10年後もレコード音楽のメインメディアが「CD」だと思う?
今の音楽産業が滅びつつあるという。正確にはレコード産業の主力、アルバムCDセールスの減少に底が見えない、とでも言うべきか。とはいえ、滅びるだの死だの扇情的な表現よりは、後退、もしくは過去の規模を維持できなくなりつつあるというイメージ。CDが売れなくなってきた原因についてはさまざま言われているけども、一番には90年代後半がバブルだったんだなぁと思っていて。
ただ、これからの問題として、環境が変わっていくことも重要なポイントだと思っている。環境といっても、一言で済ませられるようなものじゃないんだけど、その中でも、リスナーとレコード音楽への触れ方について大きな変化を迎えているなぁと思っているので、その辺について少し考えてみたい。特にライトリスナーの視点からレコード音楽とCD、それらを取り巻くリスニング環境について。
10年前は、CDやMDが音楽メディアの主流だった。CDを購入して、レンタル/友達から借りたCDをMDにダビングして、自宅ではCDラジカセやミニコンポで、外でポータブルMDプレーヤーやCDプレーヤーで再生していた、というのが一般的だったように思う。
それから10年、どのような変化を遂げつつあるのか。
音楽、ナニで聴いてる?
以前、日本レコード協会の2009年度音楽メディアユーザ実態調査の「普段利用しているオーディオ機器」の項目で、第1位がパソコンだったよ、というエントリを書いた。そのとき作成したグラフを以下に。
これに加えて、同調査では「音楽を録音する際の録音先」も聞いていて、そこでもパソコンがトップ。それにデジタル携帯オーディオ、CD-R/RWと続くが、いずれもパソコンを介していることからも*1、ほとんどの人が音楽をPCにストックしていることがわかる。
では、どういったソースから録音しているのか、という点も興味深い。
自分で買った新品/中古CDはパソコンや携帯オーディオに入れるためだとして、レンタルCD、友人・知人から借りたCDなど手持ちCD以外から録音したものは、何に記録しているのだろうか。これもやはりパソコン、携帯オーディオ、CD-R/RWなどに記録されているのだろう。間接的にではあるが、以下の2008年度調査のデータからは、携帯オーディオへの転送の割合が高いことが伺える。
デジタル携帯オーディオプレーヤーで聴く音楽の録音ソース
出典:日本レコード協会 2008年度「音楽メディアユーザー実態調査」
携帯オーディオへの転送のためにはパソコンで取り込む必要があるので、これも高いだろうと予想できる。では、CD-R/RWはというと…ちょっとわからない。ただ、以下の記事から推測すると、今後は減少していくんじゃないかなとは思える。
録音用CD-R、データ用CD-R需要も減少基調となっており、録音用では、2010年が前年比84%の1億7,700万枚、2011年が同84%の1億4,800万枚、2012年が同82%の1億2,100万枚。データ用では、2010年が同86%の44億1,600万円、2011年が同84%の37億3,100万枚、2012年が同84%の31億2,500万枚となっている。
JRIA、2012年までの記録メディア世界需要予測を発表 -AV Watch
ただ、世界規模の話なんで、日本で見たときはどうか、ははっきりしない点に注意。
散り散りになった音楽データ、どう聴かれてる?
購入したCDはCDというメディアのまま手元にあるかもしれない。でも、レンタル、借りたCDなどは別のフォーマットに変換され、データとしてパソコンやら携帯オーディオに納められている。
じゃあ、その変換された音楽データはどのように再生されているのか。パソコンについてはちょっとわからないのだけれども、携帯オーディオについては、2008年度調査になかなか興味深い結果が示されている。
デジタル携帯オーディオプレーヤー利用場面・利用場所
出典:日本レコード協会 2008年度「音楽メディアユーザー実態調査」
携帯オーディオを外出・移動中に利用するはわかるのだが、若年層で自宅での利用傾向が強いことが伺える。家にいるときも携帯オーディオで聴いているとは一概には言い難いが、主にヘッドホンで音楽を聴く人なら、あり得ない話でもないかも。もちろん、楽曲データを転送するために手にする、という意味を含んでいるのかもしれない。
ただ、家にいるときも携帯オーディオで音楽を聴く、という行為が最近ではそれほどおかしくもなくなってきているんじゃないかとも思っていて。
コンポ型ステレオの変化
私は家電が好きで、よく家電量販店に行くのだが、オーディオ機器の売り場もここ10年で、大きく変わったなと感じている*2。最も大きく変化したのは、ポータブルオーディオ機器で、それはもうデジタルオーディオプレーヤーばかりが並んでいる。特にiPodシリーズ。10年前の主力であったCDプレーヤー、MDプレーヤーはと言えば、もはや10年前のカセットテープのウォークマンと同程度の扱いを受けて、売り場の片隅に1つ2つこじんまりと置かれているだけ。
ミニコンポ売り場もここ数年で変化を見せていて、MP3フォーマットのサポートは当然として、iPodドック搭載のもの、USB入力ありのもの、DVD対応のものが前面に押し出されている。
この辺の変化については数年前から言われていて、ちょっと探して見つかった2006年の記事でも
オーディオ機器の市場規模は2000年に2419億円、2002年に1860億円と減少傾向をたどりましたが、2006年には1869億円、2007年には1875億円と復調すると予測しています。ただし、製品別の構成は大きく変化するでしょう。旧来のCD/MDミニコンポは減少する一方、主にフラッシュメモリを利用したデジタルオーディオプレーヤーが大きな伸びを見せるはずです。
ITmedia +D LifeStyle:ミニコンポの復権を目指して (1/2)
と、レコード市場の低迷と同様に、ミニコン市場も低迷していたことが伺えるのだが、それを打破するにはフラッシュメモリだ!と。
また、「デジタルオーディオ市場トレンド2009」によると
ほんの数年前オーディオ業界関係者の口をして「死んだ市場」と言わしめたオーディオ機器市場は、100年に一度と言われる未曾有の景気後退の現在(いま)図らずも需要市場の復活の兆しを見せはじめてきている状況にあります。それは決してiPodに代表される携帯デジタルオーディオプレーヤー製品市場の急速かつ大規模な需要市場の形成に牽引される形で、パーソナルオーディオ製品市場が旧世代のデジタルオーディオ製品から新世代のデジタルオーディオ製品市場へと需要の移行を推し進めることでデジタルオーディオ機器市場全体の市場規模を拡大させてきているということだけではなく、[…]
SHOP NS-Research その他
以下、コア層向けの製品の動向について書かれているのだがそれはさておくとして*3、「新世代のデジタルオーディオ製品」へとトレンドが移行していることが伺える。まぁ、調査そのものを見ないと判断できない部分もあるのだが、実際に売り場を見ていて、売れ筋というか、主力商品が変わったなという実感があったりもするので、その辺からリスナーのレコード音楽への触れ方について推測できる部分もあるかなとも思っている。
余談:iPodドック搭載コンポとか
iPodドックが搭載されているからといって、そのオーディオ機器でCD to iPodの転送ができるわけじゃないのは、さすがですねAppleさんというより他はなく、ほぼ再生の用途に限られているようだ*4。それでも、手持ちではないCDから転送した音楽を聴く分には役立つのだろうし、ともすれば、手持ちのCDでも探してプレーヤーにセットする手間が省けるという点でも便利なのかもね。
一方で、Sonyはウォークマンシリーズと連携したミニコンをプッシュしていて、こちらはCD to Walkmanの転送もできるようだ。自社製品間の連携を強化するという戦略は、こちらもさすがはSonyさんといわざるを得ない。どの程度需要があるのかはわからないが…。
他には、CDプレーヤーすらついていないドック兼アンプ内蔵スピーカーみたいなのもよく見かける。たとえばこういうの。
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パソコンとUSB接続して、データ転送なんかもできるみたいだから、結構便利そうではある。実際に、これ使ってる人はどんな感じで使っているのかな。勝手なイメージだけど、一人暮らしの大学生の部屋とかにありそう。
CDという媒体の価値
ここまでいろいろと書いてきたが、いいたいのは「もはやCDの時代じゃない」というわけではない。いずれの国でもパッケージの売り上げは低迷し、音楽配信は成長しているというだけでね。現に、米国を除くほとんどの国は未だCDの時代だよ。音楽配信がメインストリームになっているのは、米国と韓国くらい(詳しくはこちらの記事を。"2009年の世界の音楽産業動向 - longlowの日記")。
ただ、リスナーにとってCDという媒体がどういう存在であるのか、どういった価値を持つのかは、リスナーがレコード音楽をどのように再生するかを左右する重要なポイントかなと思っている。
すごい極端なことをいうと、CD買ってきてパソコンに入れて携帯オーディオに転送したら、あとはパソコンとか携帯オーディオだけで楽しめちゃう人がいたとして、その人にとってCDってもはやデータを中継するための媒体に過ぎないんじゃないかって思えるのね。
CDが変えたもの、CDから変わるもの
レコードからCDへのシフトでは、いろんなことが変わったと思うんだけど、ユーザビリティの面では、A-B面がなくなって、曲間の移動(スキップ)が極めて簡単になった。
ただ、それでもアルバムという概念はそのままだったと思う。1つの盤に1つのアルバム。一度セットしたら、しばらくそのアルバムの世界に入り込む。
CDから音楽データへのシフト、それが現在進行中なのか、オプションの1つになるのかはわからないけど、たとえばiPodが人気であることを考えると、やはりいろんなことを変えていって、リスナーのレコード音楽への触れ方を少しずつだけど、変えていくんじゃないのかなと思っている。
じゃあ、iPodで何が変わったかっていうと、曲間の移動だけじゃなく、アルバム間の移動が極めて簡単になった。もちろん、アルバムごとにインデックスされてもいるんだけど、フラットに並べることも、ランダムに再生することも、プレイリストを作成して好きな曲だけつなげることもできる。
そうした変化がすぐに我々の感覚として何かを変えてしまうとは思わないけれど、徐々に変化を、一番触れやすいかたちに流れていくようになってしまうんじゃないか、と。
アルバムCD、「アルバム」と「CD」
音楽データがCDに納められていることの意義が薄れ、アルバムというまとまりを持つことの必然性も失われてきている、今までのように「アルバムCD」が当たり前のものとして受け入れられ続ける(売れ続ける)とも思いがたい。いや、もう既に売れなくなってきてはいるのだが、「これまでの問題」というより、「これからの問題」という色彩が強いかなとは思う。
とはいっても、だから現状のPC向け音楽配信のような形態しかあり得ないんだー、とは思わなくて。今までは変化を受け入れろ、なんて思っていたけど、最近では、主体的に変化を作り出す、方向付けることも解決への道筋かと。ただいずれにしても、その時代時代に最も受け入れられやすいかたちで受け入れるなり作り出すなりして、レコード音楽を提供しなければ、やっぱりリスナー離れていくんじゃないかなと*5。
今はまだ「どうシフトしていくか」を考えられるけど、5年後、10年後にライトリスナーがレコード音楽とどう接しているか、というイメージのもとに戦略を練っていかないと、ただ減った減ったと嘆いても仕方ないんじゃないかな。Appleに恨み節吐いても、自分で絵を描かかず、他人に任せっぱなしじゃそりゃカモにされるわけでさ。
あとがき:ぼんやりした話かなぁ
今回のお話は自分でもぼんやりしてるなーとは思っている。でも、レコード、CD大好きな自分が、ここ数年でだいぶ変わってきてしまったなぁと思うところもあって、他の人もそういうところはあるのかな?という問題提起も込みで書いてみた。
具体的にいうと、手持ちのCDのほとんどはパソコンに取り込んであって、CDプレーヤーでよく聴く200枚くらいのアルバムCD以外は天袋にしまって、主にパソコンの音楽データで聴くようになってしまったからかな。ピュア・オーディオへのこだわりとかはなくて、普通のシステム・コンポだからかもしれないけど。もちろん、CDプレーヤーで聴いた方が気持ち良く聞こえはするけれど、スピーカーからそれなりの音を出す機会もあまりないし、あまり聴かないアルバムなら、パソコンに入れておいた方が聴く機会が増すだろう、と。現在の割合としては、Jamendoの音楽を良く聴くようになったこともあって、CDプレーヤー3、パソコンの音楽データ7、といった感じ。
そんな中で、CDという媒体のメリットって薄れてきたなぁと思うようになってきて。もちろん、アートワークとかライナーノーツとか込みで1つの作品って意味では、アルバムCDへの魅力は未だに感じるけども。やっぱり整理がついていないかも。
異論、反論、賛同などなど、何か思うところがあれば、コメント欄でもはてブでもTwitter(@heatwave_p2p)でも、是非聞かせてくださいまし。