「PSP Go」でユーザが失うもの
新型PSP「PSP Go」がE3にて発表されたことが各所で報じられている。
その中でも話題になっているのが、
PSP goはUMDドライブを廃し、16Gバイトのフラッシュメモリを内蔵。ゲームは無線LAN機能あるいはPS3を介してPlayStation Storeからダウンロードして入手する。また付属ソフトのMedia Goを使って、PC経由でコンテンツをダウンロードすることも可能だ。
ソニー、「PSP go」発表 2万6800円で11月発売 - ITmedia News
というUMDスロットの廃止。これによって小型化、軽量化が可能となったのだが、その一方で購入経路はPlayStation®Storeからのダウンロード販売に限られることになる。現時点では、PSP Goと既存のPSPは併売されるようで、すぐさまUMDディスクでの販売が廃止されるというわけではないのだろうが、現時点でもUMDでの販売とダウンロード販売が一部並行して行われていることを考えると、ダウンロード販売強化戦略とも考えられる。
フィジカルからデジタルへ
そうした動きに対して、小売店から懸念の声が上がっているようだ。
ダウンロード専用機「PSPgo」だなんて、 私達流通「お店」はもういらないって事?必要とされていないの?
**店長からのメッセージ** 20090604
(関連:読みゲー 「PSP Go」 の「UMD廃止」に対するゲーム小売店側の想い 簡易まとめ)
そう思う気持ちも良くわかるのだが、次第に必要とされる範囲が狭まっていくのだろうなぁとは思う。
今のところは、PSPとPSP Goとが併存していくことになっているので、ある日突然UMDディスクが売れなくなるということはないだろうけれど、PSP Goがシェアを増せば徐々に利益を削られていくことになる。さらに、PSP Goがシェアを増せば増すほど、現在UMDでのみリリースされているような作品でも、発売と同時にダウンロード配信を行うことを迫られる*1。今のところ、新作ゲームの発売と同時にダウンロード配信をしているソフトはほとんどないのだが*2、そうした状況も変わっていくのかもしれない。そうなればさらに小売店は苦しくなる。
そうした小売店の懸念に対して、一部のユーザからは批判的な意見が述べられている。
■ 痛いニュース(ノ∀`):新型PSP(DL専用)発表に小売店が激怒 「私達お店はもういらないって事?」
そこまで言わんでも…と思う意見もあるのだが。こうした意見の中にソフトが安くなるから嬉しい、という声もあるのだが、正直なところ、少なくともUMDディスクが完全に廃止されるまでは、ソフトが嬉しくなるほどに安くなるとも思いがたい。
現在のPlayStation Storeでの価格設定を見ていても、UMD版の小売希望価格が4,980円のソフトがダウンロード版で3,800円、ベストシリーズだと前者が2,800円で後者が2,200円。確かにそれぞれ1,180円、600円ほど安くなっているように見えるが、UMD版の価格はあくまでも小売希望価格なので、最新作であれば実際には1,000円前後は安くなるため、価格としてはそれほど変わらない。セール品であれば、ダウンロード価格よりもだいぶ安くなることもありうる。また、ダウンロード版はおそらくベストが出るまで価格が変動しないだろうから、もの・時期によっては今より割高になることも考えられる。さらに、中古ソフトを購入していた人たちにしてみれば、ダウンロード版のほうが高い、という感覚を持つかもしれない。
新作ゲームがUMDディスクでも販売されているうちは、ダウンロード版との価格差をあまりに広げることは避けるだろうから*3、こうした傾向はしばらく続くだろう。また、たとえUMDでのリリースがなくなったとしても、あえてそこで値下げをする必要もないだろうから*4、価格は据え置き、もしくはユーザが嬉しいと思えるほどの値下げは行われないだろうと思える。
ユーザが失うもの
データとして購入することによって利便性が高まる部分もあるのだろうが、利便性を得る代わりに失うものも出てくる。もちろん、UMDが完全になくなるのはまだ先のことだろうが、もしそうなれば、どうなるのか。
まず、UMDがなくなればそれに対応するハードは作られなくなる。もちろん、UMDリーダーやそれに代る対応*5によってクリアされるのかもしれないが、既存のPSPが破損してしまえば、UMDディスクでプレイするためのハードがなくなってしまうことになる*6。
もう1つは、ダウンロード購入したソフトは、購入した時点で経済的価値を失うということ。これまで、4,000円なり5,000円で購入していたソフトであれば、購入後すぐに売ればそれなりの額で、しばらくしたらほどほどの額で売れたものが、売却すること自体不可能となる。もちろん、ユーザはその代わりに再ダウンロード、PCでの管理、複数ソフトの持ち歩きなどの利便性を得るわけだが、どちらがよいのかは判断が分かれるところだろう。
さらに、ダウンロード版だと友人間でのソフトの貸し借りができなくなってしまう。これに関しては賛否両論あるだろうが、私個人の経験で言えば、ゲームソフトの貸し借りによってゲームの売上にネガティブな影響は与えない、と思っている*7。誰かから借りているだけで満足できる人はほとんどいないだろうし、ゲームにはまればはまるほど、ゲームを欲しくなるのだから、むしろポジティブな影響を与えているとすら思っている。貸し借りって思っている以上に制限があるものだしね。もちろん、体験版もあるのだが、そんなもので満足する人もいないだろう*8。
フィジカルからデジタルへの移行はメリットもたくさんあるのだけれど、同時にデメリットもはらんでいる。そうした意味では、PSP GoでSonyが見せた戦略はユーザにとってもメリット、デメリットある方向性でもあるんだよなぁと思う。
余談
今のところ、PlayStation Storeでのダウンロード配信はPSソフトなどのアーカイブがほとんどだけど、PSP Goのリリースまでにはテコ入れもありそうよね。
*1:もしくはPSP Goのリリースにあわせて、ダウンロード配信を強化する、かも
*3:小売店に対しての配慮、という部分もないわけじゃないだろうし。
*4:もちろん値下げをする理由が他にあればそうなるのだろうが
*5:UMDディスクで所有するソフトのダウンロードを可能にする、など
*6:ただ、これに関してはITmediaの記事に「SCE広報部に聞いてみたところ「今の時点で言えることはないが、前向きに検討していきたい」とし、UMDゲーム資産を無駄にしないで済むような施策を打ち出す可能性はある」とあり、何らかの対応が期待できる、かも。
*7:もちろん、デジタルコピーされたものに関してはその限りではない
*8:なら買えよ、買えないならしょうがないだろ、というのも正しいのだが、結局、空いた時間はゲーム以外の楽しい経験に向けられてしまうわけで。