なぜBBC iPlayerはP2Pを捨てたのか

先日、BBCのビデオ配信サービス「iPlayer」が大幅なリニューアルを行ったのだが(概要はITproの記事を参照のこと)、その中でP2Pを利用したダウンロード配信を取りやめたことが明らかにされた。

ITProの記事では

Rose氏はP2Pの利用を中止した理由を説明していないが,2008年11月に本誌がBBCのAndy Davy氏に行った取材では,(1)プロバイダー事業者への負担が大きいこと,(2)データの通信経路が複雑で,利用者が認知しないまま利用者回線が通信経路として使われる懸念があること――からP2Pによる配信を廃止する方針を明らかにしていた。

リニューアルしたiPlayerに見る動画配信の新トレンド,家庭内の映像共有やテレビ視聴にも対応:ITpro

とされている。

iPlayerはローンチ当初、P2Pを利用したダウンロード配信によってコンテンツを提供していたのだが、利用環境が限定されることから、多くの批判を浴びていた。しかし、その後すぐにWebベースのFlashストリーミングバージョンの提供も開始したことで、爆発的な人気を勝ち取ることができた。

しかし、その爆発的な人気はトラフィックの激増をもたらし、英国にネット中立性の議論の種を植え付けることにもなった。それが(1)の部分なのだろう。ただ、ストリーミングが優勢の現在にあって、P2Pを利用したダウンロードの負荷がどれほどISPにとって大きなものなのか、は定かではない。

Cnetのインタビュー記事にて、BBCのOnline Media Group代表*1Anthony RoseはiPlayerでのP2P配信を取りやめたことについて説明している。

どうしてP2Pの使用を断念したのですか?

ローズ:私たちがP2Pを使おうと決断した時期と現在までの3年という歳月が、インターネットの世界を変えていったのだと思います。P2Pを利用するという提案は、配信コストがあまりに高くついていた、遠い遠い昔になされたものです。その当時、私たちは多くの人がダウンロードすることによって生じる負荷に対処できないんじゃないかと感じていました。

しかし結局は、ストリーミングがメインの配信形態となりましたし、ダウンロードは帯域消費全体の10%程度です。なので、ダウンロードが私たちのサーバに直接負荷を与えたとしても、ストリーミングによって生じる負荷にほんのちょっと上乗せされる程度です。別個にP2Pデリバリー・ネットワークのインフラを維持するよりなら、単にファイルのダイレクトHTTPダウンロードを提供した方が、より効率的なのです。

さらに、一部の人々は彼らのアップロード帯域が利用されることを快く思ってはいませんでした。それは私たちにとって大きな懸念事項でした。私たちは、誰にでも、気持ちよくiPlayerを使って欲しいと願っていますからね。

P2Pは私たちにとってとても良く機能していましたが、時代は変わりました。ただ、今私たちがP2Pを使っていないからといって、未来永劫それを使わないということではありません。将来的には、たとえば、ライブビデオやライブのマルチキャストP2Pを利用するかもしれません。このテクノロジーの世界で唯一不変のものは、物事が変化する、ということです。今日現在では、ダイレクトダウンロードが私たちにとって最も良く機能しています。ただ、それも将来的には変化する可能性もある、ということです。

Q&A: Behind the BBC's iPlayer | Wireless - CNET News

特にISPへの負荷については語られていないが、全くないわけではないだろう。ただ、それ以上に、現時点ではHTTPダウンロードに絞った方が効率が良い、それが最大の理由だったのかな。

ただ、Roseの回答の後半にもあるように、現在P2P技術を採用していないからといって、今後もそうだというわけではないのだろう。BBCが、Triblerで知られるP2P-Nextプロジェクトに注目していることからも、将来的な利用可能性は模索しているようにも思える。同プロジェクトは次世代ピア・ツー・ピア*2コンテンツデリバリープラットフォームを構築し、それによって次世代インターネットTV環境を構築する、ということを目的としている。オンラインへの進出を強めるBBCにとっても、これからのインターネットにおけるコンテンツの送信、特にオンデマンドではなく、ライブストリーミング/ブロードキャストの際に必要となるテクノロジーとしてその成果を期待しているところだろう。

余談

ピア・ツー・ピアというと、この記事にもあるような(またはP2Pファイル共有などに見られるような)コンテンツディストリビューションのための技術ばかりが注目されがちだが、実際のピア・ツー・ピアは、コンテンツディストリビューションに限らず開発、利用が進められている。といっても、私自身はP2Pファイル共有とかコンテンツディストリビューションの話に興味があって、そうした話題ばかり書くので、このダイアリーやFC2のブログの方でもかなり偏ってしまうのだが…。

*1:つまりはiPlayerのトップ

*2:しばしば揉めるので次世代P2Pの定義は避けることにする…