AmazonがLady Gagaのアルバムを投げ売りしてまで掴みたいもの

Lady Gagaのアルバム「Born This Way」がバカ売れ、リリース初週で111万コピーを売り上げたらしい。

リリース初週でのミリオン越えは、SoundScanがデータを取り始めた1991年以降、この「Born This Way」を含めて17枚しかないのだとか。まぁ、16枚目が Taylor Swiftの「Speak Now」ってんだから、割と最近もあったっちゃあったわけですが。

Taylor Swift、Lady Gagaと立て続けに景気のいい話が飛び出して入るものの、全体としては未だ大きくは動いてはいないみたい。以下、今週のチャートをグラフ化(単位はユニット数)。

Lady Gaga以外は前年並みというところで、ガガ様パネェという評価に落ち着きそうではあるだけれど、単純にLady Gagaの人気だけではなく、Amazonによるディスカウントがかなり貢献しているのではないか、とも言われている。

Amazonは先週、2度にわたってLady Gagaのアルバム「Born This Way」を0.99ドル(約81円)にディスカウントした*1。ユーザには非常に好評だったらしく、1度目はサーバーがダウンするほどで、買いそこねたユーザもいたことから、2度目のディスカウントが行われることになった。

その結果、「Born This Way」のデジタル配信は、初週にして66.2万ダウンロード、おそらくリリース初週のデジタル配信回数としては歴代トップなんじゃないかな。

うち、Amazonから0.99ドル購入された分は44万コピーだと推定されている。なんだ、111万コピーのうち44万コピーもディスカウントじゃないか、と思われるかもしれないが、こんなディスカウントが行われていても、60万コピー以上をCDで、ディスカウント抜きの配信で売ってしまうあたり、ガガ様はやはりパネェわけです。こんなディスカウントが行われているさなかでも、同タイトルの特別版(22曲入り)が、Amazonのセールスチャートで第4位に付けていたり。

そもそもなんのためのディスカウント?

実はこのディスカウントには、Lady Gagaのレーベルもマネジメントも関わってはおらず、Amazonが独断で実施したキャンペーンだという。その場合、Amazonは1枚売れるごとに通常のレートで支払いをしなければならない。要は、売れば売れるほど、Amazonはお金を失う。

Billboard.bizによると、通常、リテーラーの取り分は販売価格の30%で、残りの70%がレーベルに渡る、iTunesでは同タイトルが11.99ドルで販売されていることを考えると、レーベルの取り分は8.39ドルだと推定される。44万コピー売れたとすると、売り上げは43.5万ドルにしかならないが、Amazonはレーベルに約369万ドル(約3億円)支払うことになる。

そんな額を支払ってまで米Amazonがしたかったのは何なのか、というと、先日も書いたけれど、ローンチしたばかりのAmazon Cloud Drive/Playerにユーザをつなぐこと。

Amazon Cloud Drive/Playerは、米Amazonアカウントがあれば5GBまで無料で利用できる。20GBまでは年額20ドル、50GBまでは年額50ドル…と大容量になると有料サービスとなっているのだが、Amazon MP3で楽曲を購入すると、以降1年間、5GBから20GBにアップグレードされる*2

今回のディスカウントは、Cloud Driveをユーザに使ってもらうための足がかりとして行われたものなんだろうね。Music Beta by Googleがローンチされ、AppleiCloudももう間もなくと言われている中、出来る限り引き離しておきたい、既に囲い込まれたユーザをひっペがしておきたいというところなんだろう。

(引用註:Amazonは)一般にサービスをあまり乗り換えたがらない音楽ユーザーをアイチューンズからどのように奪うかといった難問にも直面している。調査会社IDCのダニエレ・レビタス氏は「人は大抵、習慣をあまり変えたがらないもの。アップルはそうした人たちをとっくの昔に囲い込んでいる」と話す。

米アマゾン、レディー・ガガでアップルに宣戦布告 - WSJ日本版 - jp.WSJ.com

そのために369万ドルは安い、とAmazonが考えているかどうかはわからないけれど、AmazonGoogleAppleが一挙に押し寄せてくるくらいには、魅力的な市場ではある。音楽関連サービスとして考えれば、Cloud DriveもMusic Betaもイマイチだという批判があるし、iCloudも音楽に関連する部分ではおそらくイマイチだろう*3。それでもレースが始まった以上、イマイチだろうだなんだろうが、とりあえず出すしかない、というところなのかな。

で、音楽サービスとして見れば、イマイチかもしれないけど、おそらくその射程はもっと先まで伸びていて…。

拡大するインターネット・サービス市場に関しては、ウェブベースの「クラウド・サービス」の急増によって、従来のデスクトップやWindowsベースのコンピューター・システムは時代遅れとなると、Schmidt会長は語った。「われわれの知っているようなITは終わりを告げるだろう」

シュミット元CEOが語る「Googleの失敗」 | WIRED VISION

デスクトップ、ラップトップ、モバイル、タブレット、1人が複数のデバイスを使いこなすようになるにつれて、環境はますます変化していく。Dropboxって便利だね、Evernote素晴らしいね、っていう、さらにその向こう側にある、次のビッグブラザー競争な気がするよね*4

*1:それぞれ1日限定

*2:ちなみに、購入した楽曲はCloud Driveから利用できるが、規定の容量には含まれない

*3:"Scan & Match"がある分、快適だとは思うけれど。

*4:各社の具体的な思惑はちょとづつ異なってはいるんだろうけども。