TPP著作権関連:非親告罪化で何が変わる?〜ニコ生まとめ

11月7日、ニコ生にてクリエイティブコモンズジャパン・コンテンツ学会MIAU・thinkC ×ニコニコ動画TPPはネットと著作権をどう変えようとしているのか? 徹底検証〜保護期間延長・非親告罪化・法定賠償金』という番組が放送された。タイムシフト視聴したのだが、非常に興味深い内容だった。

出演は、福井 健策さん(弁護士、日本大学芸術学部客員教授)、津田 大介さん(モデレーター・ジャーナリスト)境 真良さん(国際大学GLOCOM客員研究員)、ジョン・キムさん(慶應義塾大学大学院准教授)、八谷 和彦さん(メディアアーティスト)。

多くの方に知ってほしい内容なので、ざっくりと圧縮しつつ書き起こし。今回は非親告罪化についての部分をば。タイムシフト視聴で見れる方は、実際に見てもらったほうが良いかも。なかなか楽しい番組だった。

あと福井さんの寄稿記事「TPPで日本の著作権は米国化するのか〜保護期間延長、非親告罪化、法定損害賠償 -INTERNET Watch」を事前に読んでおくと理解が早いと思う。

TPP総論

TPPで予想される知財の交渉項目(スライド)

  • 真正品の並行輸入に禁止権(4.2項)
  • 著作権保護期間の延長(4.5項)
  • デジタルロックの回避規制(5.9項)
  • 法定損害賠償制度の導入など(12.4項)
  • 非親告罪化(15.5(g)項)
  • 米国型プロバイダーの義務責任導入(16.3項)
  • ダウンロード違法化の全著作物への拡大(日米経済調整対話)

福井:
日米経済調和対話:米国側関心事項とリーク文書(the US proposal for the TPP IPR chapter)から読み取れる、おそらく米国が要求しているであろう項目。知財・コンテンツ流通を一変させる可能性が高い。過去、文化庁に委員会が立ち激論を繰り広げてきたような項目ばかり。著作権制度全体のあり方を見直す必要がある、というものまで。現実的にすべてが通るとも思えず、半分も通ることはないだろうが、どの項目をとってもかなりの影響がある。

疑問点(スライド)

  • なぜ、国内の知財・メディア政策を他国との交渉で決めるのか
  • 通常は、相手への要求(変えて欲しい制度など)があるから
  • 米国に変えて欲しい知財制度はあるのか
  • 国内の政治目標を「外圧」を利用して達成?

福井:
米国の海外からの著作権収入は年間10兆円。一産業で海外から10兆円はちょっとありえない規模。農業や自動車よりはるかに多い。対する日本は年間5000億円程度の赤字。

日米では置かれてる立場も文化も異なる。赤字だから守れというわけではないが、産業の戦略も当然異なって然るべき。日本の知財・メディア政策ならば、国内で日本、産業、社会にとって、どのような制度がベターであるのかを議論するのが本来。なぜそれを他国との交渉で決めるのか?

交渉であるからには、相手に変えて欲しいことは何なのか。日本には知財に関して米国に変えて欲しい制度は殆ど無い。(米要求が)日本にとって良いか悪いかは別問題で、日本にとって良いものならば国内の議論で変えればいい。そうでなくて、他国との協議において相手に要求するものがなければ交渉ではない。

なぜTPPに知財要求項目があるのか。国内で、ある政治目標を達成したい人が、TPPという外圧を利用して日本の制度を変えたいという思惑もあるのではないか。ポリシーロンダリングの可能性も。

津田:
役所の中で外圧を利用する向きはあるのか。

境:
ここ数年、多方面で日本の制度が変わっていない。(TPPで)持っていきたい向きはありそうだが、(日本から米国に要望させるということは)経緯的にもありえない。個々の項目については、使えるんじゃないかと思ってる多方面で人は少なくないだろう。

津田:
TPPをどう評価する?

境:
純然たる海賊版の問題、取締りの方法論については、TPPに近いもので良いかもしれないと思うところもなくはない。ただ、それだけで終わらないかもしれない。

たとえば非親告罪化。これまでコンテンツ産業の仕組みを研究してきて、クリエイターがプロに至るまでの経路、大成功したわけではないクリエイターの現状、コミケなどの小さな市場についてよく考える。2001年か2002年ごろ、コミケの米澤代表と話した。パロディ同人誌を作った人が逮捕されたポケモン同人誌事件の余波が続いていた。ディズニーを使ったゲームがあったが、事件の前後でキャラクターを使った同人誌の数が急激に変わったという。萎縮効果(chilling effect)があった。

これまでも色々なことがあったが、1つ1つについて微妙なバランスで成り立っているものに、TPPは新たな要素を挿入してしまう。日本がそれを受け取って咀嚼できるのかがわからないまま議論が進んでいる。イエスかノーかではなく、怖い。受けるなら、それを踏まえてどうするかという議論が必要。

キム:
(TPP議論について)第三者的に見て、全体的にナイーブ。もっとしたたかになったほうがいい。感情的な議論ではなく冷静に。

知財に関して米国からの要望はあるが日本からの要望がないとの指摘、これは全体にも当てはまる。かなりディフェンシブ。TPPという場を利用して日本の国益をどう増やしていくのかという議論が並行して行われるのが当然だが、TPPが外圧、侵略として捉えられているのが若干残念。

思想的には最終的に2つで、グローバル化に乗るのか、自己完結型でいくのか。この時のグローバル化はアメリカ化に近い。アメリカの要求事項は日本から見ればすべて理不尽。だが米国から見れば合理的。

米国GDPの6%がコンテンツ関連、70兆円くらいの規模。オーストラリア、台湾、オランダのGDPを超える。海外からの著作権収入だけでも10兆円。そこには他国のGDPを超えるくらいの利害がある。彼らは貿易の手段としてFTAやTPPを使って外国に圧力をかけて要求を飲ませる。だいたい飲ませている。一方で、韓国、シンガポール、オーストラリアなどは、最終的に自国の利益になると判断して米国とFTAを交わした。

先ほどの知財関連要求項目、福井さんは半分も通らないかもと言っていたが、韓国は全部通った。アメリカの要求をすべて飲んだ。TPPやFTA知財だけではなくて経済全体の議論。知財の中でTPPをどう考えるかという視点と、自分が首相になったつもりで国全体をどう持っていきたいのかという視点がある。後者では知財、情報通信の優先順位が(政策によっては)低くなる。

その他の分野、輸出中心の国ならTPP、FTAを歓迎する、内需手動の国は保護貿易路線をとる。韓国の選択は、知財は米国に譲り、自動車・電子は譲ってもらう。何を得て、何を取られるのか、内部でしっかり議論して交渉に望んでいくことが重要。だが(日本では)そこが停止しているのでは。

各論:非親告罪化について

非親告罪

  • 著作権侵害:「最高で懲役10年又は1000万円以下の罰金」など罰則
  • 著作権者が告訴しない場合、国は起訴・処罰できず
  • 導入論→「パロディや同人誌が萎縮する」と論争

福井:
警察としても毎回告訴を受けるのは不便なので、非親告罪にしたいという論はこれまでもあった。2007年頃にも、米国からの要望をきっかけに導入議論が起こった。当時、こんなものが導入されたら権利者は特に怒ってはいないのに逮捕者だけ出てしまう、パロディや同人が萎縮する、表現の自由の危機だという意見が出て論争になった。最終的には見送られた。

そして再び米国の要求事項に入ってきた、かなり有力な要求事項だと考えられている。

この問題の根底にあるのは、権利者、クリエイターが処罰を望んでいないのに、それでも国は処罰するのか、だとすると、著作権は一体誰のために、何のためにあるのか。著作権は個人のものだったはずだが、個人が望まないのに国が処罰することの意味が問われてくる。

同人やコミケを代表例として、許可を与えたとは大っぴらにはいえないが、強いて取締りはしたくないというグレーゾーンがある。この部分をどう評価するか、無くなってしまうのではないか、という議論とも結びつく。

津田:
なぜ非親告罪化が要求されているのか、というコメントが来ているがどうか。

福井:
国内では告訴の手続きが大変。告訴の手続きを経ないならば、普通に考えれば警察の摘発は増加するだろう。海賊版対策には役立つ。

キム:
あとは萎縮効果への期待もあるのでは。制度があるというだけで違法行為をしなくなる傾向は日本では強い。どれくらい行使されたかは別にして、そういう制度によってユーザ自身が自分の行動を規律する。

津田:
逮捕者がでると見せしめになってい減っていくんじゃないか、とも言われる。

非親告罪化と同人

津田:
非親告罪化が同人市場に与える影響をどう考えるか?

境:
いろいろ言われているが、同人市場は少なくとも数十億から1,200億くらいの規模だと言われている。

その市場がどのように機能しているか。中堅作家の補完的な収入など産業的な側面もあるし、同人から産業界、作品作りに入る人たちの表現の場でもある、出版社によっては新人を発掘したりすることもある。

そこには作家のインキュベーション、場所の機能がある。ニコ動にもそういう要素はあるし、音楽で言ったらコピーバンドもそう。「学び」という言葉は「真似び」の延長であるともいわれているように、最初は真似から入るところもある。

それが一様に禁止されてしまうかもしれない。しかし、角川や赤松先生のように、大っぴらに使ってくれていいという意思表示もある。プロモーション効果もあるし、自分たちの前で新たなフュージョンが起こることを楽しむという部分もある。意思表示の例もある中で、そのような意思表示があってもなくても逮捕されてしまう仕組みになる。本末転倒。

(権利者側も)ダメとは言わない、(同人側も)ちょっとした後ろめたさを抱えつつやっているという微妙な感覚、距離感がある。だからこそ膨らんでいる。ダメとは言わずに見ていて、うまくいったら乗っかって、自分たちも新しい創作をしてやろうというクリエイターたちがいる。こういう感覚は「取り締まればいい」という議論では飲み込めない話。

米国のものだけ取り締まって、国内のものは見逃すという運用をすればよいのかもしれないが、そのような運用を警察や当局がしてくれる保証はどこにもない。最悪のケースを想定せざるをえない。

市場がどれくらい縮小するかということではなく、今あるクリエイターや企業のエコシステムにかなりの影響が及ぶことを懸念している。

非親告罪化とフェアユース

津田:
「本当に悪質なものだけ取り締まればいいじゃないか」というニコ生コメントに対して「悪質さの基準は人によって違う。」という反論も。警察がパロディ、パスティーシュの基準を決めることになってしまう。

境:
パロディならいいという法律は日本にはない。フェアユースもない。米国には登録制やフェアユースがあるからバランスがとれている。非親告罪化だけを部分的に取り入れても…。

津田:
TPP知財関連議論で重要な点、厳しい著作権保護を要求する米国は、一方で消費者保護も強い。たとえばAppleのジェイルブレイクを合法とした判断やフェアユースなどバランスがとれている。日本はそういう安全弁がないのに、厳しくしようという方向に向かっている。

境:
日本は訴訟するか否かの判断を権利者に委ねて、コミュニティ的にバランスを作っていたことが大きかったのではないか。

福井:
(日本では)フェアユースがない代わりに、グレー領域、グレーゾーンがその役割を果たしていたことが大きかった。

津田:
コミケが巨大なフェアユースの実験場だった部分もあるかもしれない。非親告罪になれば、権利者がスルーしても、恨みを持つ第三者からの通報によって逮捕ということもありうる。通報厨の問題も大きくなる。

八谷:
その判断を警察がするのは怖い。たとえばエロなどがあれば基準はとたんに厳しくなりそう。コスプレも場合によっては、クリエイターではなく警察がダメといったら逮捕されてしまうかもしれない。今まではグレーゾーンがあって、権利者が判断するという建前があったのに、非親告罪化だけ入ってくるのは怖い。

先ほどフェアユースの話があったが、米国フェアユースの事例を紹介したい。クリスチャン・マークレー『The Clock』という作品がある。たくさんの映画の中から、時計が写っている映像を抜き出して、24時間を再構成し、リアルタイムで上映するという作品。製作期間は2年、3000もの映画から抽出した。今年のヴェネツィアビエンナーレ金獅子賞(最高賞)を取った。

確証はないが、おそらく権利処理はなされていないだろう。作品も多く、世界中の作品があって許可をとりようがないと思う。米国では、著作物をアートの作品に使う場合、フェアユースの要件を満たせば自由に使うことができる。

具体的には、営利目的かどうか(海賊盤はNG)、単なるコピーではなく新たな価値が生み出されているか(トランスフォーマティブ)、利用された部分の量はどうか(1本全部ではなく3000本から1分ずつ)、この作品によって原作品の利益を損ねないか。明確な基準はないが、社会的に合意ができてきて、海賊盤に対する非親告罪が成り立っている。

日本では、グレーゾーンなどがあってあまりひどい事にはならずにきたものを、米国著作権法の中でも一番ひどいものだけを持ってこられても、文化へのインパクトが大きいのでは。逮捕されると思うと、コミケで出している人が萎縮する。

キム:
米国は著作権保護一辺倒というわけではなく、フェアユースのような利用者保護もある。米国の著作権制度は実用主義財産権を扱っている。日本や欧州では財産権であると同時に人格権でもあり、私的な権利でもある。(そのような違いから)米国では非親告罪に対して抵抗がないし、弊害を是正する手段としてフェアユースもある。

親告罪の日本では、コピーされることのプラスかマイナスかは権利者が決める、警察が決めることではない。場合によっては無許諾で使ってもらう方が評価が高まる場合も考えられる。育成の場という観点からも、新人が育ってくれれば出版社の利益にも繋がる。抽象的な慣習として解決していたところもある。

そこに非親告罪化だけが入ってくると、一方だけの傾向が強くなる。落とし所としては、非親告罪化とフェアユースのセットで同時に導入という選択肢もある。だが、米国型の実用主義への制度転換も考えないといけなくなる。

津田:
非親告罪化は別件逮捕の口実になるのでは?」という意見と「知財事件は告訴がないと警察も扱わないでしょ?」という意見、正反対の意見が寄せられているが。

福井:
別件逮捕については、可能性はあるとは言えるが、どれくらい起こるのかはわからない。

後者については、ある。警察は摘発している。摘発*1したので告訴してくれという要望も。ネットでも売買は捕捉しやすいから。確実に起訴、有罪に持っていければポイントなので警察がやる動機はある。客観的にみて動機があるだろうという意味で、警察を責めているわけではない。

さっきの『The Clock』はフェアユースでやっただろうと思う。仮に3000作品の許可を取ったとしたら、二度とやりたくないくらいコストがかかっただろう。音楽のサンプリングでも、許可を取ったはいいが使用料が高すぎて二度とできない、ということも。

津田:
NHKアーカイブスも大変なコストがかかっていると聞く。出演者全員の許可が必要だと。

八谷:
では日本にも非親告罪化とセットでフェアユース導入の可能性はあるのか?

福井:
フェアユース規定は、二次創作全般について何でも許すわけではないが、それなりにバランスのとれた基準。権利者に実害がない範囲で使用できる。さらにフランス、スペインはパロディ規定、二次創作規定があるから、それをクリアすれば使える。

米国は自国の著作権制度を他国に押し付けるが、1つだけ輸出しようとしないものがある。それがフェアユース

キム:
フェアユースについては要求する相手が違う。(日本から)米国に要求する性質のものではなく、文化庁や国内の政治家に、非親告罪化するならフェアユースを導入しないとバランスが取れない、と要求すべきものだと思う。

ここでまだ議論にあがっていない重要な点として、すべてのコピーに対して非親告罪化せよというわけではなく、「commercial scale(商業的規模)」という基準が付いている。その範囲において非親告罪を適用しようとしている。ただ、commercial scaleの基準があまりに曖昧で、そこが問題になっている。

津田:
コミケで『ワンピース』の同人誌を出すとなると、商業的規模ということになって適用されるのでは。

キム:
かもしれない。

福井:
補足。米国が輸出しようとしている非親告罪、TPPの要求項目では「非商業的なものを除く」という文言がない。米国内の制度では良いのだろうが、そのまま取り入れてしまうと、日本には非商業的なものを刑事罰の対象にしないという規定がないので、非商業的なものにも適用されてしまうのではないか。

キム:
米韓のFTAでは、商業的規模という基準を導入することで合意した。

津田:
韓国では、FTA非親告罪化したことで、一般ユーザの通報厨による通報が頻発して、個人ユーザの逮捕や損害賠償が増えていると聞くが。

キム:
韓国は制度としては導入することを決めているが、すべてのエンフォースメントについて非親告罪を適用しているかというと、実例としてはまだ少ないと思う。

境:
ここの議論では、誰も商業的作品のデッドコピーには賛成していない、むしろ摘発してくれという気持ちがある。ここで共有されているのは、二次創作についてもっと考えてもいいんじゃないかという考え。

デッドコピーと新たなクリエイションとしての二次創作、その違いはフェアユースでは守られていているが、日本ではあまり守られてはいない。だがその違いは大事。

キム:
非親告罪化、保護期間、法定損害賠償、すべての問題に共通しているが、米国側の要望はあるにしても、我々がローカライゼーションを見越した要求をし、導入に際してもどうすればよいかを考えねばならない。日本の文脈での『同人』は、米国のそれとは全く異なる。それを大事な文化、未来の二次創作であるという風に捉えたとしたら、交渉に入れていく、変えていくことができると思う。だがそういう議論が行われているのか。

津田:
Twitterより、ワンフェス(当日版権)はどうなるのか?という意見。会場に警察が乗り込めるのでは?

福井:
ワンフェスは明瞭に許可を出しているので、著作権侵害にはならない、非親告罪化しても逮捕はされない。問題になるのは、はっきり許可を与えたわけではないが、何となく処罰まではして欲しくない、というグレーなところ。

境:
ワンフェスは法的にはクリアだけど、許可を出している相手がいて、許可された場でしかできない。

キム:
慣習的には認められてきたのだから、同人側で協会を作って権利者たちと期間限定版権的なシステムを作っていく交渉もありでは?

境:
そういうシステムもありかも知れない。

八谷:
そもそも日本でフェアユースを作れるのか。米国はゆるく作っておいて、裁判で固めていく。日本は法律であらかじめ細かく決めるが、フェアユースはそういう法体系になじむのか。

福井:
国内でもフェアユース導入議論はある。激論で反対意見も多く、どんどん狭められて、背景の映り込みをクリアしましょうとか、それはフェアユースじゃなくてもいいんじゃという程度に。(津田:フェアユースとは言えない個別の制限規定が増えただけ。)それですら反対されている。

はじめから細かく規定するのであれば、そんなのはフェアユースではない。予想しなかったものが生まれてきたときに、そこから法律を作っては間に合わない。フェアユースは公正だと思われる大きな準則にしたがって、「とりあえずやってみる」をできるようにする。それを不公正だと思う人がいたら訴えて、裁判の中で結論を出しましょうというもの。

津田:
使い古された2ch用語で言えば、おkだろjk(常識的に考えて)というものはおkにしましょうと。

キム:
グレーの中から白を作り出すのがフェアユース

福井:
だが日本にそのまま導入される可能性はない。

境:
たとえ日本に導入されたとしても、裁判所がそんなに早くホワイトな判断をしてくれるのか。裁判所の判断は時間がかかる。そこが悩みどころ。

キム:
判例の蓄積によって安定性が担保されるのがフェアユースなので、最初の数年間は不安定、不確定な状態が続く。

境:
そこは英米法系と大陸法系の違いも関わってくる。

ここで非親告罪化の導入についてアンケート。結果は賛成5%、反対80%、わからない15%。

番組後半、非親告罪化についての質問があった。

質問
現状でも特許権意匠権、商標権は非親告罪となっている。それで問題はないのに、著作権はなぜ問題なのか。節度ある運用ならば問題ないのでは。

福井:
著作権には登録が義務付けられていない。世の中にどんな著作物があるかを調べたり、その著作者に連絡をつけることはかなり困難。さらに数が全く違う。その人の個性が表れたような表現ならばすべて著作物。誰しもが1日に1つ2つは生み出しているもの。我々の周りは著作物だらけ。数も多く、登録制度もない、連絡もつけづらいものを非親告罪とするのと、登録制度もある、数も少ない、連絡も取りやすいものとでは、インパクトは全く異なる。

捕捉

上記放送中の発言について、少し説明があったほうがよいかなと思った部分について捕捉をば。

非親告罪、TPPの要求項目では「非商業的なものを除く」という文言がない

米国著作権法においては、非営利目的での著作権侵害に対する刑事罰の対象は、日本に比べて極めて範囲が狭い。それゆえ、日本が非親告罪を限定なく、ないし緩い限定で導入した場合、米国に比べてより広範囲に刑事摘発可能になる。米国では一般ユーザによる軽微な著作権侵害は民事上の問題として処理されるが、日本では民事、刑事双方の責任を負う。登録制やフェアユースの有無に加え、刑事罰の対象が異なる日米では、非親告罪化の影響は大きく異なるだろう。

commercial scale(商業的規模)

非親告罪の対象を限定する「commercial scale(商業的規模)」であるが、キムさんが指摘するように、その定義はよくわからない。

日本における過去の非親告罪化議論においても、この「商業的規模」を基準として導入しようという動きがあった。2006年の知的創造サイクル専門調査会の資料(16頁)において

著作権等侵害のうち、一定の場合について、非親告罪化する。
「一定の場合」として、例えば、海賊行為の典型的パターンである営利目的又は商業的規模の著作権等侵害行為が考えられる。
営利目的の侵害行為は、その様態から侵害の認定が比較的容易であるとともに、他人に損害を与えてまで金銭を獲得するという動機は悪質である。また、営利目的ではなくても、例えば愉快犯が商業的規模で侵害を行った場合には、権利者の収益機会を奪い、文化的創造活動のインセンティブを削ぐなど、経済的・社会的な悪影響が大きい。

www.知的創造サイクルに関する今後の課題(PDF)

と説明されている。ここでの説明を見るかぎり、営利目的ではなくとも要件を満たしうることがわかる。少なくとも、愉快犯が含まれる程度には基準は緩そうなので、それなりの範囲をカバーするのではないだろうか。

なお、この知的創造サイクル専門調査会において、中山信弘委員は親告罪の導入について以下のように述べている。

 親告罪なんですけれども、これはちょっと考え直す必要があるのではないかと思います。ただ、結論的に言いますとどちらに転んでも社会はそれほど大きく変わらないだろうと思います。特許権は先年、これを非親告罪にしたわけですけれども、非親告罪にしたから何か変わったかというと全く変わっていないんです。というのは、強盗や殺人ですと警察がすぐ動いてくれますけれども、知的財産権侵害というのは基本的には民事の話ですから、うっかり警察が動くともう民事はすっ飛んでしまいますから民事不介入が大原則で簡単には動いてくれません。親告罪にしようが、非親告罪にしようが、ちゃんとした証拠を持っていて、こうこうこうですということを言わなければなかなか動いてくれないので、実際はほとんど影響ないのかなという気はいたします。
 ただ、著作権は特許と比べますと侵害の範囲が広いというか、あいまいな面が多いわけです。翻案などがありますから、どれが侵害かわからない。窃盗などの場合は窃盗犯は自分は窃盗をやっているということがわかっているわけですからいいんですけれども、侵害かどうかわからないというときに、しかも第三者が告訴をして、仮に警察が動いてしまった場合にどうなるのか。権利者の方は、これは黙認しようとか、まあいいやと思っていても、実は第三者が告訴をするという場合もあり得るわけです。特に著作権は近年では全国民的に関係を持っている法律になってきましたので、こちらの方は特許とはまたちょっと違って場合によっては弊害が生ずる可能性もあるのかなという気がいたします。
 確かに親告罪だと6か月という制限はあるわけですけれども、別に告訴をしておいて後から証拠を出してもいいわけですし、知的財産の場合はそれほど大きな問題はないのではないかと思います。それよりもむしろ何かマイナスの効果の方が大きいのではないかという気がいたします。以上です。

(中略)

関連で、今ここで大いに問題になっている海賊版ですね。これだけ考えると、私も久保利先生などがおっしゃるとおり(引用註:海賊版の摘発に効果がある)と思うんですけれども、微妙な事件がある。日本ではまだパテントマフィアみたいなものは余りいないんですけれども、著作権の場合はパテント以上に、先ほど言いましたようにあいまいなところがあるので、非親告罪にするともしかすると変なところで変なことが起きるのではないか。そちらの懸念がちょっとあるということをもう一度申し上げたいと思います。

知的創造サイクル専門調査会(第8回)議事録
グレー領域

福井さんが「(日本の同人界隈の発展は)フェアユースがない代わりに、グレー領域、グレーゾーンがその役割を果たしていたことが大きかった」とおっしゃっているが、これについては、福井さんの著作『著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」』をご参考に。

終わりに

番組中でも少しふれられたが、非親告罪化によって別件逮捕はありうるのかという点は、私も懸念しているところ。短期的にというよりは中長期的に、いずれありうる問題だと感じている。次回は別件逮捕的な運用がありうるか、というお話をこれまでの事例から考えてみたい。

*1:筆者註:「発見」ないし「捜査」だろうか?ファイル共有における著作権侵害事件では、警察のサイバーパトロール中に発見された著作権侵害について、権利者に報告し告訴を受け摘発というケースは珍しくない。