「百度は著作権侵害コンテンツをホストしてはいない、インデックスしてるだけ、YouTubeやニコ動とは違う」と言い切るのもどうかと

中国発の検索エンジンBaidu.jpの日本に進出に絡んで、Baiduに関する報道を目にすることが多くなった。Baiduといって何を思い出すか、というと米国レーベルからも訴えられているMP3サーチ。これはWeb上に公開されているMP3ファイルを検索し、そのディープリンクを返すというもの。これが問題となったのは、このMP3サーチを利用する多くのユーザが、著作権侵害コンテンツをダウンロードするために用いていたためであった。
IFPIはこのMP3サーチを利用した著作権侵害に対し、Baiduに損害賠償およびサービスの停止を求めていたのだけれども、昨年末、Baiduに対して無罪判決が言い渡されている。

 北京高級人民法院は、「百度は権利侵害を行っていない」と無罪の判決を言い渡した。百度は「検索結果を表示しているだけで、権利を侵害するファイルをアップロードしているわけではない」という主張をしていたが、これが認められたことになる。

中国のMP3検索サービス訴訟、百度とヤフーで明暗が分かれる:ITpro

もちろん、これが法廷の場において語られるのであれば、多少の理解はできる。ただ、あくまでもそれは建前であって、実際のところは著作権侵害に利用されているということを知りつつ、提供を続けている、ということもある。本音と建前、その区別が悪いことだとは言わないけれども、かといってあまりに見え透いた建前というのもあまり気持ちの良いものではない。
先日、少し古い記事なのだが、百度(株)取締役の舛田淳に対するインタビュー記事を目にした。Baidu.comのMP3サーチが音楽レーベルから訴えられているということについてこう答えている。

百度検索エンジンなので、サーバーの中に動画コンテンツや音楽ファイルを収納しているわけではない。見出しを自動的に集め、インデックス化しているだけ。YouTubeニコニコ動画のようなサイトとは基本的な立ち位置がまったく違う」と説明した。
 一方で「色々な意味でものを作ってくれる人がいないとインターネットは楽しいものではなくなるので、権利は侵害されないようにしていかなければならない」とも考えている。

Baidu.jpは、日本でも受け入れられるか?──百度取締役に聞く:Ascii.jp

率直に感想を述べると、白々しい。もちろん、Baidu,comとBaidu.jpの方針が違うということも当たり前のことだろうし、かといってBaidu.comやりすぎだよね、なんてことも言えないのも当然のことだとは思う。ただ、そこにYouTubeなりニコ動なりを持ち出してウチは著作権侵害コンテンツをホストしてないです、単にインデックスしてるだけ、などと相対的にはマシ、としか言えないようなことを言い切ってしまう、そして著作権大事ですよね的な発言を音楽著作権侵害お助けマンのBaiduが言うというのは、あまりに白々しいと思える。
もちろん、公の場で「いやぁ、著作権侵害の手助けをして、アクセスばんばんですよ。」とは言えないのはわかる。ただそこで、ウチはまだマシといってしまうのは、どうも解せない。「私が○○しているわけじゃない」といって責任を回避しつつ、それを利用する*1のはThe Pirate BayなどのBitTorrentサイトから、YouTube、ニコ動などのビデオ共有サイト、そしてBaiduや著作権侵害コンテンツをエンベッドするリンクサイトに至るまで、現在のインターネット海賊行為に関わるプレイヤーのほとんどが主張する建前である。本音の部分を考えれば、どちらがマシか、などというようには思えない。
もちろん、過度に責任を求めるというのは、その周辺にもさまざまな悪影響を引き起こすことにもなる。そういった点には強く反対していくのだろうが、かといって現状のいいわけじみた建前がこれからも通用する、ということは現実には考えがたいし、健全だとは思えない。悩ましいところではあるんだけどね。

Baidu,com vs. 音楽レーベルのこれまで

BaiduのMP3サーチに関する訴訟の経緯がなかなか面白いので、最後に簡単にまとめておこう。
IFPIのメンバー企業であるUniversal MusicSony BMG Music Entertainment、Warner Music Hong Kongは、2005年7月、Baiduに対しサービスの停止および損害賠償を求めて中国国内で訴訟を起こしたのだが、2007年12月にこの訴えは退けられた
一方、IFPIのメンバー企業は2006年7月、同様のサービスを提供していたYahoo!Chinaに対しても同様の訴訟を起こしていた。この訴訟では、Baiduのケースとは異なる判決、つまりIFPI側の訴えが認められることとなった。
この判決の差異がどこに起因するか、というと、2006年に施行された新たな著作権法によるとされている。つまり、Baiduを訴えた2005年の時点では、旧著作権法下にあり、Baiduの責任を問うことはできない、しかし、2006年7月に訴えを起こされたYahoo!Chinaのケースは、現行の著作権法によって審理されることとなり、その場合にはその責任を問うことができる、ということらしい。ただ、MP3サーチは今現在も提供が続けられており、IFPIは現著作権法下で再び訴訟を起こすに至っている

*1:意図的であれ、結果的であれ