CD購入のきっかけは「テレビ」が優勢、ただし「ネット」の影響も無視できなくなってるかも

先日、日本レコード協会RIAJ)が毎年リリースしている「音楽メディアユーザ実態調査」の2008年度版が公開されたのだけれど、これがなかなか興味深い。

既に方々でこの調査をネタに様々な報道や議論がなされているのだけれど、個人的に一番気になったのは、「CD購入のきっかけ」項目。これについては、InternetWatchやITmediaでも報じられている。

ITmediaのタイトルの方はちょっと煽ってる感もあり。間違ってはいないのだけれど、RIAJが公開している調査結果を見てみると、YouTubeよりもテレビがきっかけとなっているという割合がかなり高い。「YouTubeがCD購入のきっかけに」というよりは「YouTubeもCD購入にきっかけに」とした方が良いのかなと。

他にもCD購入のきっかけに関しては、こんな記事も。

この2つの記事を読むと、依然としてテレビがCD購入に強い影響力を持っているけれど、ネットの影響力も強くなっているように感じられる。後者の記事のブクマコメントに、もうテレビってイマイチだよね的なコメントがあったのだけれど、個人的にはテレビの影響力はそれほど変わってはいないんじゃないのかなぁという漠然とした印象がある。

実際、RIAJがこれまでリリースした「音楽メディアユーザ実態調査」をさかのぼって見てみても、テレビがそれほど大きく影響力を落としているようにも思えない。

CD購入のきっかけをテレビだと回答した人の割合(2003-2008年)

社団法人 日本レコード協会|2008年度「音楽メディアユーザー実態調査」より

これが今年度の調査結果。ほとんどの年代で、音楽番組、楽曲のCM、ドラマ、一般CMがCD購入のきっかけになっている割合が高い。

社団法人 日本レコード協会|2007年度「音楽メディアユーザー実態調査」より

2007年度の調査結果。多少の変動はあるけれども*1、2007年度から2008年度にかけて大きく変わったという感じはしない。

社団法人 日本レコード協会|2006年度「音楽メディアユーザー実態調査」より

2006年度調査では、テレビ番組の種別等詳細なデータは明らかにはしていないものの、テレビがきっかけと答えた人は全体の8割に及ぶ*2。2007,2008年度調査では各種別ごとの結果をのせているけれども、いずれの年もテレビ全体でまとめれば大体同じくらいの割合になる…のかな*3

社団法人 日本レコード協会|2005年度「音楽メディアユーザー実態調査」より

2005年度は種別毎の結果をのせているのだけれど、こちらは全体および各年代層ごとに上位10のきっかけを掲載している。なんだか見にくいけれど、今は改善されているので、良いのかな。とりあえず全体の割合だけを掲載しておくとして、これをみると、ここ3年間の調査結果に比べてテレビをきっかけとした人の割合は少ないように思える。サンプリングの問題かな?

社団法人 日本レコード協会|2004年度「音楽メディアユーザー実態調査」より

2004年度の結果を見ると、2005年度とはうって変わって最近の調査結果とそれほど変わりのない結果が得られている。やっぱり2005年度のサンプルがおかしかったのかしら。

社団法人 日本レコード協会| 2003年度「音楽メディアユーザー実態調査」より

2003年度の結果は、最近の結果と比べると若干テレビがきっかけと回答した割合が少ないものの、それでも若年層を中心に非常に高い。2002年の調査結果もこのページに載っているのだけれど、大体同程度。

ここ6-7年間の調査結果の推移を眺めてみたけれど、こうしてみると、テレビがきっかけだと回答した人の割合は、それほど大きく変化していないように思える。2005年度調査はアレ?と思える結果にはなっているが、2002年調査からみていくと、全体的にはテレビがきっかけだと回答した割合は、変動無し、もしくは微増といったところだろうか*4

この辺は、受動的かつ支配的なメディアであるテレビゆえに高い影響力を持っているのかなと思ったりもする。ただ、テレビがCD購入のきっかけであるとした回答者の割合が過去半年にCDを購入した割合を超えていることを考えても、過去の経験を想起して回答していることも考えられるので、今のトレンドを必ずしも反映しているわけではないかもしれな。とはいえ、それでも現状では最もCD購入のきっかけとなっているメディアではあるんだろうなぁ。

で、インターネットはCD購入のきっかけになってるの?

RIAJの「音楽メディアユーザ実態調査」では、今年からインターネットの種別にYouTubeが加わった。で、その結果をみると、YouTubeがCD購入のきっかけとなった、という割合が若年層を中心に結構多かったのが興味深い。

社団法人 日本レコード協会|2008年度「音楽メディアユーザー実態調査」より

YouTubeや無料動画配信サイトが今年から加わったことで、どの程度の影響力があるのかがよりわかりやすくなっている。これをみると若年層の2-3割でYouTubeがCD購入のきっかけになったと回答していることがわかる。

YouTube以外の無料動画配信サイトも、男子若年層ではCD購入のきっかけとなったという割合が高い。回答者が無料動画配信サイトといってどんなサイトを思い浮かべたのかは定かではないけれど、ニコニコ動画などの動画共有サイトGyaoやYahoo動画などのビデオストリーミングサイト、といったところだろうか。ここで1つ気になったのは、男女で比較すると、YouTubeではそれほど割合に大きな差がなかったにもかかわらず、YouTube以外では差が見られるという点。何が原因なんでしょね。

動画配信サイト以外では、依然として公式サイトがきっかけとなったと回答した割合が高い。ただ、公式サイトに行っている時点でそのアーティストのファン、少なくとも好きなのだろうから、そこでたまたまCDのリリースを知って購入した、という感じなのかな*5。ただ、そう考えると、YouTubeでPVとかを見たりするのも、既知の、そして少なくとも嫌いではないアーティストだからこそ視聴され、CD購入が促されるのかなとも思える。未知のアーティストを知るという意味での「きっかけ」として、どの程度機能しているのかなという疑問も湧いてくる。

また、公式サイトと同じくらいCD購入のきっかけになっていると回答されているのが着うた。これもなかなか興味深いのだけれど、果してどういうルートで購入に至るのかなぁという疑問もある。着うたダウンロードサイトを見に行ったらリリースされていて、ダウンロードしたら気に入ったからCDの購入を促されたのか、それとも、他の人の鳴らしている着うたを聴いて欲しくなってCDを購入したのか。いずれにしても、着うたからCDへという流れはなかなか面白い。

ただ、この辺は

2008年度調査 着うたの利用目的

2008年度調査 着うたフルの利用目的

社団法人 日本レコード協会|2008年度「音楽メディアユーザー実態調査」

着うた・着うたフルの利用目的を見てみると、「曲の試聴をするため」と回答した割合が高いことから、着うたに試聴の意味合いを持たせているユーザも少なからず存在するということが推測される。

ちょっと拡大解釈になってしまうかもしれないのだけれど、こうしたリスナーにとっては、着うた・着うたフルは短期的な音楽消費、CDは中・長期的な音楽消費のメディアという感覚なのかなと思ったりもする。ただ、この辺も無料着うたサイトからのダウンロードが有料サイトからのダウンロードに比べて多い*6こともあるので、なかなか解釈が難しいところではある。

また、冒頭で紹介したGarbagenews.comの記事のブクマコメントに

toaruR toaruR テレビで初めて聞いて、良いかなと思ったのに発売は1ヶ月以上も先とか。1ヶ月後には興味も失せてた。

とあって、確かにかなり頻繁にラジオやテレビで聞いた曲でも、だいぶ経ってからCDが発売されていた、なんてことが最近しょっちゅうある*7。でもって、「着うた先行配信」なんて言葉もしばしば耳にする。

素人考えではあるのだけれど、こうしたCDリリースまでの流れを見ていると、まず着うたを売って、そのあとでシングルCDを売って、アルバムCD購入に繋げる、という算段でもあるのかなと思ったり。

ただ、ユーザが着うたにそれなりにお金をかけ続けているのであれば、シングルCDに回せる額は減るんじゃないかなぁ。とすると、これまでのシングルCDセールスに置き換わるのは、シングルCD+着うたセールスってとこなのかな。

着うたユーザが半年の間にどれくらい着うたをダウンロードしているかを見ると、そんな気がしてくる*8

社団法人 日本レコード協会|2008年度「音楽メディアユーザー実態調査」

最後に

今回主に扱った「CD購入のきっかけ」の調査結果は、単一選択ではなく、多重回答による結果なので、複数のメディアを介して接触したことで最終的に購入に至った、という人の割合も少なくないだろう*9。なので、個々の回答の割合だけを見て、その影響力を測るというのはあまりよろしくないのかもね。どちらかいえば、それぞれのメディアでの露出がクロスしてこそ、CDの購入に繋がるのかなと。

その辺は、初音ミクCDを巡る最近の議論を見ていて少し思ったところでもあるのだけれど、結局、ニコニコ動画周辺での流行があって、それをベースにしてオリコンチャート上位に食い込んだとしても、他メディアとのクロスすることがないために、それをきっかけに未知の人たちがそれを聴いてみようという方向には流れにくいんじゃないかなと*10。その辺は洋楽も同じような感じがするけどね*11。観測範囲外のものだと思えば、それ以上興味を持つことはなさそうだし。そういった意味では、テレビのような受動的なメディアが、いい意味でも悪い意味でも「押しつける」ことで、認知させ、興味を持たせることにも繋がっているのかな。

「きっかけ」といっても、「既知のアーティストの存在/音楽を認知する、興味を持つ、購入するきっかけ」と、「未知のアーティストの存在/音楽を認知する、興味を持つ、購入するきっかけ」とは、異なる部分もあるんだろうなぁと思ったりもする。個人的には既知のアーティストよりも、未知のアーティストがどのようにして露出していくのか、認知してもらえるのかというところに興味があって。

確かにインターネットは音楽の有力な情報源の1つになりつつあるのかもしれないけれど、新たなアーティスト、新たな音楽と出会うためのメディアとして、どう機能していくのか、というところはなかなか見えてこない。MySpaceやPandora、Last.FMのような音楽と音楽をリンクさせてくれるサービス、Amazonの「あわせて買われています」、ユーザ間のレコメンドなんかが、一部では音楽ディスカバリーに一役買っているところもあるし*12、リスナーとファンのマッチングに対する潜在的需要は高いのかもしれない。ただ、それも現時点では実験段階を超えてはいないだろうし、今後も今まで通りに通用するかどうかはわからないけれど、なにかしらのブレイクスルーがあると面白いなぁと期待しているところでもある。

*1:並びが2008年度調査とは異なっているので注意。

*2:ただ、ちょっと気になるのは、Nが全対象者になっていること。女子中学生に至っては96.4%にまで達しているが、CDを購入したことのない割合が3.6%というわけでもないだろうに。この辺は「強いていえば」、という回答をしたということだろうか。それ以降の年代でも、女性でテレビがきっかけと回答した人の割合が9割超がほとんどであることを考えると、現在の習慣を答えているというよりは、これまでの経験を答えている、という感もある。ただ、それでも女子中学生の過剰に高い割合を説明しにくいんだけれども…。

*3:多重回答も可、なので

*4:もちろん、この調査結果からわかる範囲で、の話。調査手法がおかしければ、実際を反映しないことだってある。

*5:多分、ファンでもない人が公式サイトを見ても、たかだかサビの部分だけを切り抜いたサンプルがあるくらいなので、購入を促されるということはほとんどないだろうなぁと思ったりもする

*6:2008年度調査 p.31

*7:基本的にテレビは見なくなりましたが、少ない頻度でも「良く耳にする曲」があって。

*8:ただし、この数もいわゆる無料配信サイトからのダウンロード数が含まれているかと。

*9:たとえば、テレビやラジオで知って、YouTubeMySpaceで試聴して、購入に至った、とか。過去の調査だと、きっかけとなった情報源の数を年代層別に出していたりもしたけれど、現在も同じ傾向であれば、若年層でより多くの情報源をきっかけにあげていると思われる。

*10:さらに思うのは、オリコンチャート自体も、メインストリームを失いつつある中でそのチャートにどういった意味合いを持たせるのかが難しくなっているのかなと。たとえば、J-POP好きの人にとって、アイドルやアニソン、初音ミクなんかのCDが頻繁にランクインしてくるようになれば、あまり価値を見いだせなくなってくるというか。興味を持てないものが、指標となるランキングにバンバン入ってきたら困るよなぁって感じ。

*11:ずいぶん乱暴なくくりではあるけれど。

*12:もちろん、それぞれのルートは相補的に働いていると思っている