P2Pファイル共有による著作権侵害で米国初の刑事摘発を受けたEliteTorrentsを振り返る

EliteTorrentsに関して、このような記事があった。

P2Pネットワークによる未公開映画の海賊版の配信などで著作権侵害が問われた事件で、米国のバージニア州ビッグストーンギャップ連邦地裁の陪審は6月27日、P2Pネットワーク「Elite Torrents」の管理者だったDove被告に有罪の評決を下した。最高で懲役10年の可能性のある刑罰は9月9日に言い渡される予定。P2Pネットワークによる著作権侵害訴訟での有罪陪審評決は、米国では初めてという。

米国でP2Pネットワーク管理者、著作権侵害で初の有罪評決 2008/06/30(月) 16:40:03

あれ?既に何人か有罪判決受けてなかったっけ?と思いつつ、よくよく読んでみると、有罪「陪審評決」が初めて、ということなのね。
米国初のP2Pファイル共有における著作権侵害事件での有罪判決は、2006年10月17日、同様にEliteTorrents管理人Grant Stanleyに下されている。彼は懲役5か月、禁固5か月、3年間の保護観察と30万ドルの罰金が科されている。詳しくはこちら
よい機会なので、ここでこの事件について簡単にではあるが、振り返ってみたいと思う。

EliteTorrentsとは?

簡単に言ってしまえば、プライベートBitTorrentサイトの1つだった。上記の記事ではちょっとわかりにくいけれど、通常プライベートBitTorrentサイトというのは、会員のみが利用することができるようになっている。そして、その内部ではアップローダを重視して、ダウンロードばかりしてアップロードに貢献しないユーザは利用制限をかけるよ、BANするよ、といったポリシーを持つ。EliteTorrentsもそうしたBitTorrentサイトの1つであった。
ただ、他の異なる*1のは、管理人自らがアップロード行為に直接的、間接的*2に関与していたということ。現在では、パブリックBitTorrentサイトであれ、プライベートBitTorrentサイトであれ、ある程度大手のBitTorrentサイトでは管理人自らがアップロード行為に加担するということはほとんどない。ましてや自らが最初のSeeder*3となるということはまずない。
ただ、これまでであれば、たとえ管理人がアップロードしていたとしても、おそらくは民事上の問題として扱われ、刑事告訴ということにはならなかったのだろうが、ちょうど彼らが逮捕された年に成立したある法律が、彼らの運命を変えることになる。

Family Entertainment and Copyright Act

2005年4月19日、米国議会にて可決されたこの法律は、違法P2Pファイル共有に対して厳格なものであった*4

著作権で保護された映画、ソフトウェアプログラム、音楽ファイルがまだ一般に発売/公開されていないことを知りながら、それらのコピーを1部でも共有フォルダ内に置いた者は国家的重罪犯となる可能性があり、さらに最高25万ドルの高額な罰金を課されることもあり得る。また、実際にダウンロードが行なわれたか否かに関係なく罰則が適用される。

「封切前の映画をファイル交換すると懲役3年」--米議会で法案可決:ニュース - CNET Japan

さらに、最長で3年の懲役刑が科される。
現在でも、P2Pファイル共有にかかわる著作権侵害のケースでは、営利を目的としていない場合には、民事での紛争になるのだが*5、この法律では、その目的や実際のダウンロードの有無を問わずして、リリース前の映画、ソフトウェア、音楽ファイルをネット上に公開した場合には、刑事罰の対象となる。そして、そのころ、EliteTorrentsの管理人たちは、未公開の「スターウォーズ エピソード3/シスの復讐」をリリースし、膨大な数のユーザを集めていた*6

Operation D-Elite

そうした状況はまさにFamily Entertainment and Copyright Actの対象であった。FBIは、ICE(入国・税関取締局)とともにEliteTorrentsを一網打尽にする作戦*7を立て、EliteTorrentsに侵入し捜査を行った*8。そして2005年5月25日、サイト管理人および主要アップローダ10名に対する強制捜査が行われ、逮捕に至ることとなった*9
そして2006年10月17日、サイト管理人のGrant T. Stanleyが有罪判決を受けたのを皮切りに、主要アップローダも含め、今回のDaniel Doveの有罪評決までで8名が有罪となっている。

この件は…

比較的、現在から見ると特異な例かもしれない。ある意味では、EliteTorrentsはかつてのWarezサイトを引きずっているようなものであった。組織的な著作権侵害チームであり、かつFamily Entertainment and Copyright Actが成立し、そして、封切前の映画をリリースして目立っていた*10ということが重なったがために作り出された状況であったともいえる。
では、現在どうなっているかというと、米国にてTorrentサイトを運営する管理人はほとんどいなくなったものの、海外のサーバにてBitTorrentサイトは運営されるようになった。また、The Pirate Bayの強制捜査を見てもわかるように、Torrentサイトとしての機能的な面のみを提供する、というスタンスを強めているようにも思える*11

*1:彼らにしてみれば運が悪かった

*2:幇助とみなされる程度に

*3:リリーサー

*4:同様のこの法律は映画盗撮行為をも禁じるものであった。

*5:Kazaaユーザの裁判や、TorrentSpyの裁判などもすべて民事訴訟

*6:トラフィックの増大に四苦八苦しつつ、それに対処するための寄付を求めていたりなんかしていたそうな

*7:作戦名、Operation D-Eliteは、EliteTorrentsをデリートするというところからつけられたんだそうな。

*8:その際、同様に調査を行っていたMPAAからも情報提供を得たのだとか。

*9:また、このオペレーションのち、いわゆるWarezサイトに対する一斉摘発も行われた。

*10:MPAAからSW3の流出についてアナウンスされていたところでもあった

*11:彼らは、自らが著作権侵害にかかわるコンテンツを扱わない、というポリシーを持っているようで、実際押収されたものの中にもそういった類のものがなかったのだろうと推測される。