どうなってくんでしょうね、CDとレコード産業
前回、前々回のエントリにはさまざまな反応をいただきました。ありがとうございます。前回予告したように、前々回のエントリへのレスをもとに、思ったことを思いついたままに書いみようと思います。それと冒頭の画像については、文末にでも。
レコード音楽との関わり
まずは自分の経験や要望についてコメントしてくれた方から。
endo_5501 「CD買ってきてパソコンに入れて携帯オーディオに転送したら、あとはパソコンとか携帯オーディオだけで楽しめちゃう人がいたとして」オレオレ。ってか、もうみんなそんな感じじゃね?CD、早く廃れないかなあ
もはや、一端リッピングしてしまったら、CD自体はほとんど用がなくなってしまう、と。確かにCDを直接使わずともレコード音楽を楽しめる環境は整えられますからね。id:endo_5501さんの周りの方もそうなのでしょうか。
データ配信になってるんじゃないかなぁ。既にCDってリッピングするだけで後は用が無くなってるし。iPod nanoなりXperiaなりで聴くから、CD自体は必要無いんだよね。電子データがあればそれで良い。ただ、配信データの方が高いというのはどういう事かと。CDよりももっと安価に配信して欲しい。
明日は明日の風が吹く
id:yas-toroさんも同様に、音楽データさえあればいい派でしょうか。「配信データの方が高い」ってのは、輸入盤CDなんかだとそうですね。あとは中古CDを購入した方が安いケースも多々ありますね。
現状の音楽配信に関しては、支払いの面で難アリかなと思っていて。特にクレカとか自由に使えない若年層にとっては、配信への移行が余計に不便をもたらす場合もあると思います。もちろん、プリペイドカード(WM含む)とかもあるんですが、個人的には面倒だなぁと思うところもあるのです。ケータイのキャリア払いならありかもしれませんね。
thvenr 今10歳の子が熱心に音楽を聴いてる時期…と思うと、相当変わりそうな気はする/個人的には検索なしで音楽聴くとかもう考えられん状態なんだけど、たぶんあんまり一般的でない自覚はあり
うーむ、「相当変わ」る気配…、id:thvenrさんのお子さんがどんな風に音楽を楽しんでいるのかなと興味を持ちました。【追記】ご本人からコメントをいただき、ご自身の子どもの話ではなく一般論としての発言であり、また、独身で子どもがいるわけではない、とのご指摘を受けました。私の勘違いから、誤認、誤解を招きかねない表現であったことをid:thvenrさんに、また読者の皆様にお詫びいたします。【追記終わり(2010/08/11)】
「検索なしで音楽聴くとかもう考えられん」というのは、音楽ライブラリが増えれば増えるほど、必然かもしれません。AppleがiTunesにスマートプレイリストやGeniusを導入したのも、そういう経緯があってのことだと思っています。後述するSpotifyのようなサービスでは、検索ありきで考えないといけないかもしれません。
前回、前々回のエントリでは書けませんでしたが、個人の音楽ライブラリが加算的に増えていき、それらがフラットに並ぶことがリスナーにどういう影響をもたらしうるのか、という点も気になるところです*1。
ones-inch 聴く時はiPod専用スピーカーだけど、いわゆる名盤と呼ばれるものはCDで所有したいと思う。個人的にはTB単位のHDD容量がある専用コンポが出れば、それに乗り換えたいけど。
id:ones-inchさんは使い分け、という点では私に近いかも。CDでとっておきたい、CDで聴きたいという気持ちはなぜかしらあります。
cloverleaf24 パソコンのような大きな容量のHDD搭載したコンポとかないのかな・・・?
HDD搭載コンポについてはid:cloverleaf24さんも。現行モデルだとSonyとPanasonicくらいのようですね。ただ、容量はPanasonicのが80GB、Sonyのが160GBなので、物足りなさはありますね。Sonyは250GBのモデルを、OnkyoもHDD搭載コンポ自体を生産停止にしていたり、あまり需要がなかったのかもしれません…。
そういえば、前々回のエントリで「Sonyはウォークマン連携製品ばっか」みたいなことを書いたけれども、最近になってiPod/iPhone dock搭載スピーカーを出してたんですね。公式サイトだと隅っこに追いやられてたから気づかなかった。
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ハードウェアの変遷
続いて、ハードウェアの変遷を思い出す方も。
ore_de_work 時は1990年。家にCDプレイヤーなんてなかった。録音できないカセットなんて意味あんの的な オープンリールはあった気がする
aiaki CDはコンセプトを聞いてからモノを買う様になるまで10年くらいかかった。ソリッドオーディオ系(今だとiPod系か)もそのくらいタッタと言う事じゃ無いのかな。
id:aiakiさんのコメントは十年一昔、id:ore_de_workさんのコメントは二十年二昔という感じですね。これから10年後、そういやiPodなんてあったなー、といえるのでしょうか。
PCからDA変換して音にする部分が今猛烈な勢いで進化していて、たぶん3年後ぐらいにはハイエンドオーディオでPC+アンプ再生がデフォになるだろうから、その時にCDは死ぬような気がします。あとはアイドルファン向けのグッズとしてどこまで残るかという…。
Twitter / wms: @heatwave_p2p PCからDA変換して音に ...
@wmsさんは、D/Aコンバーター需要を予想。ハイエンドオーディオはコア層な気もしますが、ライト層もiPod Dock搭載スピーカーを許容しているようですから、そちらに向かっているのだろうなぁと思っています。
コレクターズアイテムとしてのCD
続いて、CDという媒体の手触り、現在のCD流通について俯瞰的に見たコメントを。
minazuki6 極端な話只のコレクターアイテムだからCDは再生できなくてもいいと思う。
nori__3 CDは無くなりはしなくとも衰退すると思う。消費者は音楽を買っているのであって、プラスチックの円盤が欲しいわけではないから。CDを売るにはそれなりの付加価値が必要。だからCDはコレクターズアイテムになっている。
id:nori__3さんもid:minazuki6さんも、CDはコレクターアイテムである、と。上記の@wmsさんも同じようなことをおっしゃっていましたね。確かに、リッピングしたらレコード音楽を再生するためには用いないのであれば、それを所有しておこうと思うのは、コレクター的気質からくるのかもしれません。
個人的にはモノと所作への愛着があったりするのですが*2、着うたなんかを見ていると確かにそうかなと思えます。
そういえば、去年浜崎あゆみがUSBスティックでアルバムをリリースしていたりして、ある種これもコレクターズアイテムなんでしょうね。ただ、今後彼女くらいの規模でコレクターズアイテムとして売れる歌い手は益々減っていくように思えます。
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音楽データと付加価値
kazutaka_ueyama 「データを中継するための媒体に過ぎない」ん?それは重要な役回りでは?
id:kazutaka_ueyamaさんからはCDの持つ「データを中継するための媒体」としての価値の重要性についての指摘。個人的には、これまでCDの重要性を支えた要素として、音楽を再生するためのアイテムだったという部分もあっったのではないかと思っています。前回のエントリで捕捉させてもらいましたが、「データを中継するための媒体」としての役割は、レンタルCDやYouTube的なものが担いうる、と考えられます。もちろん、その場合も、レンタルCDがその役割を担い続けるのですが、縮小を続けるであろうレコード産業を支えきれるのか、という問題もはらんでいるのかなと思ったりもします。
dwnrvr CD→音楽データへの移行は不可避。でもそれだけだと味気ないので「アルバム」みたいな付加価値的概念が工夫できるといいかな、ってところか。パッケージングのアイデア的な?
id:dwnrvrさんの言うように、音楽データ(not 音楽配信)へのシフトは不可避であると私も感じています。レコード(ヴァイナル)やCDの制限が、『アルバム』という概念を一般的なものとした部分もあり、その概念は未だ死んではいない、新たな環境においてその強みをどう維持していくのか、という点も重要なポイントでしょうね。
レンタルCD店が減っていかない限り、CDも今のままの形で売られ続けるのではないかと。ダウンロード販売がめんどくさいDRMに縛られるのであれば、手間はかかりますけど私はCDをリッピングし続けるんじゃないかと思います。
2010-07-31 - たみはみた
id:tami3さんの意見にはなるほどと思いました。レンタルCDという形態が続くことで、CDへの需要が残り続ける、と。その場合、レンタルとCD購入との差違をどうやって際立たせるか、という戦略が鍵になるかと思われます。
inumash 最近、CDとは別に“インナースリーブ”がどういう形に発展していくのか気になってる。CD買って一番最初に聞く時にインナースリーブ見る人って絶対多いと思うんだよね。iPADなんかで読めれば最高なのに。
id:inumashさんはインナースリーブのこれからについて。私はもうちょっとこの辺に力を入れてもよいのではないかと思っています。通常、CDをリップする場合、freedbなどのCDDBに照会してアーティスト、アルバム名、曲名などのメタデータを入手していますが、その他の情報も付与するなり紐づけるなりできるかなと。
ネットワークに接続できる環境にあれば、さまざまな情報をそこに繋ぐことができるはずで、専門的な解説のみならずリスナーの感想、アートワークやアー写、バイオグラフィからディスコグラフィ、YouTubeのビデオ、はたまたrelatedなどなど、無限に広げることができる…はずなんですけどね。
この辺はレコード産業だけで解決できるもんでもないかなとは思っています。個別の動きを見れば、海外のミュージシャンがリリースしているiPhoneアプリなんかが、これに近いかもしれませんね。
oguogu プロのCDよりもアマチュアのCDが手売りされるのが残りそうな気もする。ライブの入場券の代わりがCDになったりして。
id:oguoguさんのコメント、なかなかおもしろいアイディアですね。ただ、その頃になるとプレスすら難しい状況になっているかも。
CD/音楽配信のオルタナティブ
続いて、CD、音楽配信のオルタナティブについてのコメントを。
mokkei1978 20年後には、個人の音楽ライブラリは「タグ管理のストリーミングURLリンク集」となると予想。
makou DLして保管することすら省略されるようになるんだろうな。
もぉおれがずっと前から進化したiPodはラジオと区別がつかないって言ってるのにー。将来的には聞きたい曲にアクセスするだけ。いまだってYouTubeがほぼそうだし。イプシロン・ブロガーだとみんなの耳目には届かないなー。
Twitter / andre1977: もぉおれがずっと前から進化したiPodはラジオと区別 ...
以前、「音楽データはローカルになければならないのか」というエントリを書きましたが、id:mokkei1978さん、id:makouさん、@andre1977さんの考え方に近いように感じました。こうしたアイディアは、スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス『Spotify』が具現化しているように思います。
Spotifyは簡単に言ってしまえば、4大メジャー+が提供する800万の楽曲が詰まったiTunes+Last.fm的な何かを利用できるサブスクリプション型サービス。無料版は広告つきで月20時間までのOpen、招待制で広告あり・無制限に利用できるFree、有料版は月額4.99ポンド(700円くらい)で広告なし・無制限に利用できるUnlimited、月額9.99ポンド(1400円くらい)で強力なiPhone連携(アプリ)やローカルへのダウンロード、オフラインモードが利用できるPremium*3のプランが用意されています*4。
このSpotifyがどれくらいすごいかというと、BitTorrentパイラシーに関しては他の追随を許さないほどに追いかけているTorrentFreakですら「パイラシーと競合しうる」と絶賛するくらい。環境さえ整っていれば、ローカルの音楽データを聴くのとほぼ変わらない!という絶賛の声も。
Spotifyの日本での展開については…、どうなんでしょうね。世界的に見れば、日本はアルバムCDの売上を落としつつあるものの、セールス的には音楽配信(主に携帯向け)を延ばしつつ、パッケージも相対的に堅持している、優等生的な側面もあるわけで、あえて冒険するようなことはしないのかもしれません。ただ個人的には、ある程度体力があるうちに、ビジョンというかグランド・デザインをはっきりさせる必要があるかなとも思っていて。縮小を許容しつつそれを最小限にするよう注力するのか、それともCDからのシフトを提言して具体的な手段を講じていくのか。今は前者にあるのでしょうね。Spotifyを受け入れるのか否かという選択肢だけではなく、Spotify型のサービスを自らデザインし日本で立ち上げる、という選択肢もあって。今なら、レーベルモバイル(現レコチョク)のアレを再現できるかもしれませんね!
ただ、今取り得る選択肢が、数年経っても取り得るとは限らないわけで、今だからこそ取り得る選択肢であることも考慮しておかなければならないのかも。もちろん、Spotifyのような形こそ正解だ、という前提に立つわけじゃありませんが。
Spotifyについては、以下のビデオや記事を参考に。
リスナーが欲しいのは、CD自体でもデータでもなく、“聞くという経験"だと考えた時、正直digital retailで買う必要は全くないですよね。日本ではyoutubeや着うたが先に普及してしまったから、慣れてる方で楽しむのが普通かなと。
Twitter / @yano: @heatwave_p2p リスナーが欲しいのは、C ...
「Green Sound from Glasogow」の@anno69さんからのコメントは、「聞くという経験」こそが求められているのであれば、CDや音楽配信という形態でなくともよいのではないか、との指摘。私も同感で、取り得る選択肢のうち、慣れなども加味して最もストレスの少ない、または感じなさせない選択肢を選ぶだろう、と考えています。
CDの寿命
id:kanoseさんとid:ripple_zzzさんからは音楽CDの寿命について。
kanose SACDなどの次世代メディアへの移行がなかったという時点でCDはかなり延命しそう。DRMなしの音楽配信がどこまで普及するかが鍵かな?
ripple_zzz 5年前にも同じようn(以下略)。それはともかく今回は2020年の展望かー。うーんどうだろ?メインでなくともCDは何だかんだ健在で「切れない」って感じじゃないかなぁ? CDじゃなくてSACDやBDCDかもしれぬ…。
前回のエントリにも書きましたが、今のところメディアとしてのCDは他の光学メディアの趨勢に依存してそこそこ長生きするかなぁと思っています。個人的には、光学メディアとしての「CDの次」はライト層向けにはほとんど訴求力を持たないだろうなぁとも思っていて、iPodやその他のストレージ的なものを利用する方向に向かうのかなと思っています。
ちょっと話はずれますが、id:ripple_zzzさんがここんところ書いているBlu-rayのお話がなかなかおもしろいので、良かったら是非。
小規模インディレーベルとインディペンデント
nofrills 弱小インディレーベルやミュージシャンがやりたいことをやるために立ち上げたレーベル(レーベルの運営が続けられればそれでいい、程度の利益を求めている)がどんどん縮小・閉鎖している現実がある。なんかね。
id:nofrillsさんからは、既存のレコード産業のアウトサイダー、小規模インディレーベルとインディペンデントミュージシャンの苦境について。メジャーが低迷している中、インディレーベル、インディペンデントも続けることが難しいと聞きます。まず注目を集めることが必要だと思いますが、それをクリアしてもどうペイさせるのか、という問題も待ち構えていて…。
リスナーの関与度が高いとはいえ、CDやTシャツ等グッズで生活を維持するのも難しく、それにライブを加えたとしても安定している人はひと握りなのでしょう。こうしたインディペンデントのためにいかにして利益を上げ、分配するかを模索するサービスが広まることを期待したいです。たとえば、Creative Commonsミュージックに限られてしまいますが、Jamendo Proのようなサービス、でしょうか。
と同時に、こうした仕組みを支えるのが、個々のリスナーの直接的な行動であるという点も重要度を増してきていると思います。「アーティストとリスナーとがダイレクトに繋がる」という理想は誰が叶えるのか、何となく願っているだけでは叶うものではないと感じます。
ポピュラー音楽における「アルバム」
archytas_jさんからは、アルバムという概念などについてのコメントをいただいた。
ビートルズの呪縛ってあるような気がしますね。曲というもののあり方、受け取り方と録音物ということの関わり方の方向性や、アルバム志向とか。
10年後もレコード音楽のメインメディアが「CD」だと思う? - P2Pとかその辺のお話@はてな
ビートルズ体験が薄れ、皆無に等しい世代が40代くらいになると何か「ポピュラー音楽」 総崩れみたいなことが起るような気もしますが。。
gray albumを聞きつつ思ったのですが。。
レコードやCDの持つ物理的制限が、ポジティブに働いていたところもあったかと思います。それがこれから数十年かけて崩れていくのかなと。ただ、それと同時に新たな価値が生み出されていくのかもしれません。
もちろん、レコードやCDといったメディアの在り方の変化のみならず、その他の環境の変化もまた、音楽、録音物とその関わり方を変化させていくのだと思います。ただ、録音物の必要性は時代が変わろうとも残るとは思います。その有り様が変化するというだけで。、