リーク音源をニコ動にアップロードした男性、著作権法違反で書類送検

asahi.comの記事によると、正式リリースの2週間ほど前にDir en greyのアルバムの楽曲をニコニコ動画にアップロードしたとして、ニコ動ユーザの男性が著作権法違反(公衆送信権の侵害)の疑いで書類送検されたとのこと。いわゆるリークとか、プレリリース流出とかいう問題だろう。

Dir en grey所属事務所のサンクレイドのプレスリリースによると、

男性会社員は、2008年10月30日、DIR EN GREYが11月12日に発売を控えていた7枚目のアルバム「UROBOROS」(ウロボロス)の楽曲及びCDのジャケット写真をパソコンインターネット上のサイトで、株式会社ニワンゴが運営管理する「ニコニコ動画」を通じ、権利者に無断で不特定多数のインターネットユーザーに対して送信できるようにし、著作権公衆送信権)を侵害しました。

プレスリリース|共同通信PRワイヤー

当該のユーザは自動送信可能化権の侵害ではなく、公衆送信権の侵害として告訴、書類送検されたようだ。ちょっと調べてみたところ、10月30日付けの同アルバム楽曲のニコニコ動画へのアップロードは2件ほど見つかった。いずれもアップロードしたユーザによって削除されている。

こちらは、海外アップローダへのリンクが張られており*1、閲覧者がダウンロードすることも可能だったと思われる。ただ、閲覧回数は11。

おそらくはアルバムの楽曲を投稿したもの。「8-13」とあるのは、アルバム後半部分のアップロードなのだろう。ただ、前半部分にあたるビデオは見つからなかったが。閲覧回数は190。

これのいずれかが問題となったアップロードというわけではないかもしれないが、参考までに。

問題の焦点:プレリリース版の流出・流通

もちろん、既にリリースされたものであれば問題ではない、なんてことはないのだが、今回の件に限らず、これまでの海外の動きを見ていても、プレリリースの流出に対する権利者側の危機感は非常に高く、その予防的措置、リークした人物に対する法的措置、リークを拡散させた人物への法的措置などに力を注いでいる。

Dir en grey所属事務所のサンクレイドの見解としても

DIR EN GREYの所属事務所の見解:
既に発売された作品でさえ、違法アップロードは、我々の業界に危機的状況をもたらしています。これが、発売日前の違法アップロードに対して、なんら処罰がなされないようになると、音楽業界が壊滅してしまうと考えています。また、心血注いで制作した作品が、なんの根拠も無く扱われてしまう事にも大変なショックを受けております。

プレスリリース|共同通信PRワイヤー

と、リリース後の不正流通を容容認しているわけではないが、リリース前の流出がより深刻な問題であることを示唆している。

同バンド所属事務所のサンクレイドは、ニコニコ動画に対して同バンドのPV等の削除要請を行っている。もちろん、リリース後のアップロードであれば仕方ない、なんて思っているわけではないのだろうが、プレリリースへの対処は厳格なものにしなければならない、と考えているのだろう。

この辺は、削除要請によって対処しうる限度を超えた、と判断されたと考えられる。個人的にはリークされたとしても、さしてセールスに影響があるとも思えないのだが、そんなことは権利者にとっては大きなお世話であって、自らの戦略上マズいとなれば、自らの正当な権利を行使して不正アップロードを阻止せんとするのもおかしいことではない。宣伝効果があるんだ!といっても、大きなお世話だし、目に見えてわかる宣伝効果があって、費用対効果がポジティブなら権利者自ら公式チャンネルでも作ってアップロードしてるわけで。

リーク問題と運び屋

もう1つ興味深いところとして、問題のビデオをアップロードした男性は

「海外のサイトで既に配信されていたものをダウンロードし、流した。発売前に入手していることをネットを通じて示したかった」

asahi.com(朝日新聞社):発売前の曲をネット配信容疑、会社員を書類送検 - 社会

と、取り調べに対して話しているという。
ちょっとした自己顕示欲なのだろうが、リーク等の違法流通を拡散させる要因の1つとして、いわゆる「輸入」という行為がある。たとえば、Winnyネットワーク上に不正流通しているファイルを、Shareネットワーク上で流す(放流する)といった行為。

この男性も、海外アップローダにアップされたファイルをニコニコ動画というプラットフォームに輸入することで、より多くの人がそのコンテンツにアクセスすることを可能にした。自己顕示欲を満たすであれ、ゆがんだ互助の意識であれ、何らかの動機によってそれはドライブされる。

そうしたユーザの感覚としては、既にリークされ流通しているものなのだから、自分は不特定多数の一人にすぎない、と軽い気持ちで輸入を行うのかもしれないが、ある種のネットワークに改めてアップロードする場合には、特定の可視的な個人になってしまう。

ニコニコ動画YouTubeのようなサービスプロバイダが存在する状況では、その存在がユーザの盾となっているという部分もあるのだが、あくまでもそれは権利者がサービスプロバイダ側にコンタクトをとった方が都合が良いというだけであって、それを越える問題となった場合には今回のようにユーザに対して直接の対処がとられることになるのだろう。

また、今回の件はプレリリースが特に問題視されたことで生じたケースなのだろうが、だからといってリリースされたものなら安心、というわけではない。権利者といっても同じ認識を持っているわけではなく、リリース後のアップロードであっても看過できぬ、と考えるのであれば、今回同様のことが起こりうるだろう。

余談

この件についてのビデオがニコニコ動画にアップロードされていたので、以下に掲載しておきます。

*1:当該ファイルは既に削除されている。