音楽税にブチ切れる人たち

われわれは昨日(米国時間3/27)、世界第3位の音楽レーベル、Warner Musicがアメリカ居住者に月5ドルの音楽税をかけようとしている計画を知った。

TechCrunch Japanese:「音楽税」計画の詳細―訴えないでやるから金を払え

音楽税って何が悪いんでしょう?

以前、音楽税って何が悪いんでしょう?いうメールをいただいたことがある。そのときにいろいろ考えてお返事を出したんだけれども(2週間ほど考えた)、一番の問題はユーザのオプションにはならない、ということ。そして、その結果もたらされるもの。
Michael Arringtonの主張ともかぶるんだけど、音楽税*1の主な目的は、ユーザに直接払わせるのではなく、ISP料金の一部として支払わせるという形で薄く広く徴収しようとしていることに他ならない。薄くといっても、音楽に年60ドルかけていない人からも徴収できるんだから、薄くというわけじゃないかもしれないが。
AkamaiのDavid Barrettはこう述べている(これは彼個人の意見であってAkamaiを代表するものではない)。

「選択の余地なく全員に加入を強要するのだから強請に等しい。現在すでに無料で手に入るものについて人々から金を取ろうとしても手遅れだ」

前半の部分には同意したい。

ISPが参加しなければいいんじゃない?

と思われるかもしれないが、このモデルはそれも難しい。少なくともこのモデルでは、既存の音楽配信等の事業が壊滅的なダメージを受ける。少なくともこのプログラムに参加しないISPのユーザは、必然的に質の低い音楽配信サービスを利用せざるを得ない。ただ、その一方でより充実した(現状では)海賊(とみなされる)ネットワークが口を開いてまっている。おそらく、多くのプログラム不参加ISPのユーザもそちらに流れることだろう。となれば、音楽産業的にはしめたもの、プログラムに参加しないISPのユーザに警告、訴訟の集中砲火を浴びせるだろう。そうなれば、そのISPも音楽税プログラムに参加しないわけにはいかなくなる。また、TechCrunchでも指摘されているように、既に音楽産業のプレッシャーに頭を悩ませている大学はこれを採用することだろう。
結局は、この音楽税の目的は、音楽を利用するしないにかかわらず、全インターネットユーザからお金を徴収するというものでなければならない。そうでないなら、単純に支払ったユーザだけが利用できるプライベートBitTorrentトラッカーを運営し、料金を支払う限り好きなだけダウンロードさせるというサブスクリプションサービスでもいいわけだ。でも、音楽税の基本的な発想というのはそれとは異なる。

音楽ファンなら有り難いんじゃない?

まぁ、個人的にはそう思わないでもないけど、ただ、そのような恩恵は短期的なものになるんじゃないかと思う。
TechCrunchの以前の指摘が非常にクリティカルであったので、ここに引用する(太字は引用者heatwaveによる)。

欲しくもない人にまで音楽を買わせることで、この問題は解決できない。そんな仕組みから生まれる動機は不純なものでしかない。売上や利益が保証されれば、新しいことをやったりニッチ市場を相手にするインセンティブなどなくなってしまう。これは音楽の死を意味する。
音楽業界はどんなタイプや品質の楽曲を出そうが、売上規模は一定になる。革新的なことをするインセンティブは消滅するだろう。あるのは市場シェアの奪い合いだけで、市場の拡大やあまり人気のないニッチを相手にすることはなくなる。レーベルが新ブランドを立ち上げて新人アーティストを育てるなどというのは過去のこと。既存の大物にできる限り稼がせて、あらゆる新しいレーベルやアーティストやソングライターの市場参入を阻止するだろう。新規参入は限られた原資の取り合いが激化するだけだ。既存のプレーヤーによる談合は目に見えている
レーベル各社はすぐにこの収益では事業が立ち行かないと文句を言って、増税を要求するだろう。上がったものは二度と下がらない。

TechCrunch:音楽業界最後の抵抗は音楽税

もし、このプログラムが音楽ビジネスに実装されれば、そのプログラムの外にいる連中は、あまりに過酷な時間をすごすことになる。堅牢な城壁に囲まれた富める都を尻目に、その周りで痩せた土地を耕し続けなければならないのだ。そして、たとえその城壁の中にいる連中であっても、君主(メジャーレーベル)の方針に従わないナイスガイもいるだろう。しかし、そうした連中にも、簡単に脅しをかけることができる。
「そんなに文句を言うのなら、追放したってかまわないが?痩せた土地で好きにすればいい。」
確かに月額5ドルで好きなだけ音楽が聴けるというのは魅力的だ。しかし、それがもたらす結果を考えると安易にそれに賛同することはできない。音楽を利用しない人からも徴収する、力の弱いプレイヤーがますます虐げられかねない、そんな状況は音楽にとって望ましいものだとは思えない。
ほぼゼロコストでコピーできる時代になったのだから、コピーライトに価値はない、という意見は馬鹿らしいとは思うけれど*2、こうした主要プレイヤーだけを守らんとする過剰産業保護的な発想にも馬鹿ばかしさを感じる。
海賊行為への追求という点では、手法に問題はあるとは感じているが、その方向としては誤ってはいないと理解している*3。ただ、海賊行為の結果として音楽税の導入を考えているのであれば、これは過剰な被害申告をダシにした強請りタカリといわれても致し方ないところだろう。少なくとも、海賊行為が蔓延した結果として音楽税が必要になった、というのは理解しうるものではない。

*1:厳密な意味では、政府が徴収しない限り『税』という表現はおかしいのだろうが

*2:ゼロコストでコピーできる時代のビジネスモデルを考えればよいだけで、コピーライトそのもののを否定する必要などないし、否定しうるものでもない

*3:ただ、海賊たちの受け皿としてのサービスが存在するのか、ということを考えない、一方向だけのアンチパイラシー戦略はうまくはいかないとは思っている