生理的に受け付けないのでエロゲーは規制すべきだ
簡単にいえば、規制強行派の人の根底にあるのって、そういう考えなんじゃないかなと思える。だって理由がこじつけすぎるんだもの。
最近話題になっている民主党 円より子参議院議員の嘆願を見ていて、本当にそう思えるようになった。個人的には、エロゲであれ、しばしば問題視される二次ロリであれ、その他表現と比して過度に悪影響を与えるものとは考えられないので、大した根拠もなく、規制を声高に叫ぶというのは、おそらくは嫌悪感だったり、モラルといった次元での反発なのかなぁと思ってしまう。もちろん、今現在は「それほど影響はないだろう」ともは思っているが*1、かといってそれが明確な根拠をもっているわけでもないので、妥当性、信頼性の高い調査によって、そういった事実があるということが示されるのであれば、一定の範囲での規制は必要だ、という意見に変わるかもしれない*2。
ただ、現状の規制派の議論を見ていると、そうした事実の積み上げ、という点では、適当な根拠を提示できないままに、感情に任せてゴリ押しを図っているなぁと思える。
民主党 円より子参議院議員の嘆願
街中に氾濫(はんらん)している美少女アダルトアニメ雑誌やゲームは、小学生の少女をイメージしているものが多く、このようなゲームに誘われた青少年の多くは知らず知らずのうちに心を破壊され、人間性を失っており、既に幼い少女が連れ去られ殺害される事件が起きている。これらにより、幼い少女たちを危険に晒(さら)す社会をつくり出していることは明らかで、表現の自由以前の問題である。社会倫理を持ち合わせていない企業利潤追求のみのために、幼い少女を危険に晒している商品を規制するため、罰則を伴った法律の制定を急ぐ必要がある。 ついては、美少女アダルトアニメ雑誌及び、美少女アダルトアニメシミュレーションゲーム製造及び販売規制の罰則を伴った法律を制定されたい。
美少女アダルトアニメ雑誌及び美少女アダルトアニメシミュレーションゲームの製造・販売を規制する法律の制定に関する請願
これはだいぶひどいなぁと思う。1つ1つ見て行くことにする。
街中に氾濫(はんらん)している美少女アダルトアニメ雑誌やゲームは、
氾濫という言葉の意味を見てみると、「(好ましくない物が)ひろがりはびこること。」(goo辞書 「大辞林 第二版」より)とのことで、いきなり主観的な視点が加わっている。まぁ、それはともかくとしても、町中に氾濫しているの?という疑問なんかもありつつ。私の生活圏内では、それほど見かけるものでもないのだけれど、この嘆願の背景にある人たちは、そうしたところに住んでいるのかなぁと思ったりもする。
小学生の少女をイメージしているものが多く、
二次ロリの話題を取り上げたときに、いろいろと調べてみたけれど、小学生の少女を「イメージ」したと思える作品が少なからず存在することは事実だろう*3。ただ、全体からすれば大多数といえるほどでもないように思えるし、表現としては「イメージしているものも多く」という「少なくない」ということを誇張するような表現のほうがよいかなと。
このようなゲームに誘われた青少年の多くは知らず知らずのうちに心を破壊され、人間性を失っており、
お前たちは気づいていないだろうが、私たちは知っている、ということなんでしょう。違う違うと否定しても、「いやお前らは気づいていないだけ、まったく、恐ろしいことです」なんて言うのだろう。何の根拠もないのにね。
個人的には、論理的思考もまた「人間性」を語る上で重要な要素だと考えているので、それを欠くこじつけもまた人間性を失っているのかなぁと思える*4。
エロゲ、エロアニメ、エロマンガを愛好する青少年の「多く」が、心を破壊され、人間性を失っているのであれば、それによって引き起こされる事件・事象も統計上有意な影響が示されるほどに増加していることだろう。もしそうした事実があるのであれば、まずその事実を提示することから始めるべきであり、そうした努力を欠いたままにこうした主張を繰り返すというのは、逆説的に、そうした「事実」を最も必要とし、調査している人たちですら、そうした事実があるということを確認することはできなかったということを示しているのかもしれない。
既に幼い少女が連れ去られ殺害される事件が起きている。
これは事実だろう。事件は起こっている。ただ、文脈を考えると、あまりに突飛ではあるが。もし、世界にエロゲ、エロアニメ、エロマンガが存在していなかった時代に、そうした事件が皆無であり、それが登場して以降、そうした事件が起こるようになったというのであれば、確かにその因果を推測してもおかしくはないが、そうした事件はエロゲ、エロアニメ、エロマンガの登場以前から存在するものである。
少なくとも、信頼のおけるソースからそ規制推進派の主張を裏付けるデータが提供されたという記憶はないし、さらに言えば、たとえエロゲ、エロアニメ、エロマンガの登場以降、そうした事件がそれ以前に比べて有意に多く発生するようになったことが示されたとしても、社会の変化はここ10数年大きく変化しており*5、それに付随する他の要因をパーシャルアウトしたうえで、論理展開されなければならない。
もちろん、それが非常に難しいことは理解しているが、限界があったとしても少なくともそうした前提の下で論理展開が進まない限りは、単なる感情論、嫌悪感ベースの主張としか思えない。
これらにより、幼い少女たちを危険に晒(さら)す社会をつくり出していることは明らかで、表現の自由以前の問題である。
ここまで指摘してきたように、論理構成に極めて問題のある主張をベースに「明らか」といってしまうというのは、議論以前の問題である。
- 小学生をイメージしたエロゲ、エロアニメ、エロマンガが少なくない
- そういったものを愛好する青少年も少なくない
ここまでは事実だとしても
- そうした青少年は心が破壊され、人間性を失う
は推測に過ぎないし、さらにそのせいで
- 幼女がターゲットとなる犯罪が起きている
というところにつながるまでの、論理展開、事実の指摘が完全に欠如している。
社会倫理を持ち合わせていない企業利潤追求のみのために、
その社会倫理は少なくとも社会のコンセンサスではないので。ただ、百歩譲ってそうした社会倫理があるとしても*6、それに従わない企業をあたかも悪であるかのように批判的に言及するというのは、ある種の表現を営利目的で行うということを暗に禁止せんとする圧力であるかのように思える。倫理だけの問題であれば、罰則まで設ける必要はないはずなのに。
もちろん、ここでの前提が
幼い少女を危険に晒している商品を規制するため、
ということになっているために、そうした強い主張になるのだろうが、この帰結に至るまでの論理があまりに弱いために、何ら説得力を持ち得ていない。
ここでは完全に「こうした商品があるために幼い少女に危害が及んでいる」という因果関係を前提にしているが、その根拠は何なのだろうか。何ら根拠もなく、思い込みや不快感といった主観的なもので、一方的に排除してしまおうという姿勢は、少なくとも私が感じている社会倫理を持ち合わせていないのではないかと思える。
罰則を伴った法律の制定を急ぐ必要がある。
ついては、美少女アダルトアニメ雑誌及び、美少女アダルトアニメシミュレーションゲーム製造及び販売規制の罰則を伴った法律を制定されたい。
何ら根拠のない憶測から、罰則を伴う法律の制定にまで飛躍してしまう、というのは、ヒステリーまたはモラルパニックのように思える。
あなたの『正義』を押し付けないで
円より子参議院議員は以前、「自分の『正義』を押し付けないで〜子どもたちの放火事件に思う」というコラムを書いている。少なくとも、事実からのボトムアップという側面なしに、こうした規制を強化するということは、一部の人の正義を押し付けているということにはなりはしないだろうか。
実際にそうした事実があるのであれば、それを提示してもらえば、私も考えは変わるかもしれない。でもそれがないままに、いくら主張を強めても全く説得力が増すことはないばかりか、むしろますます説得力を欠いていくように思えてならない。
私自身、彼女が特に問題視している表現に対しては、彼女ほどではないにしても、嫌悪感を覚える部分もある。ただ、それは私個人にとって好ましくないだけであって、それを理由にそうした表現を排除するということはあってはならない。
もし、実際に問題があるのであれば、それを明確に示すデータなり、論拠なりを精査することにこそ注力すべきだろう。そうしたものが提示できてこそ、より多くの人の支持を得ることができると思うのだが。
*1:影響が「全く」ないとは思っていない。ただ、それが他表現と比して、その範囲であれ、一般性であれ、極めて強力なものだとは思えない、ということ。それがダメならエロゲにとどまらずかなりの範囲のものがダメになりかねないよね、と思う。
*2:もちろん、その範囲という部分で、多くの議論が必要だろうが。
*3:まぁ、見た目幼女な大学生、とか苦しい設定も含めて、ね
*4:そもそも、人間性などという言葉は主観的な言葉であり、具体的な定義がないままに使われるときは、「人間とはかくあるべき」という漠然とした主観的望ましさを表すことになる。
*5:もちろん、それ以前にも常に大きな変化を続けているが
*6:確かにモラルという点で考えれば、世間一般の人がたとえ二次であれロリ表現を好ましく思わない、というのはあるだろう。まぁ、世間一般ってのも曖昧な話だけどね。