ファンはMySpaceよりWikipediaにアーティスト情報を求める

PC WorldによるとWeb上でアーティストについて調べる際、人々がアクセスするのは主にアーティスト公式Webサイト、Wikipedia、そしてMySpaceだという。そして、その順番に。
アーティストやそのマネジメントが公式サイト、MySpaceに注力する一方で、Wikipediaに対してはそれほど注意が向けられてはこなかった。しかし、YahooがBillboardに提供したデータによると、アーティストの情報を検索するユーザはMySpaceページに比べてWikipediaページを選択するとのこと。さらに、Wikipediaページはアーティストの公式サイトよりも人気があるらしい。
一方、プロフィール数はMySpaceでは300万のアーティストのプロフィールが掲載されている一方で、Wikipediaでは数万程度と見積もられている*1
こうした状況を生み出している理由の1つには、MySpaceが盛んに自らを宣伝している一方で、Wikipediaはそういった広報をほとんど行わない*2。そのための、それがいかに有効であるかについて、アーティストもマネジメントも知らないのだ、ということもいえる。
また、もう1つの理由としては、たとえWikipediaを知っていてもそれは宣伝には使いにくい、ということを理解しているとも考えられる。たとえそれを宣伝のために利用しようとしても、利用者にとって不適切な表現であると認識されれば、熱心で厳格なボランティアによって訂正されてしまう。
しかし、逆にそういった側面が利用者の選択にポジティブな影響を及ぼしているという指摘もある。Webプロモーション企業Target Media GroupのJason Feinbergはこう述べている。

"It's so clear, so concise, and it's standardized. That's something I think is a draw over MySpace, where you never quite know the experience you're going to get. Is it going to be a horrible jumble of images and video and text that's difficult to read? Also, (Wikipedia is) rooted in fact. It's not promotional. Especially these days when the Internet is full of artists trying to essentially ram their message down your throat, I think a fan is a lot more receptive to a simple, no-hype approach."

PC World - Wikipedia Displaces MySpace in Music Matters

一応、MySpaceもシンプルで標準化されたフォーマットのはずなんだけど、実際の利用を見ているとありえないくらいごちゃごちゃしている感もある。それに比べれば、Wikipediaは簡潔で、標準化されたものという感覚は理解できる。また、押し付けがましくない、シンプルで、広告めいていないアプローチがファンに受け入れられるというのも理解できる。
もちろん、WikipediaMySpaceが扱っているものが違うことがユーザの選択に影響を及ぼしているということも重要だろう。
Wikipedia FoundationのHead of Communications、Jay Walshはこう述べている。

"We're about knowledge. We're about bringing the reader to other free content ... content they can use and enjoy without worrying about violating any copyrights."

PC World - Wikipedia Displaces MySpace in Music Matters

Wikipediaの提供するものは『知識』であり、それゆえに知識を求めるユーザに選択されるということなのだろう。確かに、アーティストのエピソードがもっとも体系的にまとめられているのはWikipediaだろう。少なくとも、MySpace上でアーティストのエピソードを客観的に、体系的に得ることはほとんどない。
もちろん、WikipediaがあればMySpaceはいらないか、というとそうではないだろう。少なくとも、Wikipediaが音楽ストリーミング可能になることも今のところはないだろうし、購入リンクをつけることもできないだろう。また、MySpaceに掲載されるような情報以外*3を求める人もいるだろうし、MySpaceに掲載されるような情報*4を求める人もいるだろう。
ただ、FeinbergはWikipediaはプロポーショナルではない、とはいうものの、個人的にはWikipediaもファンをアーティストに惹きつけるための重要なメディアであると考えている。もちろん、影響は間接的なものしか期待できないだろうけど、ブランディングのために利用することも不可能ではないだろう。少なくとも、ファンは現実としてWikipediaを見ているのだから。
とはいっても、それが過度にプロポーショナルなものであれば、Wikipediaの求める『知識』の集積とは程遠くなってしまうだろうし、そのような情報は熱心なボランティアたちの手によって消されてしまうことになる。しかし、アーティスト本人であれ、マネジメントであれ、Wikipediaが必要とする情報を提供するのであれば、それを批判する人もそれほどいはしないだろう。
まぁ、検索すればWikipediaが上位に表示されるがために、まずそこにアクセスするという人が多いのだろうが、それでもプライオリティの高い場所であることは疑いないだろう。『Wikipediaとはどのようなものであるか』ということを理解したうえで、それを有効に活用するのであれば、利用者にとってもアーティストにとっても望ましい結果が得られるかもしれない。もちろん、都合が悪い情報*5を一方的に削除するなんてのは、Wikipediaを活用するのであればもっての外なんだろうけどね。Wikipediaをその目的、ユーザの有り様を含めて理解することが必要なのかなと思う。

*1:Wikipediaは正確なカウントをしていないとのこと

*2:少なくとも私は見たことはない

*3:アーティストの詳細なバイオグラフィやエピソード

*4:音楽ストリーミングやミュージックビデオ、アーティストの最新情報

*5:156cm