児童ポルノブロッキングによる検閲はYourFileHostへのアクセスを遮断する

児童ポルノの流通防止のため、単純所持を禁止しようという動きに関する議論が盛んになされている。私もそれに対しては懸念を持っているが、それと同様に、インターネット上のサイトに対するブロッキングに関しても懸念を持っている。現在、児童ポルノ流通防止協議会は児童ポルノを掲載するウェブサイトへのアクセスブロック等に関して検討を行なっている。

■ リスト化・ブロッキングを検討
 インターネット上に氾濫(はんらん)する児童ポルノの流通防止を図るため、通信事業者や有識者などで構成する協議会が活動を始めている。協議会では児童ポルノが掲載されているウェブサイトのリスト化や、掲載サイトを閲覧できなくする「ブロッキング」の是非について検討。その結果、ブロッキングなどが始まれば一定の効果が期待されるが、法整備を急ぐべきとの指摘もある。(森本昌彦)
(中略)
 協会が運営する「インターネット・ホットラインセンター」では、ネット上の違法、有害情報について通報を受け付ける。通報で児童ポルノが掲載されたウェブサイトがあった場合、管理者へ削除を要請しているが、一部には応じない管理者もいるのが現状という。また、いったん画像がネットに流通してしまうとコピーされ、流通が続く恐れがある。
 こうした現状を打破するために設立されたのが児童ポルノ流通防止協議会だ。ネット接続事業者や検索エンジンを運営する会社、弁護士らで構成され、児童ポルノを掲載しているウェブサイトのリスト化とブロッキングの2点について検討する。

 リストに関してはどのような基準でリストに掲載するかや、どんな組織でリストを作成、更新していくかなどについて議論。児童ポルノを掲載するウェブサイトへのアクセスをできなくするブロッキングについては、憲法の「表現の自由」との関係もあるため、法的な課題などについて検討する。年内いっぱい話し合いを進め、是非などについて提言をまとめる予定だ。

児童ポルノ流通防止へ法整備急務 ネット普及で事態悪化 - MSN産経ニュース

もちろん、児童ポルノの問題は非常に深刻であり、その対策を望む。ただ、児童ポルノだからといって、何をしてもよい、どれほど強硬な対策をとっても、どんな弊害をもたらしてもよいとまでは思わない。だからこそ、声を大にしていいたい。こうしたブロッキングはたとえ児童ポルノの流通を阻止するための対策となり得たとしても、事実上の検閲に他ならない。

もちろん、一定の制限・範囲・条件のもとで検閲がなされることを否定しない人もいるだろう。私も、少なくとも児童ポルノに関しては許容できる部分もある。ただ、それは、その制限・範囲・条件が明確に示され、それに即して行なわれた場合に限られる。しかし、そんなことは実際に可能なのだろうか?

しかし、そんな懸念にはお構いなしに、準備は着々と進んでいるようだ。

警察庁は18日、インターネット上にはんらんする児童ポルノ根絶に向けた重点プログラムを策定した。画像の児童の特定を急ぎ、捜査と被害者支援に生かすため、児童ポルノの画像分析を専門に行う班を設ける。インターネット・サービスプロバイダー(ISP)らによる自主的なブロッキングも来年度以降実施の見通しで、その際に児童ポルノが掲載されたサイトのアドレスなど捜査で得られた情報を提供することも決めた。【千代崎聖史】
(中略)
 画像の拡散防止のため、インターネット・ホットラインセンターを通じてサイト管理者などに削除依頼を続ける。また、今後、児童ポルノのアドレスリストを提供する官民共同の団体が設立される見通しだが、設立され次第、流通防止対策に取り組む事業者らに捜査情報を提供してスムーズなブロッキングにつなげる。

児童ポルノ対策:画像特定に専門班 ネット遮断にも協力−−警察庁 - 毎日jp(毎日新聞)

ネット規制
 とはいえ、迷惑メールが次々に送られてくるネット社会の現実が示しているように、児童ポルノの追放は単純所持の禁止措置だけで果たせるものではない。いったん流出した画像はマニア間でコピーが繰り返され、無制限に広がっていくからだ。この悪循環をどこかで断ち切る必要がある。
 そこで期待されているのが、児童ポルノサイトそのものへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング制度」だ。すでに英国やスウェーデンなどで導入され、大きな成果を挙げている。公明党もその可能性を精力的に調べ、改正案に付則として「国の調査・研究対象とする」ことを盛り込んだ。
 こうした中、今月2日、民間のネット事業者らが警察庁や学識経験者らとともに「児童ポルノ流通防止協議会」を発足させた。プロバイダー(接続業者)が自主的に同制度を運用できるよう、技術的な課題などを検討するのが目的で、来年度にも実証実験を始める予定。民間主導の試みとして注目されている。

児童ポルノ追放へ“三つの挑戦”:ニュース|公明党

公明党は「スウェーデンでも効果を上げているから、日本でも早く導入せよ」か。

スウェーデンで起こった問題

確かにスウェーデンでも警察機関の作成したブロックリストをISPが自主的に利用し、ブロッキングを行なっている。ただ、このブロックリストに関連して全く問題がなかったわけではない。

2年ほど前、世界最大級のBitTorrentサイトとして知られるThe Pirate Bayが、ある日突然この児童ポルノブロックリストに入れられた。ただ、実際にはISPによるブロックリスト更新を前に、リストから外されたことで難を逃れたのだが、問題が生じた当時The Pirate BayのスポークスマンPeter Sundeはこのように批判した。

「警察が問題のあるものをThe Pirate Bayで見つけたのであれば、まず始めに我々にコンタクトを取り、そしてコンテンツについての質問を我々にし、然る後に(訳注:その削除を)我々に要請するなり、我々の不正として裁判所に連れて行くなりするべきだろ。そういったやり方をしないこと自体、これがなんであるかを明確に物語っている。そう、彼らはそうするための法的な根拠を持ってはいないからこそ、コソコソやらないといけないんだろう。これは単に妨害工作であり、彼らに与えられた権力の乱用だ。」

The Pirate Bay、児童ポルノを口実にアクセスを遮断される? :P2Pとかその辺のお話

実際のところ、この件は児童ポルノ以外の要因が背景にあるのだろう。確かに、The pirate BayはユーザがTorrentをアップロードすることができるので、そのなかに児童ポルノコンテンツへのリンクを含むTorrentが混じり込むこともあるだろう。ただ、無検閲といわれるThe Pirate Bayであっても、児童ポルノに関連したTorrentは自主的にまたは警告があり次第削除しており、こと児童ポルノに関しては、他のCGMサイトと何ら変わりはない。

警察側は、The Pirate Bayが児童ポルノコンテンツを削除しなければ、ブロックリストに入れざるをえない、と述べているが、その一方でThe Pirate Bayに対してコンテンツを指定し削除を要請することはなかった。このサイトには児童ポルノがあるから遮断する、それだけ。

この件は、児童ポルノを口実に著作権侵害の源となっているThe Pirate Bayを封じ込めようとする意図があったように思える。もちろん、ここまで恣意的なアクションは滅多にないのかもしれないが、児童ポルノ撲滅という大義を振りかざすことで、「こまけぇことはいいんだよ」とばかりに一方的にサイトへのアクセスを遮断されうることが懸念される。

また、ここではリンクを張るに留めておくが、英国でもWikipediaが児童ポルノブロックリストに入れられ、同サイトへのアクセスが遮断されるという事件もあった。

日本ではどういったサイトが対象となるのか?

どこまでをブロッキングの対象とするのかは未だ明確に定まってはおらず、ブロッキングが始まったとしても、どのように運用されるのかもわかってはいない。

現段階では、児童ポルノコンテンツを掲示するサイトは言わずもがなブロックリストに入れられるのだろうが、児童ポルノコンテンツを含むページのURLの投稿、そして明示的、暗示的にであれ児童ポルノコンテンツを求めるスレッドも摘発の対象になったことを考えると、それらもまたブロッキングの対象となるのかもしれない。もちろん、そうした投稿・スレッドが対象になるなら、同様のリンクを掲示する、または同様の趣旨で作られたブログや掲示板(レンタル掲示板等)もその対象に含まれることになるだろう。

また、スレッドフロート型掲示板のY-BBSは、児童ポルノサイトに接続できるスレッドがあったとして、神奈川県警よりそれらすべてのスレッドを削除させられている。結果的には、Y-BBSは当該の板そのものを削除することになったのだが、その対応を間違えれば、スレッドを立てたユーザ同様に摘発の対象となったのかもしれない。適切に対応してれば管理責任は問われないのかもしれないが、その掲示板サイト内のスレッドの一部に児童ポルノ関連のリンクが張られ続けるとなれば、たとえ適切に対応していたとしても、ブロックすべしとの判断がなされるかもしれない。

もちろん、こうしたリンクサイトに関しては、その管理が適切になされている限りにおいては、ブロックリストに含めない、ということになるかもしれない。ただ、児童ポルノサイトとされるサイトそのものについては、確実にブロッキングの対象となるだろう。

では、児童ポルノサイトとされるサイトはどういったサイトなのだろうか?
海外の児童ポルノ・アドレス掲載、19歳私大生ら摘発 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

この記事では、対象となったサイトを単に「海外の児童ポルノサイト」とのみ記述しているが、実際に調べてみるとYourFileHostである可能性が高い。もちろん、YOMIURI ONLINEは一般紙であるために、YourFileHostと書いただけでは伝わらないと考えて言い換えを行なったとも考えられるのだが、INTERNET Watchでも同様の表現をしていることを考えると、おそらく警察発表の時点で当該のサイトを児童ポルノサイトだと発表したのだと思われる。

つまり、警察はYourFileHost児童ポルノサイトだと判断した、ということになる。したがって、このまま行けばYourFileHostへのアクセスはブロッキングの対象となるだろう。たとえYourFileHostがろくでもない利用ばかりなされていたとしても*1児童ポルノコンテンツのアップロード以外の用途で使われている方が多いだろう。しかし、同サイトへのアクセスが遮断されればそうした利用も損ねられることになる。

また、現在の児童ポルノコンテンツの流通に最も寄与しているのが、YourFileHostを始めとするアップローダ機能付きのサイト*2であることを考えると、そうしたサイトもまた、児童ポルノが投稿される頻度によってブロッキングの対象となるだろう。

終わりに

もちろん、ここで書いたことはほとんどが推測に過ぎない。ただ、児童ポルノの流通が昔ながらのサイトではなく、ユーザによるアップロード機能のあるサイトを中心として行なわれていることを考えると、真にブロッキングの効果を得るためには、そうしたサイトをも対象としなければならない。さらに、現状の既成推進派の「児ポ撲滅できるのなら他の問題など知らんわ」とも思える強硬姿勢を見るに、ブロッキングの対象となるサイトが我々が思いも寄らない範囲にまで拡大するという懸念を持たざるを得ない。

また、こうした事実上の検閲を認めてしまうこと自体にも問題はある。現行法によって対処し得ないことを理由に、有害サイトへのアクセスを遮断せんとする動きも想像に難くない。有害サイトなどという曖昧な部分までその対象となれば、恣意的な判断による規制の余地がますます拡大することになるだろう。

関連:
「児童ポルノ流通防止協議会」の発足について

*1:ポルノコンテンツと言えども好き勝手に使ってよいものではないよ的な意味で

*2:ビデオアップローダ/ホスティングサイトのみならず、ファイルアップローダ、画像アップロード機能付きの掲示板など