アメリカが日本に要求していること - 著作権保護期間の延長、アクセスコントロール回避規制などなど

在日米国大使館が「日米経済調和対話」における米国からの要望事項を公表した。正直なところ、日米経済調和対話というものの存在を知らなかったんだけど、実質的にはかつての「年次改革要望書」と同じもののようだ。

日米経済調和対話は昨年11月の日米首脳会談で毎年開催することが合意され、今年は2、3回開く予定。米国は94〜08年に毎年、日本に規制緩和構造改革を要求する「年次改革要望書」を提示したが、それが事実上復活した形だ。要望事項は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に参加した場合に見直しを求められる非関税障壁の候補となる可能性もある。

日米経済調和対話:米国「残留農薬、基準緩和を」 日本へ改革要望復活 − 毎日jp

米国側関心事項として10の領域があげられているのだが、当ブログとしては知財権、とりわけ著作権絡みの要望が気になるところなので、その辺りを抜粋しつつ、あーだこーだ言ってみる。

日米経済調和対話 - 米国側関心事項

技術的保護手段:主に技術的保護手段の回避のために使用される機器やサービスの取引や、回避という不正行為に対して、より包括的な禁止規定を提供し、また必要に応じ、十分な民事・刑事上の救済を提供する等、アクセスコントロールおよびコピーコントロールに対する救済手段を提供することにより、技術的保護手段(およびこの技術的保護手段を採用するビジネスモデル)の確固たる保護を確実にし、権利者自身の著作物を保護する能力を高める。

日米経済調和対話 - 在日米国大使館

米国は、ACTAでも争点になった*1アクセスコントロール回避規制を求めている、と。ハリウッドとかあるし、DMCAを他国にも押しつけたい、というところか。日本でも既にこの方向で議論が進んでいるが、回避行為まで入れちゃうかね。

著作権保護期間の延長:OECD諸国や主要貿易相手国での傾向を含む、新たな世界的傾向と整合性を保つよう、オーディオビジュアル作品に加えてすべての著作物に関わる著作権保護期間を延長し、著作権保有者の保護を強化する。

日米経済調和対話 - 在日米国大使館

著作権保護期間延長議論が再び巻き起こるのかな。そろそろ60年代の作品の著作隣接権が切れる時期にさしかかっているしね。ビートルズとかローリング・ストーンズとかビーチボーイズとか、その辺りの原盤権を切らしてなるものか、的な。

オンライン上の海賊行為:オンライン上の侵害に対するエンフォースメントを強化するために、法律、規制、その他の方策を更新する措置を講じる。またオンライン上の海賊行為に対処するため、インターネット・サービス・プロバイダーや権利者を含む、利害関係者間の協力的取り組みを奨励する。

日米経済調和対話 - 在日米国大使館

この辺りもACTAの延長線上というか。オンライン上の侵害に対するエンフォースメントを強化するって具体的にどういう施策なのかな。P2Pファイル共有なんかを見ても、日本は日本で刑事エンフォースメントをかなり強化しているし、利用者も減少傾向にある。

ISPと権利者との協力的取り組みに関しても、CCIFファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会)のように、権利者から違法ファイル共有ユーザへの警告メールをISPが転送するという枠組みもある。個人的には、こうしたノーティス・アンド・ノーティスの拡大、強化に向かうのであれば、賛成したいところだけれども。また、この協力的取り組みには、ユーザ情報の開示も含まれると思うのだけれども、この辺りは妥当な手続きを経た複数の事例を考慮した上でガイドラインを策定していくという方向性が望ましいかなと。新しい問題に即対応できる方が良い部分もあるけれども、副作用の方が大きいと思う。

エンフォースメント手段:権利者からの申し立てを必要としない、警察や税関職員および検察の主導による知的財産権の侵害事件の捜査・起訴を可能にする職権上の権限を警察や税関職員および検察に付与し、権利者への実効的な救済手段として著作権や商標権侵害に対して予め決められた法定損害賠償の制度を採用することで、知的財産権の侵害に対するエンフォースメントを強化する。

日米経済調和対話 - 在日米国大使館

これもACTAで問題になった要望。税関でiPodやパソコンの中身まで見られるんじゃないかっていう。基本的には海賊版、偽ブランド等への対処なんだろうけれども…。法定損害賠償については、個人に対しても適用されるなら反対。米国Kazaaユーザへのウン億円の賠償請求とか、少なくとも権利者への実効的な救済手段ではないよなぁ。

保護の例外:すべての著作物を対象に、日本の著作権法の私的使用に関する例外規定が違法な情報源からのダウンロードには適用されないことを明確にする。また、日本政府および審議会等が著作権保護に対する制限や例外に関わる提言を検討する際には、完全な透明性と、利害関係者が意見を提供する有意義な機会を確保する。

日米経済調和対話 - 在日米国大使館

映像、音楽に限定しないようダウンロード違法化の拡張を、ってことかな。後半はかつて日本版フェアユースと呼ばれていたものだね。ACTA*2であれだけ密室、秘密主義を貫いた米国が完全な透明性を求めているのにはゲンナリ。こういうときの利害関係者にユーザってのは含まれないんだろうね。

透明性:デジタル環境などにおける著作権の適用やその他の知的財産権の問題に影響を及ぼす政策やイニシアチブを日本政府が策定・更新する際には、完全な透明性と利害関係者が意見を提供する有意義な機会を確保する。

日米経済調和対話 - 在日米国大使館

ACTA*3であれだけ密室、秘密主義を貫いた米国が完全な透明性を求めているのにはゲンナリ。こういうときの利害関係者にユーザってのは含まれないんだろうね。(コピペ)

日米協力:国内および世界中での知的財産権の適切かつ有効な保護とエンフォースメントを確実にするため、日米間でのさらなる協力を促進する。

日米経済調和対話 - 在日米国大使館

これは日米に限らず、世界的な協調が必要だとは思う。ただ、米国主導というか、米国の言いなりになるようなハーモナイゼーションってのは大概よろしくないかなと。良くも悪くも、米国さえ良ければいい感がでまくりだしねぇ。

日米経済調和対話 - 日本側関心事項

一方、日本側関心事項(PDF)として米国に要求したものについても、外務省が公表している。知財権としては特許に関わるものがいくつかあるが、著作権に関しては…

スマートフォン電子書籍端末等における著作権侵害への米国政府の対応:スマートフォン電子書籍端末等における著作権侵害への米国政府の対応に関する情報共有

外務省:「日米経済調和対話」事務レベル会合の開催について

これくらい。まぁ、旬ではあるけれども受け身感しかないなぁ。クールジャパン戦略ェ…

日米双方は,本年中に,2,3回程度会合を行い,その上で協議の結果をとりまとめ,公表するべく,協議を継続していくことで一致した。

外務省:「日米経済調和対話」事務レベル会合の開催について

とのことで、今後も注視したいところ。

進むポリシーロンダリング

ACTAも日米経済調和対話も、とりあえず事務方で既定路線を作って、それにあわせて法律を作りましょうよ、ってやり方なのよね。こういう風に決まりました、それに従わないと対外的に相当まずいですよ、だから法律を作りましょうっていうね。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)もその辺なかなかきな臭い。以下の記事をご参考に。

電子書籍、ヴォーカロイド、そしてコンピュータ将棋」さんは最近よく読んでいるブログで、海外の電子書籍著作権、パイラシー等の問題について精力的に取り上げている。RSS登録されてみてはいかがでしょ?

*1:もちろん、これを入れたがっていたのは米国。

*2:TPPもそうなりそうだけど

*3:TPPもそうなりそうだけど