87,834人のtumblrユーザが国会議員にSOPA反対の電凸をしたわけ

先日、MIAUのネットの羅針盤 SOPAの回に出たときに、tumblrが面白い反SOPAキャンペーンやって9万人近いtumblrユーザが国会議員電凸したよというお話をしたのだけれども、今日はそのtumblrのキャンペーンがどう面白かったのかというお話。

SOPAってなあに?

とりあえず、前提知識としてSOPAとは何かというお話から。正式名称はStop Online Piracy Act(オンライン海賊行為防止法)、米国下院に提出され、現在は下院司法委員会で審議が続けられている。名前の通り、ネット上の海賊行為を阻止する、特に米国外のパイラシー関連サイトに対処するための法案とされており、DNS検索エンジンへの介入によるアクセス遮断や決済サービスや広告サービスの停止による資金流入の停止などの措置を米司法省やコンテンツ企業に与えるものとなっている。

米国内法では対処し得ない外国のサイトへの措置とは謳われているものの、実際には米国内のサイトにも適用され、ユーザが行ったわずか1件の著作権侵害であっても強力な措置がサイト全体に講じられる可能性もあり、CGMソーシャルメディアを含むインターネット産業やそれを利用する市民らから強い反発を受けている。反対派は同法案をインターネット・ブラックリスト法案、ネット検閲法、インターネットを破壊する法律などと呼び批判を続けている。詳細については以下のページなどをご参考に。

Geekなぺーじ:ソーシャルメディアが急激に衰退する可能性

tumblrもSOPAの影響を受けるサイトの1つであり、それがアンチSOPAキャンペーンの実施につながっているのだろう。

Amercan Censorship Day

ネット産業らによるアンチSOPAキャンペーンが最初のピークに達したのは、2011年11月16日のAmerican Censorship Day(米国検閲の日)だった。これは、下院司法委員会のSOPAヒアリングに合わせたもので、Google、Facebook、Twitter、AOL、Yahoo!、Mozilla、eBayなどによるSOPA反対の共同声明の発表や、EFFらによる議員への陳情呼びかけキャンペーン等が展開された。

tumblrのアンチSOPAキャンペーン

tumblrも同日、SOPA反対をユーザに訴え、議員に声を届けるよう促していた。では、彼らはどうやってSOPAの脅威をユーザに訴えかけたのか。


(via Mashable

ユーザのダッシュボードを検閲。文章も、画像も黒塗りにされた。

もちろん、SOPAはこのような検閲を実施できるような法案ではないのだが、インターネット検閲の脅威を分かりやすく訴えるための手法、といったところだろう。

ダッシュボード内の黒塗りされた画像や文章をクリックすると以下のページに飛ばされる。

「議会は今日、私企業にインターネット検閲を許す法案の公聴会を開いています。あなたがNOと言わなければ、この法案はすぐにでも成立してしまうでしょう。」という煽り文句と共に、ユーザに対して議員への反対の呼びかけを促した。

なかなか面白いなぁと思ったのは、ただ単に電話やメールを呼びかけるのではなく、手間をかけずに電話を議員に繋ぐためのシステムを使っていること。上記のページに電話番号、住所、郵便番号を入力すると、ユーザはtumblrからの電話を受ける。電話ではtumblr CEOのDavid Karpからこの法案のポイントをレクチャーされ、それが終わると各ユーザの地元の国会議員のオフィスに電話が繋がる。

議員に伝えるべき事柄の整理を助けつつ、議員のオフィスに自動的に繋ぐ、これだけでも行動を起こすまでのハードルをかなり押し下げてくれるのかもしれない。このキャンペーンの実施にあたっては、Mobile Commonsの協力をうけたとのこと。

キャンペーンの結果

tumblrのスタッフブログによると、このキャンペーンを行った11月16日で、87,834人のユーザが合計1,293時間にわたって、地元の議員に意見を伝えたという。

議員との平均通話時間が53秒だったりするので、繋がる前に切ってしまったユーザが多数いるとも思われるが、少なくとも数万人は数分間にわたって反対の意思を伝えたのではないだろうか。

また、tumblrのデータエンジニアAdam Laiacanoは、このキャンペーンが開始されてすぐに、tumblr「SOPA」や「censorship」に言及するポストが激増したと伝えている。

David Karp自身がこのキャンペーンを広めるように煽ったりした影響もあるのだろうが、やはりダッシュボード検閲のインパクトゆえ、だろうか。

終わりに

American Censorship Dayには多数のウェブサイトがSOPA反対キャンペーンを展開しており、tumblrだけがすごかったというつもりはない。ただ、自前のプラットフォームを利用してうまくユーザに危機感を伝えたこと、他のサービスと連携してユーザのハードルを下げつつアクションを誘発したこと、自前のプラットフォームで声を広げようとしていたことなど、目を見張る点が多かった。

米国は日本に比べれば、市民と政治との距離が近く、いわゆる活動家でなくとも政治にコミットする土壌があるといえるのだが、それでもわずか1日でこれだけの成果をあげるのはただただすごいと思う。

ちなみに、米国下院議会の定数は435。tumblr以外にも多数のウェブサイトが同様の呼びかけを行い、中には同様のシステムを用いてキャンペーンを展開していたところもあるので、この日の議員オフィスにはかなりの反対の電話が寄せられたのではないだろうか。