2011年着うたフル年間チャートとオリコン年間チャートを比べてみるよ
昨年末のエントリではオリコン年間CDシングルチャートを眺めてみたんだけど、今回は日本レコード協会(RIAJ)が発表した「着うたフル」有料音楽配信年間チャート(レコ協チャート)を眺めてみるよというお話。
RIAJは、レコチョクやドワンゴなどの着うたフル配信事業者から、このチャートに参加するレコード会社、音楽事務所のアーティストの実績データ(ダウンロード数)を収集し、週間チャート、年間チャートを発表している(データ提供配信事業者、チャート参加社はこちらを参照のこと)。
レコ協チャートのPDFを眺めるだけでも面白いんだけど、せっかくなのでこのチャートにランクインした楽曲のオリコン年間チャート順位を併記してみる(配:配信限定、×:アルバム収録曲でシングルリリースのない曲)。また、レコ協チャートではダウンロード数が公表されておらず、実際のダウンロード回数がわかりにくいため、レコ協のゴールド等認定を目安として付け加えた。ゴールド(G)で10万ダウンロード以上、プラチナ(P)で25万DL以上、ダブルプラチナ(PP)で50万DL以上以上、トリプルプラチナ(PPP)で75万DL以上、ミリオン(M)100万DL以上という塩梅。この認定には時間がかかることもあるようなので、あくまでも目安として考えてくださいな。あと、おまけでPC配信の認定もつけてみた。
年間着うたフルチャート
秋元康プロデュース、ジャニーズ、K-POP
先日のエントリ同様、この3ジャンルから見てみる。オリコンチャートTOP100には30曲がランクインしていた秋元康プロデュース作品は、着うたフルチャートでは9曲、AKB48と坂野友美を除いてTOP100圏内から姿を消している。またAKBの過去作品がCDシングルチャートよりも上位につけており、この辺りは配信ならではといったところ。一方、「桜の木になろう」「風は吹いている」はCDシングルチャートに比べ大幅ダウン。後者は配信から間もないこともあるのだが、一般受けはしなさそうなのでこんなもんかと。
オリコンチャートTOP100に23曲を送り込んだジャニーズだが、着うたフルチャートに参加していないので当然ランクインもなし。dwango.jpでは、一部の曲で着うたフルや着うた配信を行なっているが全体としては未だ配信に消極的*1。とはいえ、Kis-My-Ft2『Everybody Go』がdwango.jp着うたフル年間ランキングで1位となっている辺りは流石ジャニーズ。またレコチョクでは、SMAPの配信限定チャリティシングル『not alone〜幸せになろうよ〜』が年間ランキング87位につけている。
オリコンチャートTOP100では14曲だったK-POPは、着うたフルチャートでは10曲、KARA、少女時代、東方神起以外は脱落。AKB以上に過去曲が売れている辺りは、今年売り込みに売り込んだ成果だろうか。
ジャニーズが着うたフルランキングには不在とはいえ*2、オリコン年間CDシングルチャートに67曲を占めたこの3ジャンルは、着うたフルチャートではわずか19曲のみであった。
CDシングルと着うたフルとの乖離
オリコン年間チャートと着うたフル年間チャートの双方にランクインしているのは、マルモリ、AKB48、少女時代、KARA 、植村花菜、福山雅治、東方神起、YUI、安室奈美恵、EXILE、板野友美、UVERworld、チーム・アミューズ!!、Perfume、桑田 佳祐の16組。一方、着うたフル年間チャートにのみ登場するアーティストは40組を超える。
ソナーポケットは着うたフル限定シングル『好きだよ。〜100回の後悔〜』で年間第2位につけ*3、50位圏内に計4曲を送り込んでいる。また、Rakeの『100万回の「I love you」』もKARAや少女時代を抑えて第5位。だが、年間CDシングルチャートには登場していない。着うた先行で、CDシングルとしての発売は2011年3月になったことも影響しているのだろうが、こんなにわかりやすいヒット曲がCDでは伸びないというのも…。
昨年はテレビでの露出もそこそこ多かったナオト・インティライミはTOP100に3曲。ただこちらもCDシングルは伸びず。オリコン年間TOP100入り曲はなく、いずれの曲も週間10位以内に入っていない。アルバムCDはオリコン年間70位(9.0万枚)につけ、そこそこ売れたようだが。JUJUや西野カナはさすがです。
こうした着うたフルとCDシングルとの乖離について、「WASTE OF POPS 80s-90s」のO.D.A.さんが
こんなに売れているのに全くと言っていいほど世間一般へそのフィードバックがなされていないのは一体何なのか。
2011-12-28 - WASTE OF POPS 80s-90s
ソナーポケットの曲は、CDを最後まで出さないという完全に着うた需要層にのみアピールする戦略でこの順位。Rakeはこの曲CDシングルでも出したけど、最高位25位、累積16,000枚程度。数年前なら着うたフルからCDヒットに移行し、世間の認知度大幅アップに結びついた西野カナとかヒルクライムの例があったのだけど、今年のこれつまり着うた購入層とCD購入層の乖離がほぼ完了したということでしょうか。
と指摘しているけれども、私もほぼ同感。ただ、着うたフルからCDアルバムへの導線は、かつてのCDシングルからCDアルバムへのそれには及ばないが、幾許かはあるとは思う。
チャート対象期間以前の過去曲が多い着うたフル
着うたフル年間チャートを見ていて感じたのは、集計期間以前にリリースされた曲が多数ランクインしていること(集計期間内、期間外で色分けしたチャートはこちらから)。
CDシングル年間チャートでは、期間外にリリースされた曲は5曲(トイレの神様とAKB4曲)だったのに対して、着うたフル年間チャートでは37曲。一番古いのは久保田利伸『Missing』(1986)。以前から着うたフル層に人気で売れ続けているも曲あれば、じわじわと人気を集めていった曲、テレビ等での露出をきっかけに売れ出した曲、カバーされたことで注目された曲など、CDシングルチャートに比べれば、割と敏感に世相を反映しているようにも思う。ただその逆、着うたフルチャートから世間へのフィードバックはかなり弱いように思う。
CDシングルに過去作が少ないのは、割と早い段階で店頭から姿を消し、あったとしても今更買うの?感がつきまとってしまうため、CDシングルチャートには反映されにくいのかもしれない。かといって、気になった曲が収録されたアルバムを購入してくれるかというと、このご時世にそれを期待するのは難しい。この辺りは着うたフルという販路がうまく機能しているように思う。ただし、着うた層限定で機能しているゆえに、今後の雲行きは怪しいところだ。
終わりに
オリコン年間チャートと、レコ協年間チャートを比較してきたが、全体として見ると、前者はファンの数とその熱狂度のチャートとなっている一方で、後者はバラエティに富み、シングルチャートよりむしろソングチャートととなっているように思えた。
また、CDシングルチャートや着うたフルチャートはいずれも「購入」を扱った指標に過ぎず、これが現在のユーザが聞いている曲を代表するチャートかというとやや疑問が残る。以前であれば、購入=消費者が能動的に聞いている曲とできたかもしれないが、ネット時代のリスニングスタイルには、YouTubeでの視聴も含まれる。もちろん、オリコンチャートやレコ協チャートが不完全だから参照に値しないというわけではなく、指標は多様であって良く*4、欲を言えばそれらの指標を総合したチャートがあれば面白いよね、という意味で。