Megaupload摘発、サイバーロッカー(オンラインストレージ)は終焉を迎えるか

Megaupload摘発の件で何か書いてちょ、とリクエストを頂いたのでちょろっと書いてみる。Megaupload摘発の件については、GIGAZINEがまとめているのでこちらを参照のこと。

「Megaupload」閉鎖&FBIが運営者を逮捕、驚愕の運営実態と収益額が判明 - GIGAZINE

サイバーロッカーの現状

Megauploadはオンラインストレージの1つではあるのだけれど、海外ではこの手のサイトはサイバーロッカーと呼ばれ、一般的なオンラインストレージとは別に扱われている。Megaupload以外では、RapidShareやHotfile、Fileserve、FileSonic、Mediafireなどなど。具体的には、ほぼワンクリックでファイルをアップロードでき、共有のためのURLを返してくるようなオンラインストレージのことを指す。

ご存じの方も多いとは思うが、上記のサイトには多数の著作権侵害ファイルがアップロードされている。そうした事情もあり、報道等でサイバーロッカーという言葉が用いられる際には、いわゆる割れ厨御用達サイト的な意味合いが付されている。

当然のことながら、コンテンツ産業はサイバーロッカーが著作権侵害を助長していると主張し、あれこれ手段を講じてサイバーロッカーを潰しにかかっている。SOPA/PIPA法案もサイバーロッカーが主要なターゲットになっているだろうし、MPAA対Hotfileの民事訴訟や今回のMegauploadの摘発もそう。

これまでウェブ上の深刻な著作権侵害といえばP2Pファイル共有ということになっていたが、サイバーロッカーが登場し、成長して以降は、こちらのほうが深刻な状況に陥っていたといえる。P2Pファイル共有の場合は、BitTorrentを除いてはそれぞれのP2Pファイル共有ネットワーク内で完結しているし、BitTorrentもクライアントをインストールしている人、またはインストールするためのちょっとした知識を得る意思のある人に限られる。サイバーロッカーのように、ブラウザでアクセスすれば誰にでもダウンロードできるようになれば、潜在的な違法ダウンローダーはインターネットユーザ全体ということになる。また、特定のコンテンツ名でウェブ検索をかけると、サイバーロッカーへのリンクが掲載されたブログやフォーラム、サイバーロッカーサイトの横断検索が可能なFilestubeやFiletramなどの検索結果が上位にヒットするようになっている*1

では、なぜサイバーロッカーがここまで成長したのか。結論から書くと、アフィリエイト・プログラムで金をばら撒き、違法アップローダーを大量に釣り上げていた、というところ。

サイバーロッカーとアフィリエイト・プログラム

サイバーロッカーの主な収入源は、プレミアムユーザの月額使用料である。一部広告が掲載されているところもあるが、大半は自社のプレミアムサービスの宣伝。サイバーロッカーサービスの多くは、無料ユーザからプレミアムユーザへの移行を促すため、無料サービスの質をコントロールしている。たとえば、人間には判読不可能とも言えるCHAPCHAの入力やダウンロード開始までの待ち時間、複数ダウンロード制限や時間ごとのダウンロード回数制限、無料アカウントではダウンロードできないオプションの導入などでストレスを与える。無料で使うことも不可能ではないが、頻繁に使うとなると面倒くさい、そう思わせるのがミソなんだろう。

しかしそれだけでは不十分だ。MegauploadやRapidshare、hotfileなど大手サイバーロッカー以外にも、ここ数年で雨後のタケノコのように数多のサイバーロッカーサービスが登場した。ダウンロードを不便にするだけでは競合に客を持っていかれる。お金に変えるには、ダウンローダーに自社のサイバーロッカーサービスを何度も何度も使ってもらい、その面倒くささを避けるためならお金を支払おうと思わせなければならない。

そこで導入されたのがアフィリエイト・プログラム。簡単にいえば、たくさんダウンロードされるファイルを上げたアップローダーや、プレミアムサービスにユーザを誘導したアフィリエイター*2に報酬を支払うというもの。アップローダーにインセンティブを与えることで、自社のサイバーロッカーサービスに大量のファイルをアップロードさせ、利用者(ダウンローダー)を増やし、継続して何度も使わせる。

アップローダーはダウンロードされればされるほど利益になるので、自分のブログやジャンルのフォーラムにサイバーロッカーへのリンクを貼り付け、ダウンロードを促す。何度も、大量に貼り付けることで、ダウンロード数も増え、プレミアムへの移行も促せる。

ダウンロード数に応じた報酬は、ほとんどのサイバーロッカーで1000ダウンロード毎となっているが、ファイルのサイズやダウンロードされた地域によってレートが異なる。たとえば、サイバーロッカーFilesonicのレートは以下のとおり。

地域による違いは、金払いの良さやコストの低さなどを反映しているというところだろうか。大きなサイズほど報酬レートが高いのは、無料のままでは低速ダウンロードでストレスを感じやすいためにプレミアムへの移行率が高いためだろう。ダウンロード数に応じた報酬以外にも、プレミアム購入毎、もしくはダウンロード数+プレミアム購入の組み合わせ*3などのプログラムが用意されている。この手のリンクを目にしたことのある方はお分かりだろうが、大容量のファイルが一定のサイズで分割されているのはこうした事情からである。

こうしたアフィリエイト・プログラムの導入がサイバーロッカーサービス乱立の元凶となった。サービスの質よりも、高額報酬を約束するサイトの方がアップローダーには魅力的である。新たにそうしたサイトが登場すればアップローダーはそちらに移り、それにともなってダウンローダーも新たなサイトにアクセスする*4

サイバーロッカーサービスの乱立、成長に伴って、サイバーロッカー・アフィリエイターも増えていく。Warez sceneのようにチームでやっているところもあれば、個人でやっているところもある。サイバーロッカー間の競争が激化すれば、アフィリエイター間の競争が激化するのも必然。誰かがアップロードしたファイルをダウンロードし、自分のアカウントでアップロードしなおすということも日常茶飯事となっている。投稿するフォーラムの仁義みたいなものもあるのだろうが、個人のブログや他のフォーラムにリンクを投稿する分には制約はない。これにより、数多のサイバーロッカーサービスにファイルが分散して置かれることになる。もちろん、ダウンロードされるほど利益になるので、アップローダーもパスをかけることはない。

サイバーロッカーにアップロードされるファイル

あえて言わなくても想像つくと思うけども、継続して大容量のファイルをアップロードし続ける、しかも大量にダウンロードされるファイルをアップロードするとなれば、映画やドラマ、音楽、アダルト動画、ゲームソフト、ソフトウェア、コミック/書籍などの違法アップロードがほとんどになってしまう。もちろん、それ以外のファイルがありえないというわけではないが、例外といえるくらいに利用頻度は少ないように思う*5

サイバーロッカーの月額使用料は10ドル前後なので、こうしたファイルが快適に、際限なく手に入るのであれば、月々の支払も安いという人も少なくはないのだろう。また、アダルト動画の場合、クレジットカード払いなどに不安があって利用できないが、サイバーロッカーにPaypal経由で支払えるのなら、という人もいるかもしれない。

コンテンツ産業 vs. サイバーロッカー

Megauploadの強引な摘発には正直驚いたけれども、それ以前からサイバーロッカー潰しは続けられてきており、個人的にも数年のうちにはなくなるだろうなぁと思っていた。サイバーロッカーを規制するためのSOPA/PIPA法案が事実上凍結されたが、昨年2月に起こされたMPAA(全米映画協会) vs. Hotfile裁判は続いており、この結果によって現状のサイバーロッカーの隆盛は終焉を迎えることになるだろうと。

昨年8月末、この裁判の中で、Hotfileはすべてのコンテンツ/ユーザ情報を開示するよう命令をくだされている。一部ではこれがユーザをターゲットにしたアクションだと勘違いされているが、実際にターゲットにされているのはHotfile本体である。違法アップロードを繰り返しているトップアフィリエイターもターゲットになる可能性はないわけではないのだろうが、優先順位から言えばHotfileを潰す方が先になるだろう。

MPAAの狙いは、Hotfileの持つ情報の中からアフィリエイト・プログラムが違法アップロードのインセンティブとなっている証拠を示すことにある。Hotfile側はDMCAに従い、削除要請のあったものについては迅速に対応(ノーティスアンドテイクダウン)している、セーフハーバー条項においてユーザの著作権侵害について免責されると主張し続けるのだろうが、免責されるにあたっては、侵害行為に直接起因する経済的利益を得てないことという要件がある。MPAA側はHotfileがその要件を満たしていない、よって免責されない、という判決を引き出したいのだろう。

Hotfileがユーザの著作権侵害を助長した直接的な証拠があるのかどうかはわからないが、状況的にはHotfile側にかなり分が悪い状況といえる。個人的には、このまま裁判を続けても、MPAAがGrokster判決に並ぶ勝利をおさめるんじゃないかなと。MPAAが勝利を手にすれば、クレジットカード会社やPaypal、広告会社等に圧力をかけ、自主的な対応を求めたり、米当局にドメインを押収するように要請したりするんじゃないのかな。SOPA/PIPAがなくてもね。

Megauploadの摘発とアフィリエイト・プログラム

Hotfileへの情報開示命令を受けてか、昨年11月にWuploadがアフィリエイト・プログラムを終了していたのだが、今回のMegauploadの摘発はさらに大きなインパクトがあったようで、多くのサイバーロッカーがアフィリエイト・プログラムを終了している。

ちょっと確認しただけでも、FileServe、FileSonic、FileJungle、UploadStation、FilePost、GlumboUploads、MegaShare、Uploading、Crocko、4shared、SlingFile、EnterUploadが、Megauploadの摘発以降アフィリエイト・プログラムを終了している。Oronはアフィリエイトアカウントを一時凍結し、侵害ユーザを特定するとのこと。今後はヤバげなファイルの自主的な削除が進められるんだろう。

また、閉鎖や報酬レートを変更したところも。報酬レートの変更は、大手を中心に競合が減ったためにレートを低くしてもアップローダーを釣れると踏んだのか、Megauploadの摘発でプレミアムユーザが減ることを見越してなのかは不明。GIGAZINEにて、FileSonicがファイル共有機能を無効にしたと報じられているが、これもタイミング的にMegauploadの摘発が絡んでいることは間違いない。ビジネスの根幹に関わる機能を、そうやすやすと手放せるわけがない。

アフィリエイト・プログラムの終了は、サイバーロッカー界隈の大きな変化をもたらすことになるだろう。インセンティブを失ったアフィリエイター(アップローダー)が撤退すれば、必然的に違法アップロードは減り、プレミアムユーザがペイする理由が失われる。プレミアムユーザが減り収入源を絶たれれば、サイバーロッカーも終りを迎える。

このシナリオ通りに進むのか、それともほとぼりが覚めた頃に再び動き出すのかはまだわからないけどね。ただ、今回の摘発がターニングポイントの1つにはなるんだろう。

*1:トレントサイトも相変わらずだけれども

*2:アップローダーであることが多いが

*3:それぞれ単独で選択した場合よりも報酬は低レートになる

*4:ダウンロード数を稼ぐならプレミアムユーザが多いサイトが良いのだろうが、プレミアム購入で稼ぐなら新規サービスがいいというところだろうか。手持ちのファイルにもよるけども。

*5:アップロード数だけではなく、ダウンロード数も加味して。とはいえ、インディペンデント・ミュージシャン本人から自身のアルバムのRapidShareリンクを貰ったこともあるので、まともな利用もなくはないと思うよ

ガラケーからスマホへ:どうなるCD、どうなる音楽配信

前回のエントリでは、着うたフルとCDシングルの年間チャートの違いから、今起こっている変化を考察してみたが、それがこれから先どういった変化をもたらしうるのか、というお話をしてみたい。とりあえず、CDシングルと着うたフルのお話からはじめて、ガラケーからスマホへの移行、CD、配信全般についてざっくりと見ていくことにする。

どうなるCDシングル、どうなる着うたフル

CDシングルは長いこと右肩下がりで推移してきたが、2010年から上昇、2011年もさらに上向きで、数字だけを見れば回復しているとも取れるのだけれど、その成長は秋元康プロデュース作品やK-POPに依存するところが大きい。

良く言えばプレミアム、悪く言えば抱き合わせの特典商法が功を奏した部分もあるのかもしれないが、全体として底上げされている感はなく、AKBやK-POPブームが終われば、また大きく傾くことになりそう。

一方の着うたフルも先行きはあまり明るくない。着うたフルは2009年にピークをむかえ、2010年には微減、2011年も第3四半期までに前年比81%の大幅減。この現象の背景の1つに、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行がある。スマートフォン(PC)向け配信は前年比121%と大幅増となったが、もともとPC向け配信は着うたフルほど利用されておらず*1、着うたフルの減少分を補うまでには至っていない。

ガラケーからスマホ

レコード産業は、着うたフルからスマホ向け音楽配信への移行を促すため、ガラケーからスマホへの移行した際の再ダウンロードを2012年中に限って可能にする施策を打ち出した(著作権料、原盤権料は免除)。身も蓋もないことを言えば、これはレコチョク(ついでにmora)救済策である。スマホに移行されたら思いの外レコチョク使ってくれないからテコ入れしないとね、iPhoneとかに移られても困るしね、ということだろう。

今までデバイスに音楽データを植えつけようと躍起になり、ユーザの利便性なんざ二の次だったくせに、いざデバイスごと捨てられると焦りだす、最初からわかってたことなのに何を今更…、デバイスの変化がDRMedコンテンツにどんな影響を及ぼすかほとんど理解していなかったんじゃないかとかいろいろ思うところはあるけれども*2、それはさておき。

とにもかくにも、1曲200円ではなく400円*3で音楽を購入してもらうためには、レコチョクをユーザのメインの音楽ストアにし続けなければならない。最高裁まで粘ったのもそのためだ。

iPodを駆逐せよ、でもiPhone使われると困っちゃうの

スマホレコチョクへの移行はうまくいくのだろうか。ここにはiPhoneに移られると困るという問題が含まれている。iPhoneユーザの音楽購入にはiTunes Storeが利用され、レコチョクが利用されることはない。レコチョクのDRMedコンテンツはiPhoneでは再生できないし、そもそもiPhone向けレコチョクアプリがない。MP3配信して、パーソナル・オンライン・ストレージ経由で取り回しできるようにでもなればiPhoneユーザでも取り込めそうだけど、まず無理か。

結局、iPhoneに移行されたら負け、iTunes Storeで購入されれば、レコチョクなら1曲400円だったものが、1曲200円になってしまう。Sonyに至っては販路すらなくなるわけで*4、由々しき事態である。昨年からauでもiPhone解禁となったが、これにdocomoが続くことにでもなればますます大変なことに。

一方、スマホへの移行はApple勢を追い落とす可能性も含んでいる。iPodというのは実に困ったちゃんで、ざっくり言うとMP3かiTunes Storeで購入した楽曲しか入れられない。これまでは、いくらPC向け配信に力を入れたところで、携帯音楽デバイスのシェアをiPodに持っていかれている状況ではAppleを利するだけにしかならず、消極的にならざるを得なかった側面もある。スマートフォンへの移行はガラケーからの脱却のみならず、iPodからの脱却を意味することになれば、歓迎する向きがあってもよさそうではある。ただ、iPhone以外のスマートフォンに音楽デバイスとしての役割を期待できるか、というところに問題があるのだが、これについては後述。

この辺りは、価格の柔軟性を認めないAppleと、DRMの堅持を望む日本のレコード産業との思惑がユーザを巻き込んでいるところでもある。

激化する競争

スマートフォンには、音楽配信の他に、アプリ、ゲーム、動画配信/レンタル/共有サイト、電子書籍などさまざまなコンテンツがひしめき合っている。それだけ競合相手が増えるということでもある。

もちろん、着うたフルの競合相手の出現は、何もスマホから始まったわけではない。ガラケーコンテンツ市場の推移を見れば一目瞭然。

ガラケー市場全体でみると、この8年間で3倍超の成長が見て取れる。だが、最下段の2つ、着メロ+着うた+着うたフルの推移を見ると、2005年あたりで成長は止まり、2008年をピークに減少を続けていることがわかる。この期間、着メロから着うたへ、着うたから着うたフルへのシフトがあったが、受益者は変われども、ユーザのモバイル音楽への需要はそれほど変化していないようにも見える。

一方で、その他の市場は成長を続けており、特に近年ではグリーやモバゲー等の「アバター/アイテム販売」が大きく伸び、わずか数年で着うた系市場を凌駕するまでに成長した。上記のグラフはガラケー市場に限定されたものだが、グリーやモバゲーはスマホでもこの勢いを持続すべく力を注いでいる*5

バイスが進化すればするほど、音楽以外の魅力的なものが身の回りに増えていく。そんな中で、ガチャではなく、アプリではなく、音楽に420円を出させるだけの価値を提供し続けていけるか、が鍵となる。

快適にはできないジレンマ

レコード産業が抱えるもう1つの大きな問題は、未だにCDか配信かの舵取りに迷いがあることにある。言い換えれば、CD、とりわけCDアルバムを死守したいという想いが未だに根強い。

着うたや着うたフルに熱心になれたのも、これらがCDと競合しないと考えたためだろう。携帯電話から流れる音楽は、それだけの用途に限られていて、CDが提供するエクスペリエンスとは別物である、と。だが現実は違った。着うたフルはCDシングルと同じような扱いになり、一方のCDシングルはグッズという扱いになりつつある。それでも、ガラケーのインターフェースには限界があり、CDアルバムが提供しうる価値は(次第に損なわれつつあるようにも思えるが)残されてきた。

だがスマートフォンではそうはいかない。ユーザはアルバムを快適に扱えるインターフェースを手にしてしまった。スマホへの移行は伸び悩むPC向けアルバム配信を後押しする効果が期待できるが、一方でCDアルバムの需要を押し下げる、またはユーザのチェリーピッキング(単曲買い)を加速させる可能性もはらんでいる。とはいえ、スマホへの移行に直面した以上、これは避けようがないし、着うたフルの時点でその芽生えはあったのだから今更どうしようもない。

それでもCDアルバムとスマホ向け配信とは別物として扱われなければならない、となれば、DRMは絶対に外せないことになる。スマホで購入した曲はスマホでしか聞けないのは当然じゃないか、それ以外のデバイスで使いたければCDがある、CDならリッピングもできる、CDを買いましょうよ、と。もしくは、CDを買っても、リッピングして有線で繋いだりSDカード抜き差ししないといけなかったりするし、スマホに入れるのは面倒臭いですよ、配信で買ったほうがいいですよ、と。

CDも配信もそれなりの規模で両立させたいと思っても、みんながみんな配信に行っても困る、かといって、着うたフル層はスマホ配信に行ってもらわないと困る、をうまくこなすのは難しい。二兎を追うものは一兎をも得ず。消費者が自分にとって快適な環境に即した購買行動を取ることで、着うたフル-CDシングル間で見られたような乖離がさらに進む。ヒットチャート音楽は人気商売なので、スケールが小さくなってしまうのはよろしくない。チャートは単に接点を作るだけではなく、バンドワゴン効果も生み出す。曲がヒットするのは、その曲に接した人がフラットに、自分の感覚を頼りに評価した結果ではなく*6、社会や周囲がその曲に対して与えた評価も含めた結果である。音楽マーケも大半は後者に関するものだしね。

また、リスナーを不自由な環境に押し込め、さらなる自由が欲しければもっとお金を支払うように、と言ったところで、音楽がそれだけの価値を提供していなければ、お金を支払ってまで自由に使いたいという気にはなれない。不自由な環境のもとでは、その範囲でしか使用されず、その範囲でしか価値は与えられない。

たとえCDと配信との住み分けに成功しても、不自由な環境が消費者の音楽離れを招き、さらにリスナーが分断されることによって、人気が人気を呼ぶ効果は弱まり、チャート音楽そのものに対する需要は減り続けることになる。とはいえ、リスナーの分断、チャート音楽離れはすでに起こっているだろうから*7、もう落ちるところまで落ちるのを覚悟して、延命と割り切っているのかもしれない。

特典ドーピングを続けるCD

特典てんこ盛りのファングッズとなってしまったCDシングルは、2010年、2011年と伸びているが、伸びの大部分は秋元康プロデュース作品とK-POP作品に依るところが大きい。これが一過性のものとすれば、いずれはまた冷え込むことになる。AKBに限らず、DVD等の特典をつけたシングルが大半を占める状況になっているが、これも結果としてファンクラブビジネスへの移行を加速させることになる。

CDアルバムはというと、こちらも前途多難である。2011年11月までのCDアルバム出荷枚数は前年比で87%。ここ数年の減少傾向に歯止めはかかっていない。

CDアルバムもCDシングル同様に、特典ドーピングが盛んに行われているのだが、その手法が通用するのはやはり熱心なファンのみで、全体としては次第にCDアルバムの購入から遠のいているという状況ではなかろうか。特典がついたからと言って、価格が1.5倍、2倍になってしまえばファン以外のリスナーが手を出すとは思いがたい。通常盤があるとしても、特典付きに比べればプレミアム感のない廉価版の扱いであり、わざわざCDとして購入したいとまでは思えなくなるのかもしれない。だったら配信だけで、シングル(配信)だけで、と。もう買わなくてもいいんじゃないかな、という最悪のシナリオもありうるけど。

もちろん、CDアルバムセールスの減少、配信におけるシングルの優位性は、音楽配信セールスがレコードセールス全体の半分を占めている米国においても顕著に見られており*8、特典商法をやめればCDアルバムセールスの下げ止まるわけでもない。苦肉の策として、高くても購入してくれる熱心なファンから少しでも多くの利益を上げる方向にシフトせざるを得ない事情もあるのだろう。

まとめ

  • 着うたフルは大幅減が続く
  • スマホレコチョクが上手くいかないと配信の価格設定的にまずい、iPhoneはもっての外
  • スマホへの移行は、CDから配信への移行をさらに強める、ただし目下のところ着うた層限定か
  • スマホではさまざまな有料コンテンツと競合する、音楽にペイしてもらうだけの価値を提供できるか
  • 配信とCDとでどっちつかずの状況が続く
  • CDはファングッズ

今回の話は、リスナーがスマートフォンを音楽デバイスを位置づけるかどうかが分水嶺になってくるのかもしれない。とりあえず、若年層では比較的抵抗がなさそうだが、今のところiPhone以外のスマートフォンについては、音楽デバイスとしての認識や魅力は低そうではある。

2010年度RIAJ音楽メディアユーザ実態調査の普段使用するオーディオ機器に関する設問において、前年度調査より利用率が増加していたのは、iPodおよびiPhoneのみで、それ以外は減少傾向にあった。また、今後欲しい音楽機器の設問で前年より大きく増加したのはiPhoneのみであった。「iPhone以外の音楽プレーヤーとしての携帯電話」は、いずれの項目でも前年より減少しており*9、消費者にとって、音楽デバイスとしての役割を期待するならiPhoneが旬だろ、ということになる。

iPhone以外のスマートフォンを音楽デバイスとして推すとしても、必ずしも配信だけを強化することにはならない。現在、自分用のCDプレイヤーを持たない人が多くなってきており、CDを購入しても、リッピングしてiPodやPCで聞くだけという人も少なくない。そうした人たちにとって、スマートフォンは、Wifi同期できる、持ち歩くデバイスを減らせる等のメリットを持った魅力的なデバイスとなりうる。クラウド同期を実現させれば更に良し。こうしたユーザビリティに関わる施策を講じることは、配信のみならず、CDをより価値のあるメディアにする。

レコード産業は、利便性を高めることが不正入手や意図しない使われ方をすることに繋がると恐れ、消極的になっているのかもしれないが、この10年を振り返るに、そうした消極性はAppleや、違法配信界隈を利するだけではなかったか。一方で、デジタル時代への適応の遅さは、リスナーの生活の中での音楽の希薄化につながっていったのではないか。

既存のレコード産業を、延命ではなくサステナブルなものとしたいであれば、一刻も早く、利便性を高め、そのことを広く周知する必要があると思う。それによって、日常生活においてさまざまな場面で音楽に触れる環境を作り出し、広く深く濃い音楽体験をリスナーに提供することができる。配信だCDだと語ってきたが、今必要とされているのは商業レコードそのものの価値をどうやって高めていくか、なんじゃないのかな。

余談

今回のエントリでは触れなかったけれど、着うたの大幅減も続いている。これは着うたフルへの移行ゆえに需要が減少していた部分もあったのだが、着うたフルが頭打ちになってなお減少を続けており、着うたのアクセサリーとしての意義も失われつつあることを示唆しているのかもしれない。

最後に商業レコードの価値が問われていると書いたが、これは記録メディアとしてのCDやデジタルデバイスだけに起因するものではなく、コミュニケーション・メディア環境の変容に起因するものでもある。これについては又の機会に。

*1:数量では3分の1、金額では5分の1ほど

*2:レコードからCDへの転換くらいにしか考えてなかったのかもしれない。アレはアレで大変だったんだろうが、今回はその比ではない

*3:着うたフルは420円だったが、シングル配信では400円だったかと。私のHT001にはレコチョクアプリがインストール出来ないので確認できず。プリインストールされて消せなくて困っている人も少なくないというのにねぇ。

*4:CDからリッピングして転送、は別として

*5:この人気のまま定着するかは疑問だが

*6:ラジオやテレビ番組、YouTubeでたまたま聞いた、知らないミュージシャンの曲を、調べて、ネットであれ実店舗であれ探しだして、購入する、というコストを支払える人って、音楽そのものや特定のジャンルに対する動機づけの強い極少数に限られていて、大多数のライトリスナーに同様の行動は期待できない

*7:さらに別の要因も影響もあるし

*8:米国の場合は、CDシングル市場がもともとなかったことが影響している部分もあるかも

*9:回答者がガラケーも含まれていると考えたためかもしれないが…

ファイル共有ソフトCabos、配布中止のお知らせ

LimeWire/Acquisitionベースの国産GnutellaクライアントのCabosが、同ソフトウェアの配布を中止した。

Cabosのネットワークの基盤となるLimeWireとFrostWireのホストキャッシュの停止に伴い誠に勝手ながらCabosソフトウェアの配布を中止させていただく事を決断しました。

ニュース: Cabos ソフトウェアの配布の中止について - - Cabos (カボス) - SourceForge.JP

配布中止の理由として、「LimeWireとFrostWireのホストキャッシュの停止」をあげている。LimeWireは昨年、RIAAとの裁判に敗訴し、差し止め命令を受け、同じくGnutellaクライアントだったFrostWireも、スパム(騙し)ファイル の蔓延を理由にGnutellaのサポートを止め、BitTorrentクライアントとして生まれ変わった。

Cabos配布中止の影響

CODA(コンテンツ海外流通促進機構)が2010年に行った『ファイル共有ソフトの利用に関する調査』では、P2Pファイル共有ソフト現在利用者*1(全体の5.8%)のうち17.9%が主に利用していると回答し、過去利用者(全体で12.9% +現在利用者)も含めた利用経験率は29.9%と、現在利用率、経験率共に高く、Winnyに次いで*2、日本で2番目に人気のP2Pファイル共有ソフトであったと見られている。

LimeWireに続き、Cabosが配布を終了したとなると、日本において(少なくともアンケート調査の上では)2番、3番人気のファイル共有ソフトの配布がなくなったことになる。これらのソフトは児童ポルノや商用著作物の違法共有に用いられてきたが、新規ユーザが減少することで、そうした犯罪も減少するかもしれない。

とはいえ、既に膨大な数のユーザが同ソフトウェアを入手しており、また、配布の中止といっても公式の配布が中止されたに過ぎず、探そうとすれば比較的容易に見つかる状況は続くだろう。

余談:Cabosのお話

Cabosといえば、最近は児童ポルノを共有したユーザがしばしば逮捕されていたり、音楽を違法に共有したとして逮捕者が出たりユーザの情報開示請求が行われたりしている。

こうした不正なファイル共有を引き起こす一因となっていたのは、デフォルトで『ダウンロードフォルダ=共有(アップロード)フォルダ』という設定にされ、かつユーザがその設定に気づきにくいというCabosの設計にあったと思われる。簡単にいえば、「ウハウハでダウンロードしていたら、いつの間にかそのファイルを自分も公開していた、何を(ry」、なのだが、それに加えてダウンロード先として指定したフォルダの中身まで公開されてしまうというもの。

2009年11月に高木浩光さんがこれを指摘していたが、2010年2月に開発者がこの問題を修正するアップデートを行なった。

  • * Cabos asks whether you have authorized your shared files.
  • * Download folder will not be added in shared folders by default.
Cabos 0.8.2 - 更新履歴 - FileHippo.com

これが事実上の最終バージョンになったのが唯一の救いか。とはいえ、未だに旧バージョンのCabosを使用し、当初の設定のままのユーザも少なからずいるのかもしれない。

*1:過去1年間に利用

*2:ノード数調査も加味すると、Winnyが日本で一番人気のファイル共有ソフトであるかどうかは疑問だが

2011年着うたフル年間チャートとオリコン年間チャートを比べてみるよ

昨年末のエントリではオリコン年間CDシングルチャートを眺めてみたんだけど、今回は日本レコード協会RIAJ)が発表した「着うたフル」有料音楽配信年間チャート(レコ協チャート)を眺めてみるよというお話。

RIAJは、レコチョクドワンゴなどの着うたフル配信事業者から、このチャートに参加するレコード会社、音楽事務所のアーティストの実績データ(ダウンロード数)を収集し、週間チャート、年間チャートを発表している(データ提供配信事業者、チャート参加社はこちらを参照のこと)。

レコ協チャートのPDFを眺めるだけでも面白いんだけど、せっかくなのでこのチャートにランクインした楽曲のオリコン年間チャート順位を併記してみる(配:配信限定、×:アルバム収録曲でシングルリリースのない曲)。また、レコ協チャートではダウンロード数が公表されておらず、実際のダウンロード回数がわかりにくいため、レコ協のゴールド等認定を目安として付け加えた。ゴールド(G)で10万ダウンロード以上、プラチナ(P)で25万DL以上、ダブルプラチナ(PP)で50万DL以上以上、トリプルプラチナ(PPP)で75万DL以上、ミリオン(M)100万DL以上という塩梅。この認定には時間がかかることもあるようなので、あくまでも目安として考えてくださいな。あと、おまけでPC配信の認定もつけてみた。

年間着うたフルチャート

秋元康プロデュース、ジャニーズ、K-POP

先日のエントリ同様、この3ジャンルから見てみる。オリコンチャートTOP100には30曲がランクインしていた秋元康プロデュース作品は、着うたフルチャートでは9曲、AKB48と坂野友美を除いてTOP100圏内から姿を消している。またAKBの過去作品がCDシングルチャートよりも上位につけており、この辺りは配信ならではといったところ。一方、「桜の木になろう」「風は吹いている」はCDシングルチャートに比べ大幅ダウン。後者は配信から間もないこともあるのだが、一般受けはしなさそうなのでこんなもんかと。

オリコンチャートTOP100に23曲を送り込んだジャニーズだが、着うたフルチャートに参加していないので当然ランクインもなし。dwango.jpでは、一部の曲で着うたフルや着うた配信を行なっているが全体としては未だ配信に消極的*1。とはいえ、Kis-My-Ft2『Everybody Go』がdwango.jp着うたフル年間ランキングで1位となっている辺りは流石ジャニーズ。またレコチョクでは、SMAPの配信限定チャリティシングル『not alone〜幸せになろうよ〜』が年間ランキング87位につけている。

オリコンチャートTOP100では14曲だったK-POPは、着うたフルチャートでは10曲、KARA、少女時代、東方神起以外は脱落。AKB以上に過去曲が売れている辺りは、今年売り込みに売り込んだ成果だろうか。

ジャニーズが着うたフルランキングには不在とはいえ*2オリコン年間CDシングルチャートに67曲を占めたこの3ジャンルは、着うたフルチャートではわずか19曲のみであった。

CDシングルと着うたフルとの乖離

オリコン年間チャートと着うたフル年間チャートの双方にランクインしているのは、マルモリ、AKB48、少女時代、KARA 、植村花菜福山雅治東方神起YUI安室奈美恵EXILE板野友美UVERworld、チーム・アミューズ!!、Perfume、桑田 佳祐の16組。一方、着うたフル年間チャートにのみ登場するアーティストは40組を超える。

ソナーポケットは着うたフル限定シングル『好きだよ。〜100回の後悔〜』で年間第2位につけ*3、50位圏内に計4曲を送り込んでいる。また、Rakeの『100万回の「I love you」』もKARAや少女時代を抑えて第5位。だが、年間CDシングルチャートには登場していない。着うた先行で、CDシングルとしての発売は2011年3月になったことも影響しているのだろうが、こんなにわかりやすいヒット曲がCDでは伸びないというのも…。

昨年はテレビでの露出もそこそこ多かったナオト・インティライミはTOP100に3曲。ただこちらもCDシングルは伸びず。オリコン年間TOP100入り曲はなく、いずれの曲も週間10位以内に入っていない。アルバムCDはオリコン年間70位(9.0万枚)につけ、そこそこ売れたようだが。JUJUや西野カナはさすがです。

こうした着うたフルとCDシングルとの乖離について、「WASTE OF POPS 80s-90s」のO.D.A.さんが

こんなに売れているのに全くと言っていいほど世間一般へそのフィードバックがなされていないのは一体何なのか。
ソナーポケットの曲は、CDを最後まで出さないという完全に着うた需要層にのみアピールする戦略でこの順位。Rakeはこの曲CDシングルでも出したけど、最高位25位、累積16,000枚程度。数年前なら着うたフルからCDヒットに移行し、世間の認知度大幅アップに結びついた西野カナとかヒルクライムの例があったのだけど、今年のこれつまり着うた購入層とCD購入層の乖離がほぼ完了したということでしょうか。

2011-12-28 - WASTE OF POPS 80s-90s

と指摘しているけれども、私もほぼ同感。ただ、着うたフルからCDアルバムへの導線は、かつてのCDシングルからCDアルバムへのそれには及ばないが、幾許かはあるとは思う。

チャート対象期間以前の過去曲が多い着うたフル

着うたフル年間チャートを見ていて感じたのは、集計期間以前にリリースされた曲が多数ランクインしていること(集計期間内、期間外で色分けしたチャートはこちらから)。

CDシングル年間チャートでは、期間外にリリースされた曲は5曲(トイレの神様とAKB4曲)だったのに対して、着うたフル年間チャートでは37曲。一番古いのは久保田利伸『Missing』(1986)。以前から着うたフル層に人気で売れ続けているも曲あれば、じわじわと人気を集めていった曲、テレビ等での露出をきっかけに売れ出した曲、カバーされたことで注目された曲など、CDシングルチャートに比べれば、割と敏感に世相を反映しているようにも思う。ただその逆、着うたフルチャートから世間へのフィードバックはかなり弱いように思う。

CDシングルに過去作が少ないのは、割と早い段階で店頭から姿を消し、あったとしても今更買うの?感がつきまとってしまうため、CDシングルチャートには反映されにくいのかもしれない。かといって、気になった曲が収録されたアルバムを購入してくれるかというと、このご時世にそれを期待するのは難しい。この辺りは着うたフルという販路がうまく機能しているように思う。ただし、着うた層限定で機能しているゆえに、今後の雲行きは怪しいところだ。

終わりに

オリコン年間チャートと、レコ協年間チャートを比較してきたが、全体として見ると、前者はファンの数とその熱狂度のチャートとなっている一方で、後者はバラエティに富み、シングルチャートよりむしろソングチャートととなっているように思えた。

また、CDシングルチャートや着うたフルチャートはいずれも「購入」を扱った指標に過ぎず、これが現在のユーザが聞いている曲を代表するチャートかというとやや疑問が残る。以前であれば、購入=消費者が能動的に聞いている曲とできたかもしれないが、ネット時代のリスニングスタイルには、YouTubeでの視聴も含まれる。もちろん、オリコンチャートやレコ協チャートが不完全だから参照に値しないというわけではなく、指標は多様であって良く*4、欲を言えばそれらの指標を総合したチャートがあれば面白いよね、という意味で。

余談

今回は着うたフルチャートを中心に、CDシングルチャートと比較しながら見てみたんだけど、その両者とも先行きはそれほど明るくない。着うたフルはスマートフォンへの移行を受けてか、配信回数、売上共に減少傾向にあり、CDシングルは生産枚数、売上を見るかぎり回復傾向にあるのだが、その内訳を見ると秋元康プロデュース作品やK-POP作品に依存する部分が大きい。次回のエントリではその辺をもう少し詳しく見て見ることにするよ。

*1:理由はお察しください

*2:チャートに参加したとしても、ほとんど着うたフル配信をしていないが

*3:レコチョク年間着うたフルチャートでは第1位

*4:特にこれからの時代はね

2011年のシングルCDセールスの3分の1はAKBとジャニーズとK-POPでできているようです←知ってた

オリコンの2011年年間CD&DVDランキングが発表されまして、なかなか大変なことになっているなぁと苦笑いしながら見ているのですが、その中でも特にシングルCD年間チャートが特にすごいことになってるのでそのお話でも。

百聞は一見に如かず、今年の年間CDシングルランキングTOP101を見てくださいな。背景赤が秋元康プロデュース、青がジャニーズ、緑がK-POP、黒がその他。

データはオリコンチャートの集計をされているThe Natsu Styleさんの『2011年 オリコン年間シングルランキングトップ100 結果速報:The Natsu Style』より。オリコン年間ランキングは1桁まで出しているのだけれども、推定売上が掲載されているのはTOP50までなので、The Natsu Styleさんのデータを使わせてもらった。

TOP20、TOP50、TOP100に占める秋元康プロデュース、ジャニーズ、K-POP、その他の作品の割合を以下に。

秋元康プロデュース、ジャニーズ、K-POP合わせて、TOP100に67曲を送り込んでいる。ジャニーズが強いのはこれまで通りではあるのだが、AKB48を始めとする秋元康プロデュース作品が多数ランクインした。また、今年は良い意味でも悪い意味でも目立つことになったK-POP勢もTOP100内に14曲と奮闘*1

101位の少女時代を加えて、これら3ジャンルのTOP101入りした楽曲の推定売上枚数を合計したところ、1856.9万枚というものすごい数字になった。2011年11月までの年間シングルCD生産枚数は5662.5万枚、12月分を加えると1割弱ほど増えそうだが、日本のシングルCDの1/3くらいはこの3ジャンルが占めていると言ってもよいのではなかろうか*2

昨年からシングルCD市場が上向きつつあり、今年も11月までに前年度を大幅に上回っているのだが、ジャニーズ以外の2ジャンルが大いに貢献しているのだろう。ただ問題は、全体の底上げ感がないことに尽きる。懸念されるのは、この3ジャンルが強すぎてその他の作品の露出の機会が減ることにある。

秋元康プロデュース、ジャニーズ、K-POP以外の楽曲

この3ジャンルを除いたランキングを以下に。

昨年のTOP20では秋元、ジャニ、K-POP以外の楽曲は14位の坂本冬美また君に恋してる/アジアの海賊」 (31.1万枚)、19位の福山雅治「初恋」(27.0万枚)のみだったため、ちょっとだけ上位が増えた感があるのだが、昨年のTOP100では50曲以上がランクインしていたことを考えると今年のTOP100内の33曲はだいぶ少なく感じる。

チャートに並ぶ顔ぶれを見ると若い人が少ない。芦田さんと福くんはものすごく若いんだけど、そういうこっちゃなくて。この5年間(2006年以降)にメジャーデビューした歌手に絞るとものすごく少ない。

マルモリとチームアミューズ!は企画物、三代目 J Soul BrothersEXILE派生なのを考えると、実質、ニコ動きっかけでデビューしたClariSのみ。ちなみに『コネクト』は魔法少女まどか☆マギカのOP曲。

では、この10年間(2001年以降)でメジャーデビューした歌手を見てみよう。

EXILEコブクロマキシマムザホルモンPerfumeRADWIMPS植村花菜YUIUVERworld。2005年が多め。『トイレの神様』を除いて着実にキャリア、ブランドを積み重ねてきた結果という印象。ただ、やっぱり少ないかなぁ。

シングルCDチャートの上位につけて露出を増やすショーケースとしての役割は年々弱まっているように感じているが*3、そこへ来て秋元康プロデュース、ジャニーズ、K-POP勢がチャート上位に押し寄せてきているわけで、ニューカマーにはますます厳しくなってきているように思う。

90年代にはシングルCDチャートで名を馳せたミュージシャンがたくさん出てきたものだが、今やそれも難しい。単に90年代のJ-POPブームはCDがバカ売れしたことよりも、00年代を通してミュージシャンがメジャーで、インディペンデントで活動を続けられる基盤を作れたことに(結果論ではあるが)意義はあったように思う。その点で、ニューカマーを十分に育てたとは言いがたい00年代の影響は、今後10年、真綿で首を絞めるように効いてくるのかもしれない。

余談

だからといって、AKBとかジャニーズとかK-POPが悪いんだーってわけじゃなくてね。シングルCDチャートというものがそうなってしまったというだけで。シングルCDチャートがこんな有様になっているというのは、私が指摘するまでもないことだろうし、シングルCDではなく着うたフルを主戦場にするミュージシャンもいる(参考:日本レコード協会:「着うたフル」有料音楽配信年間チャート)。昨年のエントリにも書いたようにすでに数量ベースでは『着うたフル>シングルCD』であり、ライトリスナーへの露出のために着うたを重視する戦略も当然ある。

ただ、未だにシングルCDチャートが偏重されたり、配信を含めた総合チャートが不在な状況が続いているし、近年のスマートフォンへの移行という変化を迎えて、こちらも過渡期にあるといえる。プリインストールアプリとして消せなくて困ることでお馴染みのレコチョクアプリを活かせると良いのですが。

*1:101位の少女時代『Gee』は含まず。K-POP関連の話題を扱うこともあり、The Natsu Styleさんが丁度良く101位の少女時代の数字をちょい足ししてくれていたので掲載した次第。決してゴリ推しではございませんので、我が家の前でデモを起こすのは勘弁して下さい。

*2:オリコンのデータは推定売上枚数なのに対して、RIAJのデータは生産枚数なので、完全に対応しているわけではない。前者は前年分の在庫を含み、後者は小売店からレコード会社への返品を含む

*3:上位にランクインしてもすぐに落ちてしまうしね…