ユーザはP2Pファイル共有からビデオ共有へ移行している?

 日本弁護士連合会コンピュータ委員会は22日、「P2Pネットワークと法的問題〜Winnyをめぐって〜」と題したシンポジウムを開催した。シンポジウムには、Winnyを開発した金子勇氏や、産業技術総合研究所高木浩光氏などが登壇し、P2Pネットワークの現状や将来性、法的問題などについての報告が行なわれた。

Winny開発者の金子勇氏「開発続けていれば流出ファイルは止められた」

参加者のそれぞれのレポートも面白いんだけど、最後のパネルディスカッションがなかなか興味深い感じ。ファイル共有ソフトからビデオ共有サイトへの移行とかそんな感じ。

 ファイル共有ソフトの現状については、日本レコード協会などが2007年末に発表したアンケート調査では、ファイル共有ソフトのユーザーは増加しているという分析がされていたのに対して、弁護士の壇俊光氏は「その調査は実態を反映しているとは思えない。ユーザーはYouTubeニコニコ動画などに移っており、ファイル共有ソフトの利用者はむしろ減っているという認識」とコメントした。

 高木氏もこの意見に同意し、高木氏が個人的に行なっているWinnyのノード数を調べたグラフを紹介。観測しているWinnyのノード数は徐々に減っており、特にニコニコ動画がサービスを開始した頃からはノード数の減少幅も大きくなっているとして、動画共有サイトへのユーザーの移行が進んでいる可能性が高いとした。

これが本当だとすると、その移行の理由を考えたくなるね。依然として高い人気を誇っているP2Pファイル共有ではあるけれども、一部ではその利用を止め、ビデオ共有サイトに切り替えている、というのであれば、その利便性ゆえに支持されているのかもしれない。P2Pファイル共有でのコンテンツの利用はクライアントの起動、コンテンツの検索、ダウンロードまでの待機時間、ディスクスペースやリソースの消費など多くの手間と資源を必要とするが、その一方で、ビデオ共有サイトではブラウザで当該のサイトに行って検索するor見かけたものを視聴するだけで済む。もちろん、コンテンツの視聴に加えて「楽しさ」も付随すれば、更にそれが促進されるかもしれない。
もしくは、新規のユーザがファイル共有ではなく、ビデオ共有サイトを選択しているという可能性もある。導入の手間が格段に違うしね。継時的にみると、利用者が以前と同様の割合で利用を停止していく一方で、新規参入者が減る、という可能性。
もちろん、依然として多くのユーザがファイル共有ソフトを利用しているのだから、このような傾向はほんの一部の人たちだけの話かもしれないが、それでもその一部の人々はそういった理由でP2Pファイル共有の利用を停止している、というのは一定の示唆を与えるものだろう。
また、一度移行したユーザが、そのエクスペリエンスを得た後に、再び元の場所に戻るというのもそれほどないのかもしれない。ブラウザでさくっと見れればいい、という人が再びWinnyやShareなど手間のかかる方法に戻れるか、というところ。となると、ニコ動やYouTubeなどへの著作権クレームのおかげで著作権侵害コンテンツが以前に比べて減りつつある今、うまくユーザの利便性をくすぐることができれば、少なくともコンテンツに対する需要を獲得することができるんじゃないかなと思うんだけどね。
ただ、ニコ動やらYouTubeへの著作権クレームによって、大幅に著作権侵害コンテンツが激減したとしても、それを失ったユーザたちが購入に走る、というのは考えにくい。もちろん、そういった層もいるだろうから、あながち無駄な努力とも言いがたいのだけれども、費用対効果を考えれば、効率が悪そうな感じもする。だから、そうした努力を「活かす」方策も考えるってのはどうかしらね。

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