ダウンローダーに感謝せよ!: Jamendo、スリーストライクに対抗する「スリーサンクスキャンペーン」をローンチ


現在、フランス下院で審議されているスリーストライク法(Hadopi、詳しくはこちら。)に対抗して、Jamendoが「スリーサンクス」キャンペーンをローンチしたというニューズレターがJamendoから届いた。

Three strike vs. three thanks!

既にご存じかもしれませんが、フランスでは違法ファイル共有に対処するとして、「スリーストライク」の原則にインスパイアされた新たな法律が成立しようとしています。これが成立してしまえば、3度の警告を受けたダウンローダーはインターネット接続を遮断されてしまうことになります。私たちJamendoは、音楽とウェブにアプローチする別の方法があるということ、つまり、自由で、合法的な音楽も存在しているということを示したいと考えています。そこで、私たちは「Thanks for downloading(ダウンロードしてくれてありがとう)」キャンペーンをローンチしました。Jamendoから音楽をダウンロードしたみなさんは、ありがとうメールを受け取ることになります。自由な音楽利用の拡散を助けてくれた人たちは、お金を受け取るかもしれません!このイニシアチブをサポートしてくれるのであれば、どうかこのThanks for downloadingのスペシャルウィジェットを共有してください!

スリーストライクは、違法ファイル共有を行うユーザに対して、3度の警告を行いインターネットから遮断するというものだが、このスリーサンクスは、合法ファイル共有を行うユーザ*1に対して、Jamendoが3度のありがとうを伝え、共有を推奨するというもの。なかなか洒落た皮肉だね。

Jamendo Blogによれば、キャンペーン中にJamendoが現在配信している20万曲のうちの1曲でもダウンロードすれば、ワンストライク(サンクス)となるようだ。ワンストライク目のユーザは、Jamendoから感謝のメールが送られ、友人たちと音楽を共有することを薦めるのだそうだ*2


さらにダウンロードをすればツーストライク。Jamendoから『共犯者セット(accomplice kit)*3』としてJamendoのステッカーやドキュメントをメールで送りつけられることになる。これは、Jamendoにて楽曲を提供するアーティストやその音楽をプロモーションするためのものとなる。

そして、最もアクティブなユーザはスリーストライクの宣告を受ける。もちろん、ここでのストライクはサンクスであるのだから、インターネット接続を切断されるなどと言うことはない。逆に、Jamendoが提供しているBGMサービス『Jamendo PRO』の1ヶ月分相当の金額を支払ってくれるとのこと。

ただ、最もアクティブなユーザと言っても、ただ単にダウンロードしているだけのユーザではない。Jamendo PROのサービスをバー、レストラン、ショップ、ホテルなどのパブリックスペースで利用してもらうよう説得し、そこを「フリー・カルチャー・スポット」としたJamendo大使に限られるようだが。

Jamendo PRO自体が、既存のBGMとしての楽曲利用の安価なオルタナティブとして宣伝されているので*4、料金の1ヶ月分と言ってもそれほど大した額ではなく、インセンティブとしては弱い。とはいえ、CommonerとしてJamendoをサポートしようとする人たちが金銭を目的にするというわけもなく、この辺も「違法ダウンロードのためにインターネット接続を遮断される」スリーストライクに対して、「ダウンロードのためにインターネットサービス利用分のお金を支払われる」スリーサンクスという対比を作りたかったのかなと。このエントリでは書かれていないけれど、Jamendo PROの利用を説得することができたJamendo大使は、このキャンペーンの以前からTシャツやUSBメモリ*5、ステッカーなどなどの「Jamendoパック」の支給が約束されている。

という感じで、Jamendoはスリーストライクに対抗したキャンペーンを展開しているのだけれど、

Jamendoは、インターネットがもたらした機会によって利益を得る方法を知り、イノベーティブなマネタイズモデルを許容した数多くの才能あふれるアーティストたちが存在することを証明したいのです。ならばその最初のファンたちは、感謝されこそすれ、罰せられることなどないのです。

Three strike vs. three thanks - Jamendo Blog

以前に私が書いたエントリに近い感じかもしれないけれど、××をするな!ではなく、○○をしてくれ!と訴えることこそ、今必要なことだ、ということなのかもしれない。そう、「違法共有するな!」というペイありきの音楽ではなく、「合法共有してくれ!」という自由な流通を求める音楽にこそ目を向けてくれ、と。

こう書いていると違法ファイル共有ユーザを擁護しているように思われるかもしれないが、私も、おそらくJamendoも守りたいのはソコではないんだよね。擁護しているのではなくて、批判する必要があまりない、という感じで。フォーカスは自由な音楽に光を当てようというところにあって、であれば、違法ファイル共有に費やされるリソースですら勿体ないというだけの話で。既存のレコード産業が自らの利益のために違法ファイル共有をなくそうと主張するのとは別の思惑で、しかし、自らの利益のために違法ファイル共有をなくそうと主張しているのよね。

既存のレコード産業が、金がない奴/金にならない奴には音楽は聞かせない、というスタンスで行くのであれば、自由な音楽にとってこれほど都合の良いことはない。音楽の「聞く、好きになる、購入する*6」という揺るぎない黄金律を考えると、聞くことを制限した時点で、多くのファンを逃すだけなんだから。

最近でもLast.fmが米、英、独以外の国でラジオの利用を有料化することになったとのアナウンスがあったし、Pandoraは既に国外への音楽ストリーミングサービスの提供を制限している。また、WarnerがライセンシングがうまくいかないとしてYouTubeから楽曲を引き上げたり、英国でもPRSとの間でのライセンス料に関する交渉が決裂し、YouTubeが音楽ビデオへのアクセスを遮断するという事態にもなっている。TechCrunchによれば、Imeemもまたライセンス料の問題を抱え危機に瀕しているという。

これらのサービスはいずれも、私たちに新たな音楽との出会いのチャンスを提供してくれている。しかし、レコード産業側がそれを良しと考えていないのであれば、勝手にくたばればいい。聞く機会のない音楽を我々が好きになるわけがない。

しかし、その一方で世界にはたくさんの自由な音楽がある。そうした音楽をこそサポートしよう、聞こうよ。もし、それであなたが好きだと思える音楽が見つかったなら、全力で応援してあげよう。宣伝してあげよう。ニコ動とかYouTubeTumblrにアップロードしたっていいんだから。友だちにコピーしてあげたっていいんだから。Jamendoにいるアーティストたちは、みんなそれを望んでいる。そして、あなたがそうしてくれたら、きっと大喜びしてくれるよ。

それが私の「Respect Our Music」キャンペーン。

*1:広義の意味でのファイル/音楽共有。

*2:もちろん、Jamendoメンバーであっても、これは任意の選択である。メールアドレスの入力と送信を求められるが、そこで拒否すればメールを受け取ることはない…と思う。

*3:あくまでも「共犯」はジョークです。

*4:簡単に言えば、お店とかで流す音楽を提供する、というもの。既存の著作権料徴収団体との契約を必要とせず、安価に利用できるサービスとされている。

*5:多分、Jamendoで公開されている楽曲入り?

*6:もしくはペイする