アニメのファンサブのお話 その3

アニメのファンサブのお話の第3弾です。今回もいただいたコメントを元に、いろいろと考えてみたいと思います。

mohno mohno 出遅れた。アニメフェアで「NO MORE ファンサブ」ってやってた。「熱心なファン」なら、迷惑掛けているとわかった時点でやめればよいわけで。お前はストーカーかと。

おそらくコアなリリーサーとしては、彼らなりの「論理」があるのでしょうから、完全には迷惑だとは思っていないのでしょうね。私としても、そうした人たちの過去の実績を過度に軽視するつもりはありませんし、その一方でそうした行為自体が違法行為であるということも認めねばならないことだと思っています。ただ、それが一定の範囲で黙認されてきた背景として、海外での正規リリースの事情や、コンテンツホルダー・地元ライセンサー・ファンサバーのつかず離れずの関係が成り立ってきたからかと思っています。
しかし、そうした状況が未来永劫変わらないということはありませんし、実際に変化を見せてきていると思っています。コンテンツホルダー側でも、GONZOのように当該の地域でのデマンドに合わせてコンテンツを提供するという動き*1や、以前に比べてCATVなどのアニメチャンネルが充実してきた部分もあるでしょう。その一方でファンサブコミュニティでも、よりライトユーザからのデマンドに応えるという動きも見せています*2し、その品質も以前に比べると格段に増しています。。
確かに以前であれば、共存できたのかもしれませんが、時とともに互いに相容れない関係になってしまう、ということなのかもしれません。そういった部分では変化を求められるのは権利者サイドばかりではない、と考えています。

asakura-t asakura-t ちゃうねん。日本も含めて相当数が「無料だから見てる」だけで、それに対して付加価値をつけたとしてもお金を払わない層がほとんどだろう、と。そこを無視してる方々(消費者も権利者も)に対しては「現実をみろよ」

なるほど、おおよそ私が言わんとしていることと同じなのかもしれませんね。確かに、そうしたユーザはファンサブユーザベースの中でも外縁にいて、ハードルがほとんど存在していない、アクセシビリティの高さゆえに視聴しているだけであって、ハードルが高くなれば、わざわざ視聴しなくなるだろう、というのは理解できます。
ただ、ペイする/しないの「明確な」境界線は存在しない、むしろ連続していると思っていますし、費用対効果のバランスによってペイするか否かを決定する層もいると思いますので、ファンサブの存在がそうした層の購買を抑制しているのではないか、と思うところもあります。もちろん、権利者側が叫ぶような「どうやってもペイしない層」を含む被害は、ちょっと誇張気味だなとは思いますが*3ファンサブによって何ら不利益を被っていないと言われれば疑問に思うところもあります。

d346prt d346prt そうか!「違法アップロードが宣伝になるのはウソ」と言われる傾向にあるけど、それは既存のビジネスにとって、でしかないんだよね。何かネットならではのものが出てこないと、上手く回らないのかもね。

ある意味では、既存のビジネスにとっても真実である部分もあると思いますよ。周知効果もあると思いますし、ゆるいものであれ、凝集性の高いものであれ、コミュニティ規模で盛り上がれば、ファンを作り出し、その作品にコミットさせるわけですから、全くないとは思えません。
ただ、定量的に観測できるものでもありませんし、その一方で、同時に不利益を生み出す可能性もあるわけで*4、それを良しとするか否かという点では、やはり権利者次第であるべきかなぁと思っています。
もちろん、権利者サイドがそれを良しとして、ある程度の範囲で黙認する、というのも勝手なのでしょうが、個人的には積極的に権利者のコントロールの及ぶ範囲でそうした益を求めていく方がよいかなぁと思う次第です*5。その点で、ネットならでは、の効果的な手法が確立されるのが望ましいですね。
ただ、そうした場合に、既存のファンサブネットワークが阻害する要因となるかもしれません。たとえば、GONZOの件などもファンサバーからのディストリビューションがなければ、おそらくは絶賛されたことでしょう。ただ、現実にはGONZOの提供するもの以上に、高品質*6のものが容易に入手できるわけで、GONZOの取組を阻害している部分もあるといえます。
こうした事情もあって、積極的な取り組みであっても、最初から大成功をおさめるのは難しいでしょう。しかし、ある程度の成功をおさめなければ、そうした取り組みは継続していかないのではないか、と思うところもあります。それゆえに私は、望ましい方向性だと思ったものに、ユーザはその将来に対しても自らのコストを犠牲にしてでも投資していかなければならないのではないか、と思っています。

himagine_no9 himagine_no9 「コンテンツの値段が高いから海賊行為に走るんだ、もっと安くせよ、という主張は、海賊行為の文脈に限って言えば、改善策になりこそすれ、解決策にはならない」か‥‥。解決は無理だから改善で良いと思う俺。

すみません、誤解を招く書き方でしたね。私もid:himagine_no9さんに同意します。ここでいいたかったことは、やった方がマシなことは積極的にやっていくべきだと思っているが、1つの方略のみでは実感できるほどマシにはならないので、さまざまな要因を考慮して複合的な方略を用いて改善を図ることでしか、解決には向かわないのではないか、ということです*7。もちろんここには、コンテンツプロバイダー側の変化を求める部分もありますが、それに呼応したユーザ側の変化、という部分も必要不可欠だと思っています。
id:maachan1977さんからも、元のエントリにコメントをいただきました。

maachan1977maachan1977

米国にはファンサブでアニメを見る層もいれば1年以上遅れでCartoon Networkなどで放送される吹替え版でも十分満足している層もいるので、ファンサブ問題だけで海外のアニメ事情は語れないかな?という実感です。

通常はライトファンからディープファンになるとそれに費やすお金も増えるのですが、どうもそういった濃いファンがファンサブ視聴に流れて逆にお金を払わなくなっているのが厳しいところですねぇ。

個人的には、コア層も連続している部分があって、外縁*8に向かうほどに、ファンサブの品質*9の向上に伴って、継持的に濃い目の層をみたときに投資しなくなってきているという可能性はあるのかなと思っています。
どちらかというと、ファンサブ事情と語るというスタンスでしたので、海外アニメ事情への言及は少なかったかも知れませんね。確かに、CATVでもアニメチャンネルは以前に比べれば格段に良くなっているでしょうし、そうした部分が、ファンサブに、海外のアニメ市場に、ポジティブ、ネガティブ両面での影響を与えている可能性もありますね。

*1:GONZOのとっている具体的な方略が有効だ、とは思い難いところもありますが、そうした方針を持つこと自体はよいと思っています。

*2:つまり、不文律を破り、正規流通が開始されたのちも提供を続ける、もしくは正規流通されたものを提供するとか。さらに言えば、そうした不文律を守るチームであっても、配布にP2Pファイル共有を用いることで、コントロールを失いつつある部分も存在するだろう。

*3:おそらく権利者サイドとしてもそうした点は認めているながらの主張だと思ってはいますが

*4:こちらも定量的に観測できるものではありませんし。

*5:もちろん、それでも足りない部分はあって、そうした部分がグレーゾーンによって補われることが、ライツホルダーたちとファンサブコミュニティにとって、双方に不利益なく、利益をもたらすの関係を築くことが出来ればそれでもよいのかもしれませんが。ただ、それはおそらく将来的な問題の火種となりかねない部分もあるので、なかなか難しいところです。その時代時代にフィットした形にその関係を適宜修正できるのであれば、よいのですが、それがうまくいかなくなりつつあるのが現状であるという思いもあります。

*6:画質だけではなくそれ以外の点でも

*7:ユーザに対する責任追及もここに含まれると考えています。それだけに頼っても大きな効果は上げられないと感じていますし、実際にそういう状況にあると思っていますが、さまざまな方面からの取り組みがあれば、そうしたユーザの追及も他の要因とあいまって相乗的な効果をあげられることもあるのではないかと思っています。

*8:ライト層

*9:画質、ライムラグ、保存性、入手可能性、カタログなど