Google Chinaの無料MP3検索サービスが成功するためには

Google Chinaが無料MP3検索サービスを開始したそうで。

Googleの中国法人Google Chinaは、無料のMP3検索エンジンベータテストしていたが、4大音楽レーベル(Warner、Universal、EMI、Sony)と正式に提携が成立したことを機に、今日、プレス会見を行って一般公開した。

中国Google、メジャーレーベルと提携して無料MP3検索を提供

他にも

で、報道されているのだけれど、あんまりBaiduとの絡みについては触れられていなくって。TechCrunchでは

Googleの今回の動きは、ライバルで中国のトップ検索エンジンのBaidu〔百度〕に対して優位に立つための努力の一環だ。百度も無料のMP3検索サービスを長年提供しており、これがそもそも百度が検索市場でトップの座を占められた大きな理由だった。(百度はおよそGoogleの2倍のシェアを持っている)。百度の幹部は今回のGoogleの新しいMP3検索エンジンについて「Googleが市場に参入するのは遅すぎた。船はもう出てしまった後だ」と 論評している。

中国Google、メジャーレーベルと提携して無料MP3検索を提供

とは書かれているものの、なんでBaiduがこれまでやってきたMP3サーチに追随するのに時間がかかったのかはあまり触れられていない。むしろ、なぜBaiduがそうしたMP3サーチを提供し続けられていたのか、そして、それがどの程度脆弱な基盤の上にあるのか、ということを知っておくと、なかなか面白い。ということで、Baiduのこれまでについて少し。

Baiduが提供しているMP3サーチは、オンライン上に存在するMP3ファイルの検索を可能にし、そのファイルへのディープリンクを提供するというもの。要は、Baidu自身は当該のMP3ファイルをホストしているわけではないけれど、オンラインの各所にあるファイルのありかを(違法合法問わず)教えてあげよう、というもの。あくまでもリンクの提供であって、ファイルそのものを提供しているわけではない、というのがBaiduの主張。

Baiduとメジャーレーベルの戦い

4大メジャーを代表するIFPIは2005年7月、Baiduは著作権侵害を幇助しており、同サービスによるリンクの提供を停止せよと中国にて訴訟を起こしたものの、2006年11月、その訴えは退けられた

2007年1月、裁判の敗北を受けてか、EMIはBaiduと手を組み、広告モデルによるオンラインストリーミング事業の立ち上げを発表した。ある意味では、裁判に勝つことよりも、現状で少しでも利益を上げるための現実的な解決策を模索したものかもしれない。しかし、EMI以外のメジャーレーベルはBaiduのMP3サーチに対して引き続き「NO」を突きつけ、これを不服として上訴していた。

またIFPIは、Baiduと同様のMP3検索サービスを提供していたYahoo! Chinaに対し、2007年1月に同様の訴訟を起こしていた。同年4月、Yahoo! China側に有罪判決が下されることとなったのだが、同年12月にその上訴を棄却されるに至ったことで、IFPIの勝利が確定することとなった。

こうした動きは、Baiduへの追求という点でもIFPI側には追い風と思われたかもしれないが、その翌月の2008年1月、IFPIはBaiduに対して起こしていた訴訟に敗北することとなった。Yahoo! Chinaが敗訴したにもかかわらず、Baiduが負けなかった理由としては、2006年に新たに施行された著作権法にあると見られている。Baiduへの訴訟が起こされた2005年の時点では旧著作権法下にあったが*1Yahoo! Chinaへの訴訟が起こされたのは新著作権法が施行された2007年1月であった。

とはいえ、IFPI側もこれで引き下がれるわけもなく、2008年2月にはUniversal、Sony BMG、Warner3社がBaiduに対し、違法に公開されている音楽ファイルへのリンクを削除するよう求める訴訟を再び起こし、2008年4月には審理が開始している。また、Baiduは、2008年3月、中国国内の音楽団体からも訴訟を起こされている

こうした訴訟による戦い以外としては、IFPIや中国国内の著作権保護団体によるBaiduへの広告掲載ボイコットの呼びかけなどもあったのだが、Googleによる中国国内での合法的なオンライン音楽配信が計画されていた。

メジャーレーベルにとっては、合法的にサービスを提供し、少しでも利益を生み出してくれるのであれば、そこにすがりたいという腹もあったのだろう。こういった背景があってこそ、先日報じられたようなサービスをGoogleが提供するに至ったのだろう。

確かに中国国内に限定されるとはいえ、メジャーレーベルにとって、無料でストリーミング、ダウンロードされてしまうのは腹立たしいところではあるのだろうが、IFPI自身が喧伝しているように、流通している音楽ファイルの99%が著作権侵害ファイルであるのであれば、それを抑制しようとするのは不可能、またはあまりに効率が悪いと考えるのが現実的だろう。結局は海賊行為に競争しうる範囲での落としどころを見つけるしかなかったのだと思われる。

もちろん、99%が違法流通だといわれるような状況では、たとえGoogleがレーベルを口説き落とし、合法的に配信できるようになったというだけでは、まだ弱いだろう。Baiduよりももっと利便性が高く、快適でなければならない。また、もう1つの、そして最も重要になってくるのは、現在Baiduが起こされている裁判の行方。もし、Baiduがこの訴訟に敗北することになれば、Baiduが抱える潜在的な損害賠償訴訟は膨大な数に及ぶだろうし、それどころか、大手を振ってサービスを続けられるGoogleとは異なり、Baiduの最大の売りであるMP3サーチを停止しなければならなくなる。

そういった意味では、Baidu幹部の言う「Googleが市場に参入するのは遅すぎた。船はもう出てしまった後だ」が事実だったとしても、「先行する船が用意が足りずに沈没する」という可能性がないわけでもない。そうなればGoogleの独壇場となるだろう。とはいえ、そうなったとしても、レーベルから見た中国が音楽配信市場として*2魅力的かどうかは定かではないけれどもね。

*1:裁判では、旧著作権法では、Baiduのサービスは違法ではない、とされた

*2:または音楽市場として