英国大物ミュージシャンら、割れ厨を擁護

違法ファイル共有など、オンラインでの音楽著作権に絡んだ紛争は、主にレコードレーベルを初めとする製作者サイドと、ユーザサイドとの間で盛んに行なわれてきた。しかし、その舞台に、ミュージシャンやアーティストたちが登場することはほとんどなかった。もちろん、散発的に個人の意見として述べたりすることはあっても、誰かにその意見をぶつける、といったことはあまりなかった。

しかし、時は流れ、アーティストやミュージシャン自身がユーザ/リスナーとしてテクノロジーに親しんでいったこと、彼らのファンがどういった変化を遂げていったのかを目にしたことで、ファンの行っているファイル共有がどういったものであるのかを理解していった。さらに、ファイル共有とともに成長した世代が、メインストリームに登場してきてもいる。

そんな中、英国のメジャー・アーティストらを中心にFeatured Artists Coalition (FAC) というアーティストの利益を代表する団体が設立された(FACについての詳細はこちらの記事を参照のこと)。Billy Bragg、Radiohaed、BlurのDave Rowntree、TraivsのFran Healy、Howard JonesRobbie Williams、Post War Years、The Futureheads、The Boxer Rebellion、KT Tunstall、Pink FloydのNick Masonなどなど、新人から中堅、ベテランまで多数のミュージシャン、アーティスト、バンドがメンバーとして名を連ねている。

もちろん、FACはユーザ/カスタマー/リスナーの利益を代表するわけでも、レコードレーベルの利益を代表するわけでもない*1。彼らはアーティストの利益を代表している。しかし、アーティストに直接関わるものではないにしても、間接的にでも彼らの利益に関わるとなれば*2、彼らは声を上げるのだろう。

英国版ストライク・ポリシー導入への批判

その一端が、最近の英国版ストライク・アウト・ポリシー*3の導入議論なのだろう(詳しくはこちら)。彼らはこのポリシーの導入を進める政府、レコードレーベルを批判している。当初は、単にユーザサイドを味方につけたいだけなのかもしれないと思っていたが*4、彼らの発言をみるに、違法ファイル共有といっても今の世代にとって当たり前のツールであり、ホームテーピング*5と大差のないもの、むしろそれは音楽を広め、我々は恩恵を受けているのだ、という視点に立ち、その上でファンと戦争をしてはならない、Win-Winの関係を築ける合法的なアプローチを模索すべきだ、と主張しているように思える。違法ファイル共有ユーザも熱心なファンであり、そのファンを罰することは音楽を害することである、と考えているようだ。

実際、FACメンバーらはTime Onlineへのコメントで、そう主張している。
Radiohead ギタリスト Ed O’Brien

「僕らの世代は、音楽はお金を払うもの、という考えで育ってきた。でも、そうした考えは世代ごとに違うんだ。ファイル共有は視聴とかテープへの録音のようなもの。そうして聞いてもらうことで、『気に入った、アルバムを買いに行こう』とか『なるほど、ライブに行こうかな』なんて思ってもらえるんだ。今起こっているのは、大きなパラダイム・シフトなんだ。」

Musicians hit out at plans to cut off internet for file sharers - Times Online

Blur ドラマー Dave Rowntree

「今、ファイル共有が行われていて、すごく人気があるってことは、音楽産業にとって本当はすごくポジティブなこと。法律を犯してでも音楽を手に入れたいってくらいに人気があるってことさ。」
「Peter Mandelsonの好きなようにやらせれば問題は解決する?そんなわけない、変わりっこないよ。」
「ファイル共有を止めさせるために何かしたって、また別の方法が出てくるんだ。世界はそうなんだって認識を持たなきゃいけない。僕らはそうした人たちが合法的に、でも手軽に利用できるものを提供しないといけないんだ。」

Musicians hit out at plans to cut off internet for file sharers - Times Online

Pink Floyd ドラマー Nick Mason

「我々のファンと対峙することは絶対に避けなければならない。ファイル共有は新たな世代の我々のファンのそのものだ。」
「異なる世代の人たちに自分の音楽を発見してもらって、なかなか良いと思ってもらえる、これは実に素晴らしいことだ。ファイル共有はその役割を担っている。そうでもなければ、新しい世代がその音楽に出会うことなどないのだから。」

Musicians hit out at plans to cut off internet for file sharers - Times Online

Travis ヴォーカル Fran Healy

「レコードを買うだけのお金があれば、きっとそうしてくれるはず。レコードを見つけ出してタダでダウンロードする人は、多分一生懸命褒めてくれるだろう。彼らは口コミを広めてくれる無名の宣伝マンなんだ。ブクブク太って自分の足下さえも見れなくなった強欲なレコードビジネスを変えるきっかけを作ってくれるんだよ。」

Musicians hit out at plans to cut off internet for file sharers - Times Online

また、BBCの記事にはBilly Braggのコメントが掲載されていて、彼はファイル共有が若者達の注意を惹きつけてくれるのだから、厳罰によってそれが失われれば音楽に見向きもしなくなるだろう、という。それは実際に彼がファイル共有のおかげで、ライブに足を運んでくれた若いファンを知っているからのようだ。その上で、ミュージシャンとしてストライクポリシーには反対だ、と述べている。さらに、
■Billy Bragg

「我々は人々に音楽ファンになってもらうよう促さなければならない。好ましく思うかどうかに関わらず、違法ダウンロードは人々を音楽ファンにしている。」

BBC NEWS | Entertainment | Musicians hit out at piracy plans

違法ファイル共有を絶賛しているようにも思えるが、その功の部分を強調しているのは主張を強めるためであることは間違いない。罪の部分も認識しているからこそ*6、Daveは「合法的に、でも手軽に利用できるもの」を提供すべきだと主張しているのだろう。ただ、現在のファイル共有の持つ功の部分、音楽ファンを作り、世代を越えて音楽を広め、レコードやライブチケットの購入を促し、口コミで良さを広めてくれる、それがパラダイム・シフトを生み出すのかもしれない*7、そうした部分を活かした新たな枠組みを作り上げることこそ、今の音楽産業に求められている課題であり、ただ排除するだけでは、音楽産業(少なくともアーティスト)の利益を害する、というところなのだろう。

こうした発言があるのも、彼らがファンを信頼しているから、なのだと思う。違法にダウンロードしてもそのレコードを買ってくれる、そのレコードは買わないにしても別のをたくさん買ってくれる、ライブに来てくれる、音楽を広めてくれる、宣伝してくれる、音楽を愛してくれる、そんなファン像を思い描けるからこそ、こうして反対できるのだろう。ならば、ファンはその期待を裏切ってはならない。

また、FACのメンバー達がこのような主張をしているからといって、それがアーティスト、ミュージシャン達の総意というわけでもない。ワナビー、ニューカマー、中堅からベテランに至るまで、FACの考えには賛同しない人たちもいるだろうし、FACの中でもすべての主張においてコンセンサスが取れているわけでもないだろう。ただ、少なくともFACは一部のアーティストの声を代弁して声を上げている。その事実こそ重要なのだ。

でも、私は違法ファイル共有に反対します

私は違法ファイル共有には反対の立場をとる。たとえ、アーティストが黙認していようとも。個人的な考えだけれども、すべての権利を留保してるのに、良いとこばっかつまみ食いさせてなるものか、と。もちろん、著作権法はそれを許してるんだから、批判されるいわれはないのだろうし、ホームテーピングみたいなもの、どんな手段であれ聞いてくれることが嬉しい、という発言をみると嬉しくも思う。でも、私は「コンテンツ頒布のタイプと範囲を決定する原作者の権利」をより私達にとって自由なかたちで行使してくれる人たちをこそ支えたい。これは単純に私個人にとってフェアと思えるかどうか、というだけの話ではあるのだが、リスクを選択した人たちにそれ相応のチャンスを、と思うのだ。

FACのように、違法ファイル共有であってもそこにはメリットが存在し、その部分だけを活かせるようなかたちを作り出さなければならない、とは考えている。違法ファイル共有をただ闇雲に否定するのではなく、そこにあるポジティブな側面に目を向け、その上で新たなアプローチを模索すること、その実現の試みこそが、新たな音楽の有り様を作り出し、それによってより豊かな音楽文化が醸成される、実に望ましいことだ(今のビジネス・モデルを何としてでも維持したいと願う人々、永久不変だと考える人々、取り憑かれている人々には、理解できる話ではないのだろうが)。

ただ、それは未来だけに期待することじゃない。今だって、世界の至る所で。その新たな試みとして、クリエイティブ・コモンズを採用し音楽を配付するJamendoのようなサイトがあるし、Beep! Beep!のようなレコードレーベル、より自由な音楽の流通を許すネットレーベルもある。こうした試みを支えてこそ、音楽の世界が再構成される意義があるのではないかと思うのだ。

確かにFACのメンバー達は、新たな音楽の世界を作ろうという意欲に燃えている。しかし、それでも彼らは既存の音楽産業によって育てられ、成功した人たちであることには変わりない。その彼らが成功できるモデルが生み出されたとしても、10年、20年先に通用するモデルとはなり得ない。今、この時代にゼロからスタートを切る人々が、今の時代のテクノロジーを駆使し、何らかのかたちで成功を収めることではじめて、インターネットの時代の新たなモデルが生み出されることになるのだろう*8。そのためにも、アーティストサイドからの声が絶対不可欠である。その点において、FACの存在を歓迎し、その行動を支持し、注視していきたいと思っている。

*1:むしろ、レコードレーベルに対して、アーティストの権利を主張することを主眼としている。

*2:ここでの利益は必ずしも経済的な利益のみを含むものではないのかもしれない。

*3:継続的な違法ファイル共有ユーザ、違法ダウンローダを一時的にインターネットから遮断するための制度

*4:もちろん、そうした側面がないわけではないのだろうけれど

*5:"Home Taping Is Killing Music"を揶揄したものなのかも。1980年代、BPIはこのスローガンを掲げ、カセットテープによる録音が音楽を殺すのだと主張した。しかし最終的には、我々が知るように、カセットへのダビングは音楽へのデマンドを増大させ、音楽ビジネスに利益をもたらすものであった。

*6:といっても、それが現状では違法である、ということだけかもしれないが。

*7:FACメンバーのすべてのアーティストがこれに完全に同意するわけではないのだろうが。

*8:欲を言えば、そうしたモデルが多様に存在することこそ、望ましい。そして、さらにその未来にアップデートされ続けることも。