英国音楽業界、FACは新人を軽視していると批判

Featured Artists Coalition (FAC) メンバー達は、違法ファイル共有ユーザであっても熱心な音楽購入者であるという視点を持ち、そういう人々を敵視し、痛めつけるのは、音楽にとって不幸を招くことになると主張している(英国大物ミュージシャンら、割れ厨を擁護 - P2Pとかその辺のお話@はてな)。

しかし、前回のエントリでも触れたように、そうした主張は少なくともアーティスト・ミュージシャン全体に共有されているものではないし、当てはまるものでもない。Green Sound from Glasogowさんの記事で追記されているThe gurdianの記事にはFACメンバーらとは異なる境遇のアーティスト、ミュージシャンにとっては大きな不利益となりうるとの主張がなされている。FACメンバーらビッグスター達は、セッションミュージシャン、それほど人気のないバンドといった低収入の人たちを軽視している、と。

著作権料徴収団体PPLのFran Nevrklaは、FACの主張は「酷くナイーブ」だと評する。

「役立たないどころの話ではありません。あまりに有害で、敵意すら感じられるほどです。」

Filesharing crackdown divides UK music industry | Business | The Observer

PPLの42,000のメンバー達の90%が、音楽からの収入は年間15,000ポンド(225万円)以下であり、FACの意見はそうした低収入のミュージシャン達を軽視している、という。

「なぜ彼らがすべてのアーティストやミュージシャンを代表して主張する権利を持っているつもりになっているのか、理解に苦しみます。彼らの意見は、ほとんどの人々と共有されるものではありません。」

Filesharing crackdown divides UK music industry | Business | The Observer

Musicians' Unionの事務局長John Smithは、同団体のメンバーはファイル共有に対し個々に多様な意見を持っていること、彼自身もFACの態度には共感するところもあるとしながらも、FACのキャンペーンが「若干見識に欠けている」「逆効果である」と考えているという。彼は、FACが音楽産業全体の展望よりも一匹狼的な主張が強いことを批判し、創造に対してはペイされねばならない、という。

レーベルやアーティストのマネージャー達も、海賊行為が新人アーティストを害していると主張する。Kaiser Chiefsらを抱えるSuperVision Management のJames Sandomは、アーティストはツアーやその他収入で生計を立てられるようになるのは、それより前に彼らに投資してくれる人がいるからだという。また、彼らがマネジメントするKaiser Chiefsが、リーク(と違法ファイル共有)の被害に遭った際のことをあげている。

「"Kaiser ChiefsのメインソングライターNick Hodgsonは、前のアルバムがリリースの1ヶ月も前にウェブ上にリークされたとき、まるで自宅に強盗が押しかけてきて、彼の所持品全部をインターネットで売りさばかれたようだ、と話していました。」

Filesharing crackdown divides UK music industry | Business | The Observer

Jools HollandやPink FloydDavid GilmourらをクライアントとするマネージャーPaul Loasbyは、決定権はアーティストにあるのだと主張する。

「もしアーティストが自分たちの音楽をタダで配りたいというのなら、それは彼らが決めるべきことです。パイレーツ次第なわけはありません。[…](引用注: 有料)ダウンロードは79ペンスかかります。たった79ペンスで一生楽しみ、喜びを与えてくれるものなんて他にあるでしょうか?これに答えられる人はほとんどいないでしょうね。」

Filesharing crackdown divides UK music industry | Business | The Observer

意地悪な見方

ちょっと意地悪な見方をしてみると…、彼らも新人アーティストやセッション・ミュージシャンの意見を代表する権利があるわけでもないし、レコード産業全体のことを考えろというのはわかるけど、やっぱり彼らも直接的な利害関係者なわけで、まず自分たちの利益を確保しておきたい、というのはあからさまに透けて見えている。代弁してきたベテランミュージシャンが声を上げ始めたので(裏切られたので)、今度は彼らに代わって声なき新人、セッションミュージシャンを勝手に代弁し始めたのでは?と思われても仕方ない。

ただ、彼らの主張が間違っているとも思えない。もちろん、私の考えとは異なるところもあるが、それは未来が不確実であるがゆえのこと。未来がどうなるかなんてわかりようがなく、自分たちが想定した未来によりベターな方向性を進むべきだとそれぞれに考えている、ということなのだろう。だからこそ、その相違点で衝突が起こる。

セッションミュージシャン達は別にしても、新人アーティストたちも様々な未来に対応しようとしている。著作権団体やレーベル、マネージャがFACは新人アーティストをないがしろにしている、といっても、その新人アーティストたちも考えは十人十色だろう。海賊行為以上に既存のレコード産業に失望している人たちも少なくない。そういう人たちだけを選択的に挙げていけば、上記の議論も簡単に反論できるし、そうなれば向こうはそうじゃない人たちだけを選択的に挙げていって…という水掛け論に陥るだろう。

だから、いい加減、姿の見えない声を代弁して、そこに自分たちの主張を忍ばせるよりも、いかに自分自身の存在がレコード産業において重要であるのか、その存在なくしては、今我々が享受している恩恵が失われることになるんだ、というような自らの優位性を語るべきときなんじゃないかな。弊害も多いけど、そういえるだけの存在ではあるんだから。

余談

さて、声なき新人と書いたものの、英国の若手アーティストLily AllenからFACに対する批判の声が上がっている。これについては次のエントリでご紹介しよう。