音楽統計からみるCD、携帯配信、PC配信の推移

先日、「着うたは高いんだけど、それでも売れているのがすごいよね」という褒めているんだか、けなしているんだかわからないエントリを書いた。ありがたいことに、興味深い指摘、コメントをたくさんいただき、その後も若い子に話を聞いてみたり、Docomoショップのお姉さんに着うたってどーなの?と話を振ってみたり、いろいろと調べてみたりしているのだけれど、着うた周りのお話は本当に面白いことが多いなぁと実感しているところでもある。
ただ、そうしたお話を一気に書くと、いつものように冗長になってしまうので、ちょこちょこと気になったところを小出しにしてみるよ、というお話。今回は、RIAJの公表している統計から、ケータイと密接にかかわっている現在の音楽産業を見てみる。

CD、携帯配信、PC配信と販売数量/金額

シングル売上数量

シングルCDの販売枚数は、最盛期に比べて1/3弱にまで落ち込んでおり、その度合いこそ微減というところまで来たが*1、以前減少傾向にある。その一方で携帯向けシングルの販売回数は激増しており、この増加傾向は今年も続くと考えられる。一方、PC向け音楽配信におけるシングル曲の販売回数も近年、増加を著しい。ただ、携帯向け音楽配信に比べると、回数自体は1/10弱となっている。
その辺を、RIAJの統計ページよりグラフを作成して視覚的にわかりやすくしてみよう。

なお、ここでの携帯シングルとは、RIAJの有料配信売上実績におけるシングルトラックとした。これは主に着うたフルであり、着うたおよび着メロは含まれていない*2。PCシングルに関しては、サブスクリプションサービスは含めていない。また、RIAJの公表している2005年有料音楽配信実績では、PCシングルおよび携帯シングル等詳細な内訳は公表されておらず、2006年有料音楽配信実績の前年比より算出した。以降、2005年の音楽配信の数量および金額は同様に算出する。
ご覧頂いてわかるように、ここ数年のCDシングルの売上数量はほとんど横ばい状態*3な一方で、携帯シングル(着うたフル)の配信がここ3年で激増している。また、PCシングルも増加著しい。ただ、同じ有料音楽配信でありながらも、PC:携帯の割合が1:9であるところは変わりない。

さて、年ごとのシングル数量の合計を見てみると、その増加の著しいことはお分かりになると思う。数量だけを見れば、シングルは全盛期の1998年前後を超えており、それを支えているのは携帯シングルである。もちろん、CDの購入と、音楽配信での購入とでは、形態も取り巻く環境も異なるのだが*4、購入という形で音楽にコミットをしているという点では変わりない。
少なくともシングルCDを購入するということに価値を見出す人が増えない一方で、携帯シングルを購入することに価値を見出す人の増加が著しいと言えるだろう。

シングル売上金額


では、シングル売上金額はどうか、というと、1枚or回あたりの価格の違いから、全盛期の売上金額には到達していない。ただ、大きく落ち込んだ時期に比べると、大幅に改善していると言える。
ここに着うた、待ちうたを加えるのがよいかどうかわからないが、これらを加えると売上金額も全盛期を超えているというのはなかなか面白い。

アルバム売上数量


さて、次にアルバムの数量を見てみよう。こちらの方は、携帯アルバムというのが存在しない(あるのかもしれないが、統計には表れていない)ので、CDアルバム、PCアルバムのみのデータとなる。
こちらは右肩下がりの状況は続いており、このグラフにはないが、2008年の前半期も昨年に比べ減少している(全盛期の2/3程度にまで減少)。主にこの減少の原因となっているのが、CDアルバムの売上数量の減少であり、PCアルバムはアルバム数量全体のごくごく一部にすぎない。

アルバム売上金額


やはりアルバムセールスの低迷が、全体的な低迷を生んでいるといえる。とはいえ、この図からわかることは、音楽セールス金額に占めるCDアルバムの割合は非常に高く、人々は依然としてアルバムに最もお金をかけている、ということでもある。こうした価格の高いアルバムの売上がレコード会社の命綱となっている状況は変わりないだろう。ただ、その命綱がじわじわとほつれてきている、というのが現状であろう*5。たとえ、シングルセールスが上向きになってきても、アルバムセールスの落ち込みは依然として深刻な問題である。

アルバムのオルタナティブは存在しうるのか?

携帯、PCの音楽配信が活性化したとしても、肝心のアルバムセールスには結び付きにくいのではないか、という懸念がある。ここ3年ほど有料音楽配信分野が活況だが、そのことが依然としてアルバムセールスにポジティブな影響を与えているとも思い難い。
PC音楽配信の問題を1つあげれば*6、もはやアルバム全体をダウンロードしなくてもよくなった、ということがある。いわゆるチェリーピッカーの問題。たとえアルバムの曲を欲しいなぁと思っても、これまでは他の曲も含めたCDアルバムを購入しなければならなかったが、PC音楽配信では視聴して気に入った曲だけをダウンロードすることができる*7。確かにアルバム単位でのダウンロードも可能ではあるが、シングルが多く含まれているアルバムの場合には単曲でのダウンロードを行うことになるかもしれない。そうなれば、選択するよね。必要な曲かそうでない曲か。
ケータイの場合にはもっと顕著で、もともとがアルバム配信になじみにくく、そういったサービスが普及していないようにも思える。また、主に利用する音楽プレイヤーの変化や音楽プレイヤーの使用頻度の変化などもあるだろう。少なくとも、以前のようにCDがメインでMDがサブというような構図ではなくなってきているように思えるし、新たに登場したケータイや携帯オーディオが単純にMDの代価となっているわけでもない。新たに登場したプレイヤーだけで良いという人や、それが主たる音楽プレイヤーとなっている人も少なくないだろう。少なくとも、CDがなければ、という人は相対的には減少しているのではないか、とも思える。
また、着うた、着うたフルの主な利用層でもある若年層では「必要な曲だけ手に入れることができる」という点が、有料音楽配信を利用する理由としてもっとも顕著に表れている。また、「繰り返し同じ曲を聴くよりも、流行の曲を追いかけたい」という意識も強い*8*9。こうした意識を持っていることを考えると、これまでのようなアルバムという概念をケータイ市場に持ち込むというのは難しいかもしれない。パッケージするとしても、ターゲット化されたコンピレーションなどが好まれるのかもしれない。(こうした意識に関してはid:ageha0さんの「日本における着うたとiTSの市場規模」というエントリで興味深い考察がなされている。)
CDは…もはや変わりようがないのかも。現在では、グッズを添付して販促としているけれど、それ以上の手は難しいだろう。CDという媒体を好む層の嗜好品的な扱いになるのだろうか*10。個人的にはレコードもCDも、歌詞がついていたり、アートワークが楽しめたり、保存性が高かったりするので、かなり好きなフォーマットではあるけれどもね*11

余談

あともう1点加えるとすれば、音楽DVDってどうなのか、ってことなんだけど、統計が公表されている以前の音楽ビデオセールス(DVD、LD、ビデオテープ)がどうだったのか、ってのがちょっとわからないので、その推移は何とも言い難いんだよね。
販売数量だけみると、

というように、右肩上がりに伸びているんだけど*12、一方で売り上げを見ると、

2003年以降はかなりフラットになっている。おそらくは2003年ごろから音楽DVDが一般的になってきた、ことがあるのかなと。ただ、それに伴う低価格化によって販売数量は増えているけど、売上は変わらず、という感じなのかな。よくわからないです。
あまり意味はないかもしれないけれど、見たいと思う人もいると思うので、以下にアルバム、シングル、モバイル、音楽ビデオを全て突っ込んだグラフを載せておきます。

何とも評価し難い…。
今回は数字を見やすくしてみただけなので、数字では見えてこないこともたくさんあると思う。なので、コメントなど頂ければ幸いです。

*1:人によっては底を打ったという人もいるだろうが

*2:RIAJの有料音楽配信実績では、シングルトラックをどのように規定しているのかは定かではないが、RIAJの刊行物ではしばしばシングルトラックを着うたフル、Ringtunesを着うたとしている

*3:やや減少が続いているが、以前のような激減ではなく、むしろ横ばいと考えた方がよさそう。

*4:CDで購入するより、ケータイで購入する方が楽だし、安価だし、多様な用途に用いることができる、と考える人もいるだろう

*5:もちろん、それがちぎれるかどうかまではわからないが。

*6:もちろん、これを問題とするか革新とするかは人それぞれなので、ここの文脈では問題としておく。私にとっては問題であり、革新でもある。

*7:そもそもアルバムという概念自体が受け入れられなくなるかもしれない。組曲やコンセプトアルバム以外で、なぜアルバムである必要があるのか、という問いも面白いが。

*8:ただし、他年齢層との比較として。割合としては30%弱。

*9:上記2つの調査結果は、RIAJの音楽メディアユーザ実態調査(順に2007年度版、2006年度版)の概要にて掲載されている。

*10:もちろん、ここ2,3年で市場から消えてなくなるということはないだろうし、しばらくはメインストリームでありうるのだろうが。

*11:音楽配信ではアートワークが楽しめない、といわれることもあるが、音楽配信音楽配信でそのフォーマットに最適化されたアートワークが作成されることだろう。レコードからCDのときもそうだったしね。

*12:2002年の統計は公表されていないが、2003年分に掲載されている前年比から算出した。