意訳か誤訳か:CNET Japan翻訳記事タイトルの原典とのズレを考える

以前に紹介した以下の記事

Blu-ray vs. HD DVD: I don't care who wins! | Perspectives | CNET News.com

CNET Japanで翻訳され、公開されている。

HD DVD陣営よ、引き際を知れ--消費者のために規格戦争の早期終結を:コラム - CNET Japan

で、その翻訳記事に対して、はてブ上で指摘されている点が興味深い。

id:ropebreak ことば "Blu-ray vs. HD DVD: I don't care who wins!"がなんでこういうタイトルに翻訳されてしまうのか。東芝朝青龍?亀田?エリカ様?

id:zaqqwez 完全な誤訳、Blu-ray vs. HD DVD: I don't care who wins!をどう訳せば「HD DVD陣営よ、引き際を知れ」になるというのか、翻訳校正を行った矢倉美登里と高森郁哉は猛省すべき。あまりにもひどい。

id:justsize これはひどい, 情報リテラシー 他の方も指摘してるけど訳が「Blu-ray vs. HD DVD: I don't care who wins!」→「どっちが勝つとかそんなのに興味はない。」じゃない?表題は意訳としてはありだけど、「敗者は負けを認め早期一本化を図れ」くらいで留めるべきかと

確かに私もそう思った。筆者であるCharles Cooperは顔がいかついので、あぁあの記事を書いた人か、ってすぐわかったんだけど、それと同時にこんなタイトルじゃない、ってのも思い出した。
もともとのタイトルは、"Blu-ray vs. HD DVD: I don't care who wins!(どっちが勝つかなんてどうでもいい!)"というものだったんだけど、私はタイトルから勝手に「だってネットワークが勝利を収めるのだから」という方向の話かなと思いながら読んでいた。実際の議論はそれとは違っていて(だからよく覚えていたんだけど)、エンドユーザにとってHD DVD or Blu-rayの優劣は、性能の差なんてよくわからなくて、結局は継続して利用できるかどうかで決まるんだ、という感じで、現状はほぼBlu-rayの勝利に傾いているのだから、HD DVDはエンドユーザの求める「継続して利用できるフォーマット」を提供するために、潔く引き下がるべきだろうという感じの主張をしている(この点に関しては、ユーザにとってのフォーマット争いはデメリットでしかない、ということを指摘することで暗に示している、という感じ)。ただ、筆者が強調したかったのは、これはポジショントークではない、ということだろう。それがタイトルに現れたんだと思う。
翻訳記事のタイトル「DVD陣営よ、引き際を知れ--消費者のために規格戦争の早期終結を」も話の骨子としては大幅に逸脱したものではないと思う(もちろん、id:justsize氏の言うように、もう少し著者のスタンスを反映したもののほうがよいとは思うけど)。一方で、原典となった記事が、タイトルを読んだときの読み手のファーストインプレッションと対応しているか、というとそうでもない(少なくとも私にとっては)。むしろ、翻訳された記事のタイトルのほうが、よっぽど内容に対応している。おそらく翻訳公正を行った両名は、そのあたりを悩んだのではないだろうか。また、記事を日本向けに編集するということは断っているし、原典へのリンクもなされている。

この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。

HD DVD陣営よ、引き際を知れ--消費者のために規格戦争の早期終結を:コラム - CNET Japan

だから、編集の範囲として、タイトルの変更もあるというのは理解できなくもない。
ただ、原典の記事のタイトルは、筆者のポジション(つまりポジショントークではないこと)をまず第一に表明するという点でつけられたのだと思う。これまでのような提灯持ちのポジショントークではなく、一ユーザの意思としてHD DVDに撤退していただきたい、それを明確にしたかったのだろう。その点では、翻訳記事のタイトルは、それほど筆者の表明を反映してはいない。
なかなか難しい問題で、翻訳側の意図も、指摘側の意図もわかるがゆえに、どちらが正しいとは判断しがたい部分もある。
ただ、CNET Japanの翻訳記事のタイトル、という点では、先日もっと気になった記事がある。

「勝者はBlu-rayでもHD DVDでもなく、ハードディスク」--シーゲイトCEOが発言:ニュース - CNET Japan

この記事も原典のタイトルとは異なるタイトルがつけられている。おそらく、翻訳記事のタイトルは原典の冒頭の部分からつけられているのだと思う。

The winner in the Blu-ray and HD DVD war is the hard drive, according to Bill Watkins, CEO of Seagate Technology.

Seagate CEO: Blu-ray won the battle but lost the war | Tech news blog - CNET News.com

だけど、この記事の中でBill Watkinsの発言としてこの辺について明記されているのは、

"People are saying Blu-ray won the war but who cares? The war is over physical distribution versus electrical distribution, and Blu-ray and HD lost that," he said during a breakfast meeting at the Consumer Electronics Show here this week. "In this, flash memory and hard drives are on the same side. The war is over and the physical guys lost."

という感じで、ハードディスクが"electrical distribution"サイドにいる、つまり勝利者サイドにいることを暗に示している程度のものだと思う。ユーザとしても、サービスプロバイダとしても(エンタメコンテンツ提供だけではなく、クラウドコンピューティングなどが更に促進するだろうし)より多くのストレージを必要とするのだから、ストレージが勝利者サイドにいる、という意見は理解できる。
ただ、翻訳記事のタイトルだと、Bru-ray、HD DVD、ハードディスクの三者しか明示されていないので、読み手としてはその三者の三つ巴のように思えてしまう。実際にBill Watkinsが言いたかったのは、この戦争は本当は"physical distribution versus electrical distribution"としてみるべきなんだよ、というところにあるんじゃないかと。
むしろこの場合は、原典のタイトル"Seagate CEO: Blu-ray won the battle but lost the war"というほうがしっくり来る。もちろん、翻訳が難しいところではあるけどね。意味合いとしては「Blu-rayは戦闘(規格争い)には勝った、しかし戦争(次世代流通)では敗者だ」って感じかな。
記事タイトルと本文内容との対応、それが少しずれているような記事を翻訳するときの葛藤、より人を引き付けるためのタイトル、色んなものが絡み合っているのかなぁと思う。ただ、一番大事なのは、タイトルは内容を逸脱してはいけない、ってことかなと思う。"Blu-ray vs. HD DVD: I don't care who wins!"の記事の場合は、原典も翻訳記事もそのタイトルは内容を逸脱しているものではないと思う。ただ、"Seagate CEO: Blu-ray won the battle but lost the war"の記事は、原典のタイトルは理解できるけれど、翻訳記事のタイトルは逸脱があるのではないか(原典記事には即しているが、果たして事実に立脚しているのか)という点で疑問が残る。
そんな風に考えちゃうのも、自分が常日頃、ブログエントリのタイトルをどうしようか考えているから、ってのもあるんだよね。こういう問題が、他人事ではなく、自分自身のその当事者だって感覚もあるし。もちろん、ニュース記事として翻訳構成するほうが遥かにシビアだとは思ってるけどね。
(追記)

Wiiが話題の中心だったE3。しかし、盛り上がりはいまひとつだったという、思わず首をかしげるような記事が出てきました。しかし、これ、ものすごく不自然な記事だったのです。

CNET日本語版の記事では、一部のPS3のソフトとXbox360のソフトが注目を集めただけ、みたいな形でかいてありますが、あれだけ話題だったWiiの記述が全くかかれていません。あまりに変だったので、思わずすぐに海外版CNETを見てみました。すると驚愕の事実が。

E3が閉幕--2006年の盛り上がりはいまひとつ - CNET Japan - わぱのつれづれ日記

このエントリがどの程度真実味があるかどうかはわからないけれど、気になったので追記にて紹介しておきます。