マジコン規制ではすまないアクセスコントロール回避規制

現在、内閣官房知的財産戦略本部の「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」にて、ネット上の著作権侵害対策について議論されている。主に、アクセスコントロールの回避規制とプロバイダの責任の在り方についての議論が行なわれることになっている。

プロバイダの責任の在り方については、スリーストライク・スキームを含め、さまざまなトピックを扱ってきたが、アクセスコントロールの回避規制についてはあまり扱ってこなかったし、こうした議論が進んでいることもあるので、ここで一度取り上げてみようと思う。DVDのコピーは合法か否かについて読んだり調べたりしたことのある人にとっては、あの話かと思えるかもしれないけど。

アクセスコントロール回避規制の在り方について

第1回WGの資料「検討課題について(案)」では、議題設定の趣旨とその具体的項目例が列挙されている。

ゲーム等の著作権侵害コンテンツの流通状況、デジタルネット環境の進展に伴うアクセスコントロールの重要性の高まり、欧米の動向を踏まえ、不正競争防止法において回避機器等の民事ルールのみを定めている現行制度にとらわれず、アクセスコントロールの回避規制の在り方について検討する必要があるのではないか。

具体的検討項目としては…

  • 民事的対処が難しい回避機器の頒布等に対する刑事罰の導入
  • 中国等からの回避機器の輸入に対する水際規制
  • 回避機器の製造段階、回避サービスの提供行為への規制
  • 規制対象機器の範囲(「のみ」要件*1のこと)の拡大
  • 「のみ」要件を満たさないが明らかに回避を目的としているものへの、主観的要件*2による規制範囲の拡大
  • 著作物の保護手段としてのアクセスコントロールの重要性の高まりを踏まえた回避行為そのものの規制
  • 製品開発の萎縮等を防ぐための例外規定

が挙げられている。こうした議論を理解するためには、アクセスコントロールって何?何のために必要なの?結果どうなるの?というところから理解しなくてはならないだろう。

アクセスコントロールとコピーコントロール

アクセスコントロールとコピーコントロールは異なるものではあるが、アクセスコントロールも、我々の私的複製によって可能になる利用を制限する、という意味ではコピコントロール的な側面も有している。

コピーコントロールとアクセスコントロール、といってもなかなかわかりにくい。コピーコントロールは複製を制限するもので、たとえばコピーできない仕組みを組み込んだり、回数を制限したりする。一方のアクセスコントロールは、当該のコンテンツへのアクセスを制限するもので、誰がどういった条件でアクセス可能になるかを制限したりする。

アクセスコントロールで良くあげられる例としては、WOWOWにかけられているスクランブルがある。WOWOWの電波を受信することはできるが、視聴するためにはWOWOWと契約しお金を支払ってスクランブルを解除する必要がある。最近ではB-CASといった方が理解しやすいかもしれない。他にも、体験版として配布しコピーへの制限はかけていないが、製品版として利用するためにはキーの購入が必要になるとか、ゲームのソフトとハード間の認証といったものも含まれる。

アクセスコントロールはコンテンツ保護のために利用されているものの、著作権法ではアクセスコントロールの回避は制限されていない。著作権法第30条2項では技術的保護手段を回避して行なわれた複製は私的複製にならないとされているが、技術的保護手段に含まれているのはコピーコントロールまでで、アクセスコントロールは含まれていない*3。でも、そのコピーコントロールだけじゃ限界が出てきてるから、アクセスコントロール著作権法で保護しろ、という流れ*4

既に米国では2000年に施行されたDMCAデジタルミレニアム著作権法*5で、アクセスコントロールを含む技術的保護手段の回避を可能にする可能性のある手段、プログラムの提供や、その製品の製造などを禁止している。米国はこのDMCAの輸出にも積極的で、他地域にもその導入を求めてきたし、現在交渉が進められているACTA模倣品・海賊版拡散防止条約)でもこうしたDMCAのアプローチを盛り込もうとしている

マジコン規制ではすまないアクセスコントロール回避規制

InternetWatchが「政府の知財戦略本部、マジコン規制など検討開始」と報じているように、著作権法における技術的保護手段にアクセスコントロールを含めることで、マジコン規制にも繋がると言われれば確かにそうなのだが、これはマジコンのみを規制するものではないというのが問題。なるほどCFWも規制されるんですねわかります、とかそういうこっちゃない。

アクセスコントロールの回避問題の例として最も良く挙げられるDVD、これにもCSS(Content Scrambling System )という暗号化処理が施されている。DVDの階層にある「VIDEO_TS」をコピーするだけではデータとして利用できないのもCSSスクランブル)がかけられているためで、視聴するためには解除キーを持つプレイヤーを利用しなければならない。

だが1999年、ノルウェーのDVDヨンことヨン・レック・ヨハンセン(当時15歳)があれやこれやでCSSを解除するソフトウェアDeCSSを開発し、それによってCSSの制限を受けずにさまざまなデバイス、プラットフォームでDVD(とその中身)を利用できるようになった。LinuxでのDVDの視聴を可能にしたのもDeCSSの開発があったためといわれている。また、DVDを(利用可能な形で)バックアップしたり、他のデバイスで利用できるようにもなった。

しかし、怒り狂ったのはハリウッド。DeCSSのようなアクセスコントロールを解除するソフトウェアの開発、提供は、DMCAの下で禁止されることになっていたが、ノルウェーにまで効力があるわけではない。それでもMPAA(アメリカ映画業協会)はノルウェー当局に圧力をかけ、DVDヨンを起訴させた。裁判は一審無罪、二審無罪、そして上訴断念という結果に終わった。一審の裁判官は

「当法廷は、合法的に作られたDVD映画を購入した者がその映画にアクセスするのは合法であると認める。ただし、その映画が違法な海賊版であれば、その限りではない」とした。
さらに判決は、消費者は、合法的に入手したDVD映画であれば、「たとえ製作者が想定しなかった方法であったとしても」再生する権利を有するものと認めた。

ノルウェーのティーンエージャーDVDハッカーに無罪判決 | WIRED VISION

そしてDVDヨンは

「DVDを合法的に購入するかぎり、どのような機器を使って再生してもよく、特定の機器を購入するよう強制されることはないということだ」

と語った。

当たり前だろと思われるかもしれないが、DMCAの下では当たり前ではない。

コンテンツの楽しみ「方」は誰が決めるのか?

極端なことを言ってしまうと、アクセスコントロールによって我々がコンテンツにどのようにアクセスするか、つまりどのように楽しむのかをあらかじめ定められ、それ以外の方法は認めないということもできてしまう。認められていないデバイスでは、コンテンツを楽しむことはできない、そういうことになる。

実際、それはデジタル環境では現実問題として起こっている。AppleDRM、FairPlayはiPod/iTunesにひも付いている。SonyWindows Media DRMを採用し、iTSでは楽曲を販売しない。未だCDの時代であるからこそ、大した問題ではないかもしれないが、CDの時代が永遠に続かないのだとしたら、非常に大きな問題だろう。DRMの相互運用性が担保されれば問題は多少は軽減するのかもしれないが、デバイスが機能性を高めますます多様に利用されていく中、相互運用性がどれほどの範囲をカバーできるのかは全くわからない。

もちろん、Napsterのような聴き放題サブスクリプション型のサービスでは、制限は必要不可欠であるし、今後はコピーを前提としてアクセスこそ要となるような試みも増えてくるだろう。アクセスコントロールの重要性が高まっていくことは間違いない。

だが、アクセスコントロールによって失われるものも少なくない。マジコンの問題を考えても、確かに主に不正なルートからダウンロード*6したデータでプレイするために用いられているという現実はあるのだが*7、その一方で複数ゲームを1つのメモリに入れて持ち運ぶことができたり、セーブデータのバックアップなどもできたりと利便性を高めるという部分もある*8。また、Homebrewにも利用されているし、過去のPCゲームをコンバートしCFWを利用してPSPでプレイするという試みもあった。

さらに、サポートの無くなったメディアをどうするか、という問題もある。たとえば、私の好きなセガサターンはどうだろうか。既にこれをサポートする現行ゲーム機はない。では、何かしらの工夫を凝らして別のデバイスでプレイできるようにすることはあってはならないことなのだろうか。

*1:不正競争防止法上は技術的制限手段の回避「のみ」を目的とした機器を規制しているので、他の機能が意図的に付与されている場合には対処しにくい。任天堂が勝訴した日本のマジコン販売差止め訴訟では、「のみ」要件を超えたものであった

*2:たとえば「回避に用いられることを知りながら」

*3:この辺りについての説明は、「音楽配信メモ - なんでDVDコピーは「違法」なの!?(日経クリック 2003年10月号)」が詳しい

*4:不正競争防止法ではアクセスコントロールも技術的保護手段に含まれているが、適用範囲が異なるために、著作権法でも保護が必要である、という感じ。

*5:成立は1998年

*6:ダウンロード自体が違法だと言うつもりはないが、アップロード者は違法行為を行なっているわけで、その意味で不正なルートと考える

*7:こういった利用を支持するつもりはない

*8:正規に購入したものをこのように利用することに対しては支持したい