mora win終了のお知らせ:DRMと音楽配信サービスの死

2004年10月にスタート*1したPC向け音楽配信サービスmora winが、2012年3月29日を持ってサービスを終了する。

mora winはなくなるけど、moraは継続し、そちらの注力していく、と。現状を考えるとそうせざるを得ない、というところだろうか。DRM/フォーマット戦争の夢の跡とでもいうか。

moraとmora win

そもそもなんで2つに分かれてるの?と疑問に思われる方がいるかも知れないので、元にその辺りの話から。

moraもmora winも、ソニーを中心に日本の音楽レーベルの出資により設立されたレーベルゲートという会社が運営している。当ブログ読者の方にとっては、ソニーが出していたコピーコントロールCD(CCCD)のレーベルゲートCDでもお馴染みかもしれない。レコード会社主導の音楽配信という点では、前回取り上げたレーベルモバイルの話ともつながる。

さてさて、同じ会社なのに、なんで似たようなサービスを2つもこさえたのかというと、それぞれ扱っているモノが違う。扱っているカタログ(曲目)はほとんど一緒だったろう。ただ、フォーマットとDRMが違った。

moraでは、ソニー独自のオーディオ・フォーマットATRACソニー独自のDRM OpenMGが採用されている。一方、mora winでは、マイクロソフトのオーディオ・フォーマットWindows Media Audio(WMA)とMSのDRM Windows Media DRMが採用されている。これがmoraとmora winという2つのサービスが必要とされた理由。フォーマット/DRMごとに、それぞれに対応するデバイスごとに、別の配信サービスが必要とされた。Walkmanau携帯ならmoraを、iriverやCreative、東芝製プレイヤードコモ/ソフトバンク携帯ならmora winを、という寸法だ。

一部のハードウェア/ソフトウェア・メーカーにとって、この覇権争いは重要だったが、ユーザにはかなりどうでもいい話で、不便を押し付けられる格好となった。別にソニーだけをDISっているわけではなくて、最近DRMフリー化したAppleもかつては独自のDRM FairPlayを採用し、また未だにiPod/iTunesにおいて他のDRMを受け入れてはいない。

mora winの終了

iriverやCreative、東芝などWindows Media DRMを採用するデジタル・オーディオ・プレーヤーはついに芽が出ることはなく、ドコモ/ソフトバンクにおいてはレコチョクの着うたフルが人気を集め、対応携帯もmora win公式サイトで2008年秋冬モデル以降の更新もない状態。もはやWindows Media DRM対応デバイス向けのmora winの必要性はほとんどなくなっていた。そうしてmora winの終了ということになったのだろう。

mora winユーザはどうなるの?

結論から言うと、今後mora winで購入できなくなる以上のデメリットはない。元々のサービスがひどかったんだから。

mora winで購入されたデータは、対応機器への転送以外には、第一世代のコピー以外は再生できない。要は、購入したPCでしか使えず、Windowsを再インストール/アップグレードしたPC、新規購入したPCへの移行はできないWindows Media Player 10ではライセンスのバックアップ機能があったのだが、WMP11以降、この機能はなくなり、コンテンツプロバイダ側の対応が必要となった。ただ、mora winが対応することはなかった。

では、mora winユーザがWalkmaniPod、その他非Windows Media DRMバイスへの乗り換え、PC環境の変更等をしたい場合、どうすればいいかというと、いったんCD-Rに焼いてリッピングという随分と回りくどい手段に頼るしかない。

お金を出してたくさん購入したユーザほど馬鹿を見る、という仕組みにしか見えない。(実際にいるかどうかはわからないが)100枚アルバムを購入したユーザがこうした事態に直面すれば、100枚CD-Rを焼いてリッピングしなければならない。幸いにして私はmora winを使うことはなかったが、このような目にあってなお同じサービスは使おうとは思わないだろう。

mora winがサービスを終了する直接の理由としては、対応機種がなくなったことが大きいとは思う。だが、このようなユーザの利便性を全く無視したサービスでは、ユーザが根付くことはなく、遅かれ早かれダメになっていたことには変わりないだろう。手足を縛られた状態で、よくここまで続けられたものだ、とも思わないでもないが。

余談

今回はmora winの話だけれども、moraであれば、x-アプリやSonic Stageのバックアップでライセンスの移行もできるそうです。お間違えのなきよう。

ただそのmoraでも、AppleiTunes in the Cloudのようなシームレスな再ダウンロードはできず、購入した端末で1ヶ月以内の再ダウンロードでなければできない。この辺りで一歩先を行ければ良いのだけどもね。

*1:開始当時は「MusicDrop」