著作権侵害の推定被害額ほどうさんくさいものはない

違法ファイル共有とか違法ダウンロードとかで、よく推定被害額が算出されてたりするんだけど、その算定方法がまちまちだったり、なんだかなーと思うものもあったりする。なんだかなーと思う原因も、算出方法によってまちまちで実状が掴みにくいからだったりもするんだけど。

確かに、勝手に使われた、ダウンロードされたってことで、イコール被害額だと考えられるのが著作権だったりもする。だから、推定DL件数×定価相当額(もしくは平均単価)で被害額を算出するのも間違いではない。ただ、価格ゼロと定価相当額とでは需要が全く異なってしまうわけで、そうやって算出された被害額を掲げてだから困ってるんです、といわれても実際の被害とまでは思いがたいなぁとしか思えないんだよね。

もうちょっとわかりにくいのは、2006年の「Winnyによる被害額は約100億円」という報道。これはWinnyネットワークにある(流通)=著作権侵害送信可能化権侵害)というものらしく、さすがにわかりにくすぎるなと思った覚えがある。正直、未だによくわからん。これは被害金額の算出方法というよりは、被害件数の推定方法の方に難ありという感じか。ちなみに、この調査での音楽ファイルの被害額の算出はJASRACの月額使用料換算で行なわれていたというのがほほえましい。CD換算、音楽配信換算にならなかったのはRIAJが参加していなかったから、かしら?

この手の算出方法に覚える違和感ってのは、逮捕された米国BitTorrentトラッカーEliteTorrent管理人の裁判で、裁判官が言ったように

RIAAの損害賠償請求に対して、裁判官は「ダウンロードできなければ被告が楽曲を購入するモチベーションを持ち得たことはあり得るが、1万曲以上の楽曲をダウンロードしたからといってそれがそのまま1万曲分の経済的損失につながったとする原告の主張は論理の飛躍」と判断した

IFPI Digital Music Report 2009:音楽ダウンロードの95%が違法ダウンロード、では損失は何%? :P2Pとかその辺のお話

みたいな感覚があるからだろうなと思う。

もう少し実際的な考え方としては、「lost sales」というものがある。これは、違法ダウンロードされなければ、実際に購入されていたであろう、収益になっていたであろう額。具体的には違法ダウンロード何件につき1件が損失だろう、といった感じ。その割合の根拠は?と、少しもやっとするけれども、推定DL件数×定価相当額よりは納得できる部分もある。

ただ、やはりそのレートで換算する根拠に乏しいこと、未来永劫そのレートが不変なわけではないことなど、問題がないわけではない。先日公表された調査でも、10件につき1件の損害というレートで失われたセールスとして、今後も違法ダウンロードが増加するという予測の下、そのレートでの被害額を算出していたが、娯楽にかける費用がそれほど変化しないことを考えると、レートは徐々に下がっていくように調整する必要があるんだろう。

他にも、米国のファイル共有訴訟では、法定損害賠償額に基づいて被害額が算出されている。レコード産業が訴えたケースなので共有していた1曲につき、なのだが、法定損害賠償額としては確か750ドル(約7万円)〜15万ドル(1400万円)×曲数になる。ジェイミー・トマス・ラセットのケースでは、1曲につき8万ドル、22曲について訴えられたので192万ドル(約1億8千万円)の支払いが命じられた。今年に入ってから、5万4千ドルに減額されたけれども。ちなみに、この法定損害賠償制度を日本にも導入しようとする動きが現在進行形であったりする。

といっても…

この方法でやれば万人が納得する被害額の算出ができるよ、というものがあるわけでもなく、納得がいかないなりにも道理には合っていたりもするので、それだけなら、なんだかなーで済む話。実際に被害がないとは言えないしね。

ただ、それがうさんくさくなってくるのは、*1その被害額をプロパガンダに、ロビイングに用いるっていう政治的な思惑があるからなんだよね。しかも、それが利害関係者が行なった、委託した調査となれば、はいそうですかとスルーするわけにもいかない。概して、被害は甚大であるというアピールのために行なわれる調査だし。その被害額を提示された側が、その算出方法まで疑ってかかることはなかなか無いだろうしね。

まぁ、ロビイストにとってはそれが仕事なわけで、淡々と自らの利益に繋がるように多少のバイアスをかけるのはしょうがないんだろうなぁとは思う。なら、おかしいと思ったら、そりゃおかしいよと言うってだけでさ。

追記

実際には、こんな風に使われているわけです。

第3回知的財産戦略本部 インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループでの、参考人 コンピュータエンターテインメント協会専務理事 堀越氏の冒頭の発言。

最新の状況については当協会において調査中でございますが、次のページから代表的な被害実態の一例をご説明申し上げます。

まず、被害実態の1−1、ファイル共有ソフトですが、こちらは2008年の8月10日、24時間、Winnyについてコンピュータソフトウェア著作権協会さんが調査されたものでございます。調査結果としては、ニンテンドーDSソフトの本数185万7,988本と。これでDSソフトのファイル数は約27万ファイルということでございます。1つのファイル上にDSのソフトを詰め合わせているものもあるため、ファイル名を目視にて確認して本数の算出をしております。これを市場価格に換算した場合、約59億円ということでございます。記載のとおり、当時のニンテンドーDSソフトの平均小売単価3,200円で計算をしております。
続きまして、被害実態の1−2、こちらはShareのほうですが、こちらは2009年8月23日の24時間と。こちらもコンピュータソフトウェア著作権協会さんが調査されまして、DSソフトの本数は約90万本ということでございます。こちらにつきまして市場価格に換算した場合、約38億7,000万円ということで、こちらの平均小売単価は4,300円となっております。
最後に、被害実態の2.違法ダウンロード数ですが、こちらは昨年の6月、海外のダウンロードサイト、10サイトを対象に任天堂さんが調査されたものでございまして、結果としまして、2億3,753万ダウンロード数ということになっております。こちらを市場価格に換算した場合は、全世界で1兆213億と、約214億ですね─という数字になります。国内では約2,648億ということでございまして、アスタリスクにありますように、小売単価は4,300円、それから国内につきましては全体の販売台数から国内比率で計算をしております。
冒頭申し上げましたように、私どもで最新の状況について現状調査をしているところでございます。

知的財産戦略本部 インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ

このトスを受けて、参考人 コンピュータソフトウェア著作権協会 事業統括部法務担当マネージャーの中川氏は

私のほうから、このような違法の実態にかんがみまして、アクセスコントロールに関して規制の強化というところを要望させていただければというふうに考えております。

知的財産戦略本部 インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ

と続ける(強調は引用者)、という案配。

*1:最後の裁判のケースは別として