ePiano.jpがJASRACにいくら支払うことになりそうなのかを考えてみる

字幕.in予告.inでおなじみのSatoru.netの中の人が、オンラインピアノサービスePiano.jpの件でJASRACに問い合わせをしている件について。

なかなかやり取りも面白いんだけど、やはりピアノ演奏共有サービスというのは、ちょっと特異なものなので即答はいただけなかったご様子。

J:それは、危険ですね。。状況によっては、いったん、公開停止していただく事もできますか・・・?
俺:すみません・・はい、できます。

オンラインピアノの事でJASRACに問い合わせ#1 - satoru.netの自由帳

状況によっては、というのは、許諾もしていないサービスに管理曲が利用されている場合には、ということなんだろう。JASRACとしては、利用された分のお金を徴収するというお仕事を引き受けているわけだから、「危険ですね。」の一言に「・・・!」と思いそうになりながらも、まぁしょうがないよなぁというところ。

今までにない形のサービスで、どの料金体系に当てはまるかは検討してみないとすぐには返答できないので、いったん社内で検討してみてもらえるとの事。

と回答を保留されているようなのだけれど、実際どういう料金体系に当てはまる可能性があるのを見てみよう。オンライン配信に関する規定の詳細はJASRACのインタラクティブ配信ページpdfにて提供されているのだけれど、使用料規定の早見表もhtmlで提供されている。

どれに該当しそうかな?

商用配信

商用配信とはなんぞやというところが肝なんだろうけれど、JASRACの規定によれば(pdfより)

情報料または広告料等収入を得て行う配信、および収入の有無に関わらず営利を目的とする者が行う配信をいう。

とのこと。わかりやすく言えば、情報料や広告料を得ていなくても、営利団体(たとえば企業)が配信した場合には、営利目的とみなしますよ、ということ。ほとんど無いと思うけれど、企業HPでバックグラウンドに音楽を流す場合には、たとえサイトに広告がなく、サイト閲覧にお金がかからなくても、営利目的での音楽の利用ですよ、というところだろうか。
今回のケースでは、ePiano.jpはおそらくsatoru.netのサービスの1つとして位置づけられるのだろう。で、そのsatoru.netは

satoru.netは非営利、個人で運用されている総合ネットワークです。

satoru.net

とあるように、個人、非営利で運営されている。ただ、satoru.net内のサービスであった字幕in.を会社化して、中の人が社長さんになっていたりするので、その関係はどうなんでしょね、というところまではよくわからない。

「個人でやっていると、ぼくは字幕.inにずっと携わり続けなくてはなりませんが、会社化して、ぼく以外の人たちの力で字幕.inを回していくことができれば、『satoru.net』で面白いものを開発し続けるという本来の活動に戻れます」

ITmedia News:無職から社長に――「字幕.in」が会社化 (1/2)

この辺の発言を見ていると、satoru.netは個人としてやっているという意識は強いんだろうなぁという印象を受けるが。
とりあえず、商用配信とされた場合には、以下の使用料形態のもとに支払いが生じることになる。

で、ePiano.jpのサービスがストリームに当たるかダウンロードに当たるかだけれども、こちらははてなMML部がJASRACに利用許諾申請を出した際に

MML記法による音楽配信はストリーム形式で利用申請して問題ない。

との判断がなされていることから、類似した方法で音楽配信を行うePiano.jpでもストリーミング形式と判断されるようにも思える*1。となると年額5万円になるのかな。

非商用配信

もちろん、今回のケースが非商用配信と扱われる可能性もあるので、その場合についても考えてみよう。JASRACによれば非商用配信とは

非営利団体または非営利の任意のグループもしくは個人が営利を目的とせず行う配信をいう。
ただし、以下のデータの配信については商用配信とみなす。
1. 商業用レコード等(当該商業用レコード等にかかわる権利者の許諾を特に非商用利用として得ている場合はこの限りではない)。
2. 着信音(着信音専用データを含む)。

と規定されている。着信音は何が何でも商用配信なんだ、というところには、何かしらの大いなる意思や希望を感じないでもないが、それはそれとして。今回のケースでは、ピアノ演奏共有サービスであることを考えると、非営利団体または任意のグループとしての非営利的な利用とも考えられる。なので、JASRACの判断次第ではこちらの料金での支払いを求められるのかも。

ストリームであれば、年額3万円を支払うことになる。
余談だが、個人として非営利で音楽配信を行った場合には、以下の料金形態での支払いとなる。

ストリーミング形式で年額使用料を支払えば、月々850円くらいで好きなだけ演奏を公開できる、という感じ。個人でやる分にはそこまで高くはないのか。ピアキャスネットラジオで自分の演奏した、もしくは演奏者の許諾を得ている曲だったら、流し放題ってところなのかな。ただ、ポッドキャストだとダウンロード形式になるから、好きなだけ、とはなりにくいかも。それでも月10曲までの範囲だったら、年額1万円で演奏した曲をポッドキャストで流せるってのはアリかもね。
あと、おそらくはアフィリエイト等の広告を掲載している個人サイト向けなんだろうけれど、商用配信の特例として、「非営利団体または非営利の任意のグループもしくは個人が広告料等収入のみを得てダウンロード形式により利用する場合」には、以下の使用料形態となる。

まぁ、個人やサークルとしてはちょっとつらいよね。

脱線しちゃったけど

個人的には、ePiano.jpの場合には、非営利の任意のグループによるストリーミング配信って感じになるんじゃないかと、根拠もなく思っているんだけど、JASRACの判断とその根拠がどういうのものになるのかは、期待したいなぁと思ったり。

JASRACの利用許諾を得ないという選択肢

もちろん、JASRACに連絡したからといって、必ず契約を結ばなければならないということはなくて。
1つの選択肢としては「サイトにJASRACを含め権利者の許諾を得ていない楽曲の演奏を公開しない」ということが考えられる。パブリックドメインの楽曲、権利者が事前に利用を認めている楽曲*2、演奏者自身が権利者である楽曲だけを公開することには何ら問題はない。そのためには、投稿された演奏を即時公開ではなく、管理者が確認して問題ないと判断したものを公開することが必要になるだろう。ただ、世界には膨大な数の楽曲が存在していて、管理人がそのすべてを把握して判断できるわけでもないので、エラーが生じるのは避けがたいと思われる。その点は、投稿者に著作権関係がクリアになっているかを申告させる等の投稿手続きを加え、その上で管理者が確認するという形なら、ある程度は許容範囲のサービスになるかも。ただ、多少のリスクは残るし、管理コストもそれなりにかかりそうではあるが。
もう1つの選択肢としては、TV Breakのようになすがままに、というやり方。削除要請が来たたら応じます*3、あとはなすがままに、という感じになるのだろうけれど、こちらはTV Breakの例をみればわかるけれど、リスクは大きめ、その代り確認作業にかかる管理コストが少なめ。
どちらの選択肢が良いとか正しいという判断はつけがたいけれど、今回のケースでいえば、「今後の展開も含め、ちゃんとした形で堂々とサービスをやりたい」というくらいなのだから、後者を選択することはなさそうだとは思う。また、前者を選択しても管理コストが支払額以上にかかりそうだということを考えるとあまり現実的ではないかなとも思える。さらに言えば、リアルタイムで投稿できなくなることがサービスの質を低めることにもなりかねないし。
なので、個人的な感想としては、それなりに需要のあるサービスであるのなら、支払ってもいいくらいの範囲かなぁと。ただ、JASRACと契約したからといって、権利関係がすべてクリアになるわけではなくて、JASRACが管理していない楽曲を無断で演奏すればやはり問題である。サービスの利用者が事前にJASRAC登録曲であるのかを確認できるよう促すことができればベターかもね*4

余談

心情的には、非営利で個人単位*5であれば、自由に演奏してそれを公開できてもよいと思うんだけどね。もちろん、線引きが厳格なものになる必要はあるのだろうけど*6。ただ、そうなるとYouTubeニコニコ動画のようなサービスでの演奏の公開が相対的にされにくくなって、そうしたサービスとの契約が抑制される可能性もあるのかも。難しいねぇ…。

*1:厳密な区分けでいえば、ストリーミングは「受信先の記憶装置に複製せずに利用させる配信の形式」で、ダウンロードは「受信先の記憶装置に複製して利用させる配信形式」と規定されている。この区分けに従って考えるとちょっとややこしいので、類似したケースでの判断を基準にしたほうがよいのかなと。

*2:たとえば改変を許諾しているCCミュージック

*3:TV Breakが削除要請に応じていたかどうかは、今は判断がつかないのだけど。

*4:もちろん、JASRACと契約したとして、ね。

*5:バンドなんかも含む

*6:ちょっとしたアフィリエイトもNGとか、共有サービス等での公開は不可とか、逆手に取った悪用を防ぐという点では必要になるのかなと。