コンピュータエンターテイメント協会の『上げ底調査』にもの申す:「違法コピー対策が急務」って言いたいだけちゃうんかと

毎日jpにて「家庭用ゲーム実態調査:違法コピーやダウンロード1割超」というタイトルの記事を見かけた。

ゲームソフトの違法コピーや違法ダウンロードについて、「周囲で見かける」と答えた人の割合が携帯ゲーム機で17.4%、据え置き型ゲーム機では10.1%にも及ぶことがこのほど、ゲーム業界団体のコンピュータエンターテインメント協会CESA)が発刊した「2011 CESA一般生活者調査報告書」で明らかになった。

家庭用ゲーム実態調査:違法コピーやダウンロード1割超 - 毎日jp

違法コピー率が「携帯ゲーム機で17.4%、据え置き型ゲーム機では10.1%」だとしたら、そこそこ多いなと思うんだけど、「周囲で見かける」割合がそうだと言われても、多いのか少ないのか、そもそも「周囲で見かける」ことが何を意味しているのか、いろんなことがわからな過ぎて困る。

とりあえず、結論から先に書くと、どう見てもミスリード狙いの上げ底調査です、本当にありがとうございました。

調査の概要

とりあえず、調査の概要について調べてみることに。調査を行ったコンピュータエンターテインメント協会CESA)のプレスリリースによると、この調査は「首都圏・京阪神・その他の地域に在住する3〜79才の一般生活者」(有効回収数1,130サンプル)を対象に、その結果を「全人口へ拡大推計した」もの。『2011CESA一般生活者調査報告書』に掲載されている調査とのことなので、それ以上の詳細については、実際に購入するなりして確認するしかなさそう。

次に、問題の調査項目について。なんでこんな訳のわからない聞き方をしているんだろう?

◎「周囲における違法コピー・違法ダウンロード」の存在予測、携帯型ゲーム機では17.4%、据え置き型ゲーム機では10.1%の割合で見かけると回答。

昨今深刻な社会問題となっている「違法コピー・違法ダウンロード」について、正確な利用実態が把握しづらいという特徴が挙げられます。そこで韓国で実施している調査手法を応用し、「周囲の違法利用」という評価 で一般生活者全体(1,130サンプル)に客観評価してもらいました。その結果、携帯型ゲーム機では17.4% の割合で、据え置き型ゲーム機では10.1%の割合で「周囲に違法コピー・違法ダウンロードをしている人を 見かける」との回答を得ました。本結果を踏まえ、今後の対策が急務であると考えられます。

CESA ゲーム関連調査報告書

要するに、違法コピー、違法ダウンロードの実態は把握しにくいので、「周囲の違法利用」という項目で聞いてみました、韓国でも実施している手法(を応用したもの)なので大丈夫です、という感じかな。韓国でやっているからと言って、その手法が妥当かどうかの判断するにはなんの足しにもならないのだが、それはさておきこの調査が明らかにしていることはなんなのかを、もう少し考えてみよう。

勘違いしてはならないのは、決して違法コピー、違法ダウンロードしている人の割合が、携帯ゲーム機で17.4%、据え置きゲーム機で10.4%というわけではない、ということ。

あなたの周囲に男性はいますか?

すごく極端な例。「あなたの周囲に男性はいますか?」という質問をしたとする。周囲には、家族、職場、学校、友人等を含むことにする。おそらく、「周囲に男性を見かける」と答える人の割合は、ほぼ100%になるだろう。でも、それは日本人に占める男性の割合が、ほぼ100%であることを意味しない。だって、「男性」を「女性」に変えて質問しても、ほぼ100%になるんだから。

男性と女性の比率は、だいたい50%*1。少なくとも、それくらいあれば、「周囲に○○な人はいますか?」と言う質問に「はい」と答える人の割合はほぼ100%になる。

というように、実際の割合と「周囲にいる人」の割合とでは、直感的に結びつけることの難しい、大きな乖離があると考えた方が良い。

実際の割合と周囲にいる割合

周囲に○○な人がいる可能性は、その人の持つ「対人ネットワークの大きさ(『周囲』の広さ)」と○○な人の実際の割合に依存する。

シンプルな例。私に20人の友人・知人がいて、Twitterの一般的な利用率が5%だったとする。その場合、私にTwitterユーザの友人・知人がいる可能性は100%。誰か1人はTwitterユーザということ確率(1-0.95^20)は64.2%。。

ではTwitterの利用率が1%だったとしたらどうだろうか。その場合、私にTwitterユーザの友人・知人がいる可能性は20%になる確率(1-0.99^20)は18.2%。

さらに、私に友人・知人が100人いたらどうだろうか。Twitterの利用率が5%の場合、Twitterユーザの友人・知人がいる確率(1-0.95^100)は99.4%。1%の場合でも、Twitterユーザの友人・知人がいる確率(1-0.99^100)は63.4%。

○○な人の実際の割合は不変であると仮定しても、対人ネットワークの大きさによって「○○な人が周囲にいる」可能性は大きく変化する。

CESAの調査で「携帯型ゲーム機では17.4% の割合で、据え置き型ゲーム機では10.1%の割合で『周囲に違法コピー・違法ダウンロードをしている人を見かける』との回答」が得られた、という結果も、こうした背景を加味して考えなければならない。「周囲の違法利用」率と「違法利用」率はイコールではないし、後者は前者に比べてかなり少ないと考えられる。

結局、回答者の持つ対人ネットワークの大きさ(周囲の広さ)が曖昧なままでは、本当に知りたいはずの「違法ダウンロード/違法コピー率」も結局わからないまま、となる。

なんでこんなめんどくさいことを?

少なくともプレスリリースでは、「違法コピー・違法ダウンロード」は「正確な利用実態が把握しづらい」とされている。考えられる理由としては、「違法利用してますか?」と直接聞くと、実際にそうしていたとしてもウソの回答をする(社会的に望ましくない行為を正直に答えない)から、というところか。

それもわかるんだけれども、回答者の匿名性を保証し、正直に回答できる環境を整えて、その上で「回答者本人の違法利用」について回答を求めるのがまっとうなやり方ではないかな。もちろん、それでも回答に偏りが出ることも考えられるけど、バイアスがかかりやすい項目であることに留意しつつ、結果を報告したっていいわけで。

でもそれができなかったのは、「本結果を踏まえ、今後の対策が急務であると考えられます。」という文言を載せることが、最初から決まっていたからじゃないのかな。邪推かもしれないけれど、インパクトのない数値やしょぼい数値では「ゲーム業界やばいんです!早期に対策を!」と求めるための根拠としては弱い、上げ底調査でもいいからインパクトのある数字を出せ、というところかも。もちろん、ゴシップ紙のように鼻息荒くインパクトを求めるという感じではないのだろうけれども、それなりの数字じゃないとまずいよなぁ、というプレッシャーはあっただろう。(そもそも日本の人口全体を母集団に設定してる時点で、インパクトのある数字なんて出せるわけないんだけどね。)

そんな政治的意図を背景にして、ミスリードしやすそうな項目が選ばれたんじゃないのかなと。毎日jpも本文では「『周囲で見かける』と答えた人の割合」だとはしているものの、「家庭用ゲーム実態調査:違法コピーやダウンロード1割超」なんてタイトルつけてるくらいだしね。完全にミスリードです。

また、直感的なわかりにくさも相まってか、この報道を見た人たちからも「割れ厨1割もいんのか」といった反応もちらほら。完全にミスリードされてます。

結局、この調査で何がわかったの?

正直なところ、何もわかってないに等しいのでは…?「本結果を踏まえ、今後の対策が急務であると考えられます。」と主張されているものの、何をどう踏まえれば対策が急務なのかもよくわからない。

本当に知りたかったのは、「正確な違法コピー・違法ダウンロードの実態」のはず。頭から「正確な利用実態が把握しづらい」と言い訳しておいて、「曖昧な利用実態を把握」することに何の意味があるのだろうか。

*1:実際には女性の方がやや多い