Nine Inch Nailsのアルバム配信サーバのダウンをBitTorrentが救った?

世界最大規模のBitTorrentサイトThe Pirate BayやOiNKオルタナティブとなったプライベートトラッカーサイトWhat.cdやWaffles.fmに「NINOfficial」というアカウントで、Nine Inch Nailsの新作『Ghost I』をアップロードしていたのは、本当にNINだったのだろうか、という疑問をTorrentFreakが確認してくれたようだ。以下、NINのアートディレクターからの返信。

“last night our website had to go down for maintenance for a little while due to the incredible amount of traffic and downloads, and we linked directly to our Pirate Bay torrent as a way for people to get the music while we were offline.” Rob Sheridan, Art Director for NIN told TorrentFreak, adding “I noticed our official torrent of Ghosts I was in the top 10 of all torrents on The Pirate Bay last night.”
“We use torrents ourselves, and we know that most NIN fans are tech-savvy and familiar with file-sharing, so we want to experiment with ways to use that to our advantage, instead of making the mistake of trying to fight or ignore it, as so many artists and labels do.” NIN’s Rob Sheridan added. Many sites, too are willing to work with artists with programs such as Mininova’s content distribution platform and What.cd’s ‘Vanity House’.

NIN Confirms Uploads to Public and Private Torrent Sites - TorrentFreak

ファンがP2Pファイル共有に慣れているというのをアドバンテージと捉えるあたりが「らしい」なぁ。もともとTrent Reznor自身がOiNKのメンバーであったことを認めているし、かつファイル共有に対しては非常に好意的に捉えているわけで、ほとんどの人は本物だと思っていたことだろう。まぁ、by-nc-saでの配信だったわけで、配信することの問題というよりは本物かどうか、という興味の面が強かったんだろうけどね。
このNINのアルバムの引き起こした反応を見て回っているのだけれども、当然のことながらThe Pirate Bayなどには既にGhost I-IVの四部作全てがそろったTorrentがCCライセンスのもとアップロードされている。ただ、公式の配信ではないみたい。現状では、CCライセンスにて共有可能になっているのはNINOfficialがアップロードしたGhost Iだけだと思っていたのだけれども、Ghost II-IVもGhost I同様のライセンスで配信可能なのだろうか・・?
ArsなんかでもGhost I-IV全編がGhost I同様のライセンスで共有可能だ、と指摘されている。うーん、公式サイトからダウンロードしたもの*1には、特にライセンスについてのテキストは含まれていなかったけど、どうなんだろう・・・。Ghost Iのリリースノートには、このTorrentを見つけたTorrentサイトでGhost II-IVもいずれは見つけることができるだろう、とは言っていたもののそれが公式の手によるものなのか、ユーザの手による非公式なものへの暗黙の許諾なのかはちょっとわからないのよね。

追記

コメント欄にてid:nogajun氏、はてブ上にてb:id:mohno氏よりご指摘いただき、「Ghost I-IV」は全編by-nc-saにてライセンスされていることを確認しました。ご指摘ありがとうございます。
Ghost公式サイトのFAQでは、

Ghosts I-IV is licensed under a Creative Commons Attribution Non-Commercial Share Alike license.

Ghosts - FAQ

アルバムに添付されているPDFのp.39にも

というように、Ghost I-IVすべてがby-nc-saにてライセンスされており、ユーザがBitTorrentサイト上にアップロードする行為は、NINが許諾している範囲内の行為ということになります。
**追記終わり
ただ、そのように非公式にアップロードされたGhost I-IVがなんだかんだでGhost I-IVの有料配信に役立ったようだ。

GWBasic at 2008-03-04 06:01 CET:
I paid for this, but NiN's servers melted before I could download what I paid for! Please pay for this when NiN's servers come back up, as it's only $5!

NIN - Ghosts I-IV (download torrent) - TPB

たとえばこのTorrentのページのコメントには、「購入したんだけどダウンロードできなくってさ・・・」なんて愚痴なのかと思わせるような書き出しなのに、「NiNのサーバが復旧したら購入しよう、たった5ドルなんだぜ!」という反応。それに対する返信もそんな感じ。

afipanic at 2008-03-04 06:55 CET:
@GWBasic
I know right? i bought it. and never got my link. Never got an e-mail reply. nothin. But it is good stuff! Support them!

「アルバムを購入したんだけど、ダウンロード用のリンクがこないというか、メールすら来てない、何にもないんだよ。でも、ほんといい作品だね!彼らをサポートしよう!」なんとポジティブな・・・。でも気持ちはわかる。公式からダウンロードできずとも、こうしてBitTorrentサイトでダウンロードし聴くことができているわけで、ある意味では結果オーライな感じなのかな。うーん、こうしたファイル共有ネイティブな人たちは、「お金を支払ったのに、ダウンロードできなかったにもかかわらず」自分たちで対処してしまっているところがすごいなぁ。OK、じゃあちょっくらThe Pirate Bayでダウンロードするわ、という感じなんだろうか。なんか単純に面白い現象。
ただ、全く不満の声があがっていないわけじゃなくて、別のTorrent(Ghost I-IVのFLACバージョン)に寄せられたコメントには

necroticism at 2008-03-04 15:38 CET:
Oh the irony - paid for the official release on the NIN site and the download fucked up, no reponse from support yet so am having to get it off here! If you're going to try and stop piracy, Mr Reznor, at least make sure your system works!

Nine Inch Nails - Ghosts I-IV (2008/FLAC/Lossless) - TPB

「支払ったのにダウンロードできねーじゃねーか、海賊行為を止めたいなら自分とこのシステム位しっかりしやがれ!」という不満も寄せられている。まぁ、NINのリリースノートをよく読め、という指摘を受けて、「海賊行為を止めたいじゃなかったな、コントロールしたい、か。」と少し冷静になって考え直しているものの、それでもちょっと愚痴を吐いている。まぁ、お金払ったのにダウンロードできないんじゃ、まぁ怒るのも無理はないけどね*2
それ以外にも、Trent ReznorはBitTorrentサイトをプロモーションとしてだけではなくて、ディストリビューションとしても利用したかったんじゃないかなとか、もしかしたら、我々に選択権を与えて(少なくともGhost II-IVに関して)ユーザは購入の方向に向かうのか、それともBitTorrentサイトでフリーダウンロードに浴するのか、というのを見る実験なんじゃないのか、とか言う意見があって面白い。後者の意見はともすればキバヤシだが、わからないでもないかなぁ。ただ、NINのサーバ落ちて、ある意味では有料で購入した人向けの代理配信的な役割も果たしてしまっているけど*3
上述したNINのアートディレクターの話が想定していることかはわからないけど、確かにファイル共有ネイティブなユーザが多いということは、こうしたサーバダウン時のオルタナティブを自ら探し当てることができるという点でもアドバンテージだったんだろう。結果的にかもしれないけど、なかなか面白い減少だと思う。
また、Torrentサイト上のコメントで多く見かけるのが、これをサポートせずしてどうする!たった5ドルだぞ!!というもの。この辺には、これまでの自身の行為への正当化というのもあるのだろうし、RIAA上等という感情もあるのだろうけれども、彼らもTrent Reznor同様の理想や信念を持ってしまっているのだろうなぁと思うところもある。非DRM、妥当な価格、すばらしい音楽を提供され、選択権をユーザに託すアーティストに、なぜペイせずにいられるか、というところもあるのだろう。
もちろん、多くのユーザはコメントを残すことなくTorrentをダウンロードしているわけで、割合としてはおそらくペイせずにダウンロードしてしまう人のほうが多いのかなと思うところもあるけれど*4、こうして海賊ユーザを少しでも動かすことができたというのは本当に面白い。
ただ、こうした反応を得られるのは、ユーザとアーティスト、音楽と流通、理想と現実に試行錯誤し、真っ向からぶつかっていくTrent Reznorのカリスマがってこそなのかもしれないなぁとは思う。

*1:悩みに悩んだ挙句、10ドルのCDを購入しました!送料14ドル!!

*2:他にも複数文句を言っている人がいる

*3:これはこのコメンター自身も言及していることだけどね

*4:残念だけれど、現実として仕方のないことなのかも・・・