Lily Allen、「FACの主張は新人アーティストにアンフェア」と批判

FACメンバーらの発言に対しては、少なくともレコード産業に関わる人たちから、新人、スタジオミュージシャンを軽視している、という批判がある。とはいえ、その発言を支える新人アーティストからの援護射撃はそれほどないのだが(これまでレコードレーベルが大多数の新人を軽視してきたのかを考えれば当然のことであるが)、Lily AllenはMySpaceにてFACを批判するエントリを公表している*1

このエントリについては、Barksでも記事になっているので、そこでは触れられていない部分に注目してみる。Barksの記事では、ファイル共有はFACが主張してるようなホームテーピングでもないし、そのクオリティは音楽を購入しようという気持ちを抑制するのだという点、彼女自身がSonyからデビューする際にどれほどレーベルに借りをつくり、それを返済するのに大変だったのかという点が触れられている。

アンタたちは気楽なものよね

そりゃ、キャリアも終わりかけのビッグアーティストなら、アルバムもたくさんあって、それで新しい世代にアピールできるって喜べるわよね。でも、これからのアーティストはそんな贅沢品は持ち合せてないの。基本的にFACが言ってるのって『俺たちは問題ないぜ、俺たちは成功したんだからな。だからファイル共有も素晴らしいぜ』ってことでしょ。そんなの、今これから音楽産業でやってやろうっていう新人アーティストたちにアンフェア過ぎるわよ。

My Thoughts on File Sharing - Lily AllenさんのMySpaceブログ|

この主張の背景にあるのは、いろいろな解釈ができるけれども、主に2つくらいの理由があるのかな。アンタたちはもう十分にお金があって多少は自分の好きなとおりに活動できるでしょうけど、アタシら新人はレーベルからの支援が必要なの、自分たちだけに都合のいいこと言わないでちょうだい、ってのが前提にあるとして、1つは海賊行為の影響が相対的に小さいくせに、もう1つはアンタたちが売れたのはアンタたちが若手だった頃に売れっ子からA&R資金を回してもらったからでしょ、今更何言ってるのよ、とかそんなところなのかな。

みんなはあんまりこんな話(引用注: 彼女がレーベルから借りをこさえて運良く返すことができたという話)気にしないかもしれないけど、新人アーティストたちがますます成功しにくくなってくると、出会える新人たちもどんどん少なくなってきて、イギリスの音楽がSimon Cowellを儲けさせるだけの操り人形になっちゃうのよ。

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サイモン・コーウェルは『ポップ・アイドル』『アメリカン・アイドル』『The X Factor』などなどオーディション番組の名物審査員で、音楽の消費財的娯楽化を担っている一人とも言える。そんなのがイギリスの音楽文化の中心って、そんなの受けいれられるの?と。

それに、違法ダウンロードに代わるものがないわけじゃないんだし。Spotifyみたいなサイトは誰かからリップしてもらわなくたって新しい音楽、聞いたことのない音楽にアクセスできる。曲を聴くこともできるし、買う前に視聴することだってできる。MySpaceだって音楽をストリーミングしてるじゃない?アーティストたちがレコード会社と契約できるだけのたくさんのファンを見つけることができるの。アタシだってそうだった。

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この点には半分同意。もしも新たな音楽との出会いを求めるのであれば、違法ファイル共有よりももっとよいツールが存在しているのは確か。もちろん、音楽愛好家が集うような音楽に特化したクローズドなTorrentサイトというなら話は別だが、基本的に多くのユーザが利用できるMininovaやThe Pirate Bay、その他メタTorrent検索エンジンから欲しいもの―しかもメジャー流通している最新曲―を検索してダウンロードする人の方が圧倒的に多いわけで、そこで生じるとされる損失に対して「諦めろ」とは言いがたいのも確か。単に出会いたいだけならSpotifyYouTubeのような音楽を繋げる仕組みのあるサイトの方がよい。MySpaceに関しては、既に出会いの場として期待できるほどの規模ではなくなってると思うけど。

ただ、リスナーのiPodなりPCに楽曲を保存させ、再生可能性を高めることは、一部のアーティスト・ミュージシャンにとっては重要なことだったりもするので、その意味では違法ファイル共有経由でもリスナーの手元に楽曲が渡ることを是する考えがあってもよいだろう。そのためには、アーティストが自分の判断で違法ではないかたちで自由に楽曲を提供できる状況が必要になるのだろうが、そうした決定権を持たせろ、というのもFACの主張の1つ*2だったと思う。そうできなかったことが、Radioheadの『In Rainbow』実験をインディペンデントに行なわせた理由の1つでもあるのだと思う*3

確かにLily AllenはMySpace時代の寵児だったのかもしれないが*4、もはやそれが通じる時代とも思えない。刻一刻と変化を続けるオンラインを介して、リスナーとどう向き合っていくのかという問題への解は、今このツールがあるから大丈夫、というものではないだろう。もちろん、Spotifyのような取り組みは歓迎すべきものなのだろうが。

別にレコード会社のボスに味方しようってわけじゃないの。彼らは単純で、新しいテクノロジーに自己満足してるだけ。稼いだお金は全部、自分たちのお高い給料につぎ込んで、産業の発展のためにはからっきし。パイラシーのせいでたくさんの損失が生み出されてても、自分たちの給料を減らすことはないし、それどころかA&Rのお金をそっちに回してる。A&Rのための資金がなくなって、みんなリスクを冒すこともできなくなって、きっと成功するだろうっていうアーティストとしか契約しなくなった。こんなんじゃやっぱりイギリスの音楽はCowellの操り人形になっちゃうわよ。

イギリスの音楽がそうなって欲しいと思う?今はね、海賊行為と戦って利益を上げなきゃいけないんだって思ってる。そうしないと、イギリスの音楽はますます苦しむことになっちゃうんだから。

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ここまで読んできて思うのは、Lily Allenはレーベル側の論理にたって主張しているということかな。もちろん、こうした批判する部分があるから、そのスタンスを含めてすべてを受けいれているというわけではないんだろうけれど、それでもこうした批判は商業音楽の歴史の中ではほとんど変化のないものだったりもする。要は、お偉いさんは自分のために金使いすぎ、って奴。

さらに後段の部分に関しては、FACも違法ファイル共有万歳といってるわけじゃなく、違法ファイル共有を行っている人をただの罪人扱いするのではなく、互いによい関係を築けるパートナーとすることができるんじゃないか、そのための合法的なモデルが求められているんだ、という主張なわけで、それもまた「海賊行為と戦って利益を上げ」ることだと思う。いや、むしろそれこそが、海賊行為に勝つことだと思う。海賊ユーザを打ち負かすことイコール海賊行為を打破することではないのだから。

今が問題ないなんて思ってなんかない。キッズはクレジットカードを持ってないからインターネットで何も買えない。どうしてもってときはママのクレジットカードをくすねるとか、違法ダウンロードしなきゃいけないとか、それおかしいよね。これはレコード会社のボス、アーティスト、ブロードバンドプロバイダ、政府が一緒に議論してかなきゃいけないこと。これから南米にツアーに出かけるんだけど、イギリスのアーティストたちにこんな手紙を書こうと思ってる。

ファイル共有はイギリスの音楽をダメにする。あたしたちは消費者のアクセスを助け、音楽を合法的に購入する新しい方法を模索しないといけない。でも、ファイル共有は素晴らしいっていうのは誰の助けにも―そしてイギリスの音楽のためにもならない。あたしは新しいデジタルなチャンスを使って新しいアーティストを世に送り出すためにみんなと取り組んでいきたい。

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この辺については、賛同しておきたい。日本でもそうだけど、子供たちがPCの有料配信を利用できる環境はほとんど整っていない。インターネットで購入する方が骨が折れるのだからどうしようもない。未だにフィジカルメディアで購入するか、着うたを購入するかの方が現実的な選択肢なのだ。

それはともかくとしても、Lily Allenはファイル共有に反対しているが、アーティストが力を合わせて新たな世界に適応しよう、という意味ではFACと方向性を同じくしているような気もするのだが。だから、基本的な構図としては大物 vs. 新人といった構図のように思えるし、彼女の不快感の源泉はそこにあるんじゃないかなと思うのだが。もちろん、違法ファイル共有が大嫌い、というのもあるのだろうけど。

でも、Lily Allenは新人全体を代表しているわけじゃないと思うけど

Lily Allenが新人を代表しているか、といわれればちょっと疑問。それは、あくまでもメジャーの土俵の上での話である。少なくとも、Lily Allenは世界的な成功を収めているわけで、メジャーな成功を収めていない、アーティスト、ミュージシャンの大多数(つまり音楽に関わるほとんどの人)からみれば、FACと同じ側にいるも同然なんだよね。そりゃアンタはいいよ、レーベルから目かけられてるんだから、そうした批判だって可能だろう。

メジャーレーベルありきのLily Allenの主張は、レーベルに頼らず、インディペンデントで活動するアーティスト・ミュージシャンを軽視しているとも言える。なんとしてもメジャーレーベルを残すのであれば、そのバックアップをえられないインディペンデントの連中が苦戦するのは当然のこと。

あくまでも、メジャーの中で旧来のビジネスモデルを一部否定し、新たなスタイルを作りだそうとしているFACと、旧来のビジネスモデルを維持しつつ、スタイルの変化を求めるLily Allenといったところなのかもしれない。さらにメジャーの外、インディペンデントな連中はまた別の方向を向いている。多様な状況にある人々が、自らに最適な方向性を模索し、互いに衝突する、影響力や勢力を行使してゴリ押しするのはいただけないが、そうした状況がリスナーにとって、よりエキサイティングな方向に向かう原動力となってくれることを望みたい。

余談

この話題については、Green Sound from Glasogowさんでも取り上げているので、そちらも是非。

FACの根本にあるのは「ライブ産業やマーチャンダイズがメインの収入源として移行しつつある」という最近の傾向であり、従来のレコード・ベースのビジネス・モデルを元にしたリリー達の反論は、根本で話がずれている。
(中略)
FACだって、「音楽は無料で楽しめるもの」だなんて一言も言ってない。ただ、先述したように、今のデジタル音楽のビジネス・モデルが持続的だとは思っていないとだけ付け加えておきます。

Green Sound from Glasogow ミュージシャン、次々声を上げる

*1:こうした威勢の良さはさすがLily Allenといわざるをえない。

*2:広義に解釈すれば

*3:その他レーベルとの契約上の問題などもあるのだが。

*4:もちろん、その後のレーベルによるプロモーション(と彼女自身のゴシップ・セレブリティ)が彼女をあそこまでスターダムに押し上げたのだろうが