JASRAC x Twitterの件でもらったコメントにお返事するよ

昨日書いた「Twitterの件、JASRACがそんなに筋違いのことを言ってるとは思わないけど*1」というエントリにたくさんのブックマークをつけていただきました。ありがとうございます。いろいろなコメントをいただけたのもありがたいです。

なので、気になったもの、特に批判的なコメントにきちんと説明したいなと思って返信させてもらいます。

id:key07 アーティストに金がいくからいいじゃんとかそういう問題じゃないと思うんだけど…。ついったーに歌詞がかかれて誰が損するんだって話。得するとしたらアーティストくらいだしJASRACが出てくる意味がわからん。

id:yssk22 いや、お金を払うのが問題かどうか、という議論じゃなくて、JASRACがでてくることに疑問があるんじゃないの?そこで利用料ほしければ、アーティスト(の所属事務所)がTwitterとそういう契約をすればいいじゃない

JASRACって業界団体ではなくて、著作権管理事業者なんですよ。その業務は、著作権者(作詞作曲者や音楽出版社)から権利を預かって、著作権者の代わりに詞や曲の利用に許諾を出して、お金を徴収することにあるんです。許諾を得ない利用に対しても、許諾をとるよう促し、きちんと支払いを受けなければなりません。JASRACは権利者に対してそうしなければいけない責任を負っているんです。信託契約を結び、著作権者が権利を行使できない以上、JASRACやその他の著作権管理事業者の責任は重いです。

>ついったーに歌詞がかかれて誰が損するんだ

という話は、なかなか伝えるのが難しいんですが、著作権で保護されていなければ損はしないんです。でも、著作権で保護され、お金を支払わなければ利用できないものを勝手に使われたら損になる、と言えてしまうんです。

もちろん、非営利での自由な使用の幅をもっと広げていくべきだというお話であれば、私も賛成です。フェアユース議論などにも関わる話なので、もっと多くの人が参加すべきものだと思っています。こちらは著作権法という大枠の話になります。一方で、JASRACの運用を変えるという手もあるかもしれません。ただ、そのためにはJASRAC音楽出版社、作詞作曲者に継続的に訴え、納得させていかなければならないでしょう。

id:namita 取り合えずファンキー末吉のブログを読めといいたいhttp://funkyblog.jp/jasrac/

id:hatenkou001 >JASRACTwitter社から徴収したお金は手数料を除いてアーチストに行く。 ←行けばな!!行かないのが問題だろ??ヤクザまがいの集金しておいて支払いは包括??ふざけるな!!

ファンキー末吉さんの件は知っていたのですが、この件は徴収ではなく分配の問題だと思います。それは著作者であるファンキー末吉さん本人が、不透明な分配に異を唱え、それがクリアになるまでは支払いはしたくない、といっている問題だと理解しています。なので、そうではない利用者やウェブサービスが不透明なので支払う道理はないというのはそれこそ筋違いなことで、分けて考えるべき問題ではないでしょうか。

>行かないのが問題だろ??

お金が行かないというのは言い過ぎですよ。数字がきっちり出ている分に関しては、ごまかしの余地はあまりないと思います*2。ただ、包括契約による徴収の分配に不満を持っている人はいると思います。

id:kana-kana_ceo で、包括契約だと、著作者への分配がどうなってんだよ、という話に戻るのかしら。 / Twitter : win - JASRAC : win - Author : lose みたいな関係になっちゃうの?

Authorの中に、Win組とLose組がいるという感じだと思います。音楽出版社はどうでしょうね、Winじゃないと納得しなさそうではありますが…。

ファンキー末吉さんの件もそうだと思うのですが、包括契約で徴収したお金の分配が問題なのかなと。ニコ生著作権講座でも菅原さんが説明していましたが、JASRACの分配方式は全国の契約店舗からの徴収分を一端プールし、そのファンドをサンプリング調査を基に分配しているようです。サンプリング調査なので、人気曲ならいいですが、そうでないものだと漏れるものもあるでしょうね*3包括契約でも全曲報告をベースにして分配比率を算出することもできるでしょうから、それが進むと改善するかもしれませんね*4。ただ、全国津々浦々の店舗にシステムを導入していく、というのも大変そうですが…。さらに言えば、不正報告などの問題なども生じるかもしれません。

あとファンドの分配も、全曲報告システムが確立した後にも継続するのであれば、問題があるかもしれないですね。ある店舗でAという作曲家の曲ばかりかけていたとしても、全体から見たときの割合によってその店舗が支払った額の極々一部しか分配されないということもあり得ますから。

それでも店舗での演奏に関してはかなり時間がかかるかなと思っています。ただ、放送局なんかはそれほど遠くない未来に全曲報告システムが稼働するんじゃないでしょうか。キー局や準キー局辺りはその体制が整っているんじゃないかと。ニコニコ動画YouTubeの場合はどうなんでしょうね、アップロード者の使用曲申告とか?音声指紋の精度が上がれば、自動検出なんてこともできるかもしれませんね*5

ただ、分配の話は著作権管理事業者と著作者、音楽出版社との間で解決される問題なので、そこに向けてアピールしていかないといけないんだろうなと思います。著作者の中には知らない人もいるでしょうし、これからの若い人たちもそうでしょう。そういう人たちに向けてアピールし、リソースを提供していくのも大事なことだと思います。

id:API 音楽著作権の管理団体が社団公益法人である国は日本だけ。アメリカに至っては楽曲や歌詞などの著作権管理さえしてない。ライセンス料というケチな商売に力入れるだけ無駄だと思ってる

んー、米国にはASCAP、BMI、SESAC、SoundExchangeがありますから、ライセンシングに無頓着だとは思えないんですが…。

id:kohiro0 素朴な疑問なんだけど、この記事内の歌詞に利用料は発生しないの?

たぶん引用で問題ないと思いますよ。何かあったらこのAAで告知します。

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  _,.. ‐''"  _,,,.. -{(⌒)、  r'`ー''‐‐^‐'ヾ{} +
 '-‐ '' "  _,,. ‐''"`ー‐ヘj^‐'   ;;    ‐ -‐   _- ちょっくら
 - ‐_+      ;'"  ,;'' ,''   ,;゙ ‐-  ー_- ‐     JASRAC行ってくる
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id:imaiworks JASRACはヒール役が板についてるんだから、批判されて当然。プロレスみたいなものと思ったほうがいいのでは?w ところではてブコメントに歌詞つぶやいたらJasrac来ます?

そうそう、ブコメで歌詞を書いた人は数知れずいるでしょうが、削除の憂き目にあった人はたぶんいないですよね。それでもJASRACに問えば、Twitterはてなに変えた答えが返ってくるという話だと思ってます。

id:tatsunop 包括契約の推進は「金取れそうなとこだけ相手にしてる」的な気もするところ。昔は個人相手にも殲滅戦しかけてたけど。/ 徴収・分配方法と過度の権利拡大する動きを見てると、警戒されるのは当然という気も。

契約までこぎ着けられるのってやはり双方の利があるときだと思うんですね。なので、金取れそうなところで、かつ契約によって相手方にメリットのあるところ、じゃなければ契約までは行かないと思います。サービス提供者の側も、ユーザの行為を免責される条件がありますから、それに粛々と従うという選択肢もありますから。

警戒に関して言えば、正直なところ、こうしたキャッチーな話題にばかり向いてしまっているかなと思うところもあります。現在、「知的財産権の執行を強化するための新しい国際的な法的枠組」である模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement, ACTAの交渉が進められています。世界規模での著作権強化のためのポリシーロンダリングが密かに進められている、というところでしょうか。

この条約によって、日本を含む世界各国の著作権などの知財権執行が向こう数十年大きく変化するでしょう。変化と言うより大幅な強化ですね。ACTAに対する警戒は世界中に広まっていて、ACTAに関する唯一の情報源であるリークがあったり、国会議員欧州議会議員がACTAに対する懸念を表明したり、何か動きがあるごとに盛んに報じられています。でも、ACTA提唱国である日本では、ほとんど知られていませんよね。ACTA交渉の中身がこれまで2年以上にわたって秘匿され、公開されていないため、日本のメディアはほとんど報じてこなかったんです。「無名の一知財政策ウォッチャーの独言」さんはものすごいリソースを割いて、ACTAの情報を伝えてくれていますし、手前味噌ながら、私もACTAについてたびたび取り上げてきました。八田真行さんもACTAを問題視しその懸念をわかりやすく解説してくれています

でも残念ながら、ACTAへの懸念はなかなか共有されてはいません。八田さんの今朝方のTweetでは、

一昨日は@ tsuda @ himagine_no9 知財本部行って懇切丁寧に話をしたが、のれんに腕押しだったなあ。何度ACTAの話振っても華麗にスルーだったしな。

Twitter / Masayuki Hatta

MIAU(?)のアプローチものれんに腕押し状態。その一方で、その知財本部ではACTA批准後の下準備とも言える議論が現在行なわれています。こちらもあまり注目されていませんが…。「無名の一知財政策ウォッチャーの独言」さんの説明がすごく的確なので以下に転載します。

昨日インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループの第3回が開催された( 議事次第 参照)。その資料 事務局による論点の再整理について(pdf) に 書かれていることは、プロバイダーに無意味に責任を押し付け、その免責という形での、侵害行為を繰り返す利用者に対するサービスの停止(ストライクポリシー)や、迅速な削除の強制、裁判外での個人情報の開示、アクセスコントロール回避行為そのものの規制、規制対象となるDRM回避機器の「のみ」要件の、 主観的要件あるいは「主たる」、「専ら」といったより曖昧な形への拡大と、知財本部・事務局は、案の定、今の海賊版対策条約(ACTA)の条文案を完全に 意識し、危険な規制強化色を露骨に出して来ている。

第218回:新たにリークされた文書から見る模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に対する日本政府のスタンス(インターネット関連部分): 無名の一知財政策ウォッチャーの独言

この有様です。知財本部は華麗にスルー、ネットメディアを含めマスコミは報じない、となればもはやインターネットユーザが騒ぐしか手は残されていないのですが、実に面倒な話ゆえかなかなか周知されていないのが現状です*6ACTAに関しては、大幅に修正が効く時点を過ぎれはもう後戻りはできません。提唱国である日本は確実に批准しますし、その後、条約に合わせた法律が作られることになります。これを変えることはできないでしょう。そして、それがその後の未来のベースラインになります。

id:BLACKBIRD Webサービス運営者がDRMフィルタリングシステムや私的録音補償金の様なコンテンツ税を要求される法制度が整備される可能性は否めない

その法制度の整備もACTAの後ろ盾を得て、すんなり行きかねないなという懸念を持っています。

id:szks JASRACが言っているのは正論。現制度の下での正論が一般の感覚とずれてるってのが反発の要因だと思う。

そのズレをどう調整するか、という解が求められているのだと思います。JASRACはそのズレをプラットフォームと契約を結ぶことで解決できるという方針を持っていると感じました。原則としてはTwitterに対してもそのような方針で臨むという仮定の話をしたとき、ユーザ側は強い違和感を持った、ならばその違和感を解消するためにユーザ側の望む解を明確に表し、それを主張していかなければならないんじゃないかと思います。

たぶん、著作権ロビイストにも、行政にも、政府にもあまり期待はできないでしょうから。

id:I11 矛盾している。ケースバイケースなら「利用料の発生はケースバイケースで判断する」と書くべきで「歌詞をつぶやいたら、JASRACの利用料が発生する」と書くべきではなかった

ケースバイケースというのはあくまでも歌詞として認めうるか否かについてです。「書く」というか、ニコ生での質問に対する答えですから、生ものであり例外に至るまで全てを網羅するというのは難しかったと思います。ひろゆきもちょこちょこ茶々いれてましたし。あくまでも一般論であると私は解釈しました。その上で、当然引用は例外として認められうると考えています。ただ、それについて突っ込んだ質問が欲しかったなというのは前回のエントリの通りです。

id:mohno やっぱ一次ソースにあたらないとダメだな。「そう答える以外」<「利用料が発生する」じゃなく「短いからって許諾が不要とは限りません」くらいにしておけばよかったんだろうな。

そういう言い方でも良かったかもしれませんね。うろ覚えで申し訳ないのですが、そういうニュアンスのことも言っていたと思います。確認できる方に是非お願いしたいところです。

id:Nean うーん、めずらしくまったく納得できない。《著作権を信託されているJASRACであれば当然のスタンス》というのがそもそも虫歯になるほど甘い見方。尾崎豊の例も、その程度の言葉は当たり前の日常会話の水準!!

最近、虫歯ができちゃったみたいで冷たい水を飲むと染みるんです…というのは冗談ですが、尾崎豊の例はあくまでも、「○○」という一般的な言葉つぶやけば著作権侵害か!という難癖みたいな批判があったので、そういうのは該当しないですよ、という説明として必要だなって思ったんです。ああいう一文を書いたから即著作権侵害だとは思っていませんし、JASRACが今すぐにでも対処するような問題でもないでしょう。

ただ、そうした利用はいつまでもなぁなぁで済むものではない、と思っていて、結局はどこかでぶつかるものだと思っています。JASRACや業界団体は当然著作物の使用に該当する、と主張するでしょう。じゃあ、それに対してユーザ側はどう反論するのか、ということもきちんと考えていかないといけません。JASRACの言うことなんて相手にできるか、といったところで、ロビイストとしてのJASRACには政治力がありますし、著作権法の後ろ盾もあります。自分の利益は自分たちで守らないといけないんだと思っています。

id:z0rac この論評自体はその通りだと思うが、単に「歌詞」となると小説等の他ジャンルとの違いが気になる。JASRAC的には「関係ない」のも解るけど。バランスが悪い。

バランスが違ってしまうのは致し方のないところかなと思うところもあります。曲や歌詞は多数の人に使用されることを前提に、煩雑な処理を引き受けるJASRACという組織があるのだと思っています。一方で、小説の場合は、多数の人に使用される*7ことを前提とはしていません。あくまでも特定の相手と契約して、出版するというものだと思います。

id:degucho もうプロバイダと包括契約してネット上で自由にしてくれ

そういう考え方もあると思います。『デジタル音楽の行方』にある「水のような音楽」モデルに近いのかもしれませんね。

id:andalusia 大多数のCGM事業者は”自主的”にJASRAC包括契約を結ぶ。一部の結ばない事業者には、懲罰的にnoticeを出しまくって事務手続きコストを爆増させる。なんて世界が実現したら実質「コンテンツ税」とおんなじだよね・・・

不可能ではないのでしょうが、bot使ってもすぐにサスペンドされるでしょうし、やった側もかなりのコストがかかるんですよね…。JASRACならロビイングで解決しようとするんじゃないでしょか。

id:peppers_white 公的な機関として認められたければ収入と支出の詳細決算だせ。としか。/C・コモンズ流行らないかね、大企業と個人での取引にJASRACならともかく個人での付き合いにJASRACは作り手としてもお互い面白くない。

>C・コモンズ流行らないかね

自分が率先して探し、見つけ、使用したり広めたりするしかないですよ。個人的にはCCコンテンツは一生かかっても見聞きできないほどに流通していると思ってます。

id:vid 事実上JASRAC一社しか存在しない事が問題。そこに競争原理が事実として働いていない。包括契約は便利に見えるが、そのおかげで他の管理会社が入り込めない現実が発生済みだしな。

id:NotInEET さっさと諦めてないで、公取委はもっとちゃんと仕事しろよ

独占の問題はかなり難しいと思うんですよね。以前も書きましたが*8、ほぼ独占状態にある現状は絶対に改善されるべきだとは思っています。でも、公取委排除命令で解決できるわけでもなくて、問題の本質は、60余年にわたって著作権管理がJASRACの独占事業であり、その期間JASRACが培ってきた基盤や信頼はちょっとやそっとじゃ揺るぎようもないでしょう。たとえば、演奏権の徴収ネットワーク、他事業者が取って代わろうとすれば、使用料を上回る手数料が必要になると思います。ドラスティックに変えた結果、コストばかりが跳ね上がってしまっては元も子もありません。

結局、長期的なスパンで徐々に変っていくことを願うしかないんだろうなぁと思います。ではどうやって変っていくかといえば、権利者がイーライセンスジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)などの法改正によって新たに参入した事業者に管理委託するようになるしかないんですよね。

じゃあ、そのためにどうすればいいのか、ユーザは何ができるか、というと…難しいですよね。JRCはよりクリアな報告によってJASRACとの差別化を図っていますが、JASRACが不透明だというのと合わせて周知されなければ、これからも若い人たちの選択肢にはならないのかもしれません。じゃあ、JRCの実際のところはどうなのか、ということも広めて…、という感じで露出への協力ということもできなくはないかもしれませんね。それよりもあれかも、若手の作詞作曲家でもその周りにいるユーザでも、こうあればもっといいということを要望として投げかけていけばいいのかもしれません。何でもできるってわけじゃないとは思いますが、JASRACよりは遙かにフットワークは軽いんじゃないでしょか?

コメントしていただいた権については、JRC 荒川社長の記事がありますので、参考までに貼付けておきます。
JASRAC独占、なぜ崩れないのか――JRCの荒川社長に聞く (1/3) - ITmedia News

*1:「筋違いのこと」じゃなくて「筋違いなこと」だよね…

*2:数字の出し方が少しおおざっぱだという話は過去にどこかで見た気がします。今はどうか分かりませんが。

*3:調整なんかはあるんでしょか?

*4:ニコ動やYouTubeでもそうですが、使っただけ金がかかるような仕組みというのは積極的な使用を阻害するという可能性もあります。そういう点では、上限金額の意味合いでの包括契約も必要なのかもなと思います。

*5:まぁ、これがフィルタリングなどに使われると怖い気もしますが…。

*6:正直、素人の私が追うには限界を感じるほど面倒な話です。

*7:「読まれる」ではありません。たとえば、出版、オンラインでの公開など

*8:JASRACを批判するブログ書きへの批判」青臭くて今見るととても恥ずかしく思うのですが、JASRACの独占状態を改善すべき、という思いが先走りすぎた炎上狙いのエントリです。見事に空振りましたけどね!