企業として二次創作を認めてよとか、認めたらマズいだろとか

極論と極論をぶつけ合うのは嫌いじゃないけど、話としては乱暴だよなぁと思うわけです。今回は二次創作のお話。

今、二次創作を認めている企業というのは殆ど無い。一部のエロゲメーカー程度だ。しかし、今、改めて「二次創作許可を全面に押し出す企業があってもいい」と僕は思う。
(中略)
今まで同人屋の戯言のように思われてきた「二次創作が作品人気を底上げしている」が、ここまでちゃんとした形になっている。
だから、今、改めて企業に「二次創作の許可、出してみませんか?」と問いかけたい。

二次創作を認める動きがあってもいい - はてな匿名ダイアリー

この辺の感覚としては私も同意したいところではあるのだけれど、いかんせんこのエントリの中盤で、二次創作者の商業的な活動について触れているので、主たる主張の軸がぶれているようにも見えたりする。そういった部分に対して、

権利者が二次創作を黙認してくれている背景には,「彼ら(二次創作をしている人々・それを楽しんでいる人々)は楽しんでいるだけなのだから…楽しさを束縛するのは良くないよね」とか「私たち(二次創作をしている人々)は,作品への溢れる愛を表現したいだけなんです!」とか…そーゆー考えがあるわけなんだけれど
ただ金儲けをしたいだけ…なら話は別だ.それは権利者にとって,ライバル会社と同じなのだから.
「ただ溢れる愛を表現したい」「作品をもっと(二次創作することによって)楽しみたい」…なら,作品をニコニコ動画に投稿するだとか,夏冬に行われるコミケに出すとか,各所で行われるオンリーイベントで発表するとか,HPで公開するとかすればいい.
他人のふんどしで金儲けなんて考えるな.

二次創作は楽しみであって,金儲けではない - WebLab.ota

と、ごもっともな反論がなされているわけです。ただ、このWebLab.otaさんのこの続きのエントリ「二次創作を認めるとどうなるのか」では、二次創作を全般的に認める、つまりデッドコピー以外は何でもありになったらどうなる?という話になってしまい、随分と極端な話になったなぁと。
まぁ、その意図として「どの範囲で」という視点がなければこうなっちゃうんだよ、というところがあるのであれば、理解できるエントリではあるんだけど*1

認識のずれ

元増田さんには、おそらくそうした極端な考えというのはないだろうなぁと思える。同人界隈はオタ同士の寄り合いであって、それほど商業規模も大きくはない、単純にコスト回収の意味でブツを売ってるだけだよ、という感覚なのかなと。
ならWebでやればいいじゃん、冊子形式がいいならPDFでも配布すれば?という反論もごもっともなんだけど、イベントに参加することに意味があって、そうしたイベントがあるからこそ、二次創作によってその元となった作品への貢献が可能なんだ、と考えているところもあるんだろう。
それに対する反論として「際限なく二次創作を認めていたらとでもないことになるよ」という主張がなされているのは、どこまで認めるかという線引きがなされていないとそういうことになるという、いささか極端ではあるが、そうした可能性をはらんでいるという主張でもある。
もちろん、元増田としてはそこまで望んじゃいない、というだろう。そう考えると、1つ目のズレとしては「二次創作」の意味するものがあるのだろう。元増田は同人誌、同人ゲーム、それも同人市場内での活動範囲での著作物の二次的利用を「二次創作」と呼んでいると思われる。一方。WebLab.otaさんの反論は、同人を超えてデッドコピー以外のいかなる利用をも「二次創作」であるとしているようにも思える。
もう1つのズレとしては、想定している「市場の規模」だろう。前者は同人市場という小規模な範囲で考えているように思える*2。そして後者の反論では、同人市場を超えたより大きな市場を想定しているように思える。
結局、元増田さんの言いたかったことは、「元となった作品の被る損失 < 二次創作が活発になることで得られる利益」という構図が実現できるのであれば、もっと積極的に二次創作を認めてもよいのではないか、ということなんだと思うよ。もちろん、二次創作が活発になることでどれほどの利益が得られるのか、ということに関しては、さまざまな考えがあるのだとは思うけれど、少なくとも元増田さんは利益は得られる、と考えている。
一方で、WebLab.otaさんの続編エントリでは、デッドコピー以外のすべての二次的利用を認めるとその損失は相当なものになるよ、と述べている。
うーん、互いに必要な前提条件が省かれているので、なんだかどちらも腑に落ちない。なので勝手にマッシュアップしてみる。

まとめると

デッドコピー以外のすべての二次的な利用を認めろというのは、権利者にとって不利益ばかりのとんでもない話だが、活発な二次創作が行われることで得られる利益があるのであれば、それに伴う不利益を最小化できる範囲で、二次的な利用を認めるよ、という戦略があってもよいのではないか

ってことでしょうね。WebLab.otaさんの最初のエントリにはそうした二次的利用を認める話も載っているので、続編エントリのほうもそれを踏襲している、と考えた方がよいのかなと思ったんだけど、続編のほうにはそうした部分がなかったので、こうした突っ込みをしてみた。

余談だけど

ファンが媒体となって人気に影響を及ぼすことが可能となった時代になっては、二次創作を認めてよという意見は理解できなくもないんだけど、その一方で、権利者側がわざわざ認めるメリットはあるのか、と考えたりもする。
現状では許諾を出すところはほとんどない、と言われているけれど、でもその状況にあっても、それとは無関係に二次創作物が作られ、販売されている。もちろん、その大半は同人市場に限られてはいるのだろうけれど、勝手に使われていることには変わりない。
そんな状況でわざわざ利用してもよいですよ、という許諾を出したとしても、現状が変わるとも思い難い。許諾を出したところで、ほかの作品以上のアドバンテージを得られるとも思えないし*3、ともすれば意図しない、認め難いような利用をされてしまうこともありうるだろう。ならば、いつでも止められるカードを手にしていた方がよい、というのはそれなりに合理的な考えだと思うんだけどね*4
個人的には、いわゆる版権ものに頼らなくても、元増田の人が例に挙げている「東方」のように同人市場内での同人エコシステムが成熟していけばいいんじゃないの?と思うんだけどね。

*1:そういう意図…だよね?

*2:もちろん、同人市場が小規模である、ということは単純には言い難い。ほとんどのサークルは利益を上げるどころか持ち出しなんだろうけれど、一部のサークルは製作コストの回収を超えて利益を上げているところもあるだろう。また、個々のサークルを超えて、同人市場全体を見れば少なくとも小規模とは言い難いかもしれない。単純に同人イベントだけではなく、ショップ等での委託販売も広く行われているわけだし。

*3:結局、そうなっても許諾を出していない作品も勝手に使われ続けるだろう、という意味で

*4:良し悪しは別にして、ね