Open Market Modelは映画産業のDRMを救えるか?:DRM + DRM free = Domain Management?

大手映画会社とオンラインの映画リテイラーたちが、昨年Sony Picturesが提唱した仮称Open Marketと呼ばれる運動を準備中だそうだ。Walt Disney系以外の大手スタジオが全員すでに参加していて、来月発表される声明に名を連ねる。
(中略)
特定の営業方式とソフトウェアと一定の形のサービスを組み合わせて、現状で市場を分裂させているさまざまな製品形式とDRMへの取り組みの間に相互運用性を実現することが、Open Marketのねらいだ。その分裂は、ユーザを特定の店と形式に縛りつける。また、オンラインの映画販売の普及を致命的に妨げる。複数の情報筋によると、映画業界は今、音楽業界の二の足を踏まないため、そしてノンDRM映画の売れ行きを頓挫または細くするための最後の手段として、この運動を支持しているのだそうだ。

TechCrunch Japanese - DRMを救う崖っぷちの努力,映画商品の完全な互換性を目指すOpen Market

毎度毎度のことながら、音楽産業の失敗を映画産業が回避しようとする、というのは面白い。
今回、映画産業は「ドメイン」という概念で、既存のDRMedでもDRM freeでもないものを生み出そうとしているようだ。これまでのDRMにおける映像産業のメリットと、DRM freeにおける消費者とのメリットとを結合させるための枠組みといえる。簡単にいえば、DRMを捨てずに、DRMによって不自由してきた部分を解決するための目論見といえる。
これまでのDRMの問題点の1つとしては、あるサービスプロバイダから購入したコンテンツは限定されたデバイスで、制限された台数でしか利用することができず、さらにコピーも制限されていた。そのために、あるデバイスで利用できても、他のデバイスで利用できない、ということが生じたりする。そういった状況を打破するために、ユーザの利用しているデバイス全体を1つのドメインとし、その範囲内であれば、自由に利用することができる、という仕組みを作り上げたい、という構想のようだ。
Sony Pictures CTOのMitch Singerのプレゼンテーション(pdf)を見ると、DRMには、

という主に映画産業にとってのメリットがあり、これはDRM freeでは実現しえない。一方、DRM freeには

  • いかなるデバイスでも再生可能
  • アップグレードによる不具合に強い
  • バックアップ可
  • スケーラブル

という主にユーザにとってのメリットがあり、既存のDRMの枠組みでは実現しえなかったものでもある。
そこで、ドメイン(=当該ユーザの所有するデバイスの領域)という概念を持ち込むことで、この両者を実現しよう、という試みであるようだ。
インターネット経由でドメインに登録されたデバイスであれば、自由に購入したコンテンツを利用することができる、とすることで、DRMによる利点、DRMフリーがもたらす利点を同時に獲得できるという算段のようだ。
また、ストア単位でそうしたドメインを管理することができるとなると、Appleのように自社製品でだけドメインを形成させようとするところが出てくるので、Open Market Modelとして、ストアとドメインを分離し、中立の第三者ドメインの管理を任せるという。これが実現すれば、ユーザがどのデバイスを持っていようとも、あらゆる*1ストアのコンテンツをも利用可能となり、一度、あるストアからコンテンツを購入したとしても、次のデバイスがそのコンテンツに縛られることはない、と言える。ただ、AppleやWalt Disneyは、このOpen Market Modelにはのらないようで、その辺は何ともこころもとないところではある。
ただ、ちょっと気になったのは、Mitch Singerのプレゼンテーションの最後のほうで、リテール情報、モバイル情報、ケーブル/衛星情報、リッピングされたDVDなどの情報を取得し、ドメインマネージャーに送り、それがドメインに向けられている図があったことだろうか。以下の図はDVDのものであるが、ユーザがDVDからリッピングしたコンテンツも管理し、ドメイン内のデバイスでのみでしか再生させない、というもののようにも見えるが…。

余談

映像産業にとってのDRMの問題としては、相互運用性のなさもそうなのだが、ストリーミングにおけるクロスプラットフォームでの展開が難しいという点にもある。Windows Media DRMに頼るストリーミングを提供し、ブラウザではIE以外は不可、OSではMac/Linuxは不可というサービスも多く、個人的にはそういった点での改善があればありがたいのだが。

*1:このOpen Marcket Modelにのった