「ネット犯罪の検挙件数」が増えたんであって、ネット犯罪が増えたわけじゃないのでは?

警察庁が今年上半期のサイバー犯罪検挙状況についてのまとめを公表した。これに関連した報道が方々でなされているのだが、とてつもない違和感を感じる。以下、記事のタイトルを。

何が違和感っていうと、これらの記事は「検挙件数」を扱った統計から、「ネット利用犯罪/ネット犯罪」が激増、急増、最多、3割増というタイトルを付けていると。ネット利用犯罪の増減について知るためには、検挙件数ではなく、実際の犯罪件数*1を見なければならない。「犯罪の増加」と「検挙件数の増加」では意味合いはまったく異なる。

実際の犯罪件数が増えたために検挙件数が増えたわけではなく、昨年後半辺りから児童ポルノ著作権侵害などに対する摘発が強化されたことで、検挙件数が増えたと考えるのが妥当だろう*2。要は検挙率が上がったということ。実際の犯罪件数の指標として検挙件数を用いるのは、あまりに乱暴だと思うよ。

実際、検挙件数と併記されている「サイバー犯罪等に関する相談受理件数」を見ると、相談件数全体としては減少傾向にある。以下の表は、警察庁発表の「平成22年上半期のサイバー犯罪の検挙状況等について」より。

もちろん、これらの相談が必ずしも犯罪として成立しているものであるかどうかはわからないし、児ポ法違反のケースのように警察がサイバーパトロール中に発見し相談等なしに捜査を開始したものもあるので、必ずしも相談件数が実際の犯罪件数を必ずしも反映しているわけではない*3。とはいえ、激増だの増加だのという解釈にブレーキをかけるくらいの統計であると思うよ。

一方で、タイトルにも内容にも「検挙件数」の増加であることを明記している記事もある。

摘発を強化した著作権法違反や児童ポルノ関連の摘発件数が大きく伸びた。

ネット犯罪、摘発最多…上半期2444件 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

ごもっとも。

もちろん、冒頭にあげた記事の中にも検挙件数、摘発件数などの言葉が含まれているが、少なくともタイトルを見ると、事実と異なることを伝えているように思えるのよ。記事の中身を見ても腑に落ちないというか。

18歳未満の少年少女を狙った児童ポルノ事件は同69・6%増の329件で、上半期としては最多だった。児童買春も同21・8%増の212件で、子どもの被害が増え続けている。

ネット利用犯罪が最多に 詐欺、児童狙い増加 - 47NEWS/共同通信社

「子どもの被害が増え続けている」ているかどうかは検挙件数からは見えてはこないんだけど、増加していることになっている。

摘発進んでますよ、取締強化されていますよ、というよりも、犯罪増えてますよ、という方が受けると思っているのかな。なんだかなぁ。

*1:認知件数+暗数

*2:さらに言えば、昨年上半期は「犯行グループ(15人)による組織的なオークション詐欺事件における不正アクセス禁止法違反が1,813件にも及んだ」のだが、今年は85件と前年比-95.7%(警察庁「平成22年上半期のサイバー犯罪の検挙状況等について」より)。従って、他のネット犯罪に割けるリソースが昨年に比べて多かったことも、ネット利用犯罪の摘発が強化された一因と言えるのではないだろうか。

*3:さらに言えば、サイバー犯罪検挙件数の表の罪名に対応しているものでもない