アニメのファンサブのお話 その2

前回のエントリを要約すると、ファンサブはアテンションを集め、維持することに寄与するものの、そのコミュニティが拡大、変容することで、ペイにつなげにくくなっているのではないか、って感じです。

はてブコメントへのご返信

kaminari-boo kaminari-boo 「コンテンツへのアクセシビリティの改善」これはアニメーション・ファンサブに限らず、どんな商品についてもいえることだと思う。入手までの(時間を含めた)コストで勝負、でいいかしら?

私もそう思います。少なくともWeb上で考えても、世界中には膨大な数のコンテンツが存在しているわけですが、ことアクセシビリティでいえば、その大半はユーザの能動性に依存している部分があります。ユーザの能動的なコンテンツへのアクセスを期待するというのは、ユーザにある種のコストを支払ってでもそのコンテンツへのアクセスをさせること、とも換言できると思っています。
もちろん、コアな人々だけを相手に商売できるのであれば、多少ハードルが高くても良いのでしょうが、その外縁にいるより多くの人々にも可能な限りペイしてもらうことで成り立っているビジネスのほうが多いわけですから、「アクセシビリティの改善」というのはWebでビジネスをする上では非常に重要だと思うんですよね。単に、SEOとかそういう話ではなくて。まぁ、「素人考え」ですけどね。

E_You141 E_You141 いろいろと考えさせられる。/ そもそもファンサブは一定のモラルの上に成り立っていたはずだが、YouTubeBitTorrentなどの発達で増大したライトユーザ層がかつてのファンサブのあり方を変えてしまったのだと思う。

モラルの上に成り立っていたという部分では、一部日本の同人活動に類似している点があるのかもしれません。ミクロな視点で見れば、企業としての商業活動とバッティングしているものではなく、それがさらに商業活動をサポートするものである、という状況であれば、多少の違法行為であっても黙認というスタンスは取れたのだと思います。ファンサブの場合、そもそもそのコンテンツは正規の商業流通していないわけですから、正規版が流通した時点での配信をやめてもらえれば、ある程度は市場の活性、プロモーションとしての意義を見いだせたのだと思います*1
ただ、最近では、P2Pファイル共有が盛んであるために、ライセンス後のファンサブの配信を止める術がなくなっているという状況もあると思っています。それ以前は、チームが提供をストップすればそれで提供はストップしたわけですしね。それが止まらない上に、その品質も向上している、というのは、権利者としても向こうのライセンサーとしても困った事態なのだろうなぁとは推測されます。もちろん、質の変容したコミュニティに以前と同様、またはそれ以上の品質で提供が続けられているというのも、事態を難しくしているのでしょう。

tukinoha tukinoha 「日本のオタク」を基準に考えると確かにその通りだけど、海外では低画質のアニメを見て、もっと良い画質で見たいからDVD買おう、という人は超少数派なのかもしれない。日本人が考えているよりもずっと。

個人的には、単純に画質のみが全てを決定するとは思ってません。重要な点ではあると思っていますが・・。画質以外にも、保存性やアーカイブとしての価値、テレビ画面への出力*2等、DVDを購入するメリットは複数存在していると思っています。
なぜ、DVDを購入するのか、というのは非常に難しい問題です。少なくとも1度も見たことのないものを、評判だけ聞いてDVDボックスを買うという人はあまり聞いたことはありませんし、ボックスといわないまでもシリーズものの第1巻を購入したという人もほとんどいないでしょう。大半の人は、1度見たけれど、また見たい、という感情をもったからこそ、DVDを購入するのかなと思っています。
また、その際にもっと良い画質で、そしてテレビ画面で見たい、などのメリットを感じ、さらにそれが、金銭を支払うコストを上回ると感じられる場合に、購入するという決断がなされるのではないでしょうか*3。もちろん、その購入の最後のひと押しのために、それに適した販売戦略を考えねばならないのでしょうが。

asakura-t asakura-t 品質(画質・音質)なんて実際には求められてないよ。言い訳には使うけど。高品質の物をリリースしてもデッドコピーされるだけなんだから、コンテンツにお金を払いたくない人ばっかりだっていう事実を認めないといけ

おそらく最後に「ない」が続くのでしょうが、個人的には「認めたくない」から認めない、という話でもないんですよね。もちろん、「言い訳だなぁ」と思うこともありますが、問題はそれをはるかに超えていると思っています。あくまでも言い訳をする層というのはごく一部であり、彼ら自身の行為を正当化する際に用いられる方便でしかなく、実際の行動はもっと淡々としていると思っています。
お金を支払いたくないから代わりに海賊行為でコンテンツを得ている、という感覚は、おそらくないだろうと。むしろ、そこにアクセスできるからそれを入手している、それだけなんじゃないでしょうか。もちろん、最初はそうだったのかもしれませんが、習慣化するにつれて、お金を払って入手する、というオプションはほとんど意識化されないのではないかと考えています。お金を支払うかどうか、という選択肢の1つの違法ファイル共有ネットワークで手に入れちゃえ、という場合には、お金を支払いたくないんだなぁとは思いますが、お金を支払うかどうかという選択肢を経由せずして、ダイレクトに海賊行為に浸かっているからこそ、問題は複雑だなぁと思うわけです。逆に、お金を支払うかどうかというオプションが存在する場合には、「そのあとに」その選択肢が来ちゃってるんだろうなぁと。
だから、コンテンツの値段が高いから海賊行為に走るんだ、もっと安くせよ、という主張は、海賊行為の文脈に限って言えば、改善策になりこそすれ、解決策にはならないと思っています*4。もちろん、海賊行為に勝るための一因になるとは思っていますが、一因でしかないとも思っています。その辺は、先日のカナダでの違法音楽ファイル共有調査にて示された「CDの購入数と違法ファイル共有ネットワークからの楽曲ダウンロード数」に相関が示されたことを考えても、さまざまな要因が関わっているのかなと思えるところでもあります*5

*1:もちろん、停止したからといって提供されたファイルが消えてなくなるというわけでもないと思いますが

*2:現状では、PC-TVでリンクさせている人は少ないのではないでしょうか

*3:非常に感覚的なものなのだとは思いますが。

*4:海賊行為以外のケースでは、セールスの絶対数を引き上げることにはなると思います。もちろん、それが収益を増加させるかどうか、というのは確かではありませんが

*5:コア層からライト層までの分布が均一ではなく、多数のライト層、少数のコア層という分布であると考えると、たとえライト層がダウンロード数が少ないといっても、それが購入数に影響を及ぼしているのであれば、非常に大きな問題であるといえる。少なくとも絶対数が多いのだから。なので、たくさんダウンロードしててもCDも買っているっていうならOKでしょ、とは簡単には言えない話だったりする。