自民党内にて違法ダウンロードへの罰則導入の動き、ただし慎重意見もあり
違法ダウンロードに罰則をつけようという話が持ち上がっているようだ。この議論自体は、以前から権利者側からあがっていたのだが、これを議員立法というかたちで一気に押し切ろうとしている模様。
複数方面から聞こえてくるようになった話でもう明らかにしても問題ないと思うのでこのタイミングで書いておくと、昨年1月に施行された「ダウンロード違法化」に刑事罰を付けようという動きが今国会であるそうです。文化庁の審議会通さず、業界のロビーにより議員立法で一気にやろうとしてるみたい。
これまで著作権関係の法案は、大抵が内閣立法によるもので、審議会にて利害関係者、識者を交えて議論を尽くし、パブリックコメントを募集し(もはや形骸化してる部分もあるが)、少なくとも体裁としては各方面からの意見を集め、賛否を加味した法案が作られ、国会に提出される。
一方、議員立法は、国会議員が自らの問題意識、ないし陳情やロビイングを受けて起草される。プロセスとしては、議連を結成し、党内での審議(部会、政調、総務会)を経て、法案を国会に提出する。法案の起草にあたっては、議院法制局*1の補佐を受ける。
前者に比べて、後者の方が進捗は早いのだが、時間をかけて十分な議論を尽くすとまではいかない。そこをついて、業界のロビーが性急にことを進めようと働きかけている、というところだろうか。
我々が選んだ国会議員による議員立法なのだから民主主義に則っているだろう、といっても、私には間接民主制の穴を付いているようにしか見えない。著作権問題は国民にとって投票を左右するものではなく、また候補者も積極的に争点にしたり、態度を明確にはしていない、しかし、パーソナルコンピュータ、インターネットの普及に伴い、ほぼ国民すべてが関わりうる問題ともなっている。業界の要請と国民の利益とのバランスを取るためには、時間をかけて十分に議論すべきだろう。
間接民主制の弊害を逆手にとって、消費者への説明も消費者からの意見も不要だ、と暗に示しているようなやり口はどうなんだろうね*2。
違法ダウンロードへの罰則導入の動き
現在、自民党内にて「音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律」として議論が進められており、参議院から自民党の議員立法として提出を目指している模様。「音楽などの」なんだね。
8月11日付の馳浩議員の日記によれば、自民党文科・総務・法務合同部会会議にて、この法案についての議論が行われた模様。
内容は、
- 私的違法ダウンロードを処罰する規定を整備
- 私的違法ダウンロードした有償著作物の公衆への提供防止措置の努力義務規定
2年前の著作権法改正では、「私的利用に供するダウンロードまでいきなり罰則付与は、行き過ぎではないか?」と、いう声で、罰則は付与しなかった。
衆議院議員 馳浩のはせ日記:平成23年8月11日(木曜日)
しかし、そういう悠長なことを言える段階ではなくなった。あまりにも有償音楽等の著作物の私的違法ダウンロードが増えた。正規ダウンロードに比べて、違法ダウンロードは10倍に増えた。それも、違法ダウンロードを行うのは、未成年者を含む青少年が多い。赤信号みんなで渡れば怖くない、だ。これはいかん。
これからは、違法なインターネット配信からの私的録音も録画も100万円以下の罰則付与となる。違法であると知っていながらダウンロードすれば、それは盗品となる。
そういう社会にしなければ。今国会中に処理できるかな?
また8月23日の部会会議では
8月23日、自民党「政調」は、下村「文科」部会長と、河村・元「文科」大臣に取り扱いを一任した「音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律案(議員立法)の変更点を課題に、文科、総務、法務の三部会合同会議を開催し、出席要請を受けた保岡興治元法務大臣が、「私的違法のダウンロード行為に係わる法定刑として、5年以下の懲役を設ける考え方」を説明した。
自民「政調」文科・総務・法務合同会議を開催 いつまでも元気なTUNEO/ウェブリブログ
とあり、違法ダウンロードへの罰則導入にあたり、「100万円以下の罰金」「5年以下の懲役」などの懲罰を設ける方針のようだ。後で引用するが、「500万円以下の罰金を」という意見もあるとのこと。「5年以下の懲役、500万円以下の罰金」というと2007年の著作権法改正で罰則が強化される以前の著作権侵害の罰則と同じなのだが。
ちなみに、馳議員の言う「正規ダウンロードに比べて、違法ダウンロードは10倍に増えた」というのは、おそらくレコード協会の「違法配信に関する利用実態調査」の結果。
違法ダウンロード罰則導入への慎重意見
自民党内でこのような動きがあると言っても、違法ダウンロードへの罰則導入にあたっては慎重意見も寄せられているようだ。
8月26日付、参院自民党政策審議会長 山本一太議員のTweetを以下に。
平場の議論を2回(?)やっただけで自民党の関係部会を通過した「音楽の私的違法ダウンロードの防止に関する法案」には、部会の上の政策会議でブレーキがかかった。自分を含め、出席者から慎重意見が相次いだため。違法ダウンロード対策の必要性は分かるが、もっと時間をかけて議論すべき問題だ。
「音楽等の私的違法ダウンロードの防止に関する法案」は参議院から自民党の議員立法として出したいとのこと。もう一度、政策会議にかける(?)前に、参院政審で審議することに。ここでも慎重論が多かった。来週初めに2度目の議論をやるが、了承は難しいだろう。今国会中の提出は無理だと思う。
「音楽等の私的違法ダウンロードの防止に関する法案」については、公明党も「時間をかけて議論したい」という意向。民主党政権が「閣法」として出す気配もない。今国会での審議は、時間的に不可能。自民党だけが突出して、この法案を(十分な議論もせずに)国会に提出するような拙速は避けるべきだ。
違法ダウンロードがコンテンツ産業に与えている損害は多大。何らかの対策が必要という認識は一致。が、レコード業界ばかりでなく、もっと幅広い人々の意見を聴いて結論を出すべき。いきなり法律で刑事罰(5年以下の懲役若しくは5百万円以下の罰金)は乱暴だ。そもそも合法か違法の区別がつきにくい。
山本議員のTweetを読む限りでは、どうもレコード業界が猛烈なロビイングを仕掛けているようだが、仰る通り、幅広い人々の意見を聴いて結論を出すべきだろう。もちろん、レコード業界はそれが嫌で議員立法をお願いしているのだろうが。
また、山本議員は世耕弘成議員にもこの件について意見を求めていたが、世耕議員も慎重な検討が必要だと答えている。
世耕さん、「音楽等の私的違法ダウンロード防止法案」は、来週月曜日にもう一度、参院政策審議会にかけます!昨日も異論が噴出。もうちょっと丁寧な議論が必要でしょう。この内容のまま、自民党単独で法案を出すなんて私は反対です。どう思いますか?@SekoHiroshige
違法DLは良くないですが、違法合法の区別が付きにくい等の問題もあり、慎重な検討が必要です。日本の音楽価格が高いことも根底にあることも忘れてはなりません RT @ichita_y 音楽等の私的違法ダウンロード防止法案は(中略)このまま、自民単独で出すなんて私は反対。どう思います?
また、「ヒゲの隊長」こと佐藤正久議員もこの法案には慎重とのこと。
昨日、佐藤正久参院議員と電話で話した。政審副会長の1人である「ヒゲの隊長」も、「音楽等の私的ダウンロード防止法案」には慎重だった。そりゃあ、当然だ。佐藤正久氏は、世の中の流れをキャッチする感性の持ち主だもの。
最悪のシナリオは止められるか?!:山本一太の「気分はいつも直滑降」:So-netブログ
このような慎重意見を受けて、今国会中の法案提出は見送られたものの、部会レベルでは次期臨時国会での早期成立を図ることになったようだ。(以下引用文の強調は筆者heatwave_p2pによる)
31日午前、自民党「政審」(文科&総務&法務&経産)の合同部会を開催した。【結論】法案※の早期成立を求める決議を採択。
※「音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律案。
○参加部会(部長)
文科:下村 博文
総務:岩城 光英
法務:平澤 勝栄
経産:西村 康稔●出席省庁等
自民党本部の合同会議が開かれた いつまでも元気なTUNEO/ウェブリブログ
文科省(大臣官房)文化庁(長官官房審議官、総務課長、著作権課長等)
総務省(総合通信基盤局)
法務省(刑事局)
経産省(商務情報政策局)内閣官房(「知的財産」推進事務局)
参議院法制局等
8月31日付、山本一太議員のTweetより。
「音楽などの私的ダウンロード防止に関する法案」は、2度、参院政審の正副会長会議(+幹事長室+国対)で議論した。が、慎重意見が多かったので、了承を見合わせた。自民党が今国会に慌てて単独で出すという事態は避けられた。参院からの議員立法ということであれば、参院政審の了解が必要だ。
今日、行われた自民党の文教、総務、法務、経済産業合同部会で、「音楽等私的違法ダウンロードの防止に関する法案の次期臨時国会での早期成立を図る」という決議がなされたと聞いた。これは、そんなに簡単な法案ではない。幅広く意見を聴き、慎重に進めるべきだと思う。なぜ、そんなに急ぐのだろう?!
本当に、なぜそんなに急ぐのだろう。ダウンロード違法化を含む改正著作権法が施行されてから、まだ2年もたってはいない。ダウンロード違法化がもたらした影響やそのための教育、啓蒙についての評価、検証が十分に行われているとは言いがたい。また、違法ダウンロードに対する訴訟提起が行われたという話も聞かない。また、違法ダウンロードへの罰則導入にどのような効果が期待できるのか、実際のどのように運用されるのか(少なくとも、要望する側の展望等)、副作用も含めた影響などについて、十分な分析とその説明が必要だ。
それでも部会レベルでは早期成立を目指すということになっている。
今のネット社会の健全性を今のうちに築いておくことが重要だと考えます。
音楽などの私的違法ダウンロードの防止に関する法律案|三原じゅん子オフィシャルブログ「夢前案内人」
著作権侵害及びそれらを取り巻く産業などに甚大かつ深刻な被害を及ぼす極めて違法性の強い行為なのです。
違法ダウンロードに対する抑止力を強化することも重要です。
先進国のネット社会における著作権を保護する強い姿勢で、知的財産立国において先頭に立とうとしている我が国も民事上の責任だけではなく刑事上の責任も明確にする必要があると私は考えます!
この法律の早期成立を願い、取り組んでまいります!!
三原議員、上記の馳議員ともに早期成立を目指すとのことだが、エンターテイメントに関わりのある議員だけに、強い危機感、問題意識があるのかもしれない。が、目的への賛同から早期成立を叫んでいるようにも思える。目的は結構だと思うが、その手段として罰則の導入が適切かどうかが問題なのだ。それについて十分な議論があったとは思いがたい。
余談
違法ダウンロードへの罰則導入に反対する理由については、また日を改めて書くことにするが、レコード業界がなぜ違法ダウンロードへの罰則導入を急いでいるのかについて、ここで少し考えてみたい。
違法ダウンロードへの罰則導入による抑止効果を期待しているのは、間違いないとは思う。ただ、それだけではなく、別の狙いもあるんじゃないかな。
端的に書くと、レコ協も罰則導入で違法ダウンロードが完全になくなるとは期待していなくて、次のステップのための口実として早く話を進めたい、というところではないかと。違法ダウンロードは刑事罰もある犯罪なのだから、強い対処が必要だ、というような。具体的には、スリーストライク・スキーム*3の導入、ISP/ウェブサービスプロバイダに対する違法アップロード・違法ダウンロード防止措置の義務化(ブロッキング/フィルタリング等)、動画サイトからのダウンロードを可能にするサービス/プログラムの規制*4などなど。
少なくとも、違法ダウンロードへの罰則導入で、ハイおしまい、なんてことはなくて、さあさ次の規制を!となるのは間違いない。