国際的児童ポルノ摘発オペレーション、日本でも「児童ポルノ提供目的所持」で3名を逮捕
埼玉県警は、ファイル共有ソフトeMuleを利用し、児童ポルノを「海外ユーザらに提供する目的で所持していた」として、最初に和歌山県、広島県の2名の男性を、続いて東京都の1名を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(提供目的所持)容疑で逮捕した。今回の逮捕は、児童ポルノ撲滅のため、日本を含む世界74カ国がICPOと協同してファイル共有ソフトを利用した児ポ動画共有ユーザの世界一斉摘発の一環として行なわれたもののようだ。
逮捕の背景
asahi.comによると
県警の調べでは、3人は9〜10月、18歳未満の少女がわいせつ行為を受けている動画などを不特定多数に提供する目的で、パソコンのファイル交換ソフト「イーミュール」の「共有フォルダー」に保存した疑いがある。
asahi.com(朝日新聞社):ネット児童ポルノ、74カ国連携し捜査 3容疑者逮捕
と、多少まどろっこしく書かれているが、eMuleの共有フォルダに児童ポルノ動画を置いていたということ。
また、「提供する目的で」とあるのは、児童買春・児童ポルノ禁止法第7条5項の違反であることを指していると思われる。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
単純所持での摘発はできないが、こうした提供目的所持での摘発は可能であるというところだろう(これに関しては、奥村弁護士のブログにてコメントがなされている)。
提供目的所持での検挙とはいえ、実際に提供された量は相当なもののようだ。
県警は、これらの動画ファイルを押収し、一部の通信履歴を調べたところ、海外などから1週間で1本当たり9万〜24万件の接続があり、動画が世界中に拡散している実態がわかった。
児童ポルノ2容疑者、わいせつ動画2000本所持 :YOMIURI ONLINE(読売新聞)
(中略)
両容疑者のパソコンなどからは2000本以上のわいせつ動画を押収。
提供した動画は10カ月間で25万回ダウンロードされていたという。
児童ポルノ:所持で3人目の逮捕者 提供目的の疑い - 毎日jp(毎日新聞)
と、それぞれの容疑者の児童ポルノコンテンツ提供回数は数百万回に及ぶと見てよいだろう。とはいえ、読売新聞の数字は、1週間で1本あたり9万〜24万回×2000本×期間(単位:週間)で計算すれば恐ろしい数になるので*1、「1週間で1本あたり9万〜24万回」というのはかなりの誇張のような気もする…。接続であってダウンロードではない、ということなのかもしれないが、誇張以外の意図で付け加える理由は考えにくい。もう少し慎重に書いたらいかがかと思うのだが。ただ、毎日新聞の「10カ月間で25万回ダウンロード」というのは、それほど理解できない数字ではない。
児童ポルノコンテンツ入手経路
いずれも自ら撮影したのではなく、出回っている動画をネットで集めて保存していたとみられる。
児童ポルノ2容疑者、わいせつ動画2000本所持 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
といわれているように、提供した児童ポルノコンテンツはネットを介して収集したもののようだ。では、どこで入手したかと考えると、おそらくほとんどの人がぴんと来ているだろうけれど、WinnyやShareであろう。実際、NHKによれば
これまでの調べで、押収した3人のパソコンからは「eMule」の他にも「Winny」(ウイニー)や「Share」(シェアー)など複数のファイル交換ソフトが見つかったということです。
NHK埼玉のニュース
ファイル交換ソフトは、種類によって利用者や動画の内容が異なることから、警察は3人は「eMule」だけでなく複数のファイル交換ソフトを使い分けてやりとりをしていた疑いがあると見て調べています。
とされており、Winny、Shareネットワーク上で入手した元に、海外のeMuleユーザと児童ポルノコンテンツをトレードしていた、という感じなのだろう。それらネットワークで入手した児童ポルノコンテンツをeMuleを利用してトレードする理由としては、
2人は複数のファイル交換ソフトを使っていたが、「eMuleが最もレア(珍しい)なファイルを手に入れやすかった」と供述している
児童ポルノ2容疑者、わいせつ動画2000本所持 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
ように、海外の、日本ではあまり出回っていないファイルを入手するためだったのだろう。
捜査の展開
今回の逮捕は、世界74か国が連携したオンライン児童ポルノトレード摘発のための共同オペレーションの一環であり、海外の捜査機関から、日本のeMuleユーザが児童ポルノコンテンツを提供しているとの情報を受けて、埼玉県警が捜査を開始。
同県警は今年六月、海外の捜査機関から世界で数億人のユーザーがいる*2eMuleを悪用したポルノ画像提供者のIPアドレスを入手。八月から国内に住む五十人以上の通信記録を差し押さえるなどして捜査を進めてきた。
東京新聞:児童ポルノファイル交換 動画提供容疑で逮捕:社会(TOKYO Web)
これを見ると、特定のユーザの通信記録を8月からモニターされ続けていたということになる。実際、問題とされた時期は8月ではなく、9〜10月とされている。
2人は今年9〜10月、10歳前後の女児が映った児童ポルノ動画を、世界中の不特定多数のユーザーに提供
74か国連携でネット児童ポルノ摘発、埼玉県警が2人逮捕 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
10月16日ごろ、世界中の不特定多数に提供
児童ポルノ:所持で3人目の逮捕者 提供目的の疑い - 毎日jp(毎日新聞)
通信内容をモニターしていたというわけではなく、eMule上での活動とISPに記録された通信記録を監視を続けていたということなのだろうか。
県警は、ネット上でeMuleを使って接続できるデータファイルの中身と接続状況を監視。複数の日本人eMule利用者が、児童ポルノの動画ファイルをパソコンなどに保存し、ネットで接続可能な状態にしていることを確認した。
児童ポルノ2容疑者、わいせつ動画2000本所持 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
こちらを見る限りでは、ファイル自体の確認はeMuleから、通信記録はISPから入手していたようにも読めなくはない。
さて、東京新聞の記事には、海外の捜査機関からポルノコンテンツを共有するユーザのIPアドレスが提供された、とあるが、これはおそらくインターポール(ICPO)のことだと思われる。この国際的児ポ摘発オペレーションはICPOを中心として行なわれており、以前の捜査で児童ポルノ共有に係わった1万8千ものIPアドレスが収集されている。
国際的児童ポルノ摘発オペレーション
上述したように、今回の逮捕は世界74カ国が参加する大規模な国際的オペレーションの一環であると見られる。この共同オペレーションは、今月25〜28日にブラジルで開催される「第3回子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」に先駆けたものである。今回はeMule等ファイル共有ソフトを利用した児童ポルノ共有ユーザをターゲットにしているようだ。
日本での逮捕以前には、ブラジルでもeMuleやKazaaを利用して児童ポルノを共有していたユーザが逮捕されている。また、スペインでは、同様にeMuleを利用して児童ポルノを共有していたユーザ121名が逮捕されており、その中にはeDonkeyサーバを立ち上げ、児童ポルノコンテンツ収集ユーザのハブとなっていた人物も複数名逮捕されている。おそらくは、このサーバに接続していたユーザを中心に世界的な捜査が進められているのかと思われる。
余談
はてブにて
sirnight 74ヶ国連携して元締めの捜査は出来ないの?
suzu_hiro_8823 元締めの摘発マダー?
というコメントが寄せられていた。元締めが何を指すのかはわからないのだけれど、それが「ハブ」だとしたらおそらくはスペインのサーバの摘発がそれに当たるかな、と。児童ポルノの製作に関していえば、今回の記事であげられたものの中には、検挙に至っているコンテンツも含まれているみたい*3。
他にも、クライアント自体が元締めだ、とも考えられるのだが、少なくとも現状ではクライアントが管理の及ばないネットワークに接続するに際して、一定の責任を有するとは思いがたいので、クライアント自体を元締めとするのはいささか考え過ぎかもしれない。ただ、ネットワークへの接続に対しては責任を求められないが、クライアント上での「出力」に対して責任を求める声も上がるかもしれない、とは、最近の流れをみていて思わないでもない。Grokster判決などもその1つだと考えられるだろう。
また、容疑者らがおそらくはトレード用にと入手したファイルが流通するWinnyやShare上での児童ポルノコンテンツの流通をさして元締めということもできるかもしれない。これらネットワークに対しても捜査が及ぶのか、それとも今回の一件が特別なものなのか、依然不明である。