やっぱり音楽税は筋が悪い

デジタル音楽の行方』の訳者としても知られるyomoyomoさんが『音楽税はそれほどバカげたアイデアだろうか?』という記事を書いている。この記事に関して「いろいろと叩いていただきたい」とのことなので、叩くというわけではないが、私がなぜこれを音楽「税」と考え、筋が悪いと考えているか、について思っていることを全てぶちまけてみることにする。
話の筋としては大きく2つ、ユーザに与える影響と、システムの中身、特に分配について。それ以外にもちょこちょこと思っていることを書きなぐってみる。

なぜ音楽「税」というのか

前のエントリでも書いたけれど、一番の問題は「ユーザにオプションが与えられない」ということ。かつてTrent ReznorはこれをISP税と揶揄したが、「税」と揶揄されるからには理由がある。少なくとも、私個人が思うところでは、この音楽税スキームは決して任意の契約ではなく、インターネットに接続する人々がすべからく支払うべしという前提を置いているからである。だからこそ、ISPの料金に上乗せするという形で、こうしたペイをさせようとしている。そうなれば、支払いを望んでいない人にまで負担をかけることにもなる。少なくとも産業として成り立っている部分が強いものを、文化の名の下にその保護のために負担を強いるというのは望ましいことではない。制度としての「税」であれ、私的な契約に基づく「ISP課金」であれ、義務的に支払わせるというやり方は問題があると思える。
ただ、ユーザが任意に支払いができるというシステムならよいのでは?と思われるかもしれないし、実際にそういったオプションとしての提案もある。しかし、私にとってはそれでも望ましいシステムだとは思えない。それでは義務的ではない、オプションとしての音楽料について考えてみよう(税という言葉以外の言葉にしてみました)。

始めてしまったら戻れないシステム

あるユーザがもうネット上から音楽落とせなくなってもいい、音楽料への支払いを止めた。さて、彼の手元にある楽曲はどうなるのだろうか。もし、これが継続して聴取できるのであれば、音楽料を継続して支払う人などいないだろう。必要なときだけ音楽料を支払い、しこたまダウンロードしまくればいい。音楽料を支払い続ける理由はなくなり、音楽産業はやっていけなくなる。
では、支払っている人だけが利用でき、そうでない人が利用できないようにするためには、どうすればよいか。そこで登場するのがDRM。少なくとも、支払いをしているユーザのみが利用できるような著作権管理システムを構築することで、支払い続けるインセンティブを保ち、支払いを続けるユーザの不公平感をもたらさずに済む。しかし、こうした枠組みであれば、Napster等のサブスクリプションサービスが実現していることであり、わざわざISPを介して行う必要はないのではないか、と思える。
また、ひと度こうしたシステムを導入すれば、既存の音楽流通は壊滅的なダメージを受ける。音楽配信業者は立ち行かなくなり、CDは現在のレコードと同様に嗜好品のような存在となる*1
では、音楽はどこから入手することになるか、というとWebやP2Pネットワーク上に音楽制作者が流すということになる。それはインターネット上どこからでも入手(コピー)可能なものであるが、しかしそのライセンスは音楽料を支払っているユーザのみに与えられる、ということになる。つまり、ライセンスがなければ、音楽を楽しむことができない。確かにコピーの入手経路は多様化する。どこからでも手に入れることができるのだから。しかしライセンスの得るための方法はISPへの支払い、それだけになる。
音楽に熱狂する人も、音楽をほどほどに楽しみたい人も同額を支払わざるを得ず、そして支払いをしない人は音楽を全く楽しめない、そういう世界になる。

月額5ドルの誘惑

月額5ドルで、というのはあくまでも1つの例として挙げられているのだろうが、方々で音楽料といえば月額5ドル、とされることが多い。取り立てて、この数字にこれ以上ないくらいの明確な根拠、があるわけではないのだろうが、少なくともこの値段を提示されればほとんどの人は、月に5ドル程度ならかまわないかなぁ、そう思うかもしれない。
ただ、これは全てのユーザが支払った場合の数字であることは確かだ。ユーザのオプションが残されている状態でこの価格にすれば、よくてトントン、おそらくはマイナスになる。となれば、ユーザのオプションが残されてる場合には、この価格ではないもう少し高い金額設定になる。確実に今よりはマイナスにならない価格設定に。
「全員が」支払ってくれることを前提にした5ドルという設定。しかし、ユーザの半数が5ドルでは契約したくないとしたら?なら10ドルで*2?しかし、10ドルなら利用しない、という人だってでてくる。結局のところ、最適な価格設定を突き詰めれば、残ったのは熱心な音楽ファンだけと言うことにもなりかねない。
ただ、音楽税の根本的発想「薄く広く」を考えるとここまでになるとも思いがたい。「薄く広く」といっても「薄く」とりたいわけじゃなくて、「広く」徴収することにプライオリティが置かれているわけで。当初は損をしたとしても、「広く」することにこそ意味がある。
「広く」徴収することに何の意味があるのか、といえば、「さらに広く」徴収するためのダイナミクスを強く働かせることにある。上記で指摘した、既存の音楽流通が壊滅する、というのはこのプロセスに関連する。これまで既存の音楽流通を支えてきたユーザがそのチャネルを利用しなくなることで、iTunesであれ、Napsterであれ、Amazonであれ、音楽配信事業は成り立たなくなる。また、米国において顕著見られるデジタル配信へのシフトを見るに、フィジカルメディアによる流通も大幅に抑制されるだろう。なぜなら、音楽料をペイするユーザはその価格以上、またはそれと同等の価格の音楽を利用する、まさに音楽産業にとってのお客さんなのだから。
そういった層が一挙に別のメディア*3から音楽を入手するようになる。そうなれば、既存の音楽流通は立ち行かなくなるだろう。月額5ドルであれ、10ドルであれ、その程度の支払いであれば、私はアラカルトを選ぶとしたユーザであっても、その入手可能性を抑制されてしまえば、そのルートを選択せざるを得ない。
そうして、音楽を聴く人と音楽を聴かない人に世界は二分されることになる。ちょっと極端に思われるかもしれないが、程度の差はあれ*4、このダイナミクスは確実に働く*5ものだと考えている。そう考えると、ユーザの選択肢は思ったほど広いものではない、むしろ狭められるものだと感じられるだろう。

分配について:強制であれ、任意であれ

音楽を楽しむためには、このシステムに同意しなければならなくなる。その場合、どちらにしても得られるパイの大きさはほぼ一定のまま安定することになる。そこでより多くの利益を上げるためには、他のプレイヤーより多くそのパイを食べなければならない。

パイの大きさが決まってる、どうやったら一番多く食べれる?

答えは簡単。『他の奴に食わせない』。フェアなやり方をすれば、「パイの大食い競争に真っ向から勝負を挑む」だろう。つまり、音楽をより多く配るということ。しかし、アンフェアなやり方もできる。そう、「パイの大食い競争に参加させない」ようにすればよいのだ。つまり、音楽料の分配の資格を与えなければよい。競争相手が少なければ少ないほど、取り分は増える。

パイをどうやって分配する?

分配に関していえば、誰に分配するか、どうやって分配するか、という2つの問題をクリアしなければならない。前者は上述の「参加させない」というアンフェアな方法にも関連する。

誰に分配されるのか

音楽産業としては、その受け取り手は我々だと考えているのだろうが、その根拠は何なのだろうか。少なくとも音楽料という非競争的な手段を用いている以上、その枠組みに参加したい人々を自らの都合によって追い出す、追い払うというのはアンフェアだ。しかし、これがレコード産業から提案されるにいたっては、その前提が「レコード産業こそがその受け取り手である」と推測するには十分すぎる。なぜなら、その前提が崩れることは、「パイの大食い競争の参加者」が際限なく増大することを意味するのだから。
少なくとも、私には音楽料スキームから、アマチュアを追い出すに足るだけの理由を考えることはできない。Jamendoで音楽を配信するワナビーのアーティストであれ、YouTubeでオリジナルを演奏する趣味のアーティストであれ、ニコニコ動画でノリで音楽を公開する人であれ、誰しもが音楽の作り手である。少なくとも、音楽料によってプロフェッショナルという存在が曖昧になれば、プロとアマチュアを区別すること自体ナンセンスであると考える。
もし、この音楽料スキームにアマチュアが受け取り手として参加できるようになれば、アマチュア個人にわたる額は少なくとも、アマチュア全体としての取り分は膨大な額となるだろう。また、音楽は「少なくともこのレベルであれば、音楽として認められる」というものではない。どんなレベルのものであれ、それは音楽として認められるべきものである。
そう考えると、今現在ある、お金を支払われている音楽と、お金を支払われていない音楽との垣根はほとんどなくなる。たとえば、Michael Arringtonのような人気ブロガーが毎週鼻歌を録音し、それを公開したとする。そして読者たちは興味本位でそれを聞く。相当数の読者が聞くことになるだろう。そうした人々が、我々も音楽を提供している、すごいだろう、これだけダウンロードされているんだ、だから我々にも分配されるべきだ、と主張するかもしれない。
しかし、音楽産業はそんな状況は望んでいない。そしてこれを解決する方法は実にシンプルだ。何らかの方法を使って、こいつらは受け取る資格がない、ということにしてしまえばいい。結局は政治力が全てを決めてしまうことになる。腐敗と戦う術のない状態でこのシステムに移行してしまうことは、あまりに無謀としか言いようがない。もちろん、上記の例は極端なものではあるが、アマチュアミュージシャンを追い出すための理由としても、用いられうるようにも思える。

どう分配する?

どれだけリスナーが手にしたのか、どれだけリスナーに聞かれたのか、という2つの選択肢が考えられるが、移行当初は前者によるものになるだろう。しかし、分配のための比率を算出するためにどのような手法を用いるのか、というところが問題になるだろう。どれだけダウンロードされたのか、それを調べるために、サンプリング調査だったり、ネットワーク調査だったり、専用のクライアントを用意してそこから情報集めたり・・・。どのような方法が用いられるのかは定かではないが、それを決定する際に発言権の強いプレイヤーに都合のよい方法が採用されるだろう。
いったんこのシステムが動き始めれば、全てのプレイヤーが自身の所有する楽曲をいかにしてダウンロードさせるか、ということに腐心するだろう。いかにしてダウンロードさせるか、突き詰めれば聞いてくれてもくれなくても、とりあえずダウンロードさせればいい、それが最も効率のよい方法となる。そうなれば、マスに近いプレイヤーこそが絶対的な有利な地位につける。出来、不出来はともかくとしてもとにかくダウンロードさせれば良いのだから。ありとあらゆる手を使ってダウンロードするよう仕向けることになるのだろうが、それは大手同士であれば互いに拮抗するのだろうが、マスから遠い存在にとっては、致命的な打撃を受ける。そもそもあれもこれもとダウンロードさせるよう仕向けるだけの資源を持ち得ないのだから。
その後、可能であればどれだけ聴かれたかを指標として分配すべきだ、なんて流れが出てくるかもしれない。人々のプレイヤーからメタデータを収集し、それによって分配比率を決定する。そうした算出方法がフェアだと思える一方で、フェアだという理由で採用されるか、というのも考えにくい。
結局は、舵取りが誰になるか、ということに大きく左右されてしまうシステムであると考えられる。

例外を作ろう!

実のところ、パイの大きさが決まっていても、生地の量は確実に決まっているわけではない。音楽料によって得られるパイの大きさが一定だとしても、生地の量を減らす、つまり音楽料がカバーしない領域を増やすこともできる。
たとえば着うた。これは日本だけではなく、世界中の音楽産業が頼りにするナイスな売れっ子だ。こいつを音楽料でカバーさせるというのはもったいない話、

いやいや、着うたは純粋に音楽を楽しむものではないでしょう、アクセサリーのようなもので、いわば音楽を聴くというエクスペリエンスとは別のものです、いやいや、音楽料でカバーできるものじゃないですよ、え?じゃあライブも物販も音楽料でまかないます?それは違うでしょう。着うたもそうなんですよ。

さぁ、次は「着うた料」の出番だ。

音楽料・・・だけで済む?

着うた料というのは、多少の皮肉ではあるが、ただ単に冗談で済むものではないかもしれない。ネット上で奮闘しているコンテンツ産業、といってもそれは音楽産業だけを指すものではない。少なくとも、映画やテレビ産業もまた、ネット上でいかにしてマネタイズできるか、という点で試行錯誤を繰り返している。次はドラマ料?映画料?はたまたeブック料?

これでは音楽産業は成り立たない!

結局、いったんこのシステムが軌道に乗れば、引き返すことはできなくなる。その状況で、政治力のあるプレイヤーが「このままでは音楽業界は立ちゆかない。課金額を上げるべきだ!」と主張することは目に見えている。

権利者の自由はどうなる?

たとえ、このシステムに著作権者が乗っかったとしても、その後取り下げることは出来るのだろうか。それが出来ない、というのであれば、このシステムは権利者の自由を拘束するものだと思えるし、それが出来るのであれば、ユーザとしては納得がいかないところもある。
たとえば、インディペンデントなアーティストが散発的にこのシステムから抜ける!という程度であれば、残念だなぁで済むのだが、これがメジャーレーベルクラスであれば、残念だではすまない。
ただ、音楽レーベルにしてみれば、「このシステムではやっていけなくなった、価格の引き上げが認められないなら、我々の所有する楽曲は全て引き上げる」と強硬な姿勢をとることで、値上げを推し進めることも可能となる。そうしたオプションは必要だと考えるかもしれない。
少なくとも、「税」でなければ、こうしたことは常に起こりうる状態にはなるだろう。それが出来ないよう縛ることは出来るのか、ということも考えなければならないだろう。

思うに・・・

これはサブスクリプションサービスとして提供できないのだろうか。
今回の話の流れでは、インターネットユーザ全体に課金する、任意で課金する、いずれにしてもパイの大きさは一定になる、という話だったが、ではこの2つの道のどちらになることが予想されるか。少なくとも音楽産業がこれを提案する場合には、義務的な支払いを求めるだろう。確かに、一定の料金さえ支払えば、いくらでも音楽を利用できる、ということになれば、DRMによる保護など何の意味もないし、むしろ、どのコンテンツでも自由に流通させてよいですよ、というライセンスを得ることになり、わずらわしいことを考えずに済む。ただ、これは私が「税」と揶揄するスタイルであり、音楽をほとんど、もしくは全く利用していない人に対しても、音楽のためにお金を支払え、ということでもある。
では、任意での支払いが可能であればどうだろうか、というと、これまで話してきたとおり、DRMなり何なりで支払いをしている人、していない人との垣根を設ける必要がある。しかし、音楽を自由に流通させて良いよというライセンスを手に入れているにもかかわらず、このコンテンツはDRMがかかっていない(我々が提供したものではない)から流通させてはならない、などという話は通らない。しかし、DRMがかかっていないコンテンツがインターネット上であふれれば、音楽税を支払い続けるインセンティブが薄れてしまう。支払っているユーザと支払っていないユーザとの垣根をどこに作る?
支払っているユーザのみが利用できるネットワークを構築するといいのかな?それとも楽曲を流通させるまでのプロセスでDRMをかける?たとえばエンコードするとき、たとえばアップロードしたときにDRMをかけるような仕組みとか。そうした方法で何とかクリアできるかもしれない*6
ただ、DRMという仕組みは、単に音楽税を支払っているか、支払っていないかを区別するためだけではなく、それ以外にも利用することが出来る、という点で脅威となりうる。たとえば、音楽税によってカバーされている利用領域を制限すること。これは先述した着うたの話にも絡んでくるのだけれども、特定のデバイスでの利用に関しては、音楽税のカバーするところではない、そのデバイスで利用したいのであれば、その分のお金を払っていただかないと、ということも可能となる。もちろん、それがユーザに対する課金になるのか、デバイスに対する課金になるのかは、そのときの決定者次第なのだろうが。

考えれば考えるほど

わざわざISP料金に課金するなどという面倒な方法をとらずとも、音楽産業がそのようなサブスクリプションサービスを提供すればよいだけのことのように思えてくる。
音楽の利用をより自由にし、それと同時に音楽の制作に関わった人にも利益を分配しましょう、そういった理念としては賛同できるし、現実にそういった仕組みが出来上がることが期待できるなら、望ましいものだと思える。ただ、そこにユーザのオプションを残すとなると、とたんに七面倒な話になってしまうし、その取り決めを行う発言力のある人々が絡むとやたらに生臭い予想ばかり思いついてしまう。

ただそれでも・・・

ISP料金に上乗せするという音楽税スキームにおいても、全ての人に課金しない、という方法が全く無理なわけじゃないかもしれない。ただ、それは生臭い話を抜いた場合だけど。
たとえば、支払い金額に一定の幅を持たせるというやり方もあるだろう。全く利用しない状態の0ドルからスタートし、利用した分だけ課金されていく。0ドル付近の人も多いだろうから、上限は5ドルというわけにはいかないだろうが、それでも10ドル、15ドル程度に上限を設け、その上で音楽の流通を自由にする。そうした方法であれば比較的フェアなものとなるかもしれない。
ただ、依然として生臭い話、つまり分配やそれに関するシステム構築といった問題が残ることにはなるだろうが。

とりあえず・・・

今日はここまで。思っていること、思いついたことを書きなぐったら、収集がつかなくなってしまいましたが、いずれまたこの話題をあつかうことになるでしょうから、そのときにまとめることにします。疲れた・・・。
こうした仮定に仮定を積み上げていく、分岐させていくというお話は苦手です・・・。頭がこんがらがっちゃう。異論、反論はお待ちしております。

*1:CDにレコード同様の価値を見出せるかどうかは別として

*2:残りの半数はアラカルトで購入してくれる人たち、とすれば、単純に価格を2倍にすることには問題はあるだろうが、ここでは便宜上2倍にした

*3:WebであれP2Pであれ

*4:たとえば、アラカルト購入の利用可能性を残すために、アラカルトでのライセンス販売ということも考えうる

*5:そのアラカルト販売でさえ、音楽料を支払わせるためにハードルを上げることもできる

*6:ただそうなると次は非DRMコンテンツを流通させた、という理由での著作権侵害ケースが起こったりして