本当は問題なんてどうでも良くて『個人』を叩きたいだけなんでしょ?

CNETの読者ブログにて、ひどい記事を見かけた。
西田ひかるが、スラムドッグ・ミリオネアをダウンロードして観てた、という話

西田ひかるの公式ブログで以下のような文章が書かれている。

スラムドッグ・ミリオネアをダウンロードして観ました。

これがどういう事を意味しているのか分からないが、役者でもある彼女が、著作権ということをどう考えているのか非常に興味がある。(記事が消される可能性があるので、魚拓のリンクを記載しておく)。

もしかしたら、僕が知らないだけで、上映中の映画でも、PPVのようにお金を払えば著作権を侵さずに見れる方法があるのかもしれない(だとしたら、誤解を招かないように、補足すべきだと思う)

スラムドッグ$ミリオネアは日本では最新作だが、海外では半年以上も前に公開されている。昨今の世界規模での違法流通によって映画産業がDVD/レンタル/有料配信のスパンを短縮している現在にあっては、既にダウンロード購入またはレンタルが可能でも全く不思議はない。ってか、実際にそうだし*1

日本ではまだ劇場公開中だ、ダウンロードなんてできるわけがない、だから違法な手段を使ってダウンロードしたんだ、と思ったのだろうが、ただダウンロードして見た、というだけで、違法行為に加担したという疑いをかけるのもどうかと思う。

依然、私もPublic Domain TorrentsからBitTorrentを利用して映画をダウンロードしていたのだが、BitTorrentを使って映画をダウンロードした、と発言したことで、違法ファイル共有に手を染めている奴扱いされたことがある。「P2Pとかその辺のお話」というブログで、主に海賊行為を扱った記事を書いていたのでそういうステレオタイプのままに見られるのだろうが、逆にあんなブログを書いていたら気まずくて違法ファイル共有なんてできやしないってのに*2

多少腹が立ったが、それでも私の場合は海賊行為の話を良く書いているし、その辺の配慮があって然るべき、というのはまだわかる。でも、西田ひかるさんのような、デジタルのこと、海賊行為のことを私たちほどは知らない人の方が圧倒的多数なのであって、そうした人にまで、自分たちにも誤解のないような話し方を求める、というのもあまりにも身勝手だろう。「西田ひかるのブログ」なのだから、対象とする読者は彼女のファンなのであって、その中で通じる話で良い。ファンでもなければ誕生日に記者会見する人、フルーチェの人、中尾彬のお気に入り程度の認識なのだろうが、多少なりとも西田ひかるさんのことを知っている人なら、彼女が帰国子女であり英語堪能なこともよく知っているはず。

更に、デジタルな話をよく知っているのであれば、海外のiTunes Storeが当該の国のクレジットカードとアカウントがあれば利用できることも知っているだろう*3。結局のところ、様々な話を総合すれば、違法ファイル共有等の疑いをかけるほどの発言であるとは思いがたい。

結局、方々から「おかしいだろ、この記事」という批判を受けて、筆者である「なかのひと」は追記として

ダウンロードと書かれれば多くは不正な方法を連想すると思います(ましてや公開中の映画であれば)。本ブログでも誤解を招くことを極力避けるために、最初のエントリーでも『僕が知らないだけで、…誤解を招かないように、補足すべきだと思う』というふうに、補足を入れていました。それは、西田さんを貶めるつもりで書いたものではない、という気持ちの表れだったのですが、本記事が西田さんの名誉を傷つけると思われる方が大勢いらっしゃったようで、大変申し訳なく思っています。誠に申し訳ございませんでした。

西田ひかるが、スラムドッグ・ミリオネアをダウンロードして観てた、という話:インターネットの裏側を探しましょ - CNET Japan

と、読者の読解力がないせいで迷惑をかけた、と開き直っているが、ダウンロード=不正な方法なわけはなくて、単に自身の予備知識が欠けていただけである。誤解のないような書き方を他者に求めるなら、自らそれを心がけるべきだろう。

ただ、私がこの記事を読んで腹立たしく思ったのは、こうしたことではない。個人が特定されたときにだけ、鬼を首を取ったかのような大騒ぎをすることに対して、だ。

本当に腹立たしいこと

もし、これが、友達同士の会話であれば、倫理的に問題あるとはいえ、さほど問題にならずに済むのかもしれないが、ブログで不特定多数の人に公開する記事としては問題あると思う。

西田ひかるが、スラムドッグ・ミリオネアをダウンロードして観てた、という話:インターネットの裏側を探しましょ - CNET Japan

友人同士の会話なら問題にしないことを、なぜブログに書いたら火がついたように批判するのか、そっちの方がイカレている。日常でそういう話を耳にした、そういう光景を目にしたとしても、さして問題視もせずスルーできることを、なぜオンラインならスルーせず、糾弾、ときとして社会的制裁を加えんとするのか。

それは、こういった芸能人ブログだけでおきてる話ではない。一般の個人のブログでも、友達に話す感覚で、未成年者が喫煙や飲酒の話を書いたり、恋人と自転車の二人乗りの話を書いたりするケースが見られるが、不特定多数に情報を発信する事で与える影響を多くの人間が意識していないように思う。

西田ひかるが、スラムドッグ・ミリオネアをダウンロードして観てた、という話:インターネットの裏側を探しましょ - CNET Japan

自転車の二人乗りなんてよく見かける光景だし、飲酒や喫煙している未成年者なんてごまんといるだろう。もちろん、それを許容せよという話じゃない。でも、それを許容しないとしても、ほとんどの人はそうした光景、そうした事実をそれほど問題視しているとは思いがたいし、実際に見かけたら注意するかといえば、そんなこともほとんどないだろう。

しかし、インターネット上で個人が特定された形で暴露されたとなると、一斉にその個人に向かって罵詈雑言を並べ立て、社会的制裁を加えようとする。

この西田ひかるさんの一件もその一例と考えることが出来るだろう。違法ファイル共有の問題を考えるにあたって、ある特定の個人が違法ファイル共有を行っていたとか、そういうことははっきりいって大した問題にはならない。唯一問題になるのは裁判によって補償を求める、罰を与えるという試みにおいてであり、そうした手段によらず解決方法を模索するなら、個々人ではなく、違法ファイル共有ユーザ全体をどういう方向に促していくかを考えなければならない。一個人を糾弾して問題が解決するような話ではないのだ。匿名でやっていれば非難の対象にならないのであれば、匿名のままでそうするだけのこと、個人が特定された時にだけ糾弾するのでは、何の意味もない。

また「不特定多数に情報を発信する事で与える影響」というが、たとえ一個人が違法ファイル共有を行っています、ということを明示するような文章を掲載したところで、その発言が与える影響などたかがしれている。

もちろん、そうした発言が積み重なることによって、社会的に望ましいとされる規範に反する規範が形成されるという懸念もある。だが、違法ファイル共有、違法流通を問題視するのであれば、特定の個人の発言をあげつらうよりは、そうした行為を促進する書籍、ブログ、2chのダウンロード板等を問題視し、声を上げる方がまだ理解できるのだが。でも、実際に違法ファイル共有にしても、個人が特定された場合以外で、一斉にそうした対象を批判するなんてことはまずないわけでさ。別にそういう存在をこそ叩けってことじゃなくて、もし、本当に「不特定多数に情報を発信する事で与える影響」を考えるなら、個人を叩くことにはほとんど意味はないし、それを正義感からやっているというのなら、もっと他のところに目を向ければ?と。

日常で見かけてもさして気にしないようなことでも、「不特定多数に情報を発信する事で与える影響」を盾に個人を叩けるのであれば、一種の娯楽としてその個人を糾弾し、制裁を加える、そんな人がいるから「不特定多数に情報を発信する事が引き起こす影響」を考慮しなければならない、というのなら理解できるのだけれども。有名人に限らず、一般人までスキャンダル的ゴシップの対象になっている、って意味で。

*1:西田さんのブログでも、iTSを利用してダウンロードした、との言及が追記された。

*2:海賊ユーザそのものを擁護することは出来ないが、海賊行為の持つ意味については擁護することもあるし、海賊行為を批判することもある。そんな中で、自分がそれに手を染めてたら、バツがわるすぎるだろJK。つか、そもそも海賊行為全般のストーリーの方が私にとってはエンタメ・コンテンツとしての価値を持っているし、それを追いかけるのに精一杯な時期でもあった。まぁ、今でもそうだけど。

*3:まぁ、リージョンコントロールの回避については色々と言えちゃうかもしれないけど、後述するとおり、個人が特定された場合にだけそれを批判するのもおかしいわけで。