国内ISP団体、違法ファイル共有ユーザのネット追放に合意

 インターネット上でファイル交換ソフトウィニー」などを通じた映像や音楽の違法コピーによる著作権侵害が深刻化していることを受け、国内のプロバイダー(接続業者)が加盟する四つの業界団体は、違法コピーのやり取りを繰り返す利用者についてネットへの接続を強制的に停止することで合意した。

違法コピー常習者はネット切断、プロバイダー業界が合意 : YOMIURI ONLINE

ついに日本でもISPによる違法ファイル共有ユーザのネット締め出しがスタートする模様。簡単に説明すれば、ISP著作権者または著作権団体の要請に基づいて、加入者の接続停止や契約解除を行う、ということ。更に簡単に言えば、日本版「スリーストライクアウト」を導入しようしている、というところだろうか。まぁ、「スリー」ストライク以前にアウトになってしまうかもしれないかもしれないが。
果たして、このような措置に問題はないのか。この記事でも

あるプロバイダーが一昨年、ウィニーの使用を検知すれば通信を切断する措置を導入しようとしたところ、総務省から「ネット上のやり取りをのぞき見していることになり、『通信の秘密』に抵触しかねない」と指摘されて断念した経緯もある。

といわれているが、これは2006年、ぷららWinny等ファイル共有ネットワークによるトラフィックに対処しようと(一応の口実としては、情報漏えいウィルスへの対処を目的としていたようだが)、その接続を遮断しようとした一件。
総務省はこれを「通信の秘密」の侵害であるとし、このような措置を行き過ぎと捉えた(解説記事はこちら)。

 具体的には、ぷららISP網上の通信機器で、パケットのパターンがWinnyと思われる場合に通信を遮断する予定だった。この点が通信の秘密を侵害する恐れがあるとして総務省が検討をしていた。
 総務省は「ぷららの措置は、電気通信事業法で定めた通信の秘密を侵すと考えられる」(総合通信基盤局消費者行政課)と判断した。

Winny通信の遮断は「通信の秘密」を侵害−−総務省判断をぷららが受け入れ:ITpro

まぁ、ISP自身がユーザの通信内容によってその接続の可否を判断するのはよろしくない、というところでもあるのだろう。しかし、今回の措置はそうした点をクリアできるという。

 今回の対策は、著作権団体が、違法コピーのやり取りを繰り返している利用者について、ネット上の「住所」にあたるIPアドレスを専用ソフトで特定したうえでプロバイダーに通知。プロバイダーは、このIPアドレスをもとに利用者に警告メールを送信し、従わない場合などには、一定期間の接続停止や利用契約の解除に踏み切る。
 この仕組みであれば、総務省も「プロバイダーが利用者の通信内容を直接調べることにあたらないため問題はない」としている。警察庁もこの協議会に加わる方針で、悪質な利用者の取り締まりを強化する。

違法コピー常習者はネット切断、プロバイダー業界が合意 : YOMIURI ONLINE

通信内容の判断を外部(著作権者、著作権団体など)に任せることで、ISP自身はその内容を調査、判断するわけではない、というところだ。
このシステムでは、著作権団体/著作権者がファイル共有ネットワーク上を調査、その中で違法ファイル共有を繰り返している利用者のIPアドレスを専用ソフトを利用し特定。それを当該ISPに通告し、ISPはそれを元にユーザに警告、ユーザがその警告に従わない場合には、一定期間の接続停止や契約の解除などに踏み切るという。
この手続き等に関して、「テレコムサービス協会」や「電気通信事業者協会」など4団体はJASRACACCSと協議会を設置し、どの程度違法ファイル共有に参加した場合に、接続を遮断するかなどの具体的な指針を策定し、年内の実施を目指している。
ここで問題になるであろうことは、著作権団体が行っている調査の精度であろう。IPアドレスを取得するということに関してはそれほど問題はないのだろうが、そのIPアドレスのユーザが実際に違法ファイル共有を行っていたのか(どの程度関与していたのか)、ということが重要となるだろう。
これまでWinnyなどのP2Pファイル共有ユーザに対する法的施行を困難にしていたのは、1つにはそのユーザが意図してアップロードしているのか、という点が不透明であった、ということにある。つまり、ファイルを意図して転送しようとしているのか、意図せずダウンロードしたいだけなのにアップロードしてしまっているのか、そのどちらでもなくソフトウェアの仕組み上転送しているだけなのか、アップロードしているユーザでも複数の可能性が考えられる。
現時点では、Winnyネットワークに違法にコンテンツを放流している一次放流者を特定することも可能となっており、そういったユーザを対象とした対処を加速させるための措置という可能性もある。ただ、こうした手法では一次放流ユーザ以外には対応しにくいということもあり、それ以外の2者に対処するための手段として、ISPによるユーザの遮断という措置を推し進めようとしているとも考えられる。つまり、裁判で争う必要がない、という点でハードルを下げることができるということ。この点は協議会において「悪質な利用者」をどこに設定するかに依存するのかもしれない。
また、身に覚えのない警告を受けるユーザも出てくるかもしれない。これは、1つには調査手法の問題から生じることもあるだろうし*1、もう1つのは契約者以外のユーザ*2が違法ファイル共有を行っているケースも考えられる。後者に関しては、契約者がその回線を利用して行われたことに一定の責任を負うというところもあるし、そこで違法ファイル共有が行われている、というのであれば、何らかの対処を取らなければならない、というのは理解できなくもない。まぁ、いきなり訴訟だってんなら、この辺は反発しちゃうかもしれないけれど、一度警告があるのであれば完全に否定的には見れないかも。
また、もう1つ疑問に思うところがあるのだけれども、このような要請は特定の著作権団体のみに限られるのかどうか、ということ。もちろん、ユーザとしては誰彼にこうした手法によってISPに警告要請をさせるというのは怖くもあるのだけれども、その一方で権利者たちにしてみれば、特定の権利者のみをISPが特別に扱うというのも問題だと考えるだろう。そういったことを考えると、この協議会にて得られた合意を公開する必要があるのかなと思う。また、特定の手順を踏んだ場合には、こうした請求をJASRACACCS以外の権利者に対しても認める、というものでなければ、一部権利者のみを差別的に扱うということにもなりかねない。
こうした、ISPに対する違法ファイル共有ユーザのコントロールを委ねる方針は、何も日本だけのものではなく、世界的なものとなりつつある。英国やフランス、豪州でもスリーストライクアウトと称する「3回警告即追放」をISPに対して義務付けようとする動きもあるし、その方法としてISPが自社ネットワーク内の違法に流通するコンテンツをフィルタリングし、ブロックする中でそういった警告を送付せよ、という過激な主張もある。IFPIなどはEUにてそういった方針を推し進めようとロビイングを積極的に行っていたのだが、現状ではそういった方針はEU議会では受け入れられてはいないようだ。

*1:もちろん、高い精度での調査(当該ファイルの確実な確認とIPの取得)が可能なのであれば、こうした誤った警告はないのだろうが

*2:家族が行っている場合や無線LANを不正使用されていた場合ばど