - ネットエージェント

では、現在のWinnyユーザはどれくらいかというと、ACCSのクローリング調査(2010年12月17日〜18日)では約6万ノード、ネットエージェントのノード数調査(2010年12月〜2011年1月)では平均して約11万ノードであった。

第9回「ファイル共有ソフト利用実態調査」 | 調査報告書 | 活動報告 | ACCS

Winnyノード数の推移分析 【NetAgent Co., Ltd.】

同じユーザが毎日ソフトを起動しているわけではないので、上記の数字が下限であるという点に注意が必要だが、少なくともShareユーザ10万人に対しWinnyユーザ50万人とは言えず、規模としては同程度であると考えてもよいのかなと思う。

また、Shareに比べ、Winnyの方がアダルトのダウンロード経験率が低いため、Shareと同じレートでWinnyでも、という点にも多少の引っ掛かりを覚えた。

Shareが児童ポルノの販売をしている!?

そのうち2割がパソコンで児童ポルノの交換ないし販売をしているということが明らかになっている。(cf:http://t.co/SvT6GXs)Wed Aug 10 06:00:47 via web

Shareで特定のコンテンツを販売することは不可能なので、ファイル共有ソフトの話の中で、P2Pファイル共有とは別の文脈を思い浮かべつつ出てきた発言であるように思われる。

P2Pファイル共有の話で言えば、既存のシステムでは販売に結びつけることは無理がある。特にShareやWinnyでは、仕組み上、リリースすれば誰にでもダウンロード可能なので、金銭の授受が発生する状況にはない。例外としては、以前とある著作物をダウンロードできるトレントファイルをヤフオクで販売している人がいたが、それくらいじゃないだろうか。

交換するためには、オリジナルな画像をとらないといけない!?

ファイル共有・交換システム。なぜそれほど有害か、これ交換するためには、オリジナルな画像をとらないといけない。これがないと、いい画像ファイルと交換できない。どうしてもそういうものを使う人は新しい子供の裸の写真をとりたいという彼らにとっての必要性に駆られる。Wed Aug 10 06:01:19 via web

価値のある交換材料がなければ、それと等価の画像と交換できない、というのは、少なくともWinnyやShareのシステムには当てはまらない。システムの一部になってリソースを提供しさえすれば、交換材料があろうがなかろうが、ダウンロードできる可能性はほとんど変わらない。

WinMXLimeWireGnutella)のように、1対1でファイルのやり取りを行える場合でも、(児童ポルノの存在の良し悪しは別として)、新しい児童ポルノが必要になるか、というと、私はそうはならないと考える。

基本的に、この辺りで行われている交換とはお互いに持ち合わせていない差分を埋め合わせる行為であって、やり取りされるファイルは既存のもの(既に方々でやり取りされているファイル)がほとんどだろう。結局、ファイルが欲しければ、わらしべ方式ですこしずつ増やしていくことになる。もちろん、複製なので実際の交換とは異なり、手元のデータが消えることもない。

ここで重要なのは、複製という概念。新しい児童ポルノを製造して交換材料にしたところで、最も価値があるのは唯一自分だけが所有している状態で、誰かの手に渡れば価値は希釈されていく。交換しても手元のファイルが消えるわけではなく、ねずみ算式に増えていく。そのファイルを手にする人が増えていけば価値は急落する。ネットワークが大規模になればなるほど、拡散は広範囲に及び、拡散のスピードも速い。

交換が成り立つためには、やり取りされるものが等価でなければならない。価値あるもの同士を交換するためには、等価なファイルを持っている相手でなければならないので、それなりに人を選ぶ。(繰り返しになるが、ここでは児童ポルノの良し悪しについては脇に置く)。また、音楽や映画、アニメなどの大量複製を前提として世に出されてているものであれば、自分が海賊版をリリースしなくても誰かが同一のものをリリースすることはあり得るが*3、オリジナルの児童ポルノはそうではない。

価値のあるものと交換するためには、自分の持っているファイルの価値の暴落を避けつつ、価値あるものを持っている人を探す必要がある。そのための環境として、大規模なネットワークはふさわしくはなく、より小規模でクローズドなネットワークが望ましいのではないだろうか*4。たとえば、マニアが集う、小規模・会員制のフォーラムや掲示板のような場で。

そういった環境にいて初めて、基調講演で言われたような必要性に駆られるのではないか。また、そのような場は交換原則よりも、ムラ的な互助のルールが支配的ではないかとも思う。その場に参加するためには、オリジナルのファイルを定期的に提供しなければならず、またそうでなければ別の何かしらの価値を場に提供しなければならない*5、いずれもできないのであれば、ムラから追放される。場に対する奉仕によって信頼を勝ち取り、その結果として恩恵を受ける、というような、直接的な交換とは別の原理が存在するのだろう。

少なくとも、上記の基調講演で言われたような、ファイル共有における交換原則によって(またはファイル共有志向によって)新たな児童ポルノファイルが必要とされるのであれば、P2Pファイル共有が初出の児童ポルノが多数出回ってそうなものだが、そういった話はとんと聞かない。

また、あくまでも仮定の話だが、単純所持の禁止によって、今出回っているファイルの大半が削除されることになれば、これらのファイルの希少性は増す。要は価値が高まるわけだが、そうなればオリジナルの児童ポルノファイルの価値は相対的に下がり、交換が成立しうる。場合によっては、新たな児童ポルノを製造する動機づけとなるかもしれない。ファイルの交換が新たな児童ポルノの製造を促すと考えるのであれば、これも無視できない問題であろう。

もちろん、ここで私が否定したいのは、P2Pファイル共有ネットワークは交換原則に支配されており、そこで欲しいファイルを手に入れるためには、新たな児童ポルノファイルを製造しなければならない、というような論理的帰結であって、P2Pファイル共有が悪用され、児童ポルノがネットワークに流入し、広範囲に拡散させている現状を否定しているわけではない。その問題を無視してはならない。

情報漏えいウィルスが児童ポルノを拡散する?

ネットの先は世界中につながっている。一旦ネットに取り込まれてファイル共有ソフトに入ってしまう。そういう人のコンピューターにいわゆるスパイウェアが入り込むと本人が知らないうちにアップしてしまう。ファイルを持っているだけで非常な危険を招く。Wed Aug 10 06:01:37 via web

自分の意志とは関係なくばらまかれてしまう。だから単純所持を禁止するしか無い。本人の意志とは関係なく出てしまう。Wed Aug 10 06:01:46 via web

これも筋が違うように思われる。単純所持の禁止によって児童ポルノを捨てるから漏えいしても(児童ポルノに関しては)大丈夫、などということには絶対にならない。

確かに、これまで情報漏えいウィルスの被害にあい*6、PCに保存してあった(同人物が製造したであろう)児童ポルノファイルが流出したというケースはあった(あまり気持ちのいいものではないので、詳細は伏せさせていただく)。

だが、こういったケースが単純所持の禁止によって防げるかというと、私はまず防げないと思う。だって、そもそも児童ポルノの製造自体が禁止されているのだから。製造罪があっても防げなかったのに、単純所持を禁止すれば防げるとは思えない。

情報漏えいウィルスの被害者(であり、児童ポルノ製造の加害者)は、自分がそんなウィルスに引っかかって、児童ポルノを、自分の犯罪行為を公に晒すことになるなんて考えてもいなかった、だから児童ポルノを製造したし、自分のPCに保存していた。つまり、バレることはないだろうと思っていた(またはバレることを考えてすらいなかった)ことが問題の根っこにある。それは単純所持を禁止したところで解決する問題とは思いがたい。

終わりに

今回のエントリでは、児童ポルノ問題のシンポジウムで語られたP2Pファイル共有の問題について、注意を要する、または妥当ではない決め付けについて幾つか指摘させてもらった。あえて粗を探すということはせず、思ったままのことを書いた。正直なところ、誤解や誤認もあったように思う。これが講演者のみの誤解、誤認であればよいのだけれど、これが規制を推進している方々に共有されているのであれば、誤解を解き、できるだけ正しい認識で議論してもらえればと思う。

また、今回私が書いたことが真実であると言いたいわけではないし、多分に推測を含んでいるところもある。私自身の誤認しているところもあるかもしれない。その点については、どうぞご遠慮なくご指摘くださいまし。

*1:調査者が児童ポルノを明示的に除外しているのでない限り、回答者の判断に委ねられる

*2:ネットエージェントの調査では、全ノード中21.6%〜24.8%が児童ポルノコレクターであるとされた

*3:だからこそ、職人たちは競うように、時にはフラゲしてまでうpする

*4:また、児童ポルノの公開にリスクが伴うことを考えても

*5:たとえば場のメンテナンスであったり、別の村との交易であったり

*6:本音を言えば同情しがたいのだが、被害は被害である。

「ウィルス罪で初摘発」にまつわる誤解と懸念

不正指令電磁的記録罪(コンピュータウイルス罪)で初の逮捕者が出たそうで。

ウイルス保存の疑いで初摘発 NHKニュース

容疑は、Shareネットワーク上の他のユーザに感染させる目的で、ウィルスを自宅のパソコンに保管していた疑いとか。

成立から初摘発までずいぶんと早いなぁと思いつつ記事を読んだのだけれども、このNHKの記事がかなり誤解を招きそうな書き方なのが気になった。(太字は筆者heatwave_p2pによる)

コンピューターウイルスを巡っては先月、刑法が改正されて「ウイルス作成罪」が新たに設けられ、ウイルスを作成したり保存したりしただけで罪に問われるようになりました。

ウイルス保存の疑いで初摘発 NHKニュース

この報を受けてか、ウィルス送りつけられただけで逮捕か、研究のために保管していてもダメなのか、ワクチンソフトが隔離したファイルでもアウト?などなど懸念の声も上がっている。

これについては、不正指令電磁的記録罪に深くコミットされてきた高木浩光さんが、NHKニュースの報道を批判している。

NHKの報道が糞すぎる。目的犯だっての。 http://t.co/OgjTrYW 「刑法が改正され、ウイルスを作成したり保存したりしただけで罪に問われることになり、」less than a minute ago via Twitter for Mac Favorite Retweet Reply

そら見ろ。NHKの糞報道のせいで、無用な社会不安が生じてるぞ。> RT NHKニュース「刑法が改正されて「ウイルス作成罪」が新たに設けられ、ウイルスを作成したり保存したりしただけで罪に問われるようになりました」 これ本当?ワクチンソフトが隔離したファイルもアウト?less than a minute ago via Twitter for Mac Favorite Retweet Reply

高木さんの指摘どおり、不正指令電磁的記録保管罪は目的犯であって、ただ保管していたから逮捕というわけではない。(太字、脚注は筆者heatwave_p2pによる)

<不正指令電磁的記録取得・保管罪(刑法第168条の3)>
(不正指令電磁的記録取得等)
第168条の3 正当な理由がないのに,前条第1項の目的で*1,同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録*2を取得し,又は保管した者は,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

今回の法改正について、法務省から解説(PDF)が出されているが、それに即して見ると、(第三者である)使用者の意図しない、またはその意図に反する*3不正な指令を与えるプログラム(電磁的記録)を、不正なプログラムであることを知らない、実行する意思がない第三者のコンピュータで実行させる・実行可能な状態にすることを目的として、保管するのは違法ですよ、と解釈すべきなのかなと思う。

また、「正当な理由がないのに」という一文を見て、調査・研究目的であれ、感染であれ、ワクチンソフトによる隔離であれ、正当な理由を立証できなければ、PC内にウィルスが保存されている状態であれば、逮捕される可能性があるのではないか、との懸念の声もあるが、法務省の解説を読む限り、「正当な理由がなければならない」のではなく、供用目的(第三者を騙して感染させる目的)がなければ違法性は問われないことを明確にするための文言のようだ。

「正当な理由がないのに」とは、「違法に」という意味である。
ウィルス対策ソフトの開発・試験等を行う場合には、自己のコンピュータで、あるいは、他人の承諾を得てそのコンピュータで作動させるものとして、コンピュータ・ウィルスを作成・提供することがあり得るところ、このような場合には、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が欠けることになるが、さらに、このような場合に不正指令電磁的記録作成・提供罪が成立しないことをいっそう明確にする趣旨で、「正当な理由がないのに」との要件が規定されたものである(この要件は、不正指令電磁的記録取得・保管罪についても規定されているが、その趣旨は同様である。)。

いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について - 法務省

他にも、ウィルス検体を研究機関やワクチンソフト製作会社に研究・対策に役立てる目的で提供する/されるのも、同様であるとされている。

要は、ウィルスの作成、保管等は「人の電子計算機における実行の用に供する目的」がなければ違法性を問われることはないが、それをより明確にするために「正当な理由がないのに」を付け加えた、と。念のため加えたがために、一部で若干の混乱を招いたという側面もなきにしもあらずだが、ないよりはあったほうが良い文言だと思う。もちろん、法務省から解説が出された背景には、運用には慎重を持って当たるべしとした付帯決議(PDF)があり、運用如何によっては不当な逮捕もありうる。とはいえ、成立してしまった以上、法律がダメだと言ってばかりでは仕方ないので、適切な運用がなされているかどうか、監視を続けることも重要だと思う。

私自身は法律を得意としているわけではないので、ここまでの解釈に間違いがあるぞと思われる方は是非ともご指摘をお願いします。また、私がここで指摘したのは不正指令電磁的記録罪(コンピュータウイルス罪)が抱えていた懸念のごく一部にサラっと触れた程度に過ぎないので、関心のある方は、高木浩光さんの詳細な記事をご覧いただければ。

不正指令電磁的記録罪(コンピュータウイルス罪)の件、何を達成できたか(前編) - 高木浩光@自宅の日記
Togetter - 「ウイルス罪: 高木浩光氏、成立後の報道を批評する & ウイルス罪クイズ #fuseisirei」

今回の初摘発の件

ここからは、コンピュータウィルス罪にまつわる法律的なお話ではなく、今回の摘発に関するお話。

中日新聞によると、被疑者の男性は容疑を認め、「ファイル共有ソフトの利用者のモラルのなさに腹が立ち、警告を与えたかった。子どもに対する犯罪を憎んでいる」と供述している。男性は昨年春ごろから、児童ポルノを思わせるファイル名をつけて自作のウィルスを巻き始めたという。この辺りについては、ふんふんと思いつつ読んでいたのだけれど…。

毎日jpにちょっと気になる記述があった。

サイバー課によると、ウイルスは漫画をシェアに放出したとされる著作権法違反容疑で川口容疑者の自宅を家宅捜索した際にパソコン内で見つかった

ウイルス保管容疑:初適用、大垣市の38歳男を逮捕 - 毎日jp(毎日新聞)

漫画の著作権侵害で家宅捜索したら、パソコンの中にウィルスがあって、Shareでばら蒔いていた形跡があった、供用目的で保管していることが現認されたので、現行犯逮捕した、と。

これ、著作権侵害で家宅捜索したら、たまたまウィルスばらまいてるのを発見したんです、というわけでもなさそうな。Shareでばら蒔いていたことは、共有フォルダに入っていたかどうかで判断できそうではあるのだが、じゃあそれがウィルスでしたってのを捜査員がその場で判断できるものなのかなと。

あくまでも私個人の推測なのだけれども、この男性がウィルスをばら蒔いていることは家宅捜索前に既に確認していて、著作権侵害での家宅捜索の際に現認よろしく、という筋書き*4はできていたのではなかろうか。

警察庁が運用するP2P観測システムを利用すれば、この男性が何を拡散していたかは把握できていたはず。男性がウィルスに児童ポルノっぽいファイル名をつけていたというからには、それについても事前に確認は行っていると思われる。

著作権侵害とコンピュータ・ウィルス罪、どちらが本命だったのかはわからないが、もしも後者だったとしたら、著作権侵害は家宅捜索のための口実として使われた、という側面もなきにしもあらずなのかもね。

余談

この件についてはいろいろ考えさせられた。未だ議論が続く児童ポルノの単純所持規制ではあるが、もしこれが実現すれば、今回の件とは逆の目的で使われることになるのかもしれないなと思った。

たとえば、本命の容疑の捜査の過程で、被疑者が児童ポルノを所持していたことが判明したら、被疑者の身柄を確保するため、圧力を掛けるために、いわば別件逮捕の口実として使われかねないのだろうなと。

*1:「人の電子計算機における実行のように供する目的」

*2:「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿う動作をさせず、またはその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」(刑法第168条の2第1項第1号)と、「前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録」(同項第2号)

*3:法務省の解説によれば、「あるプログラムが、使用者の『意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる』ものであるか否かが問題となる場合におけるその『意図』は、個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく、当該プログラムの機能の内容や、機能に関する説明内容、想定される利用方法等を総合的に考慮して、その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準として判断することとなる。したがって、例えば、プログラムを配布する際に説明書を付していなかったとしても、それだけで、使用者の『意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるもの』に当たることとなるわけではない」とされている。

*4:ないし現行犯でなくとも、検挙する筋書き

『Steal This Film』の翻訳字幕動画をニコニコ動画に投稿したよ

ニコニコ動画に『Steal This Film part1』の翻訳字幕動画を投稿しました。

2006年5月のビットトレントトラッカー パイレート・ベイへの強制捜査に端を発した、スウェーデン著作権やファイル共有に関わる議論や混乱、その背景にあった政治的な動き、市民の感情などを、海賊よりの視点で描いたドキュメンタリーです。

『Steal This Film part1』は2006年の作品とやや古く、この作品が公開されて以後、パイレート・ベイの管理人が起訴、有罪判決を受けたり、海賊党が世界中に広まりを見せたりと、5年の間に大きく変化しています。

違法ファイル共有とその背後にいる人々の記録として、よかったら見てくださいまし。
『スティール・ディス・フィルム (この映画を盗め)』(2006)- ニコニコ動画
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この『Steal This Film』のパート2が2007年12月にリリースされていますが、こちらについても翻訳し、公開する予定です。

AmazonがLady Gagaのアルバムを投げ売りしてまで掴みたいもの

Lady Gagaのアルバム「Born This Way」がバカ売れ、リリース初週で111万コピーを売り上げたらしい。

リリース初週でのミリオン越えは、SoundScanがデータを取り始めた1991年以降、この「Born This Way」を含めて17枚しかないのだとか。まぁ、16枚目が Taylor Swiftの「Speak Now」ってんだから、割と最近もあったっちゃあったわけですが。

Taylor Swift、Lady Gagaと立て続けに景気のいい話が飛び出して入るものの、全体としては未だ大きくは動いてはいないみたい。以下、今週のチャートをグラフ化(単位はユニット数)。

Lady Gaga以外は前年並みというところで、ガガ様パネェという評価に落ち着きそうではあるだけれど、単純にLady Gagaの人気だけではなく、Amazonによるディスカウントがかなり貢献しているのではないか、とも言われている。

Amazonは先週、2度にわたってLady Gagaのアルバム「Born This Way」を0.99ドル(約81円)にディスカウントした*1。ユーザには非常に好評だったらしく、1度目はサーバーがダウンするほどで、買いそこねたユーザもいたことから、2度目のディスカウントが行われることになった。

その結果、「Born This Way」のデジタル配信は、初週にして66.2万ダウンロード、おそらくリリース初週のデジタル配信回数としては歴代トップなんじゃないかな。

うち、Amazonから0.99ドル購入された分は44万コピーだと推定されている。なんだ、111万コピーのうち44万コピーもディスカウントじゃないか、と思われるかもしれないが、こんなディスカウントが行われていても、60万コピー以上をCDで、ディスカウント抜きの配信で売ってしまうあたり、ガガ様はやはりパネェわけです。こんなディスカウントが行われているさなかでも、同タイトルの特別版(22曲入り)が、Amazonのセールスチャートで第4位に付けていたり。

そもそもなんのためのディスカウント?

実はこのディスカウントには、Lady Gagaのレーベルもマネジメントも関わってはおらず、Amazonが独断で実施したキャンペーンだという。その場合、Amazonは1枚売れるごとに通常のレートで支払いをしなければならない。要は、売れば売れるほど、Amazonはお金を失う。

Billboard.bizによると、通常、リテーラーの取り分は販売価格の30%で、残りの70%がレーベルに渡る、iTunesでは同タイトルが11.99ドルで販売されていることを考えると、レーベルの取り分は8.39ドルだと推定される。44万コピー売れたとすると、売り上げは43.5万ドルにしかならないが、Amazonはレーベルに約369万ドル(約3億円)支払うことになる。

そんな額を支払ってまで米Amazonがしたかったのは何なのか、というと、先日も書いたけれど、ローンチしたばかりのAmazon Cloud Drive/Playerにユーザをつなぐこと。

Amazon Cloud Drive/Playerは、米Amazonアカウントがあれば5GBまで無料で利用できる。20GBまでは年額20ドル、50GBまでは年額50ドル…と大容量になると有料サービスとなっているのだが、Amazon MP3で楽曲を購入すると、以降1年間、5GBから20GBにアップグレードされる*2

今回のディスカウントは、Cloud Driveをユーザに使ってもらうための足がかりとして行われたものなんだろうね。Music Beta by Googleがローンチされ、AppleiCloudももう間もなくと言われている中、出来る限り引き離しておきたい、既に囲い込まれたユーザをひっペがしておきたいというところなんだろう。

(引用註:Amazonは)一般にサービスをあまり乗り換えたがらない音楽ユーザーをアイチューンズからどのように奪うかといった難問にも直面している。調査会社IDCのダニエレ・レビタス氏は「人は大抵、習慣をあまり変えたがらないもの。アップルはそうした人たちをとっくの昔に囲い込んでいる」と話す。

米アマゾン、レディー・ガガでアップルに宣戦布告 - WSJ日本版 - jp.WSJ.com

そのために369万ドルは安い、とAmazonが考えているかどうかはわからないけれど、AmazonGoogleAppleが一挙に押し寄せてくるくらいには、魅力的な市場ではある。音楽関連サービスとして考えれば、Cloud DriveもMusic Betaもイマイチだという批判があるし、iCloudも音楽に関連する部分ではおそらくイマイチだろう*3。それでもレースが始まった以上、イマイチだろうだなんだろうが、とりあえず出すしかない、というところなのかな。

で、音楽サービスとして見れば、イマイチかもしれないけど、おそらくその射程はもっと先まで伸びていて…。

拡大するインターネット・サービス市場に関しては、ウェブベースの「クラウド・サービス」の急増によって、従来のデスクトップやWindowsベースのコンピューター・システムは時代遅れとなると、Schmidt会長は語った。「われわれの知っているようなITは終わりを告げるだろう」

シュミット元CEOが語る「Googleの失敗」 | WIRED VISION

デスクトップ、ラップトップ、モバイル、タブレット、1人が複数のデバイスを使いこなすようになるにつれて、環境はますます変化していく。Dropboxって便利だね、Evernote素晴らしいね、っていう、さらにその向こう側にある、次のビッグブラザー競争な気がするよね*4

*1:それぞれ1日限定

*2:ちなみに、購入した楽曲はCloud Driveから利用できるが、規定の容量には含まれない

*3:"Scan & Match"がある分、快適だとは思うけれど。

*4:各社の具体的な思惑はちょとづつ異なってはいるんだろうけども。