ビデオ共有サイトの適法化の推進、そしてファンサブへのアプローチ

コンテンツ振興策などを議論している政府の知的財産戦略本部 コンテンツ・日本ブランド調査会 コンテンツ企画ワーキンググループ(WG)は1日、第4回会合を開き、「ニコニコ動画」や「YouTube」など、動画投稿サイトの"適法化"を推進する方針を示した。これに対し同WG委員からは、「国が認めるなら、違法投稿者へのアプローチも必要ではないか」との意見も出て、同サイトの適法化推進へ今後の課題を示した形となった。

動画投稿サイト「適法化」推進、"違法アップローダー"へのアプローチ必要? マイコミジャーナル

このコンテンツ企画WGは、「知的財産による競争力の強化に係る課題に関する調査・検討」「コンテンツ及び日本ブランドの振興に係る課題に関する調査・検討」を目的として設置されたWG。

日本のコンテンツのグローバル化推進や新たなビジネスモデル、海賊版対策などについて、3回にわたって議論を重ねてきた。4回目となる今回の会合では、これまでの議論をまとめた「デジタル時代におけるコンテンツ振興のための総合的な方策(案)」が、同WGの事務局から提示された。

この案は、ビデオ共有サイトなどのコンテンツ共有サービスの適法化を推進し、ビデオのネット配信ビジネスの成長を後押しするためのものとして提案された。
さんざんニコニコ動画YouTubeが話題になっているから説明するまでもないのだろうけれど、UGCマッシュアップコンテンツなど多種多様なコンテンツによって盛り上がりを見せており、ビデオ共有サイトへの広告や番組/コンテンツそのものの提供といった商用利用も期待されている。ただ、その一方で、違法なアップロードが後を絶たず、著作権侵害の温床ともなっている。
ただ、ここでの基本方針としては、それでもうまくやっていく方法はないか、というところにあるみたいで、ビデオ共有サイトの適法化を目指す議論が進められた。
事務局サイドから提示された案(PDF)では、以下の点が提案された。

  1. サービス事業者と権利者との包括的な契約を促進
  2. サービス事業者が提供する技術的手段によるフィルタリングを活用し、違法コンテンツの排除と適法利用のための許諾の効率化への取り組みを促進
  3. サービス事業者の法的責任を明確にするため、著作権侵害として差止請求の対象となる範囲を法律上明確にすることを検討

まぁ、1に関してはおそらく自然に進んでいくと思われる。そもそも提供したい権利者は現時点でもそうできるわけで、そのための権利処理のための環境を権利者自身に可能な範囲で、制度面でサポートする部分で整える必要があるのかな、程度で。
2に関しては、フィルタリング等の技術的手段が必要になることは確かなんだけど、より効果的なフィルタリングを目指すのであれば、業界団体とサービスプロバイダ間でのコンセンサスを構築し、可能な限り協力し合うのがベターなんじゃないかと。結局デジタル指紋技術を利用してフィルタリングするにしても、そのための元となるコンテンツを検体として提供しなければならないわけで、その流れをスムースなものとするためのシステムが必要になるだろうし。
3に関しては、強力すぎても息の根を止めることになるし、セーフハーバーがあってもいいんじゃないかと思うって所かしら。
さてさて、このWGで小学館キャラクター事業センター センター長の久保雅一委員から興味深い提案があったようで(PDF)。

久保雅一氏は、「現在、BitTorrentでは英文字幕が付いた違法の日本アニメ映像のファイル交換が、1週間に600万ダウンロードも行われていると言われている。この影響を受けて、北米地域での日本アニメのDVD販売は大きく落ち込んでいる。その結果として、アニメ番組の海外における販売価格が著しく下がると同時に、国内でも、2008年4月のテレビ番組改編後は、アニメ番組数が大きく減ることが予想されている」と日本のアニメ産業の窮状を説明。

動画投稿サイト「適法化」推進、"違法アップローダー"へのアプローチ必要? | ネット | マイコミジャーナル

ここでは、アニメ!アニメ!のこの記事を参照しているようだ。特に、海外でのファンサブが原因で日本のアニメ番組が減るって感じでもないのだろうけど、並べられると関係あるのかなと思わないでもない。
それはともかくとして、実際の売上を「大きく」落ち込ませているかどうかはわからないとしても、何らかのネガティブな影響はあるだろう。それを減らすための努力を行う必要があると同委員は提案している。

「外国語字幕を付けたアニメ映像をYouTubeBitTorrentなどのサイトに打ち上げているファンは10人前後おり、彼らの翻訳能力はプロより高い。今後、国がYouTubeなどを正式に認めていこうとするならば、彼らに対してなんらかのアプローチが必要ではないか」

動画投稿サイト「適法化」推進、"違法アップローダー"へのアプローチ必要? | ネット | マイコミジャーナル

打ち上げるというと、なんかロケットでも発射するんじゃないかと思ってしまうのだけれど、確かに日本で放送されたアニメが、DVD発売前に英字幕がつけられてアップロードされているようだ。実際にはお目にかかったことはないのだけれど、サブタイトル(字幕)サイトにアップロードされたものを、別の誰かがアップロードする、という感じなのかな?
ただ、上記のマイコミの発言部分だけ見ると、ともすればそのアプローチは摘発とかそういうもの?という印象も受けてしまいがちであるが、この提案をした久保委員はもう少しフレキシブルに考えているみたいだ。

外国語字幕を付けたアニメ映像をYouTubeBitTorrent などのファイル交換サイトに打ち上げているファンは10人前後(翻訳能力はプロより高い!)と言われており、今後、国がYouTube などを正式に認めていこうとするならば、彼らに対してのなんらかなアプローチが必要となっています。個人的には彼らの能力が正式に生かせる形で解決していくことを希望しています。

久保委員提出資料(PDF)

こんな感じで、アプローチといっても、それを排除するという方向だけじゃなく、彼らと共同していく方向も選択肢にはあるようだ。個人的には、なかなかGoodな考えだと思う。豪州での米国ドラマの違法ダウンロードの理由として、放送までの時間差が一因にあるという指摘もある。なるべく早くファンの手元に届けることで、海賊行為の機会を減らすということも海賊行為対策としては必要になるのだろうね。
ファンサブユーザを擁護するわけじゃないけど、海賊盤だから欲しい!って人ばかりじゃなくて、早く見たい!って理由の人もいると思うのね。だから、最初からお前らみんな海賊だ!ってアプローチをしてしまえば、そういう層からの反発をも受けることになる。それよりなら、そうする前に、早く見たい!という熱心だけどちょっとモラルに欠ける層をすくい上げてからの方がいいんじゃないかなと思うのよね。
もちろん、それでも反発はあるんだろうけど、先に目に見える形で譲歩した、努力したという事実があれば、周囲の人も、当事者達もただただ自分のわがままで闇雲に批判することに抵抗を覚えるだろうし。

オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史

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