WinnyとThe Pirate Bayは簡単に比較できないですよ

オランダで行なわれていたBREIN vs. The Pirate Bayスリーの裁判の件について、GIGAZINEが記事を書いているのだけれど、ちと腑に落ちない点があったのでいくつか。

2009年10月8日に行われたWinnyの大阪高裁判決では金子氏に対して「著作権侵害に使うよう利用者に勧めておらず、ほう助は成立しない」「1審のように認めると、ソフトが存在する限り、無限に刑事責任を問われることになるので、罪刑法定主義の見地から慎重でなければならない」として、無限に責任を問い続けるのは不可能であるという主旨のことが触れられ、無罪判決に結びついたわけですが、オランダでは逆にほぼ無限に責任を問うようになったようです。

著作権侵害ファイルを全部消さないと毎日1ユーザーごとに約70万円の罰金を課す判決が約2200万人の利用者を持つサイトに下る - GIGAZINE

The Pirate Bayに対する今回の判決とWinny開発者金子さんに対する無罪判決とを対応させているのだけれど、BitTorrentWinnyとではソフトウェアとしてのデザインが違うので簡単には比較できないんじゃないかと。少なくとも金子さんに対応するのは、BitTorrentの開発者であるBram Cohenとか、ソフトウェアとして配付しているBitTorrent Inc.とかVuzeとかになるんじゃないかと思うんだが。

必ずしも適切ではないかもしれないが、The Pirate BayのTorrentホスト・検索機能に対応するとすれば、WinnyやShareのハッシュデータベースがそれにあたるんじゃないかと。

なお「適切ではないかもしれない」と前置きを置いたのは、The Pirate Bayが単に「BitTorrent用のトレントファイルを大量に置き、検索可能な状態にし」ているだけではなく、トラッカー機能を提供しているという点で大きく異なるため。この点についてどのような判断があったのかはわからないが*1、もしThe Pirate Bayが管理するドメイン全体にわたって、オランダ人ユーザが著作権侵害ファイルをダウンロードできないようアクセスを制限せよ、というのであれば、Torrentファイルのダウンロードのみならず、他サイトでダウンロードしたTorrentであってもThe Pirate Bayのトラッカーを使用しているものであれば、そのアクセスをブロックしなければならないのかもしれない。

閑話休題。あと裁判自体にも違いがあって、金子さんのケースは刑事裁判であるのに対して、The Pirate Bayのケースは民事裁判だという点でも異なる。

オランダではほぼ無限に責任を問うているのか

裁判所は全く根拠なく責任を問うている、というわけでもないと思う。少なくともTorrentをホスト、インデックスする以上、管理できるはずだ、というのが根拠としてあげられている。今回のThe Pirate Bayへの裁判に先立って*2、世界最大のBitTorrentサイトMininova*3に対しても、今回同様の判決が下されている。

その際、法廷は、Mininovaのモデレータたちがアダルトコンテンツ、ウィルス入りのコンテンツ、フェイクファイルにリンクするTorrentファイルを積極的に削除しているのだから、著作物にリンクされたTorrentでも同じように出来るはずだ、と判断した*4。MininovaはThe Pirate Bayと違い、権利者からの削除要請には応じていたのだが、それでも対策が不十分であり、著作権侵害を助長していると結論づけられた。

The Pirate BayやMininovaが、少なくとも同サイト内でホスト/インデックスするTorrentに対して責任を問われていると考えると、無限に責任を問うているとは言い切れないと思う。

The Pirate Bayは「露骨に著作権侵害を明言」していた?

The Pirate Bayウォッチャーの私が知る限りでは、明言したことはないと思う。だって、The Pirate Bayの基本的なスタンスは

  • Torrentは著作物ではなく、単にコンテンツにリンクしているファイルである
  • Torrentがどんなコンテンツにリンクしていようとも、我々には責任はない(Torrent/コンテンツをアップロードするのはユーザ)
  • リンクを提供しているという点では、我々はGoogleとは違わない

とかこんなところ。裁判のときも、合法的にも違法にも使われるサービスではあるかもしれないが、合法的に提供されているサービスである、という主張を崩さなかったわけで。GIGAZINEが何をさして「露骨に著作権侵害を明言」していたと主張しているのかはわからないが、少なくともそのGIGAZINEが「著作権無視を公言し、意図的に違法コピーを援助していると明言」したというguardian.co.ukの記事を見てみても、そういった記述は見あたらない。

実際、著作権侵害を明言したことは一度もないだろうし、著作権侵害の助長を積極的に認めることはなかった(認めるときは「Googleもしているリンク行為が違法となるならば」という前置きを置く)と思うのだが。もちろん、行動はそれに反してフロントページ著作権侵害Torrentへのリンクを平気で貼り付けて挑発するやんちゃぶりを見せていたが、発言自体は挑発的であっても必ず逃げられるようにしてあったはず。というのも、2006年に強制捜査をうけてて、それ以降、潜在的な逮捕、起訴の可能性はずっとあったわけで、そうそううかつなことは言えないという事情もあった。

だから

日本のWinny裁判と違って、露骨に著作権侵害を明言しているため、かなり悪質であると判断されたようです。

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というのは、いささか間違った解釈だと思うよ。それに、Mininovaはノーティス&テイクダウンを受け入れ、かつ、著作権侵害を抑制するためのコンテンツフィルタリングを導入していたりもする。それでも、The Pirate Bayと同様の判決が下っているんだから、その言動の悪質さが判決に響いたというわけではないんじゃないかな。

他に気になったこと

この話題については、既にTorrentFreakの記事を翻訳して公開しているのだけれど、それほど大したことのない裁判かなと思っていたり。まぁ、大変は大変なんだろうけど、とりあえず上訴するだろうこと、海外での訴訟沙汰であること、そして要求されているのが、(少なくともTorrentFreakの記事によると)BREINの提示したリストに限ってTorrentを削除すればよいこと、オランダからのアクセスをドメインレベルでブロックすればよいだけのこと、だったりするから。

要求に関して言えば、Torrentの削除もオランダからのアクセスブロックも、The Pirate Bayのポリシーには真っ向からぶつかるものの出来ないことではない。要はThe Pirate Bayのポリシーを曲げるか曲げないかにかかっている、と。もちろん、ユーザはオランダから直接アクセスできなくなったとしても、プロキシ等を利用することでアクセスはできるのだろうが。

余談

GIGAZINEの記事には

これが3人の設立者たち

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ってあるんだけど、実はこれ間違いで、3人の設立者のうちの1人は写ってない。左の腕組みしてにやけてるPeter Sunde(brokep)とカーゴパンツのポケットに手を突っ込んでるGottfrid Svartholmmen(anakata)はThe Pirate Bayの設立者*5なのだが、もう1人のFrederik Neijは写っていない。真ん中に写ってる人がそれっぽくも見えるが、この人はスウェーデン海賊党の党首Rickard Falkvinge*6、写真右の放心している青ひげの人はThe Pirate Bayの母体ともなったアンチ・アンチ・パイラシー団体Piratbyrån

実際のFrederik Neij(TiAMO)は

The Pirate Bay @ HITBSecConf2008KL by biatch0r CC BY-NC-ND
この写真の左側の人*7

*1:判決文は公開されているのだがオランダ語が読めない…

*2:というかThe Pirate Bayへの訴訟が起こされていたにもかかわらず、その通知が本人たちに届いていないというgdgd状態だったわけだが

*3:ちなみにMininovaは純粋なインデックスサイトで、トラッカーは保持していない

*4:とはいえ、許諾されているか否かを外見上判断するというのは難しくなってくると思うのだが。

*5:ただ、Peter Sundeは現在、The Pirate Bayのスポークスマンを退職している

*6:CNETの記事の写真はさわやかなんだけどね

*7:右はPeter Sunde