HD DVD終焉へのカウントダウンとBlu-ray終焉までカウントダウン

 先週我々は、全米の家庭の半分がHDTVを持っている、との統計結果を発表したのだが、次世代DVDはこの市場が持つポテンシャルほど売れていない。今回の発表*1により、消費者は次世代DVD製品を購入するようになるだろう。

 率直に言って、来年、2009年のCESでは、次世代DVD戦争は注目に値しない「過去のもの」となっているのではないだろうか。

「次世代DVD戦争は今年で終了」

CEA会長兼CEOのGary Shapiroは、CESの日本向けプレスインタビューでこう語っていた。おそらく彼の想像していたとおり、来年などというちょっと遠い未来ではなく、もうすぐ次世代DVD戦争は「過去のもの」になりそうだ。

 東芝は向こう数週間のうちに、HD DVDフォーマットから撤退するとみられている。1月初めにWarner Home Video5月以降はソニーのBlu-ray Disc規格のみをサポートすると発表して世を驚かせたのに続き、小売業者の離脱が相次いだのを受けてのことだ。

東芝、間もなくHD DVDから撤退か - ITmedia News

加速するHD DVD終焉への軌跡

1月はじめ、Warnerの離脱が発表されたことで、次世代DVD戦争は、「東芝が終わったと言えば、終わるんだ」という状況にあった。Warnerが手を引いた理由も、「通常のDVDセールスすら落ち込ませてしまった」消費者の様子見状況を乗り越えなければならない、というものであった。東芝に恨みがなくとも、Sonyに義理がなくとも、誰しもが「東芝はいつ幕を下ろすんだ?」と考えていただろう。
しかし、こうした状況にあっても、東芝は(誰の目から見ても)最後の悪あがきを続ける。まず、北米市場HD DVDプレイヤーの大幅値下げを行い、続いて欧州市場での値下げも行った。しかし、この期に及んでの値下げは次世代DVD戦争終戦後の混乱と絶望を招くだけ、在庫処分にしてもタチが悪い、という批判が集まった。結局、ユーザが望んでいたことは、「規格の一本化」であって、どちらかに勝ってほしいというものではなかったのだから*2。「値下げは無意味な抵抗に過ぎない」とまで調査会社に言われる始末。
ユーザ側の反応としても、HD DVDの終焉はネタとして扱われ、『HD DVD 最期の12日間』なるパロディビデオを作られてしまった。
また、HD DVDプレイヤーの値下げが行われたにもかかわらず、その後のNPDの調査報告によって、多くの人に「HD DVDが予想していたよりもはるかに売れていない」という印象を持たせてしまったということもあるだろう*3
2月に入り、HD DVDを葬るための儀式が続く。まず、米Amazonが抱えているHD DVDソフトの放出(半額セール)を開始した。そしてここ数日でも、オンラインビデオレンタル大手のNetflixが同社のレンタルサービスにおいて、HD DVDの取り扱いをやめ、今後はBlu-rayのみを購入していくことを明らかにしている。また、Best BuyもBlu-ray規格のソフト・ハードに注力していく、というBlu-ray支持の方針を明らかにしている。
このような動きに対してHD DVD陣営は

「われわれは品質と価格からHD DVDこそ消費者にとって最善のフォーマットであるという信念を持ちつづけており、またすでに100万台以上のHD DVDプレーヤーが市場に存在することから、今後BDのみを扱うというNetflixの決定を残念に思います。Best BuyはBlu-rayを推奨すると発表しているものの、今後もHD DVDの扱いを続け消費者に店頭での選択権を残しています」。

HD DVDグループ、米大手小売・レンタルのBD支持にコメント - Engadget日本語版 (エンガジェット)

という主張を繰り返し、HD DVDは安泰だ、というアピールを続けた。
そしてついに、世界最大手の小売ストアWal-MartがBlu-ray支持を打ち出すこととなった。市場からHD DVDが消えていく、という状況にあっては、強がりを言い続けることも不可能だろう。明確な決断を下さなければならない。まぁ、この期に及んでただただHD DVDは優れたフォーマットです、人気あります、では通らないわけで、敗北宣言と、HD DVDユーザへのサポートをどうするかという発表がなされることだろう(BD/HD DVDコンボドライブでの対応とか)。

これで丸く収まる?

とは思っていない。というか、期待を持って、というところで。

Blu-rayが競争に勝利したと言われているが、それは問題ではない。本当の争いは物的流通と電子的配信との間で行われており、Blu-rayHD DVDもこの争いでは敗者だ。この争いでは、フラッシュメモリとハードディスクが同じ陣営にいる。決着はすでについており、物的流通の陣営は敗北した」

「勝者はBlu-rayでもHD DVDでもなく、ハードディスク」--シーゲイトCEOが発言:ニュース - CNET Japan

SeagateのCEOが語っているように、次世代DVD戦争は、いってみればHDコンテンツデリバリー戦争の物理媒体部門に過ぎない。そう考えると、たとえBlu-rayHD DVDに勝利を収めたところで、VHS vs betamaxと同じ展開になるということはないかもしれない。こうした指摘は方々で見受けられる。

「米国では、ネットワーク上に映像を保存し、DVDなどに頼る必要はないといった動きもある。それを踏まえると、次世代DVDレコーダーが海外に広がっていくのかどうかが見えない。国産メーカーがローカルに保存するメリットをどのように説明するのかにかかっている。これからは『ネット対ディスク』という競争になっていくのでは」

J-CASTニュース : 次世代DVDでBD圧勝確実 これは束の間の「勝利」なのか

次世代DVDは「過渡的な技術」であり、そのうちUSBフラッシュメモリに、そして最終的にはインターネットに取って代わられるだろう。CDの寿命は25年だが、DVDは10年、そして次世代DVDは、たかだかあと5年ぐらいの寿命だろう。こういう先の見えた市場に、コンテンツが出てくるかどうかもわからない。

それでも、ソニーはブルーレイを出し続けるだろう。かつてベータマックスのテープが世の中から消えても、再生機を製造し続けたように。不幸なことに、彼らは映画部門をもっているので、ディスクからも撤退できない。他方、松下はグーグルと組んでネットTVを開発する。戦いは、もう「次世代の次」に移っているのだ。

東芝のチャンス - 池田信夫 blog

もちろん、これは気が早い話ではあるだろう。先日、Appleはインターネットを介してレンタルサービスを開始しているし、その他にもビデオコンテンツ配信企業がこぞってテレビに向けて、インターネット経由で配信を開始しているが、いまだBlu-rayのシェアとは比べようがない。
ただ、VHSが勝利を収めたとき、DVDがメインストリームになったときとは異なり、Blu-ray勝利の瞬間には、既に次のオルタナティブが実用化されている状況にある。もうBlu-rayの寿命はカウントダウンが始まっているのかもしれない。

出現する未来 (講談社BIZ)

出現する未来 (講談社BIZ)

*1:引用注:WarnerがHD DVDを捨て、Blu-rayに一本化するという発表

*2:どちらかを購入してしまった人はそうではないだろうけど・・・。ただ、多くの人が様子見だったってことで。

*3:この調査は、値下げ後の期間を含んでいないので注意が必要なんだけど、それでも大半の人は、「終わりだ」という感を強くしただろう