P2Pファイル共有ユーザは減少傾向にある?

コンピュータソフトウェア著作権協会ACCS)、日本レコード協会RIAJ)、日本国際映画著作権協会(JIMCA)が毎年実施、公表している「ファイル共有ソフト利用実態調査」を眺めながら、日本のファイル共有ユーザは減少傾向にあるのかなと思ったので、それについてひとつ書くとする。

P2Pファイル共有:現在利用者と過去利用者

2009年度調査を見ても、現在利用者(過去1年間にP2Pファイル共有ソフトを使用した人)は微減、過去利用者(1年以内には使っていないがそれより前に使用したことがある人)は微増している*1。(なお、2007年度調査結果公表時に、前年(3.5%)より3倍近くユーザが増加した、と強調され、それにもとづいた報道がなされたが、この激増の原因は、サンプルを変えたことによるものだと考えている*2。よって調査方法が安定した2007年度の調査結果からグラフには記載した。*3

これだけを見ても現在利用者の減少が示唆されているのだが、どのように減少しているのか、に注目するとさらにおもしろい。

現在利用者:ファイル共有ソフトの利用期間

このグラフから一目瞭然なのだが、2009年調査では「新規に利用を開始したユーザ」*4が激減していることがわかる。もちろん、現役利用者が累積していくために新規利用者(1年以内)の割合が相対的に小さくなることもありえるが、現在利用者全体で減少傾向にある以上、新規利用者の大幅な減少と解釈すべきだろう。

新規利用者の減少がもたらすもの

上記の利用期間のグラフからファイル共有ソフト利用者の継続傾向も読み取れる。たとえば、2007年調査時に利用歴が1年未満と回答したユーザ層は、2008年調査時には1年以上2年未満のユーザ層に対応する。多少乱暴ではあるが、2007年から2008年にかけての変化から、利用期間1年未満のユーザの半数程度は、手を出しては見たものの1年以内に利用を止めている、と解釈できる。また、1年以上2年未満のユーザも、その翌年にはだいたい半数弱が離脱している、と。2008年度調査では、過去利用者のファイル共有ソフト利用期間を聞いた項目のついての記述(p.22)があるが、そこでも6割強の回答者が1年以内に、8割強が2年以内にファイル共有ソフトの利用を止めていることがわかる*5

その一方で、長期利用者はどうかというと、新規利用者と呼応して激減しているわけではない。2009年度調査に見られた微減は新規利用者の減少によるものであり、長期利用者の離脱率はこれまでとあまり変わらず、また、新規利用者に比べれば離脱率は利用期間が長くなるほど低くなっていくと思われる。

離脱率の高い新規利用者の減少*6、長期利用者といえども時間と共に利用者は減少していくことを考えると、今後ファイル共有ソフトの利用は減少して行くものと考えられる。ただ、ファイル共有利用者全体の構成比は大きく変わり、長期利用者の割合が増加するものと思われる。

ファイル共有ユーザの減少傾向、特に新規利用者の激減の原因については、次のエントリにでも書こうと思う。あとP2Pファイル共有のもたらすネガティブな影響の経年的な変化についても。

余談:今回扱ったデータについて

今回のエントリでは、2009年度のファイル共有ソフト実態調査のデータを扱った。この調査は、「アイリサーチ」というアンケートサイトのモニターを対象に行われたウェブ調査である。回答者全体*7の属性は詳細には記述されていないが、掲載されている情報を以下に。ちなみに回答者数はN=21,669。

自宅にパソコンがあるかどうか

ある(98.4%)/ない(1.6%)

パソコン歴・インターネット歴

自宅にパソコンがあるという回答者のパソコン歴とインターネット歴

9割超の回答者が5年以上の、5割超の回答者が10年以上のパソコン歴を持つことがわかる。
8割弱の回答者が5年以上のインターネット歴を持つことがわかる。

パソコンは自分専用か共用か

自分専用(61.5%)/家族などと共用(38.5%)

ファイル共有ソフトの利用経験

こういう分布を持つサンプルを対象にした調査だ、ということで。

余談2:2006年以前の調査を掲載しなかったわけ

取り立てて、2006年〜2007年度調査にかけて激増したから、というわけではなくて。

サンプル変更の問題、他の指標と照らし合わせたときの整合性のなさ、前年比3倍弱の激増に至った合理的な説明がつかない、などあわせてを考えると、現在のやり方(2007年度以降)で行われている調査と比較する意味はないと考える。

私個人の推測に過ぎないが、2005年度調査から2006年度調査にかけて、現在利用者の定義を「過去半年にわたって利用経験がある」から「過去1年にわたって利用経験がある」に拡張したものの、2.7%→3.5%という微妙な結果になったがゆえに、2007年調査では、もっとインパクトのある結果が得られそうなサンプルに変えたのではないか、とも思える。邪推かもしれないとは思うが、経年変化を捉えるための調査にしては、2005年年度調査から、2006年、2007年度調査とけっこう重大な変更を加えすぎではないかと。

もちろん、以前の少ない方が正しくて、今の多いのが間違っているというつもりもない。以前のサンプルよりも今のサンプルの方がインターネットユーザ全体を代表している可能性だってある。ただ、どちらが妥当かという判断はできないので、変化のパターンに注目したほうが得るものは大きいとは思う。

なお、2006年以前、2007年以降のいずれの期間の調査においても、10代の回答者が他年代に比べて極めて少ないように思える。2007年度調査から、回答者全体の属性を詳細には記述しなくなってしまっているが、他年代に比べ利用者割合が大きいと思われる*810代の現在利用者数が*9、他年代の現在利用者数よりも少ない*10。これは10代回答者数の少なさに起因していると思われる。

2009年度調査の現在利用者9.1%という割合も、10代の回答者が少ないからこその結果であり、年代ごとの回答者数をそろえて調査を行った場合には、それよりも大きい数値になるかもしれないし、小さくなるかもしれない。少なくとも、単純に他年代は現状のままで10代の回答者数を増やせば、全体の現役利用者の割合は増加する。それは間違いないだろう。(というか、ある年代の回答者数が少なくても人口構成比なんかをもとにして重みづけすれば良いと思うのだけれども…。)

何にしても、サンプル選びであれ、サンプル内の属性であれ、偏っていることが考えられる*11以上、単純に導き出された要約データ一個だけを取り出すことに、あまり意味はないと思うのですよ。

*1:微減、微増とは書いたものの、この数値の変化が誤差であるのか、実際の変化であるのかは少なくとも公表されたデータからは断言できないが。

*2:その根拠については文末にでも

*3:2006年以前のサンプルと、2007年以降のサンプルのいずれが母集団としてのインターネットユーザを代表しうるか、という点には答えようがないので、それぞれの数値に注目するよりは、経年的な変化パターンにこそ意味がある。

*4:調査よりさかのぼって1年以内に使用したことがある人は全て現役ユーザ扱い

*5:2009年度調査ではこの項目は設けられていない

*6:もちろん、新規利用者の離脱率にも変化はありえる

*7:要はスクリーニング前

*8:2006年度調査から推測すると

*9:2009年度調査ではN=129

*10:20代はN=430、30代はN=636、40代はN=484、50代以降はN=224

*11:のと、その偏りを除去しうるデータが掲載されていない